タキトゥスが生徒会室を出ていき、去っていった筈の重々しい空気が帰ろうとしてくる。
そこから生まれる沈黙が会話を禁じているのではないかと言わんばかりに、静けさを維持していた。
しかし、それは間もなくハクタク自らが沈黙を破った。
その頭をヒナへと下げると同時に。
「…先ほどはとんだ失礼を。どうかお許しください」
「頭をあげてちょうだい。学友や地元住民に親しまれた子が誘拐されたとなれば、そうなるのも無理もないわ」
「そう言っていただけると有難い。…さて、少し情報共有をしておきましょうかの。そちらも聞きたいことがありますでしょうから」
「ええ。お願いするわ」
相手からの了承が得られるとハクタクはかしこまりましたと答えて、自身の知る情報をこの場にいる全員へと話し始めた。
彼とはしてはタキトゥスに聞いてほしかったのだが、一服すると言って出ていった為、伝えることはできない。
この話し合いが終えたら自身の口で伝えに行くとしようとこの後の予定を決めると、ハクタクは口を開いた。
「恐らく疑問に思っているのは、独自の情報網を持つマコト議長がカイナで事件が起きている事をなぜ知らないのか…その点についてお話ししましょうか」
とは言え、簡単な話でございますがと前置きを口にするとは彼は言葉を続けた。
「情報提供者は此処とは別の地区で便利屋68が起こしたビル爆破の件しか伝えていないのです。そして居場所を教えただけ。普通であれば何かしらの情報収集をすることでしょうが…」
「マコトの性格から鑑みて、遠方の無名校のことに興味を持つはずが無い。そのタレコミも私に対する嫌がらせに使えると思ってかしら」
「恐らくそうでしょうな」
「でも…どうしてそうだと言い切れる自信があるの?その場に居合わせた訳でもないのに」
ハクタクのセリフの殆どには自信というのが介在していた。
普通であればそれら全ては憶測の域に過ぎないというのに、何故か彼の言葉には真実味があったのだ。
ここでヒナはあえてそう問いかける事でハクタクの正体を探ろうとしていた。
「ほっほっ…何分、そういうことを得意とする伝手がありましてな」
「それは…キングかしら?それともクイーン?」
突然の問いに周囲は首を傾げる。
キング、クイーンと聞けばトランプのカードやチェスの駒など連想される。
何故そんな事を聞いたのか、意味が分からないといった表情を浮かべる周囲に対しハクタクは微動だにせず、成る程と納得したように呟くと微笑んだ。
「ご想像にお任せいたしましょう」
「…そう」
(答える気がないという事ね…。それもそうか…)
場を困惑させるような質問したのが間違っていたかと少し先走りすぎた事を反省しつつ、ハクタクへと視線を向けて続けるようにと促した。
それを対して頷くと彼は話を続けた。
「その伝手にお願いして、キヴォトス全体の通話記録および各所に存在する通信局に保存された管理記録を調査。そこからゲヘナ学園の万魔殿へと連絡を取ったものだけに絞ると…一つだけ公衆電話からそこへと電話をかけた者がいたそうです」
「待って、キヴォトス全体の通信記録と通信局の管理記録を調査って…まさか?」
「ええ、お察しの通り、ハッキングですな。伝手曰く、この程度片手間で出来ると言っていましたがの」
とんでもないセリフが飛び出したにも関わらず、ハクタクに焦りなどなかった。
さも当たり前のように、平然とした様子を維持していた。
「その公衆電話はカイナ地区外に存在し、その場所にたまたま居た知り合いに現場を確認してもらった所、周囲には監視カメラはなく一種の無人地帯みたいな所に存在していたそうです」
この老人は本当に何者だ?と疑念を宿した視線がハクタクに突き刺さる。
それでもハクタクに様子に変わりはない。
「…一体、あなたは何者なの…店主さん」
沈黙が訪れようとしたとき、ふとそんな声が響いた。
その声の主は、つい先ほどまで白目をむいて気を失っていたアル。
いつの間にか復活し、彼の話を聞いていたのか。彼女は思わずそんな事を口にしていた。
「あ、アルちゃん、起きたんだ」
「ついさっきね。…下手したらまた気を失うかもしれないけど」
あのヒナがいる。
だが社長としての意地がある。これ以上、無様な姿を晒す訳には行かない。
気を保ちながら、アルはこの場にいる全員が聞きたかった事をハクタクに問う。
「多分、この場にいる皆が思っているわ。それほどまでに…あなたはこの手の事に慣れている。ただ雑貨屋を営む店主とは思えないわ」
「…」
「ただの偶然…なんて事は考えられない。そういった伝手があるだけじゃ説明にならないと思うの」
そのセリフに誰しもが胸の内で共感した。
偶然とか、伝手があるとか…そんな言葉だけでは片付けられない程の謎が確かにあったのだ。
何かしらの秘密がある。これまでの会話でそれは確実と言えた。
ハクタクへの問い。同時に彼の様子が違うことに対面していたヒナが気づく。
(迷っている?)
表情は変わらないままだが、雰囲気がそう感じさせた。
先ほどとは違う沈黙が室内を包む。
そんな時間がどれほど流れただろうか。
10秒が30秒に、30秒が1分に、1分が10分と感じてしまうような長い沈黙を前にハクタクは静かに口を開いた。
「…もう二、三年前になるのでしょうかね。キヴォトス監査局第13監査課が解散したのは」
「やっぱり。あなた、13課だったのね。その全貌を誰一人とて知ることはなかった組織の…」
「ほほっ…流石はゲヘナ学園の風紀委員長。情報部に属していた際に知ったのですかな?」
「そこまで知ってるね…。ええ、その通りよ」
「そうですか。…では少しだけ前の職場の話をしましょうかの。この場にいる方々の為にも」
キヴォトス監査局第13監査課。
そこに属していたという老人は静かに語り出すのであった。
一方その頃。
生徒会室を後にし、ブラックボーイと繋がった荷車の荷台に座り込みタキトゥスは静かにタバコに火を灯しながら静かに紫煙を吐いていた。
橙色に染まった空に、吐いた紫煙が交わるかのように消えていく。
そんな様を見届けるタキトゥスの場所からゆっくりと歩み寄る人物が一人。
カイナ農場学園の制服を纏いながらも、どこか百鬼夜行を彷彿とさせる衣服を羽織った少女。
そんな少女が歩み寄ってきている事に気づいたタキトゥスだが、それと同時に少女の口が開いた。
「本当にカウボーイみたいな人ね…。あぁ、ごめんなさい、いきなり声をかけて」
「いや、大丈夫だ。その制服を見る限り、カイナの生徒であっているか?」
「ええ、そうよ。…初めまして、カウボーイさん。私は──」
この時、タキトゥスは知らなかった。
否、知る筈もなかった。
散弾銃を担ぎ、腰に提げたそれはタキトゥスの知る山刀やセツラが持つ専用銃剣よりも細身で、かつ長かった。
持ち手のようなものがあり、近接武器なのかと思ってしまうようなそれを携えた少女こそ──
「
カイナ農場学園の二年生である風影セツラの今を作り上げた人物である事を。
今は雑貨屋を営むハクタクですが…前はキヴォトス監査局第13監査課に属していたらしいです。
とは言え、そんな組織はブルアカ本編では出てこないので…分かりやすく言えば、こちらのオリジナルでございます。
それとセツラちゃんに多大なる影響を与えたとされる新たなるキャラを出しました。
まぁ…この子も割かし、「お前もか」みたいなところがあったりしまする。
ではでは次回にノシノシ