Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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素顔と仮面は表裏一体 その1

窓から差し込む陽の光がオレンジ色に染まる。

それらをアクセントに染められた生徒会にて、ヒナは便利屋68に依頼したとされる山羊の獣人こと後藤ハクタクと相対していた。

 

「事情の程はお聞きしております。便利屋68を引き取りに来たとかで」

 

「ええ、その理由は知っていると見ていいかしら」

 

「無論です。そしてこちらの答えも既にお聞きになっているかと思いますが」

 

「彼女達を引き渡す事は出来ない。そう聞いているわ。…加えて間が悪いとも言われたけど」

 

相対した時に流れた冷や汗は消え失せた。

しかし、その警戒心が弱まる事は無い。

それはハクタクに羽織ったベストに着けられたバッチにあった。

英語のJにピエロの横顔を持つバッチ。トランプでいう所の『ジョーカー』を意味するバッチ。

それの存在が、ヒナの警戒心を最大の状態を維持し続ける要因となっていたのだ。

 

「…今、このカイナで誘拐事件が起きているのはご存じで?」

 

「…初耳だわ」

 

(引き渡せないのはそういう事だったのね…)

 

事の仔細が語られるよりも早くヒナはカイナ農場学園が便利屋68を引き渡さないと告げた理由を察した。

カイナで起きている誘拐事件。その被害者の捜索に便利屋68は協力している。

 

(…これは公務とかは言ってられないわ)

 

事情を知らなかったとはいえ、公務を通そうとした自身が居たのは事実。

もしここで彼女達を引っ張っていこうものなら、被害者はどうなるか。

そんなものは言わずとも分かっている。そこまで分からない程、空崎ヒナという少女は愚鈍ではない。

 

「つい三、四日前に起きた事件でございます。行方不明者は元木ハルノ。このカイナ農場学園に通う二年生。発生当初から学園及び地元住民による捜索が行われていましたが、早期発見の為、私が彼女達に依頼したのです。…行方不明になった生徒を見つけ出してほしいと」

 

「……」

 

「現段階においても、その生徒はまだ見つかってはおりません。またその実行犯グループへの襲撃を敢行したものの被害生徒の姿は無く、捜索は継続している状況です」

 

予想は出来ていた事ではあった。

だが、まだヒナの緊張は溶けていない。

何故なら──

 

「今回貴女が来られたのは便利屋68の連行。しかしそれは、貴女の独断でもなければ風紀委員会の独断でもないように思いますが?」

 

「ッ…」

 

「成る程…。その僅かな反応を見るに察するに、今回貴女がここに来ることになったそもそもの理由…この絵を描いていたのは万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)でしたか」

 

決して外部が知る筈もない情報を相手は知っているのだから。

 

「…済まない、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)というのは何だ?」

 

息も詰まる様な状況が訪れようとした直後に、聞き慣れない単語を耳にしたタキトゥスが問いかける。

振りかかろうとしていた重い空気が一時的に四散し、その場にいた者達の安堵した息を漏らす一方でハクタクが微笑みながら答えた。

 

「分かりやすく言えば生徒会と思えば宜しいですぞ、タキトゥスさん」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。そう言われているだけで、主な部分はタキトゥスさんが知る生徒会と変わらんでしょうな」

 

ハクタクからの説明を受け、随分と仰々しい名前を付けた生徒会だなと感想を胸に抱くタキトゥス。

だが聞きたい事は聞けたのか、話を続けてくれとハクタクに促しタキトゥスは再び沈黙へと戻った。

その直後に重たくなるような雰囲気が訪れた。

ハクタクとヒナを除く、面々がこの状況を固唾を呑んで見守る。

 

「さて…話に戻りましょうか、空崎風紀委員長殿。今回の来訪…その絵を描いたのが万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)ということで間違いないでしょうか?」

 

「ええ…その通りよ。突然呼び出されたと思えば、匿名のタレコミで便利屋68がカイナ地区にいるから連れ戻してこいと何時もの様子での命令だったわ」

 

「加えていうと、全員見つけるまで戻ってくるなというのもセットでしょうか?」

 

「その通りよ。…まさかカイナ地区でその様な事件が起きているとは知らなかったけど」

 

「恐らくですが、万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)…マコト議長も知らなかったと思いますぞ」

 

ハクタクは微笑み、ヒナは深いため息をつく。

張り詰めた空気が若干薄れた時、ヒナは一つ咳ばらいをして襟を正した。

 

「とはいえ、知らなかったのを言い訳にするつもりはないわ。こちらが公務を通そうとしたのは事実。その事に対して、この場を借りて謝罪を──」

 

「…頭を下げるなよ、お嬢さん。何の情報もないのにどうやって事件が起きているのを知れと言うんだ?」

 

頭を下げようとしたヒナの行動を止めるかのように、タキトゥスの声がヒナの後ろから届く。

その声にヒナはそっと後ろを向き、そしてその場にいたメンバーの視線がタキトゥスへと向けられた。

 

「なぁ…店主。アンタは目の前に座るお嬢さんに頭を下げてほしくてこんな事をやっているのか?そう言ったつもりなら、殴ってでもアンタの口を塞ぐが」

 

「……」

 

「気持ちは分らんでもない。だがな?やり方はあると思うぞ。…そのお嬢さんに非があるとは俺は全く思えんな」

 

幾ら諜報に優れているとはいえ、幾ら独自の情報網を持っているとはいえ。

何も無い所から、何も知らない土地で起きている事件を知れというのは無理難題に等しいと言える。

少し考えれば分かることなのだ。もしかしたら相手は今起きていることを知らない可能性があると。

だからこそハクタクの問い詰めはタキトゥスにとって看過できるものではなかった。

 

「…悪いな、お嬢さん。事件を起きてから皆、ピリピリしているんだ。気を悪くさせて済まないな」

 

「いえ…大丈夫よ」

 

その返しにそうかとつぶやくタキトゥス。

背を預けていた壁から離れると、飛んでくる視線を物ともせずタキトゥスは生徒会室の出入口へ向かった。

 

「…タキトゥスさん、どちらへ?」

 

「外で一服してくる。話が済んだら呼びに来てくれ」

 

ドアノブに手をかけて、外へ出ようとするタキトゥス。

そのまま出ていくのかと思われた瞬間、部屋に出る一歩前で彼の足が止まった。

 

「…思う所はあるんだろうが、よく話し合えよ?腹の内で隠したままじゃ、何を信じればいいのか分らんからな」

 

その言葉と共にタキトゥスは生徒会室を出ていく。

残された者たちはその背を見届けながら、再び重たく圧し掛かりそうな会話を再開するのであった。




悪いな、一話はじゃ収まらねぇや!
というわけで続くぞ!

それと次回の更新が遅れるかもです。
仕事もそうなのですが、ちょっとしたコスプレイベントを見に行こうかなと思っていまして…(気分による)。

ではではノシ
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