キヴォトスの亡霊 作:枝那
これでアビドス編は終わりです。
アビドス廃校対策委員会とゲヘナ風紀委員会の予想外の邂逅からまた数日。
アビドス高校とその土地を取り巻く状況は目まぐるしい勢いで変わっていった。
まず、空崎ヒナからの情報提供によりアビドス高校は砂漠の調査を開始。
アビドス高校を罠に嵌め、その土地の殆どを買い取ったのは『カイザーコーポレーション』という企業だった。そして、その売り払われた砂漠に居を構えていたのはカイザーの系列会社である『カイザーPMC(民間軍事企業)』だということが判明した。
自分たちの置かれている状況を理解したところまでは良かったものの、PMCの軍人と戦闘に発展してしまい、代表取締役である理事に目を付けられてしまうことになる。
理事はアビドス高校の生徒たちが不法侵入をしたとして理不尽にも学校の借金の利息を30倍にまで引き上げ、彼女たちは9000万もの利息を払わなければいけなくなった。
当然、そんな大金をすぐに用意できるはずもなく、アビドス生たちは絶体絶命に陥る。
途方に暮れている後輩たちを目にしたホシノは、ある一つの決断を下す。
それは、黒服と契約を結ぶことだった。彼女は以前から黒服から取引を持ち掛けられていた。その内容はアビドスの借金を半分に減らす代わりに、ホシノがカイザーPMCの傭兵として働くというものだ。
後輩たちと先生にはそのことを伝えず、彼女は1人アビドス高校を去った。
これでひとまず目先の問題は解決する。借金は半分以上が消え、残された後輩たちに掛かる負担はぐんと軽くなるだろう。
―――しかし、それこそが黒服の罠だった。
元より黒服はカイザーの所属などではなかった。全てはキヴォトス最高の神秘を持つ小鳥遊ホシノを手に入れるための策略に過ぎなかったのだ。
契約にサインをしたホシノはカイザーの傭兵にされることなどなく、その自由を奪われた。
これを機と見たカイザーPMCはアビドスの土地に住まう住民たちに対し攻撃を開始した。
しかし、乱入してきた便利屋68と再び手を組むことでこれを撃退。
対策委員会たちはホシノを奪還するために準備を始めるのだった。
◇
結論から言うと、ホシノの奪還には成功した。
作戦を練り、黒服と舌戦を交わし、他の学校にも協力を申し出て、カイザーPMCへ反撃を開始した。
当然カイザーに所属する兵士たちの邪魔が入ったが、便利屋68、ゲヘナ風紀委員会、ファウスト改めトリニティ総合学園の助けを借りてこれを乗り越え、無事にホシノを取り戻した。
また大人に騙され、守るべき後輩に負債を押し付け、ホシノは絶望の淵にあった。だが、後輩たちは決して彼女を諦めようとしなかった。
シロコが手を差し伸べる。
度重なる戦闘で傷付き、体の限界がすぐそこまで迫っていようとも、後輩たちは笑顔で迎え入れる。ホシノを新たな対策委員会のメンバーとして、再び。
「…お、お帰り!先輩!」
「ああっ、セリカちゃんに先を越されてしまいました!恥ずかしいから言わないって言ってたのに、ズルいです!」
「う、うるさいうるさい!順番なんてどうでも良いでしょ!」
「…無事でよかった」
「ホシノ先輩、おかえりなさい!!」
「おかえりなさい、です!!」
「おかえり、ホシノ先輩」
セリカ、アヤネ、ノノミ、シロコが次々に「おかえり」と口にする。
当然、返すべき言葉は一つしかない。
ホシノは照れくさそうにしながら、満面の笑みを向けて言葉を紡ぐ。
「…ただいま!」
これにて一件落着。
アビドス高校が困難を乗り越える物語は、一旦おしまい。
めでたしめでたし。
……ズシンッ………ズシンッ………
「………?」
―――とは、ならなかった。
「何、この音………」
突如響いた地鳴りのような音に、その場にいる全員が困惑した表情を浮かべる。
さっきまでの泣きそうな穏やかな表情からは一転、異常を察知したホシノは目を鋭くつり上げる。
「誰か私の銃と盾、持ってないかな?」
“一応持って来てるよ。はいどうぞ”
「ありがと、先生」
先生から愛銃と盾を受け取ると、彼女は臨戦態勢に移行した。その突き刺すような雰囲気を察して、他の生徒たちも戦闘の準備をする。
地響きは段々と大きくなっている。近づいているということなのだろうか。
アビドスだけではなく、砂漠に留まっていた便利屋68とゲヘナ風紀委員会もどこからともなく響き渡る不審な音を聞いて警戒を強めている。
砂嵐越しに巨大な影が見える。
そのフォルムはおおよそ人間とは思えない。カイザーが開発したゴリアテとかいう最新兵器でもない。
「……ッ!!」
砂嵐が晴れ、ようやくその全容が明らかになる。
それを見た者達は皆、自分たちの目を疑った。
彼女たちの絆に水を差すかのように姿を現したのは、
「何あれっ………!?」
桁外れの巨体を持つ、蛇とクジラが混ざったような見た目をした機械の怪物だった。
◇
アビドス砂漠から遠く離れた場所で、黒服はタブレットをじっくりと眺めている。それに映っている映像は、アビドス高校とカイザーPMCとの決戦の生中継。
「クククッ……」
自分の計画を邪魔し、カイザーを下し、もうお開きかと思われたその時に現れた、正体不明の乱入者。
黒服は当然その存在を知っていた。
未だ状況を把握し切れていない子どもたちと先生を、彼は心底愉快そうに見下している。
「遠い昔。キヴォトスの端、誰も足を踏み入れない旧都心のとある廃墟で、奇妙な研究が進められていました」
まるで物語を読み聞かせるように、黒服は部屋の中で一人饒舌に語り出した。
「神を研究し、その存在を証明できれば、その構造を分析し、再現できるだろう。すなわちこれは、新たな神を創り出す方法である……誰もが嘲笑う滑稽な仮説でしたが、そんな理論に興味を示した者たちがいたのです」
「『ゲマトリア』と呼ばれる者たちがその研究を支援し、莫大な資金と時間が費やされ神の存在を証明するための超人工知能が作られたのです」
「神という存在に関する情報を収集、分析、研究し、それを証明する人工知能……対絶対者自律型分析システムは、そうして稼働し始めたのです」
「……月日は流れ、都市は破壊され、研究所も水の底に沈みました。そのような研究が行われていたという事実すら忘れ去られるほどの時間が過ぎたにも関わらず、このAIは、己の任務を遂行し続けました」
「……そしてついに、AIの宣言が、廃墟に声高らかに鳴り響いたのです」
「『Q.E.D.』、と」
「これは証明され、分析され、再現された新たなる神の到来です」
「『音にならない聖なる十の言葉』、と己を称する新たな神―――
「彼の者はまた、己の神命を予言する10人の預言者と接触し、神聖な道である「
「これぞまさに、新たな『天路歴程』」
「これが本当の神なのかどうかは大した問題ではありません」
「ただ、彼の者自身の神性を証明する過程であるそれは、間違いなく真理の摂理に至る道、『
「砂漠に棲まうその預言者は、セフィラの最上位に位置する、天上の三角形の一角。そのパスは理解を通じた結合。『違いを痛感する静観の理解者』の異名を持ちます」
「名を、
「貴方がたはこの脅威をどのように退けるのでしょう。……先生、そして――」
「―――篁ムクロ」
◇
「まだあんな化け物が残ってたなんて…!」
「まさか、カイザーの奥の手…」
“いや、それはないと思う”
先生に言われて彼女たちもカイザーの兵士の方に目をやる。見れば、残った一部の兵士たちはパニックを起こし、大蛇から必死に逃げ惑っている。
「みんな、無事!?」
“アル!それに皆も!!”
大蛇の姿を見た便利屋、ゲヘナ風紀委員会、ヒフミは真っ先に先生たちの下へ集結した。全員がビナーという正体不明の怪物を目にし驚愕と混乱を露わにしている。
「…アビドス砂漠にあんな兵器があったなんて」
ヒナは冷静さを保ってはいるものの、やはり驚愕を隠し切れていない。
「アレは何か、知ってる?」
「いーや、全然。でも一つだけはっきりと言えることがある」
銃と盾を構えながら、ホシノはゆっくりとビナーを見上げる。
「私たちはアレに目をつけられちゃったみたい」
ヒナたちも同じようにビナーを見上げる。機械でありながら、その瞳には決して逃がさないと言わんばかりの敵意が宿っている。
砂漠での戦闘を感知してやって来たのか、はたまた
「もう戦うしかない」
「……そうね」
“みんな、一緒に戦ってくれる?”
「もちろんよ!依頼を受けた以上は、最後まで付き合うわ!!」
「ええ、風紀委員としてもあんな兵器は無視できないもの」
先生の言葉に、全員が覚悟を決めた表情で頷く。
アビドス、ゲヘナ、トリニティ、異例の混成部隊がこの場に限り実現した。
先生も同じように頷いた後、タブレット端末――『シッテムの箱』の操作を始める。
“私が指揮をする。みんな従ってほしい”
『了解(です)!!』
先生の号令に力強く返事をし、各々銃口をビナーに向ける。それと同時に、ビナーは彼女たちのいる方に向けて、その大きな顎を見せつけるように開いた。
その口の奥から、目を焼かんばかりの光が収束している。
“(何だ、光……まさか、レーザー!?)ホシノッ!!”
「オッケー!!」
詳細な指示を出すまでもなく、ホシノは動きだす。
全員の前に飛び出し、シールドの底をガン!と地面に叩きつけながら足に力を込めて大地を踏みしめる。
極光は臨界点に達し、遂に。
『アツィルトの光』
超高温の熱線が、一瞬にして砂漠をガラスに変えながら小さな要塞に向けて放たれた。
「直撃したぁ!?」
「大丈夫なのアレ…!?」
鉄をも熔かすほどの威力を持つ熱線。如何に丈夫なキヴォトスの人間と言えど、直撃すれば重傷は免れない。
「ふぃ~~。いやぁ、危ない危ない」
―――だが、暁のホルスに、そんな常識は通用しない。
レーザーが収まり盾を下ろすと、ホシノは冷や汗を一筋頬に垂らしながらも、微かに余裕の含んだ笑みを浮かべてビナーを見上げていた。彼女の体には多少の汚れがあるものの、傷は見られない。
「流石ね」
あれほどの攻撃を浴びせられても「危ない」程度で済ませる彼女に、アビドス以外の生徒は信じられないものを見る目を向ける。彼女の後輩やヒナは当然といった顔で特に驚いてはいない。
“隙が出来た。畳みかけて!!”
レーザーの反動により動きが鈍くなっているのを、先生は見逃さなかった。それぞれが自身が出来る限りの攻撃を同時に浴びせる。
ヒナのレーザービームのような連射がビナーの装甲を斬り裂くように撃ち込まれる。その少し後にアビドス、風紀委員会、便利屋による一斉攻撃が間断なく襲い掛かる。
その様相は火薬の嵐と言ったところ。
しかし。
「全然効いてなくない!?」
「単純に硬いし、傷ついても修復してる…!」
悲しいかな。全員が力を合わせてもビナーの
連撃を浴びて苛立ちが募ったのか、ビナーの動きは先程よりも活発になる。
“……ッ!!”
先生が苦虫を嚙み潰したような表情をしながら、暴れるビナーを見る。
ホシノとヒナというキヴォトストップクラスの強者と、それに及ばずとも上位に食い込む実力を持つ者たちが集うこの状況。だが、これまでの戦いで皆多少なりとも疲弊している上に、今までのセオリーが通じないイレギュラーな敵が相手では分が悪い。
「騒がしい…」
ぼそりと意味を成さない言葉を零す者が一人。激しい戦闘の音にかき消され、それに気付く者はいなかった。
(アレは……)
けれどヒナの視界は捉えた。大蛇の一挙一動により舞い踊る砂塵、それに紛れた一つの小さな影を。
「デカブツが」
影――ムクロは腰を深く落として柄に手を掛けている。
冷たい殺気にビナーが気付いた頃にはもう、何もかも遅かった。
「消えろ」
ザンッ!!
濃密な死の気配を纏う刃が無慈悲に放たれた。
熱したナイフでバターを切り取るように、神秘纏う鋼鉄の鱗は容易に断ち斬られていく。
“………え”
先生たちがそれを目撃した時点で全てが終わっていた。
類稀なる規格外の巨体、その首に当たる箇所はまるで最初からそこに存在しなかったかのように、端から端までが扇形状に消滅しており、切断面は摩擦熱によって赤く変色していた。
「「「「“ええええーーー!!?”」」」」
彼女たちの眼前には、大蛇の首と胴が泣き別れになっているという余りに非現実的な光景が広がっている。その姿を目の当たりにした彼女たちの思考は一瞬にして吹き飛ばされ、そしてそれが紛れもない現実のものであると理解した瞬間、口を揃えて一斉に叫んだ。
―――カチンッ
「手間かけさせやがって」
そんな彼女たちの驚愕を尻目に、自分のやるべきことは終えたとムクロはくるりと体を翻して砂嵐の中へ消えていった。
“皆!!”「逃げて!!」
あんぐりと口を開けて唖然としている生徒たちに、いち早く冷静さを取り戻した先生とヒナが呼びかける。
2人の怒号にも近い叫びを聞いて我に返った生徒たちは、反射的にビナーを見た。
文字通り首が消失したビナーは、最後の足掻きも許されず
あの巨大な鉄の塊が地面に倒れたらどうなるか。その未来を想像した彼女たちは一気に顔面を蒼白させ、先生らの指示通り急いでその場を離れていった。
ビナーの下敷きにならない距離までギリギリで辿り着いたその時、ズシィィイン……と地が唸るような音を轟かせて、途方もない質量の塊が地面に叩きつけられた。
転倒時の衝撃により、砂漠の砂は津波のように沸き上がり、遠く離れた彼女たちも包み込んだ。
視界を奪われるも、お互いを見失わないように注意を怠らないようにする。
ようやく砂嵐が収まり、彼女たちに静寂と平穏が訪れた。
「ペッ、ペッ……もう、何なのよ!」
口に入った砂を吐き出しながらセリカが叫んだ。
彼女たちの視線の先には、首を断たれ、砂漠の一部と化したビナーの死骸。
短い間でありながらも、人知を超えた力を大いに振るっていた鋼鉄の怪物はもはや見る影もない。
「一体どうしてこんなことに…」
「ムクロよ」
徐々に冷静さを取り戻したアヤネが、先ほどの超常現象に疑問を呈する。その疑問に答えたのはヒナ。彼女の口から出たその名前に、他の生徒たちは虚を突かれたような顔をする。
「この怪物を殺したのはムクロ。こんなことが出来るのは彼しかいないわ」
『えぇぇええーーー!!?』
本日二度目の絶叫。至近距離で鼓膜にダイレクトアタックを食らったヒナは咄嗟に耳を塞いだ。
「いやいやいやいや!!」
「ただの刀でこんなこと出来るわけないでしょ?!」
「それが出来るのよ、彼は」
ヒナはビナーの残骸に目を向けながら、その事実が受け入れがたい彼女たちを諭すように冷静に話す。
「彼のやることなすことにいちいち驚いていたらキリがないわよ」
「うへ。おじさんたち、もしかしてとんでもないのに目つけられちゃった?」
「……まぁ、彼には敵意さえ向けなければいいから」
そうヒナは言うが、異次元と言うほかない彼の力に、アビドスの生徒たちは震撼せざるを得なかった。
「じゃあ、私たちはこれで。総員、撤収」
『はい!!』
ヒナの指示に従い、風紀委員たちは撤収の準備を行い始めた。
テキパキと部下が作業を進めている中、ホシノはヒナに近付く。
「ありがとねぇ。他校の問題なのにわざわざ助けてもらちゃって」
「礼には及ばないわ」
ちらりとホシノの後ろにいる先生に視線を移す。
「感謝なら先生に言ってあげて。あの人は、
「……そっか」
ホシノは生徒たちと談笑している先生に同じように視線を向けた。
「この借りはいずれ返すよ」
「そうね。あなたたちとはまたどこかで会う気がするもの」
そう言ってヒナはくるりとホシノに背を向ける。二歩三歩歩き始めたその時、ふと思い出したようにホシノに声を掛ける。
「ああそれと、先生にも伝えておいて。『私たちもいずれシャーレに行くから、その時はよろしく頼む』ってね」
「うん、伝えておくよ。じゃあね」
「ええ、また」
互いに別れを告げるとヒナは再び歩みを始めた。準備が完了した風紀委員たちの元へ戻ると、彼女たちは一糸乱れぬ行軍で砂漠の中へ消えていった。
それを見送った後、ホシノも自分の後輩たちの元へ戻っていく。
「はぁ~、結局、美味しいところは全部あの亡霊くんに持っていかれちゃったかぁー」
「美味しいところって、ピンチだったのに縁起でもない……」
またいつもの間延びした雰囲気に戻り、緊張感のない発言をするホシノにすかさずツッコむセリカ。
いつもの日常が戻って来たのを実感して、ホシノは思わず涙ぐみそうになる。けれど後輩たちにそんな情けない姿は見せられないと堪え、うへへ、といつも通り気の抜けた笑みを浮かべる。
そんな彼女の内心を知ってか知らずか。シロコは再び手を差し出す。
「帰ろう、先輩。私たちの学校に」
「―――うん!」
本当の本当に。
これにてアビドス高校と借金を巡る物語は、一旦幕を閉じた。
◇◇◇
闇夜の中、アビドス市街地を走り回る者が一人。
「ハァッ……ハァッ……ハァッ………!!」
機械の躯体でありながら、息を荒くして必死に走っている。表情筋を持たないはずのその顔は、かつてないほどの恐怖に染まっている。
カイザーPMC理事。
黒服と共謀し、小鳥遊ホシノを狡猾な罠に掛け、アビドス高校をあと一歩のところまで追い詰めた、彼女たちの『敵』。
全てを手に入れるはずだったが、一夜にして全てを失った憐れなる罪人。
這い回る虫のように逃げ惑う中、走馬灯のように今日の出来事が脳裏に再生される。
ゲヘナとトリニティ、そしてシャーレの助力を得たアビドス高校に完膚なきまでに打ちのめされた。それだけならばまだよかった。例え地位も財産も無くそうとも、どこかで再生の機を待ち、再びのし上がればいいと。
だが。
「――あ、あの化け物ッ……!」
彼は見てしまった。
彼は知ってしまった。
かの『亡霊』がアビドスの地を訪れていることを。
彼は確信したのだ。
ビナーが消えた今、次に狙われるのは自分だと。
死の恐怖に晒された彼に、もはや理事としてのプライドなど欠片も残っていない。
アビドス砂漠からなんとか逃げ出し、こうしてなりふり構わず夜の街を走り回っている。
だが、それももう終わり。
「い、行き止まり……!?」
少しでも自分に残された時間を伸ばすために、路地裏に入る。それが彼の運の尽きだった。
―――カツ、カツ、カツ。
「あぁっ……ああ………!」
絶望する彼の耳に、小気味よい足音が入る。
決して大きくない音だが、この静かな夜では良く響き渡る。
理事は壁にもたれかかるように腰を抜かす。それでも彼は逃げようとするが、壁に阻まれてそれ以上進むことが出来ない。
「ちょこまかと……」
理事の視線の先。そこには、
「ま、待ってくれ頼む!私はCEOに命令されて動いていただけなんだ!頼むから命だけは!」
「…………」
悲痛な命乞いをするカイザー理事。だが彼がそんなものに心を傷めるはずもなく。
―――チャキッ
鞘から月明りを反射した刀身をさらけ出す。
「待っ―――!」
ガンッ!
理事の制止も虚しく、万死の刃が振るわれた。
物言わぬ骸と化した鉄屑を背に、ムクロはその路地裏を立ち去る。
「ったくこの都市には」
「どうしようもねえクズばかり」
※理事はギリギリ生きています。原作通りカイザーをクビになりましたが、ムクロのことがトラウマになって、彼の存在に怯えながらも真面目に働いています。
アンケートを出したので、よろしければ答えていってください。
『SAKAMOTO DAYS』はどれくらい知っている?
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原作も読んでいる
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名前や大まかなストーリーくらいなら
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全然知らない