Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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─意外と通用する方法─


1899年式会話術

彼が一歩踏み出す度に拍車の音が鳴る。

このキヴォトスでも酒場のドアは自身が良く知るスイング式なのだなと密かに笑みを浮かべながら、彼はドアに手を掛けた。

力を入れる事無くすんなりと開くドア。聞き慣れた音と共にスイングドアが彼を中へと誘った。

内装はあのアメリカの酒場を彷彿とさせる造りとなっており、何処か古めかしい印象を与えた。

一方でピアノを弾く者や、やや露出の多い服を着た女性たちが居ないのはキヴォトスだからこそであろう。

ピアノの代わりになってくれる音響機器があって、娼婦がいないのは此処が純粋な酒場であるという証拠だ。

流石に昼間から飲むような者はそう多くないのか、店内はバーテンダーと端のテーブルで飲んでいる二人組とカウンターで飲んでいる人物、立ち飲みで楽しく談笑しているグループのみ。

だが昼間の酒場などそんなものである。こういった店が繁盛し始めるのは何時も夜なのだから。

 

「…」

 

音を立てて開いたドアの音に反応したのか、客の視線がタキトゥスへと注がれる。

しかし彼は気にすることなく、迷わずカウンターへと向かい凭れ掛かる。

そんな彼に気付いたのか、グラスを磨いていたバーテンダーはその作業を止めて何時通りの挨拶で声をかけた。

 

「いらっしゃい、何にしますか?」

 

「ビールをくれ」

 

値段分の代金がカウンターの上に置かれるとバーテンダーはそれを受け取り、かしこまりましたと答えた後にすぐさまビールをグラスに注ぎ始めた。

真昼間の酒場。客も少ない事もあって静かな方だ。寧ろ外の方が騒がしいと感じるほどであろう。

そんな静けさの中、タキトゥスの前に注文したビールがやってくる。

それを軽く一口飲むと彼はバーテンダーへと話しかけた。

 

「ここ最近で良い。やけに銃撃を受けた車がこの辺りを走っていなかったか?」

 

「銃撃を受けた車、ですか…?」

 

「ああ。そいつの運転手が知り合いでな。二日前辺りに突然連絡入れてきてんだ。車の走る音と共に銃撃されている様な音が聞こえてな…もしかしたら何かあったかもしれないと思って探しているんだ」

 

「ふぅむ…そうですねぇ…」

 

そんな車走っていましたかねぇと呟きながら、バーテンダーは指を顎に当てながら思い出そうとする素振りを見せる。

少し時間がかかるか…とバーテンダーの様子からそう判断したタキトゥスはビールを一口飲もうとした時、ふと後ろから視線を感じた。

気付かれないようにそっと後ろを向けば、店内の端にあるテーブルで飲んでいた二人組の獣人がタキトゥスの背を見つめていた。

 

(…早速か)

 

一欠けらでも良い。

何かしらの情報が得られたら良い方だと思っていた矢先の出来事。

運が良いのか、運が悪いのか。

何とも言えない気分にもなるもタキトゥスは気付かない振りをしてバーテンダーの返答を待つ。

 

「うーん…ここ最近はそういった車は見かけませんでしたねぇ。…あぁ、でも変なお客さんは来てましたね」

 

「変な客?」

 

「丁度二日前でしたかね、相当飲んでいたお客さんがいましたよ。何があったかは知りませんでしたが、酷くイラついていて、他のお客さんに噛みついては殴り合いをする始末。あの時はホント大変でしたよ…」

 

変な客。

それが自身が探している猫の獣人かどうかは分からない。

敢えて、タキトゥスは思い切って尋ねてみる事にした。

 

「もしかしてだが…そいつ、猫の獣人じゃなかったか?やや小太り気味の」

 

「ええ!そんな感じのお客さんでした!…もしかして、その人が?」

 

来た。

思わずだが、そう胸の内でタキトゥスは呟く。

だがここで調子づく訳には行かない。

今は情報を多く仕入れなければならないのだ。

平静を保ち、タキトゥスはバーテンダーに尋ねていく。

 

「ああ。探していた知り合いだ。…そいつ、今どこにいるかとか言っていなかったか?酒で酔っていたなら何か言っていたと思うんだが」

 

「相当酔っていましたからねぇ…呂律も回ってはいませんでしたし、何を言っているのか分からない事が多かったです。ただ、こんなことを言っていましたよ」

 

「それは?」

 

「何で自分がこんな廃れた館にとか…みたいな事を言っていましたね」

 

「…成る程な」

 

地区の何処かにある廃れた館に猫の獣人が居る。これだけでも大きな収穫だ。

他にも聞け出せないかと思われた時、後ろで物音がしたのをタキトゥスは聞き逃さなかった。

ちらりと後ろを向けば、先程まで熱烈な視線を飛ばしていた獣人らが椅子から立ち上がって歩み寄ってきていた。

実力行使をするつもりなのか、脅し用の道具として銃を装備している。

幸いなのは、ホルスターから抜かれていない所であろうか。

ともあれだ。あと数秒もすれば、怖い声が飛んでくるであろう。

この後に訪れるであろう騒動に小さくため息をついたタキトゥスは、懐から飲んでいたビールと同じ代金の金をカウンターの上へ放り投げた。

 

「あの…これは?」

 

「迷惑代だ。知り合いがやらかした分と──」

 

グラスを握る手の力がやや強くなる。

 

「これから起きる騒動代だ」

 

その言葉に、意味を分からないと言った顔を浮かべるバーテンダー。

直後にタキトゥスの背後に立った強面の獣人らに気付くと血相を変えてその場から逃げ出し、何事かとカウンターで飲んでいた別の客は驚きながらも一歩下がって、その成り行きを見つめていた。

談笑していたグループも事態に気付きながらも、どこか期待している目で彼らを見つめていた。

流れるお洒落な音楽とは別に両者の間を物々しい雰囲気が包み込み、視線が飛んでくる。

流石に無視し続けるのも無理があると感じたのか、タキトゥスはグラスを持ったまま、振り返る。

そこには悪い笑みを浮かべた強面の獣人二人が立っていた。

 

「…よぉ、カウボーイのあんちゃん。酒は美味いかい」

 

「さっきの話に聞き耳を立ててちまってなぁ…良い情報を知ってんだ。外で話さねぇか」

 

随分と優しい提案だなとタキトゥスは胸の内で呟きながら、ふっと笑った。

こんな分かりやすい手法に引っかかる程、能天気になった覚えなど無いからだ。

逆に言えば、この程度で引っかかる相手だと思われている事だろう。

 

「そうかい…」

 

あまり表には出してはいないが、この時点で既にタキトゥスはイラついていた。

ハルノの誘拐事件、中々進展しない現状、何かしらの圧力で動かない警察。

無法者と言えど、これだけの条件が揃ってしまえば怒りとイラつきを覚えるのも無理もないと言えた。

だからこそ、目の前に立つ獣人らを前にしてタキトゥスの怒りとイラつきは最早限界寸前まで来ていた。

 

「じゃあ、話を聞かせてもらおうか?」

 

「へへっ…んじゃ、こっちに……うわっ!?」

 

それを合図に、タキトゥスは獣人の一人に目掛けてグラスに注がれたビールをその顔面にへとぶちまけた。

突然顔面にビールをぶちまけられて怯む獣人。

それに反応してもう一人が襲い掛かるも、手慣れた様にタキトゥスは手に持ったグラスを獣人の顔面に叩きつけて怯ませた。

グラスが割れる音が静かに響き、獣人らは僅かに怯む。

しかしそれでタキトゥスは止まらない。一度こうなれば、相手がノックアウトするまでが一連の流れだからだ。

それを示すかのようにタキトゥスは近場にあった椅子を持ち上げると、顔に掛かったビールを拭う獣人の頭に目掛けて勢いよく振り下ろした。

 

「があっ!?」

 

木端微塵に砕ける椅子。地面に崩れる獣人。

流石にやり過ぎではといった視線が客から飛んでくるも、タキトゥスからすれば知った事ではない。

喧嘩を売って来たのは向こうだ。加えて誘拐犯の一人であるのであれば遠慮する必要などないのだ。

 

「このカウボーイ野郎…こっちが親切にしてやってんのに…!」

 

「…来いよ、生粋のゴミ野郎」

 

グラスを叩きつけられながらも復帰した獣人がタキトゥスを睨みつける。

相手がヘイローを持たない男だと分かっているのか、銃を抜く気配はないらしい。

 

「子供を攫った奴の居場所──」

 

それであれば、やることは一つ。

 

「その他諸々を洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

此処からは1899年式会話術(取り敢えずぶん殴る)の時間だという事である。




さぁ、バーファイトのお時間だ。

という訳で、次回は取り敢えずぶん殴るのお時間です。プラスαもあると思いますが…

ではではノシ
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