透き通った青空と通りに漂うざわつきの中を、一発の銃声が駆け抜けた。
静まり返った現場、漂う硝煙の臭い、そして人質として捕まっていたアルは突如として解放された。
「へ…?」
何が起きたのか分からず、アルは思わず素っ頓狂な声を上げる。
恐る恐る後ろへと振り返れば──
「ッ…ぐぅ…!」
手を抑えて、その場で蹲る獣人の姿。
先ほどまで持っていた銃は何処へ消えたのか、その答えは直ぐに明らかになった。
痛みに悶え、蹲る獣人から少し離れた位置。そこに銃が落ちていた。
「一体何がどうなってるの…?」
人質に取られている間は気が動転していた事もあって、状況が読めず困惑するアル。
そして──
(し、しまったあああぁぁぁ!!!タキトゥスさんの手助けをしようと思ってたのに、こんな事になってしまうなんてぇぇぇ!それどころか足まで引っ張ってしまうし、気が動転し過ぎてタキトゥスさんが何をしたのかも見れなかったし!何やってんのよ、私ぃぃぃっ!!)
その胸の内で盛大に叫んでいた。
一方でムツキ、ハルカと共に事の一部始終を見ていたカヨコ。
社長であるアルが助かった事に安堵しながらも、彼女の脳内では先ほどの光景が流れていた。
(何…今の速さ…)
目では、頭では僅かに認識していた。
タキトゥスという男がホルスターから銃を抜いたのを。
だが体が動かなかった。反応出来なかった。
僅かに認識したと言うのに、頭の理解から体の反応までに至らず、その発砲で漸く何が起きたのかを理解した。
それ程までの速さに加えて、腰だめから銃だけを確実に狙い撃つ技量。
普通にやろうとしたら、此処までには至らないだろう。
だがタキトゥス・キルゴアはそれをやってのけた。さも当然と言わんばかりに。
(キヴォトスの外から来た大人…)
カウボーイ…或いはガンマンの姿をした大人の男性。
このキヴォトスでは見ない、それどころか浮くような恰好をした男。
(…一体何者なの?)
悪い大人…と判断するにはまだ早すぎる。
タキトゥス・キルゴアという男を少し警戒しつつも、カヨコは今すぐにでも獣人の元へ飛んでいきショットガンを乱射しそうなハルカを落ち着かせるべく行動を起こすのであった。
(…何とかなったか)
手にしたキャトルマンリボルバーをホルスターへと納め、タキトゥスは安堵する。
獣人が持っていた銃を撃ち飛ばす事に成功し、人質になっていたアルの方にもケガはない。
求めた結果になったのはタキトゥスとしても喜ばしい事だった。
とは言え、これが最良だとは彼は思っていない。
情報を聞き出すためとはいえ、少しやり過ぎてしまったのを否めずにいたのだ。
(これではまた同じことの繰り返しになり兼ねないな…。似たような事の繰り返しは流石に御免だ)
無法者として生きた人生から贖罪の人生へと選択するまでに至った過程。
そうに至るまでの長い長い過程をタキトゥスは忘れた事はない。
(寧ろ、早い段階でそう思える様になった辺り…少しは成長している事か)
生前はそれに気付くのが遅かった。
結核という重い病気に患ってから、気付かされた事は腐る程あった。
それを思い出してタキトゥスは誰にも気付かれないように微笑した。
一度死んで、それでも尚こうして成長出来る事があろうとは思ってもみなかったからだ。
(生前の経験か、或いはこのキヴォトスで暮らす様になってからか…分からんものだ)
だが、今は自身の成長に喜んでいる場合じゃない。
こうしている間にも時間は無慈悲にも流れてしまっているのだから。
「アル、そしてカヨコ達。そこで蹲っているそいつが逃げ出さないように見張っててくれ。こっちは酒場でのびているもう一人を引っ張ってくる」
「その必要はございませんぞ、タキトゥスさん」
「む?」
後ろからの声にタキトゥスはゆっくりと振り向く。
そこにいたのは山羊の店主であり、あろう事か自身よりも体格が大きい獣人の襟首を掴んで片手で引っ張って来ていた。
このキヴォトスではそこらのチンピラよりも老人の方がとんでもないかもしれない。そんな事を思いながら、タキトゥスは彼が引っ張ってきている獣人を見る。
引っ張られていたのは先程酒場で
反抗する気力すらないのか、大人しく引っ張られている様子であった。
必要ないといったのは、引っ張ってくる必要がないという意味なのだろうか。
それであれば手間が省けた。その事への礼を伝えようとしたタキトゥスに対して山羊の店主はある事を告げる。
「聞き込みにしては随分と暴れた様ですな。壊れた備品の弁償、どうしたものかと思わず悩みましたぞ」
「あー…」
思わず言葉を濁してしまう。
つい、あの時代のやり方を行使した彼だが、それに伴う周辺被害は全く考えてなかったのだ。
とは言え、仕掛けたのは自分に他ならない。事情を知らぬ者達からすればそう見えたに違いない。
「そいつを見張ってもらえるか。酒場の店主に話をつけてくる」
「大丈夫ですぞ。話はこちらの方でつけておきました。とは言っても…」
「何かあったのか?」
「壊した備品の弁償費用は如何やら店主に隠れて賭けをしていたお客様の掛け金で賄うみたいです。あの酒場、賭け事は禁止となっていますので」
「そいつはまた…運の無い奴がいたもんだな」
そうですなと答える山羊の店主に、タキトゥスは小さく笑う。
しかしその笑みも束の間、その目つきはやや鋭くなり彼の視線は顔中を血と痣だらけになった獣人へ向けられる。
酒場で痛めつけられた事がトラウマになったのか、鋭い視線に獣人は肩を跳ね上げた。
そのまま銃を撃ち飛ばされた獣人へと視線を向けると、便利屋のメンバーに囲まれている事もあって抵抗する様子はなく、只々顔を下げて項垂れている様子であった。
「どうされますか、タキトゥスさん」
「…会話の続きでもするさ」
楽しくはないがな、とそう胸の内で呟きながらタキトゥスと山羊の店主は便利屋68のメンバーの元へと向かった。
こんな人目のある場所で尋問をするつもりなど無い。
取り敢えずという名目でタキトゥスたちは獣人二人を引っ張って、人気の少ない場所へと消えていくのであった。
後にタキトゥスらは誘拐犯の一味である獣人二人から情報を得る事になる。
あの時の騒動を引き起こした猫の獣人が潜伏している居場所を聞き出した後に、その情報をカイナ農場学園へと報告。
得られた情報を元に攫われたハルノがそこに居るであろうと踏んだ学園側は、タキトゥス・キルゴア及び便利屋68に元木ハルノ救出を依頼。
加えて学園側からも支援を出すと言う事になり、友人を一秒でも早く助け出したというクロカの意思を尊重し、クロカが救出作戦に出る事になった。
また今回の救出作戦には生徒会長たるハヅキとその副会長も参加する事なり、救出作戦は夜に決行する事となった。
総勢八名による夜間救出作戦。
武装したメンバーによって行われるソレにタキトゥス・キルゴアはこの日の事を、後にこう口にした。
──ブレイスウェイトを襲撃したあの日の夜の様だった──
その主犯とされる一家へと襲撃したあの出来事。
時代を超えて、血で血を洗う。それがあの時だった。
だが、今は違う。
──時代を超えて、善を以て悪を払う──
小さな田舎を襲った恐怖。
それを退ける為の戦いが、静かに幕を開こうとしていた。
お久しぶりでございます…。
前の投稿から遅くなって申し訳ないです。
何分、仕事や他の趣味で忙しくて、執筆に時間を割く事ができなかったのです…。
今回は短いです。何卒ご容赦を。
さて、次回はハルノ救出作戦へと移行します。
タキトゥスや便利屋68の皆、そしてカイナ農場学園からクロカ、ハヅキ、そして初登場となる副会長が出てきます。
さぁて…誘拐犯の顔を拝みに行こうではありませんか。
ではではノシ