キヴォトスの亡霊   作:枝那

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続きです
こっちは短めです


ゲヘナ風紀委員会➁

ゲヘナ風紀委員会、行政官の独断による戦力動員。指名手配犯である便利屋68を逮捕するという名目で、アビドス自治区へやって来た風紀委員たち。しかし、予期せぬイレギュラー(篁ムクロ)により部隊は全滅。諦めて行政官が軍を撤退させようとしたその時、彼女はやって来た。

 

「…アコ、この状況、ちゃんと説明してもらえるかしら」

 

アビドス自治区に現れたヒナは周囲を見渡しながら先程よりも更に冷淡な口調でアコを問い詰める。

 

『そ、その……これは、素行の悪い生徒たちを捕まえようと……』

 

「便利屋68のこと?どこにいるの?それに部隊が全滅してるように見えるけど」

 

『え、便利屋ならそこに……』

 

そう言って視線を向けるが、便利屋68の姿は影も形もない。ヒナがホログラムで現れた時点で、彼女たちは身を隠したのだ。

 

『いつの間に逃げたのですか!?さ、さっきまでそこにいたはず……!』

 

「……」

 

『い、委員長…全て説明いたします』

 

「いや、もういい。だいたい把握した」

 

ヒナは映像の先にいる白い影に視線を移す。

 

「察するに、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね。そこを『彼』に邪魔され叩きのめされたと」

 

正解である。アコは全く返す言葉がない。

 

「でもアコ、私たちは風紀委員会であって、生徒会じゃない。シャーレ、ティーパーティー、それに連邦生徒会長。そういうのは『万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)』のタヌキたちにでも任せておけばいい。詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎していなさい、アコ」

 

『………はい』

 

先程とは別人のように縮こまって返事をした後、アコはプツリと通信を切った。

 

ホログラムが消えると、その向こう側にいたムクロの姿がより鮮明になる。黙ったまましばらく彼の姿を見つめた後、ヒナはようやく口を開いた。

 

「久しぶりね、ムクロ」

 

…………

 

旧友に挨拶でもするように、ヒナは穏やかに話しかける。

 

「事前通達無しでの他校自治区における無断兵力運用。規則を破ったのがこちらとはいえ、あなたが風紀委員の公務を妨害したのも事実」

 

しかし、さっきの和やかな雰囲気からは一転、ヒナは破壊の権化のような見た目の機関銃を構えた。

 

「……ええ!?」

「嘘でしょっ……!?」

 

それに反応してか、ムクロも鞘を握っている左手の親指で鍔を軽く押し出し、刀身を僅かに露出させる。

 

共に規格外の強さを持つ者同士。圧倒的な暴力がぶつかり合えば、一体どうなるのか想像もつかない。この土地も無事では済まないだろう。

 

一触即発。周囲にいる者たちは、空気が重くなっていくのを直に感じ取る。

 

「……冗談よ」

 

少しの間にらみ合いが続いたあと、ヒナは銃口を下げ、周囲を包んでいた鉛のような重苦しい空気は霧となって消えた。

 

「今の兵力は、あなたを相手するには心もとないもの」

 

紛らわしいことすんじゃねぇ

 

緊張感のある空気が軽くなり、ひとまずあの惨劇が繰り返されることはないのだと周囲が安堵していると、またもや乱入者が現れた。

 

「うへ~、こいつはまた何があったんだか。すごいことになってるじゃ~ん」

 

「ホシノ先輩!」

 

「ごめんごめん。ちょっと昼寝しててね~、少し遅れちゃった」

 

呑気な口調でそう言いながらホシノが遅れてこの場にやって来た。

 

「昼寝ぇ!?こっちは色々大変だったのに!ゲヘナの奴らが……!」

 

「でも、私たちが来る前に終わってた」

 

セリカやシロコが遅れて来たホシノに事情を説明する。自分の記憶にはない気だるげな彼女の姿を、ヒナは驚きのこもった目で見つめていた。

 

「亡霊くんとゲヘナの風紀委員会かぁ……便利屋を追ってここまで来たの?」

 

彼女の双眸がムクロを捉えた。後輩たちの前で見せるいつもの間延びした雰囲気ではあるが、愛銃のグリップに手を掛け、一切の油断と慢心を排して彼に問いかける。

 

「それで、君はなんでアビドスにいるのかな?返答次第では……」

 

なんだっていいだろ

 

「やめなさい、小鳥遊ホシノ。戦えばあなたはともかく、仲間や土地がもたないわ」

 

再び剣呑な空気が漂う中、同じ轍を踏ませまいとヒナが大きな銃身を二人の間に割り込ませて仲裁する。

 

「……そうだね。はぁ~、らしくないことしちゃったよ」

 

ヒナの忠告を受けて、ホシノは銃を収めた。とはいえ、収めただけだ。もし彼が攻撃をしてきても、仲間たちだけは守れるようにと警戒を決して緩めないでいる。

 

とりあえず戦闘に発展する空気ではないと見るや、今度はヒナが彼女に話しかけた。

 

「…1年生の時とは随分変わった、人違いなんじゃないかと思うくらいに」

 

「…ん?私のこと知ってるの?」

 

「情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒たちをある程度把握してたから。特に小鳥遊ホシノ……あなたのことを忘れるはずがない。あの事件の後、アビドスを去ったと思ってたけど」

 

「……」

 

己の過去について知る生徒を前に、彼女は目を鋭くさせる。

自分の内側に軽々しく踏み入れられてはたまったものではないと、ヒナにも警戒心を向けている。ヒナがブツブツと何か独り言を呟いたかと思うと、今度は姿勢を正して深々と頭を下げた。

 

「えっ?」

 

「事前通達無しでの無断兵力運用、そして他校の自治区で騒ぎを起こしたこと。このことについては私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会に対して公式に謝罪する。今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することは無いと約束する。どうか許してほしい」

 

ヒナの謝罪にアビドスの生徒たちは驚愕する。

風紀委員会のトップが『公式に謝罪する』と言った。その行為は生徒同士の諍いという枠には収まらず、決して軽いものではない。その意味が分からないホシノではない。謝罪を受けた彼女も大人しく引き下がることにした。

 

ヒナは頭を上げ、部下に撤収の命令を下す。部下たちが急いで準備に取り掛かっている間、彼女は先生に近付いて数十秒ほど何かを伝えている。

 

やがて準備が整い、回復してないものは車両に乗せられ、何とか起き上がることが出来た者たちは一糸乱れぬ隊列を組んで一斉にアビドス自治区を去っていった。

 

ムクロもいつの間にかアビドスから消えている。

 

先日に引き続き今日も衝撃的な出来事が起こった。今日はここで解散して体を休め、また翌日に自分たちの状況について話し合うことに決まったのだった。

 

 


 

 

時間はアビドス高校とゲヘナ風紀委員会が接触する少し前に遡る。

 

アビドス自治区某所ビル。

薄暗い部屋の中で『彼』は椅子に腰かけて待ち構えていた。

 

「クックック……随分とこっぴどくやられたようですね」

 

罅が入ったような異形の頭を持つ男は、心底愉快そうに笑いを零しながら、目の前のオッドアイの少女に話しかけている。

 

「………わざわざそんなことを言う為に呼び出したの?なら帰るよ」

 

デスクを挟んで男の眼前に立っている少女――ホシノは、後輩たちが聞けば驚くような冷たい声で言い返した。

 

「これは失敬。ですが、非常に興味深いものが見れました。『キヴォトス最高の神秘』と『亡霊』の戦い……決着を見ることが出来なかったことは残念ではありますが」

 

不愉快・不機嫌な心境を隠そうともせず、ホシノは目の前の男――黒服に冷ややかな視線を向ける。

 

「それで、いかがでしたか?亡霊の相手をした感想は」

 

「感想、ね……」

 

目を瞑り、彼との一戦を振り返る。

“圧倒的”。この言葉に尽きる。あの時便利屋68と後輩たちと先生の助けがなければ、自分は敗北を喫していただろう。その助けがあったとしても、彼から逃げられたのは本当にギリギリだった。

 

「………同じ人間とは思えなかった。まるで人を攻撃する(殺す)ことに特化したロボットみたいな、そんな戦い方だった」

 

「ロボット、ですか。ふむ………ありきたりな感想ですね」

 

「(イラッ)……何なの、あの人。アンタなら何か知ってるんでしょ」

 

聞いておいてなんだその言い草はと思いつつも、押し殺して今度は逆にホシノが質問し返した。

 

目の前にいる黒服の男は信用ならない大人ではあるが、人並外れた知識・知見を持っていることも理解している。非常に癪だが、万が一彼と再び相見えるなんてことがあった時のために、彼女は少しでも『亡霊』について知らなければならなかった。

 

()()()()()んですよ。何も」

 

「は………?」

 

だが、その返答は彼女の期待に沿うものではなかった。

 

「ふざけてるの?」

 

分からないとはなんだ。今まで意味深なことばかり言ってこちらを煙に巻いておいて。

 

「ゲヘナの空崎ヒナ。ミレニアムの美甘ネル。トリニティの剣先ツルギと聖園ミカ。そして、アビドスの小鳥遊ホシノ(貴方)。彼女らは他の生徒と一線を画す強さを持っています。桁違いの神秘を宿しているが故の力。あなた方は()()()()()なのです」

 

「………」

 

「ですが、彼は違う。彼はキヴォトスの外の人間、神秘を持たない。キヴォトスの内側と外側の人間は、肉体の性能に大きな差があることは貴方もご存知でしょう。何故神秘を宿さない器があれほどの力を得たのか、我々も皆目見当がつかないのですよ」

 

「はぁ…何それ。普段胡散臭いことばかりしてる癖に、こういう時には役に立たないんだ?」

 

「クク……これは手厳しい」

 

ホシノの辛辣な言葉に眉一つ動かすことなく、黒服は愉悦の笑みをこぼすばかり。それが余計にホシノを苛立たせる。

 

「……私は時折、彼がサンタクロースや幽霊といった人の念が作り出した空想上の人物なのではないかと考えることがあります」

 

「ハッ、キヴォトス中の人間の殺意の集合体とでも言うつもり?もしそうだとしたら確かに強いはずだね」

 

突拍子もないことを言い出した黒服を鼻で笑う。

 

「『The Library of Lore』……人の作る噂話には、人一人を生み出す力があるのかもしれませんね」

 

「それはさておき」黒服がそう前置きして。

 

「話が逸れてしまいましたね。本題に入りましょう」

 

黒服がデスクに肘をついてそう言うと、ホシノは更に視線を鋭くさせた。

 

「今回ホシノさんをお呼びしたのは、一つ提案がありまして」

 

「提案?ふざけるな!!それはもう……!!」

 

ホシノが声を荒らげるも、黒服は構わず続ける。

 

「決して拒めないであろう提案を一つ。興味深い提案だと思いますので、どうかご清聴ください」

 

網にかかった獲物に近付く蜘蛛のように、黒服は笑みをこぼしながらじっとホシノを見る。

底知れない大人の悪意が、ホシノを、アビドスを飲み込もうと蠢き始めていた。




皆さんはFOX小隊は引けましたか?
私はなんとか天井内に二人とも引けたって感じです
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