キヴォトスの亡霊   作:枝那

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思ったより長くなってしまいました。アビドスとの戦いはひとまずこれで終わりです。


バリアフリー③

「便利屋68……!?どうしてここに……!!」

 

ホシノが驚きの声を上げる。彼女が見上げた先にいるのは陸八魔アルと、その仲間たち。

状況的には助けられた。だが、それが敵対している筈の彼女たちからのものだという事実に、ホシノは困惑していた。

 

「勘違いしないでちょうだい。あなたは私たちの獲物。それを横取りされるのは気に食わないだけよ!!」

 

「あくまで助けるわけではない」と、念押しするようにホシノに言い放つ。

 

「聞こえたかしら、亡霊!その子たちは便利屋が先に目をつけていたの。それをハイエナみたいに横から掠め取ろうなんて、許さないわ!!」

 

今度はムクロに銃口を向けながら、そう啖呵を切った。

 

ムクロはようやく、屋上にいる便利屋たちの方へゆっくりと目を向ける。

 

「ひっ……」

 

刃のように鋭い殺気を向けられ、アルから小さい悲鳴が漏れる。だが、邪念を振り払うように頭をぶんぶんと左右に振った後、アルはキッと強くムクロを睨みつけた。

今更尻尾を巻いて逃げるような真似はしない。アウトローの矜持が、彼女を奮い立たせる。

 

「行くわよ、皆!あの亡霊に、身の程ってものを分からせてやりましょう!!」

 

「はいはーい♪」

 

「……まぁ、命令だしね」

 

「はい!アル様の邪魔をする不届き者は、排除します!!」

 

そんな彼女たちを見て、ホシノは安心したような晴れやかな笑みを浮かべて、今一度グリップを強く握りしめた。

 

「まさかあの子たちに助けられちゃうとはねー…それじゃ、第2ラウンドと行こっか。亡霊くん?」

 

やかましい

 

ムクロが便利屋のいるビルに向かって刀を振るう。

 

「へ?」

 

ドゴォォン!!

 

アルの素っ頓狂な声と同時に、爆発音に近い破壊音が轟く。建物が大きく揺れ、アルは姿勢を崩す。便利屋は衝撃と音の発生源に顔を向けると、自分たちのいるところから数十cmほど離れた床に、端から端まで亀裂が走っていた。

 

屋上から地面まで建物が削り取られている。その有様はまるで巨人が乱暴に引き裂いたかのよう。

 

この破壊を起こしたのがムクロだと気づくまでに数秒ほど。アルは顔を青くしてせっせと屋上から飛び立つ。

 

「うっわー……こんなことも出来ちゃうの?ヤバァ……」

 

「言ってる場合じゃない!さっさと下りるよ!!」

 

アルに続いて、他の便利屋メンバーも屋上から飛び降りる。

 

慌てながらも、なんとか無事に着地できた便利屋は、ホシノと共にムクロに向かい合う。

未だに疑念は拭えないものの、今は共闘するしかこの場を潜り抜ける方法はない。そう判断したホシノは、声を小さく落としてアルに話しかける。

 

「どうするの、社長ちゃん「アルよ」…え?」

 

「陸八魔アルよ。一時的とはいえ一緒に戦うんだから名前くらいは覚えてちょうだい」

 

「浅黄ムツキだよ!よろしくね♪」

 

「…鬼方カヨコ」

 

「い、伊草ハルカです」

 

「……ふふっ、小鳥遊ホシノだよ。よろしくね。…それで、アルちゃん。何か作戦とかは考えてるの?」

 

アルの代わりにカヨコが答える。

 

「数ではこっちの方が上だけど、それでも彼には勝てない。そもそも私たちじゃ、あなたとムクロの戦いについて行けないだろうし」

 

でも、とカヨコは続ける。

 

「別に彼に勝つ必要はない。彼は敵意や殺気に反応する」

 

「つまり?」

 

「私たちが逃げる準備を整えるから、あなたはその時間稼ぎをして。こっちも出来る限りの援護はする」

 

「了解!!」

 

カヨコから作戦を伝えられたホシノは、フッと便利屋たちの目の前から消える。ムクロの方に目をやると、既に彼女は戦闘を始めていた。

ムクロは化け物だがホシノも大概なことに引きながら、カヨコは時計にちらりと目を向ける。

 

(急いでよね……)

 

 

ホシノは跳び上がり、ムクロの側頭部に蹴りを食らわせようとする。彼は柄を使ってそれを防ぐ。

 

「チッ」

 

舌打ちをしながら即座に彼から離れる。

 

「行くわよムツキ!」

 

「オッケー!」

 

ズドドドドーーーッ!!

 

ホシノが離脱すると、少しの間を置くことなくアルとムツキの銃撃が襲い掛かる。

アルのライフルによる狙撃と、ムツキの機関銃による連射との連携攻撃。高密度の弾幕が無慈悲に、情け容赦なく浴びせられる。

 

だが。

 

「ウソでしょ……!?」

 

銃撃によって空中に舞った砂埃を刀で振り払うムクロ。彼の体には傷どころか、衣服に汚れすら付いていない。

 

アルが絶句する。これほどの攻撃を食らわせて、これほどの強者と手を結んでなお、彼には傷一つ与えられない。

 

~~~………

 

「くっ……!」

 

ムクロはふらふらと酔っ払いのような足取りで、しかしながら一歩一歩しっかりと近づいてくる。そんな彼を見て苦虫を嚙み潰したような顔をするアル。

 

「アル様に……近づくなァ!!」

 

ドカーーーン!!

 

大切な人を守りたい一心で、ハルカは砂埃に紛れて背後から突撃する。彼女は至近距離からショットガンで怒涛の連撃を浴びせる。

 

砂煙が晴れると、そこにムクロは影も形もなかった。

さっきまでの激情からは一転、どこに行ったのかと当惑する。

 

「ハルカ!後ろ!!」

 

アルに言われ、バッと振り返る。

後ろを向いた瞬間にはもう、鞘に収められた刀の切先が、自分の眉間めがけて弾丸のようなスピードで眼前まで迫っていた。

 

もうダメかと、役に立てず申し訳ないと心の中で社長に詫びながら、ハルカは硬く目を瞑る。その刹那、グイッと強く引っ張られるような感覚と共に彼女は後方へ弾き飛ばされた。

 

ハルカがハッと目を開く。

 

「ハルカ!大丈夫!?」

 

尻餅をついたハルカにアルたちが駆け寄る。

 

「え、え……?」

 

「ホシノが助けてくれたのよ。彼女が居なかったら今頃どうなってたか……」

 

ホシノがハルカの襟首を掴み、後方へ退避させたおかげで、間一髪ハルカはムクロの刺突を避けることが出来た。ホシノはムクロとの戦闘を再開している。

 

今までの戦いで出来た傷で、ホシノの動きは鈍くなっている。一方、ムクロの気勢は一向に衰える気配を見せない。それどころか、その動きは更に磨きがかかり、冴え渡っている。

 

もう限界が近いかと、カヨコは焦燥に駆られる。まだ準備は完了していないものの逃亡することを視野に入れ始めたその時、彼女のスマートフォンが震えた。

 

「…!」

 

急いで画面を見る。

この窮地に一筋の光が差し込み、カヨコは微かに口角を上げる。

 

「社長、コレを見て」

 

アルに自分のスマホの画面を見せる。そこには。

 

『準備完了』

 

という一言の短いメッセージ。

それを見たアルは、ニヒルな笑みを浮かべ、声を大きく張り上げた。

 

「じゃあ、行くわよ、皆!!」

 

「おっけー♪」「ハイ!!」「了解」

 

カヨコがリモコンを操作する。すると、どこからともなく何か箱のような物体を掴んでいるドローンが戦っている2人の上空へ飛来する。

 

(あのドローンはシロコちゃんの……!?)

 

青と白のカラーリングにミサイルが搭載されたドローン。ホシノはそれが自分の後輩のものであることをすぐに察する。

 

(そういうことか……!)

 

そして、便利屋たちの狙いも。

 

 

「…決めたわ!」

 

話は少し前まで遡る。

 

「アビドスに加勢するわよ!」

 

「へぇ~~?」「…ハァ」

 

「な、何よその反応は!」

 

「べっつにー?」

 

「まぁ、社長の行き当たりばったりは今に始まったことじゃないしね」

 

アルのホシノを助けるという発言に、ムツキはニヤニヤと笑みを浮かべ、カヨコは予想通りといった反応を見せる。

 

「べ、別にあの子を助けるわけじゃないわ!漁夫の利を頂くなんてウチの流儀に反するし、それにアビドスは元々私たちの獲物だったの!それをあの不気味な男に横取りされるなんて、認められるわけないじゃない!」

 

「さ、流石ですアル様……!」

 

そう力説するアルにハルカがキラキラと輝く視線を送る。

 

「それで、どうするの?加勢するって言っても私たちじゃ万に一つにも勝ち目はないよ」

 

「うっ、そうよね……」

 

「まぁ、別に勝たなくてもやりようはあるけど」

 

威勢よく宣言したのは良いが、肝心のムクロをどう攻略するかまでは考えておらず、言葉を詰まらせるアル。そんな彼女に、便利屋の頭脳であるカヨコはある提案をする。

 

「近くにはまだアビドス生がいる筈。彼女たちの力も借りる」

 

カヨコの進言を聞き、便利屋は一旦その場を離れてまだ残っているだろうアビドス生を探し始めた。彼女の予想通り、アビドス生は近くでホシノの戦いを緊迫した表情で見守っていた。アビドス生だけでなく、シャーレの先生や、恐らくトリニティの生徒も一緒にいる。

 

 

「――もう無理!私だけでも助けに行く!!」

 

傷だらけになりじわじわと追い詰められているホシノを見て、一度は止められたがセリカはまた飛び出そうとする。

 

「待ってください、セリカちゃん!」

 

当然周囲は引き止めようとする。だが、その制止を振り切り、セリカは銃を構えてホシノの方へ向かう。もはや彼女は止められないと、アビドスの仲間たちも武器を構えて参戦しようとした時。

 

「待ちなさい」

 

セリカの行く先の地面に銃弾が撃ち込まれ、彼女は足を止める。その銃弾を放った者を見て、セリカたちは目を見開いた。

 

「あなたたち…便利屋68!?」

 

先日一戦を交えた便利屋68が勢ぞろいでアビドス生たちに近付いてきた。

 

「どうしてここに…まさか、ムクロ(アイツ)とグルだったの!?」

 

セリカが糾弾するように言う。考え得る限り最悪の可能性に全員が息を呑む。便利屋の厄介さは彼女らも知るところであり、ムクロに加えて便利屋も相手にするのは、先生の支援があっても厳しいだろう。

 

だが、当のアル本人は涼しい表情をしている。

 

「あら、そんな言い方はないんじゃないかしら。私たちが、今戦っているあの子を救出するのを手伝ってあげようというのに」

 

『!?』

 

その言葉に全員が愕然とする。彼女の発言の詳細を聞くべく、先生が一歩前に出て話を聞く。

 

“…何か、考えがあるんだね?”

 

「うん。でも成功するかは怪しい。彼はそんな隙があるような人じゃないから」

 

「それでもいい。聞かせて」

 

シロコが前のめりで便利屋の作戦を聞こうとする。

 

「ちょっとシロコ先輩!?信じるの!?この人たちは私たちの学校を襲って……」

 

「でも、私たちだけじゃホシノ先輩を助けられない」

 

「うぅ……それはそうだけど……」

 

便利屋と協力することにセリカが反対するが、シロコの反論に言葉を詰まらせる。実際、アビドスだけの戦力ではムクロの相手をするのはかなり厳しい。それをセリカも分かっているからこそ、便利屋と共闘することを渋々受け入れた。

 

“じゃあ、教えてくれるかな。ホシノを救出する作戦を”

 

「うん、それはね――」

 

カヨコの口から作戦が全員に共有される。

それを聞いたアビドスの面々はその表情に希望の光が灯る。

 

「これなら……!」

 

“いけるね”

 

『私も今すぐ準備します!』

 

アヤネがそう言うと、ブツリと通信が切れる。

 

「じゃあ、コレを貸す。あまり壊さないでくれると助かる」

 

「分かってるわよ」

 

シロコが自分の愛用しているドローンとそのリモコンをアルに手渡した。

 

「じゃあ、先生。例の号令よろしく」

 

“分かった。…それじゃあ、覆面水着団、便利屋68、出撃!!”

 

 

ホシノは即座に戦闘を切り上げる。彼の腹めがけて前蹴りを食らわせ、一瞬で離脱する。

 

「よし来た!」

 

それと同時に、滞空しているドローンが爆弾を落とし、アルはその精密な狙撃技術を以て落ちてくる爆弾を撃ち抜いた。

 

ボン!!

 

ムクロが爆風と黒煙に包まれる。

 

それを確認してホシノと便利屋は全力で彼から距離を取る。当然、ムクロも彼女たちを追いかけようとする。

 

「来たわ!」

 

全力で走り続ける彼女たちの目に、凄まじいスピードで駆動する大型トラックが映る。それに加え、バタバタと空を切る特有の音を鳴らしながら、ヘリコプターもやって来る。

 

それらはアビドスが所有するものであり、アヤネが校舎からブラックマーケットへと急いで持ってきたのだった。

 

「先輩!」

 

「シロコちゃん!」

 

トラックの荷台から後輩が顔を出す。その顔を見て思わず足が止まりそうになるが、まだ止まるわけにはいかない。

 

「乗って!」

 

シロコが手を伸ばす。力を振り絞ってそれを掴み、荷台の中に乗り込む。

 

「あなたたちも!」

 

セリカとノノミが便利屋たちを次々と荷台に乗せていく。これで全員トラックに乗ることが出来た。だが、ムクロはまだ追い掛けて来ている。その速度は上がり続け、留まるところを知らない。

 

「ノノミ、アヤネ」

 

「了解です!」『分かりました!』

 

ズドドドッ!!

 

荷台からノノミのミニガンによる広域射撃が、上空からヘリコプターに搭載されたミサイルがムクロの道を阻む。

 

“飛ばすよ、みんな!”

 

運転者席にいる先生が通信機越しに言うと、トラックが一段加速する。慣性で体が大きく揺さぶられるが、荷台から落ちないように何とか踏ん張る。

 

「帰るか」

 

砂煙が晴れると、ムクロは刀を鞘に収め既に足を止めていた。踵を返し、どこかへ歩いていく。

アビドスと便利屋は、小さくなっていく彼の背中を静かに見つめていた。

 

こうして、アビドスと便利屋の共同戦線による逃走劇はひとまず幕を閉じたのだった。

 

 

アビドスと便利屋を乗せたトラックは、ブラックマーケットから離れ安全地帯へとたどり着いた。

 

「あっ!みなさ~ん!!」

 

待機していたヒフミがトラックをみて手を大きく振る。近くに停車し、皆続々とトラックから降りていく。

 

「アルちゃん平気?立てる?」

 

「ちょっと、待って…腰が抜けて……」

 

命からがらムクロから逃げ延び、それまで続いていた緊張状態が緩んだからか、アルはその場にへたり込んでいる。元に戻るのにはもう少し時間がかかりそうだ。

 

アビドス生は既に降り、ヒフミと話している。

 

「私、何にもお役に立てず……」

 

「いやいやぁ~巻き込んじゃったのはこっちなんだし、気にしなくていいよ~」

 

「それにしても、何だったのよアイツ。強すぎでしょ……」

 

セリカがムクロに言及する。直接対峙はしてないが、それでもまだ体は震えていた。

 

「ん。予想以上の強さだった」

 

「うへぇ~おじさんも、二度とああいうのとはやり合いたくないねぇ」

 

ムクロとの死闘が終わり、ホシノはいつもの調子に戻っている。おちゃらけてはいるが、その内心は真逆で、あの戦いを重く受け止めていた。

 

(もしまた彼と戦うことがあったら、その時は何に代えても……)

 

“ホシノ”

 

先生に呼びかけられ、彼女は現実に引き戻された。

普段のお人好しそうな顔つきとは違って、その表情は暗く、強張っている。

 

“もう二度とあんな無茶はしないで欲しい……なんて、言えないね。ありがとう、ホシノ”

 

「へ?」

 

一人で勝手に飛び出したことを咎められるかと思いきや、頭を下げられたことに、流石の彼女も虚をつかれた顔をする。

 

“ホシノが彼を引き付けてくれなければ、私たちはすぐにやられてたと思う。だけどこうやって、無事に皆で帰ることができた。本当に、ありがとう”

 

「……顔を上げてよ、先生。私は先輩としての役目を果たしただけだから、気にしなくていいよ」

 

“…そっか”

 

顔を上げ、さっきの重苦しい表情からは一転、いつも通りの優しい笑みを向ける先生。それを見たホシノは胸がチクりと微かに痛む。

 

先生は誠実な人間なんだろう。この人と知り合ってからは日が浅いが、その人間性はある程度把握していて、後輩たちも先生に信頼を置いている。

 

だが、ホシノだけは、まだ先生を()()()()()()()()

 

優しい顔と言葉は上っ面だけで、心の中では他の大人と同じように悪辣なことを考えているに違いない。

 

どれほど先生が自分たちに親身になって尽くしてくれようとも、その可能性を捨てきれない自分が自分で嫌になる。

 

「アルちゃんたちもありがとうね。私だけじゃ一体どうなってたか」

 

その胸の痛みを誤魔化すように、ホシノは社員の手助けを借りてよろよろと歩いてくるアルに話を振った。

 

「ふ、ふん!何度も言うけど、別にあなたたちを助けた訳じゃないから!それに、あの『亡霊』はずっと調子に乗ってて前から気に入らなかったのよ!!」

 

「そう言う割には、すごーくビビッてたよね?」

 

「う、うるさい!」

 

照れ隠しに虚勢を張り続けるアルに、ムツキが茶々を入れる。

二人のやりとりがおかしかったからなのか、それともムクロから逃げ延びて気が緩んだからなのか、くすりとアビドスや先生たちは笑う。

 

“私たちだけではきっとホシノを助けることは難しかったと思う。アル、ムツキ、カヨコ、ハルカ。本当にありがとう”

 

「ん、先生の言う通り。手伝ってくれてありがとう」

 

先生は今度は便利屋にも謝意を述べる。アビドスの生徒たちも、先生に続けて深い感謝の気持ちを伝えていく。

 

「…ふん。次会うときは敵同士なんだから、足元を掬われないよう精々気をつけることね」

 

「アルちゃん顔真っ赤ー」

 

「だからうるさいわよ!」

 

頬を赤く染め、プイとあらぬ方向に顔を背けるアルと、それをからかうムツキ。いつも通りの緊張感のないやり取りにため息をつきつつ、カヨコはアビドスたちの前に出る。

 

「一緒に戦ったよしみで忠告するけど、ムクロとは出来るだけ関わらない方がいい」

 

“……理由を聞いてもいいかな?”

 

「先生ももう分かったでしょ。ムクロの異常な強さを。敵意を向けられる限り止まることのない戦闘マシーンなんだよ、彼は。今回逃げることが出来たのも奇跡に等しい。次も同じように出来る保証はない」

 

“それは……”

 

先生が言いよどむ。カヨコの言い分は正しい。自分たちがムクロから逃げることが出来たのは、運が味方してくれたからに過ぎない。次ムクロと戦えば無事でいられる保証はないだろう。

 

「おじさんも同意見かなぁ。『アレ』はもう人の領分を超えてるよ。関わらないのが一番だって」

 

ホシノがカヨコに同調する。キヴォトスで有数の実力者である彼女をして、そう言わしめるムクロの強さ。二人の言う通り、関わらないことが一番安全な策だ。

 

けれども。

 

“だけど、私は彼を諦めたくない”

 

先生は、決して()()を見放したりはしない。

 

「うへぇ、先生正気?亡霊くんの様子を見たでしょ?彼は言葉が通じるような相手ではないよ」

 

“だとしても、彼は子どもで、私の生徒だ。彼が生徒で在り続ける限り、私は彼と対話することを辞めない。たとえ実を結ばなくてもね”

 

「…本当にお人好しだね」

 

呆れたようにカヨコが呟く。目の前の大人は、あの『亡霊』でさえも一人の生徒として扱うというのだ。彼を知る者からすれば、先生のそれは無謀な試みに見えるだろう。無駄な努力だと嘲笑う者もいるだろう。

 

カヨコも概ね同意見ではあるが、不思議と「この大人ならできるかもしれない」という期待が頭の片隅にあった。

 

「…ま、先生がそう言うなら、止めはしないけどさぁ」

 

ホシノが間延びした、けれどどこか真剣味を帯びた口調で言う。

 

「でも、あまり無茶しないでね。先生にもしものことがあったら、みんな悲しんじゃうからね~」

 

“…うん。分かってるよ”

 

 

「…じゃあ、私たちはそろそろ行くわ。さっきも言ったけど、次会う時は敵だから。大事な学校が奪われないよう、その時まで精々頑張りなさい」

 

「まったねー!」

 

「まぁ、今回は貸し一つってことで。次戦う時は恨みっこなしだから」

 

「あ、ありがとうございました!」

 

便利屋が別れの言葉を告げる。アルは肩にかけたコートをバサッとはためかせ、アビドスに背中を向けて、その場を立ち去った。

 

「…何だったの、あいつら。学校を襲うし、かと思えば一緒に戦ってくれたし」

 

夕日に照らされている彼女たちの背中を見送りながら、セリカはふとそんなことを呟いた。

 

“アルには譲れない信念があるんだよ”

 

「そういうものなのかしら」

 

敵であるのに助けてくれた人たち。アルの言う通り、次会う時はまた戦うことになるだろう。それでも、共に死線を潜り抜けたアビドスと便利屋の間には、確かに絆と呼ぶべきものが芽生えていた。

 

便利屋の姿が見えなくなった頃、どことなく寂寥感のある空気を変えるようにホシノがパンッと両手を叩いた。

 

「…じゃ、私たちもアビドスに戻ろっか!書類のこともあるし」

 

「…あ!そういえばそうだった!」

 

「色んなことが起こり過ぎて完全に頭から抜けてましたね……」

 

セリカの完全に忘れていたという反応に、ノノミが苦笑する。銀行の不正を暴く証拠となる書類。覆面水着団、もといアビドスとヒフミが銀行強盗をした本来の目的をホシノの言葉でようやく思い出した。

 

皆がトラックに乗り込んでいく。ヘリは自動運転が可能であるため、空から先行してアビドスへの帰路に着く。全員乗り込んだのを確認して、先生はアビドスに向けて出発した。

 

 

トラックの荷台の中で、完全に緊張が解けた彼女たちは歓談にふけっている。

 

「次アイツと戦う前にもっと強くならなきゃ」

 

「えぇ…シロコ先輩よくあんな奴とまた戦う気になれるわね……」

 

あの戦いを経て闘志が消えるどころか、俄然燃えているシロコをセリカはドン引きといった目で見ている。

 

「おじさんも、久しぶりに鍛えよっかなぁ~」

 

それまでだらりと寝転がっていたホシノは、起き上がってシロコに同意する。伸びをしているホシノに、セリカは思い出したようにグイッと顔を近づける。

 

「そうだホシノ先輩!先輩があんなに強かったなんて私知らなかったんだけど!?」

 

「おじさんも昔はやんちゃしてたんだよー」

 

「ん、ホシノ先輩は本当は凄い人」

 

「なんでシロコ先輩が誇らしげなのよ…」

 

和気あいあいと会話に花を咲かせる。荷台の外にまで聞こえる喧噪を聞いて、運転席にいる先生は、フッと微笑んだ。

 

 

この後、無事アビドス高校に戻った彼女たちは銀行で獲た証拠書類を確認して、自分たちの置かれている状況を一つ知ることになるのだが、それはまた別の話。

 

 




本当に今更ですがデカグラマトン編終わりましたね。
この先ブルアカのストーリーはどうなっていくのでしょうか。
あと、アキラの実装はいつになるんでしょうね。
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