Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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都会でも田舎でも──

キヴォトスではこれが日常風景。


キヴォトスの日常風景

製品を持ち込み、その査定が終わるのを待ち始めて約15分後。

他愛のない会話をクロカと交わしていたタキトゥスだったが、ふと校門の方からトラックと呼ばれるエンジンを用いた乗り物が入ってきたのに気付いた。

 

「前々から思っていたが、あのトラックとやらに乗ってきているのは俺と似たような奴らか?」

 

「ええ。タキトゥスさんと同じように農場を営んでいらっしゃる方々ですわ。今日は何時もの常連の方々ではなく、新規でこの学園に売り込みに来た方々ですけどね」

 

目算しても、10台から15台程だろうか。

次々とトラックが校庭内に入ってきては生徒たちが荷台からの荷卸し作業を行ったりドライバーであり、農場主でもある者達を会話を交わしながら書類を纏めていた。

学園というよりも、一種の会社だとその光景を見つめながらタキトゥスはそう思つつも、ふと思い出した事をクロカへと問う。

 

「ここ以外にもそういったものを買い取る業者はいると聞いた事があるが…何か違いがあるのか?」

 

「やはり買取価格でしょうか。うちは持ち込まれた製品を厳正な査定の元、適正価格を提示しています。そういった事が農場主との信頼にも繋がっているのです」

 

「他の所は?」

 

「全ての業者がそうという訳ではないのですが…強いて言えば安く買い取られるという事でしょうか。どれだけ丹精込めても、どれ程品質が良くても通常の買い取り価格よりも、安い価格で買い取られたというのは良く耳にします。その影響で次に育てる作物の資金、農場の運営資金が中々得られず、結果農場運営を止めてしまうというのも良く聞く話です」

 

「成る程な。…最初が肝心となると此処を選ぶのも道理か」

 

この学園がいつの時代から開校したかは知らずとも、こうして製品の売り込みに来る農場主が多く居るという事はその分信頼と実績を重ねてきたという事でもある。

そう思えば、自分は運に恵まれているなとタキトゥスは己の内で呟く。

時間をかけて作り上げたものに対してそれなりの金額を払ってくれる学園のおかげで何とか生活できているのだから。

 

(ここに来てからはずっとこいつらに、学園に世話になったままだな…)

 

大の大人が何と情けない事かと思わずにはいられない。

今すぐにとは言えずとも、必ず何かしらのお礼をすべきだろう。

助けられておきながら、助けてやることが出来なかったなんて事は…生前よくあったのだから。

 

「ん?」

 

ふとクロカの視線が一点に向けられている事に気付いたタキトゥス。

どうしたのかと思い、クロカが見つめている先へと視線を向けるとその先には一台のトラックが止まっていた。

一見普通のトラック。どこも怪しい所はないがクロカの視線がそれから外れる様子はない。

 

「何だ、知り合いでも来ていたのか?」

 

「…いえ。知り合いという訳ではありませんが気になって。申し訳ありません、タキトゥスさん。少し離れますね」

 

「ああ、分かった」

 

一礼してその場を去っていくクロカ。

その後ろ姿を数秒程度見つめた後、タキトゥスは再び懐から取り出した煙草に火を点けようとするが──

 

「…」

 

一瞬このままでいいのかという思いに駆られた。

助けられておきながら、助ける事が出来なかったという生前の経験。

ここは1899年のアメリカとは違い、銃弾一発程度で死ぬ事はない少女らがいる。

だがそれでいいのかと、このままで良いのかという思いがより一層激しくなっていた。

 

「……」

 

逡巡した後、手にした煙草を懐に収めるとホルスターに差し込んだ『キャトルマンリボルバー』を引き抜く。

元のグリップから変更したエボニーカラーのグリップ。銃身長はそのままだが銃身内は旋状を施し、照準器は改良型を使用。銀色に彩られたフレームに刻まれたバロック調の彫刻はニッケル色に染まり、余り目立たない様な工夫を施していた。

生前愛用し続けたリボルバーであり、キヴォトスに流れ着いたタキトゥスと共に流れ着いた銃。

シリンダー内に銃弾が込められているのを確認した後に撃鉄を元の位置に戻すとホルスターへと収納してタキトゥスはクロカの後を追う。

願わくば撃ち合いなんぞに発展しないでほしい。

運がない方だと自覚しているからこそタキトゥスはそう祈りながら、クロカが向かった先へと向かう。

足早に向かった先、そこでは既に問題が起きており、生徒と農場主らしき獣人が言い争っている。

お互いに銃へと手が伸びており、今にも撃ち合いが起きそうな一触即発な雰囲気にタキトゥスは舌打ちした。

 

(頼むから撃つなよ…)

 

生徒が客でもある農場主と撃ち合いになった。

銃が当たり前にあって、銃撃戦も当たり前というキヴォトスにおいて大した事ではないのかもしれない。

が、今此処で撃ち合いになれば他の客が持ち込んだ製品に流れ弾が当たり、駄目になってしまう可能性もある。

加えて言い争っている二人の周囲には他の農場主の姿もある。撃ち合いになれば巻き込まれる事も間違いない。

だからこそタキトゥスの歩く脚は、より一層早くなっていた。

 

「何で買い取ってくれねぇんだ!ちょっと傷がある程度だろ!」

 

「これのどこがちょっとですか!こんなにも傷んだものじゃ買い取れません!」

 

「ふざけんな!良いから金を払いやがれ!」

 

近づくにつれて、言い争いの内容が聞こえてくる。

どうやら獣人の農場主が持ち込んだ製品は余り状態が良くないものだったらしい。

当然それでは買い取れない。その事を告げられた農場主が激怒し、生徒と言い争いに発展したのだ。

 

(多少の傷なら買い取ってもらう事をしてくれた筈だが…あの様子だと相当みたいだな)

 

だがそれでも不味いと思うタキトゥス。そこにクロカが二人の間に割って入る姿は映った。

 

「クロカ先輩?」

 

「私が受け持ちます。貴女は他の方への対応をお願いできますか?」

 

「え、でも…」

 

「お願いします」

 

「…わ、分かりました」

 

普段と変わらぬ声。が、そこに秘めた圧を感じ取ったのか対応に当たっていた生徒はそのまま去っていく。

その姿を視界の端に収めながら、現場に向かっていくタキトゥス。

対応に当たっていた相手がクロカに変わったのだが、獣人の怒りは様子は収まる事はない。

だがクロカは変わらず毅然とした態度で獣人を見つめていた。

 

「あ?なんだ、お前……おい、さっきのヤツを呼び戻せよ!話は済んでねぇんだよ!!」

 

「…またこの様な行いをされるとは。言ったはずです、次にそのような事をすればこちらも打って出ると」

 

「…っ」

 

だがクロカは変わらず毅然とした態度で獣人の対応に当たっていた。

それどころか獣人に覚えがあるらしく、クロカが言うにはどうやら今回が初めてではないらしい。

その事を指摘され、獣人が僅かに狼狽えるも怒りは収まっていない。

 

「だ、だからどうした!こっちはわざわざ持って来てやってんのに、金を払わないそっちが悪いんだろうが!」

 

それどころか、自身の非は認めず相手の責任だと騒ぎ始めた。

騒動に気付き始めたのか、周囲に人が集まりだしいよいよ不味い状況になりつつあった。

これにはクロカも不味いと感じ取り、この場から獣人の男を引き離そうとした時だった。

 

「これだけ酷いものを持ってきて、金を払ってくれると思っている方がどうかと思うがな」

 

二人の間に割って入った男の声。

その声にクロカは目を見開き、思わず自身の前に立った男の背を見つめた。

 

(タキトゥスさん…?)

 

つい先ほどまで会話を交わしていた大人。

その人物の手には、獣人の男が乗っていたであろうトラックの荷台から恐らく持ってきたであろう果物を握っていた。

クロカの目からしても余りにも酷く傷んでおり、誰がどう見ても買い取ってくれる筈がないのは一目瞭然だった。

 

「軽く見させてもらったが、あまりにも酷いもんだ。それを買い取れとか無理があると思うが」

 

「な、なんだよ…お前。部外者は引っ込んでろ!」

 

「落ち着けよ。それと熱くなるな。今回は出来が悪かった、そして買い取ってくれなかっただけの話だ。騒ぎ立てて、生徒らを怒鳴る必要はない筈だ」

 

「ッ…う、うるせぇ!金を払わねぇこいつらがワリィんだよッ!!!」

 

いきなり口を挟んだタキトゥスだが、あくまでも事を荒立てないようにしていた。

しかし獣人の怒りは既に頂点に達しており、聞く耳持たずといった所だ。

 

「どいつもこいつも舐めやがってッ!!!」

 

額に青筋が浮かび上がり、そして叫ぶ。

次の瞬間、獣人の手は護身用に持ち歩いているのか腰のホルスターに収めた銃のグリップを握った。

 

(いけない…!)

 

それをタキトゥスの後ろで目撃したクロカは、いの一番に反応し彼の前に飛び出そうとすると同時に自身が愛用して持っている銃に手を掛けた。

タキトゥスはヘイローを持っていない。当たり所が悪ければそれこそ"死"に至る。

対する自身はヘイローがある。銃弾一発程度あれば、跡は残るかもしれないが問題ない。

それでも、この人が怪我する所は見たくはない。その思いがクロカの体を動かす。

 

(遅れた…!)

 

僅かに動き出す事が遅れたを自覚し奥歯を噛み締めながらも、間に合えと祈りながら足を止めないクロカ。

最悪な事に獣人の男が銃を構えようとしている事にタキトゥスは反応できていない。

全てがスローモーションになったかのように映る。獣人の男が持つ銃がホルスターから引き抜かれた時──

 

「銃を手から離せ」

 

カチリと起こされた撃鉄の音と共にバロック調の彫刻を施した銀色で古風なリボルバーが獣人へと向けられた。

 

「……な」

 

「……え」

 

獣人の動きは止まり、クロカは言葉が詰まり、そして全てが静まり返った。

そんな感覚をクロカは覚え、そっとタキトゥスを見る。

つい先ほど話していた筈の大人の男性。相手が銃を引き抜こうとしていたにも関わらず反応できていなかった筈。

だが、今はどうだ。

まるで赤子の手をひねるかのように銃を抜こうとした獣人よりも先に銃を引き抜いて見せたのだ。

目つきも先ほど違って鋭く、そして何処か怖い物を宿している。

これが本当のタキトゥス・キルゴアじゃないのか。そう思わずにはいられなかった。

 

「聞こえなかったのか?銃を手から離せと言ったんだ。じゃないと身の安全は保証できないぞ」

 

ヘイローもない筈の大人。それもキヴォトスの外から来た男。

そんな奴に銃を向けられた所で怖くもない。少なくとも獣人はそう思っていた。

だが、違った。獣人は感じたことの無い何かを目の前の男から感じ取っていた。

身体は震え、銃は握っていた手からこぼれ落ちる。

それを戦意喪失と見たタキトゥスは地に落ちた銃を蹴り飛ばし、キャトルマンリボルバーを突きつけたまま獣人へと告げる。

 

「失せろ」

 

「…え?」

 

「失せろと言ったんだ。だから、さっさと行け。次にこんな真似したらタダじゃ済まさないからな」

 

「は、はいぃ!」

 

さっきまでの威勢のいい姿は何処へ消えたのか。

獣人は目元に涙をためて、情けない姿を晒しながらその場から走り去っていった。

あれならもう戻ってくる様子はないだろう。

そう思ったタキトゥスは静かにキャトルマンリボルバーをホルスターに収める。

 

(…やってしまった)

 

が、その場に残ったのは後味の悪い静けさだった。

自分なりに宥めたつもりであったが、逆に相手を刺激させてしまった。

そのままクロカに任せておけば良かったのではと、今になっても思ってしまう。

だが、それは出来なかった。タキトゥス・ギルゴアにとって、それだけは出来なかった。

 

「悪いな。迷惑をかけてしまった」

 

「い、いえ…タキトゥスさんこそお怪我の方は?」

 

「撃ってもないからな、怪我もしていない。…少し離れている。終わったら、知らせに来てくれ」

 

その場から逃げる様に、タキトゥスはその場から離れていこうとする。

そのまま去っていくのかと思われた時、逃げ出した獣人のトラックを見てから、とんでもない事を言い出した。

 

「あいつが持ち込んだ製品…俺の方で買い取らせてくれ。代金は査定額から引いてもらっていい」

 

「しかし…」

 

「良いんだ。迷惑代だと思ってくれ」

 

それじゃあとでな、と言い残してタキトゥスは去っていく。

小さくなっていくその背、誰も呼び止める事は出来ずにただ見つめているのみ。

それから数分経った後に止まっていた時間は動き出し、元の賑わいを取り戻すのであった。

 

 

 

騒ぎから10分後。

タキトゥスは人気のない場所に待機させていたブラック・ボーイの頭を撫でながら、時間を潰していた。

 

「タキトゥ~スさん♪今、大丈夫?」

 

そんな所にハルノがタキトゥスの元へやって来た。

撫でていた手を止めて、ハルノと向き合うタキトゥス。

ハルノの手には査定を依頼する際に記入した書類を挟んだクリップボードが握られており、その様子からして査定が終わったのを彼は察した。

 

「終わったみたいだな」

 

「うん、さっきね。それと査定額だけど…こんな感じになるみたいなの。確認してもらえる?」

 

「分かった」

 

差し出されたクリップボードを受け取り、査定額を確認するタキトゥス。

あの獣人が持ち込んだ製品も買い取ると言った為、少し下がっているだろうと思いきや…

 

「あいつが持ち込んだ製品の代金…査定額から引かれてないが?」

 

下がっていると思われた額も、全く下がっていない。

買い取ると言ったはずだが、どういう事だろうかと問うタキトゥスに対してハルノは頬を指で掻きつつ、苦笑いを浮かべながらその理由を答えた。

 

「あれ…うちで買い取る事にしたの」

 

「なに?」

 

相当痛んでいた筈なのに、学園が買い取った。

それでいいのかと思わず、タキトゥスがそんな声を上げるのも無理もなかった。

 

「言っても殆ど無償だけどね。タキトゥスさんがあいつを如何にかしてくれたし、あの様子だともう来ないだろうからね」

 

「…良いのか?」

 

「うん。これからもタキトゥスさんには学校に来てほしいし、だからさっきの事は気にする必要はないと思うな」

 

何時もの元気はつらつな姿を何処へ行ったのか。

普段より大人しいハルノの姿にタキトゥスは僅かながらに疑問を覚えながらも、そうかと返す。

 

「だからいつも通りで良いよ、タキトゥスさん。貴方は貴方のままでいてね」

 

「…? それはどういう意味だ」

 

「んー…何となくそう思ったの。何でか分からないけどね」

 

それじゃ!と軽く手を上げてハルノは走り去っていく。

残されたタキトゥスはブラック・ボーイを連れて、置いてきた荷車へと向かう。

その後は特に大きな問題は起きる事無く、金を受け取って帰宅。

そして翌日は休日。タキトゥスにとって久しぶりの休日が訪れようとしていた。




三話目続きました。

依然として同様にやや長くなり、終わり方もアレですが何卒ご了承ください。

ではではノシ。
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