Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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これを消さなくては、先には進めない


解毒薬 その1

 

「そうですか…トリニティの彼女がそんな事を」

 

「ああ」

 

ミレイとの面会後、クロカとスズキと別れてタキトゥスは一人でハクタクの店に来ていた。

流石に用意してほしいと言った物を今日中に揃えることはできないのは当たり前として。

彼がここに来たのは、「列車強盗」をするに当たって優先的に片づけなくてならない事をどうするのかを話し合う為であった。

 

「問題は例の内通者だ。そいつを放置したままじゃ列車強盗どころじゃないからな」

 

「でしょうな。内を蝕む毒をどうにかしなくてはなりませんな」

 

浮かない表情を見せる店主。

その昔に諜報機関に属していたとされる店主でも内通者は捉えられずにいるのだろうか。

そんな不安がタキトゥスの中で過ぎる。

ハクタクの情報収集能力でも駄目なら、地道に足で情報収集する他ないだろうと思い至った時だった。

ハクタクの持つスマホから音が鳴った。

羽織ったベストのポケットからスマホを取り出して見つめる彼の姿に何か知らせでも来たのだろうかと見つめるタキトゥス。

 

「何かあったのか?」

 

「ええ、少し。…一度学園に向かいましょうかの、タキトゥスさん。どうやら──」

 

──隠れ潜んでいた毒を取り除けそうなので──

 

静かに呟かれた台詞はタキトゥスの耳にしっかりと届いていた。

そして分かっていた。その台詞が意味することを。

自身の聞き間違えではないのだろうかと、確かめるかのようにタキトゥスは問う。

 

「…いつの間に」

 

「ほっほっ…あの館での戦いから、ずっとですよ。随分と手間をかけさせてくれたものですが、尻尾を掴んでしまえば後はどうとでもなる」

 

窓から差し込む陽の光にハクタクの愛用している眼鏡のレンズに反射する。

顔の前で組んだ手のも相まって、その姿は何時もの彼らしくない。

寧ろこの姿は、かつて諜報機関に所属していた彼なのでは錯覚してしまう程に。

 

「アンタが敵じゃなくて良かったよ」

 

敵だったらと、そう思うだけでもゾッとする。

彼の口から出た言葉は紛れもない本心でもあった。

 

「それはこちらもです。荒事に慣れている貴方を相手取るとなれば老いた私では勝ち目がない」

 

「そんな事になる前に、お得意の諜報術で近づけさせないのがアンタだろう?」

 

「ほっほっ、よくお分かりで」

 

お互いが得意とするものを、その間合いというのをタキトゥスもハクタクも理解している。

理解しているからこそ、ふっ…と口角をわずかに釣り上げる二人。

 

「タキトゥスさんがクロカさんたちと病院に行っている間に仕込みは既に終えて、便利屋の皆さんとヒナさん、そしてセツラさんとハヅキさんが行動を起こしています。…今は私と共に学園に向かいましょうぞ」

 

「ああ、分かった」

 

そう言って二人は店に備え付けられたガレージへと向かい、ハクタクの車へと乗りこむ。

ハクタクが運転する車が道路を駆け抜け、流れる景色を助手席で見つめていたタキトゥスは、ふと気になったのかある事を問う。

 

「その毒物を表に叩き出すのに、あのメンバーで行わせたみたいだが…正気か?」

 

「と、言いますと?」

 

「便利屋や空崎は違うとは思うが、あの血の気が多いセツラとキレたら恐ろしいハヅキだぞ?俺たちが学園に着いた時にはバラバラにされた挙句、ハチの巣にされた亡骸が肉の塊になってそこら辺に転がった現場など見たくないんだが」

 

「さ、流石にそのような事はないと思いますが…」

 

幾らなんでもそれはあり得ないと苦笑するハクタク。

このキヴォトスでは"殺人"は禁忌とされているのだ。

血の気が多いからと言えど、キレたら恐ろしいと言えど一線を越える事はまず無いと言えるだろう。

 

「…それもそうか」

 

(あの時のセツラを見たら…そうとも言えない気がするんだが)

 

ヘイローを持たぬと言えど、その耐久度はタキトゥスを上回るのがキヴォトスの住人たちだ。

銃弾一発程度は死なず、気を失うだけ。そこに死というものは決して訪れなかった。

であれば、どうすれば"死”というのを意識させることが出来るのか。

情報を得るためとは言え、それを分かっているからか、猫の獣人に対してあの時のセツラは銃じゃなくトマホークをちらつかせたのだ。

 

(…流石にそこまで血が見たい性格ではないか)

 

そう、ここはキヴォトスなのだ。

暴力と法律、無法者と文明社会、善人と変人、お尋ね者と狂人、終わりと始まり…あの1899年のアメリカとは違うのは今更の事なのだ。

 

 

 

その頃、学園側ではカイナの生徒たちがそれぞれ時間を過ごしている中で学園内にある中庭でハヅキは便利屋68の社長たるアルと話し合っていた。

 

「そうですか…。やはり…」

 

「…ええ。こんな話を聞かせるのは気が引けるけど」

 

二人して浮かない顔を浮かべる。

一見すれば、それは今回の誘拐事件に関する話をしている様にも見える。

聞き耳を立てるべきではないと判断したのか近くにいた生徒たちもそそくさとその場から去っていく。

一人、また一人と中庭から人が消えていく中、ハヅキの元へと向かっていくスーツを着たオートマタの姿は一つ。

首に提げた吊り上げ名札を見るに、この学園に勤める者なのだろう。

横を通り過ぎていった生徒たちは気にすることなく学園の中へと消えていき、そしてオートマタの男性は人間の仕草を真似するかのように一つ咳払いをするとハヅキへと声をかけた。

 

「ここに居ましたか、ハヅキ生徒会長。至急対応して頂きたい案件があるのですが」

 

「分かりました。して、どのような案件でしょうか」

 

後ろへと振り向き、オートマタの男性とその案件に対する話を進めていくハヅキ。

 

「……」

 

一人、会話の外に放り出されるアル。だがその表情は変わらない。

神妙な面持ちで二人の会話が終わるのを只々待っているのに徹していた。

持ち込まれた案件に対する話が始まって数分が経った。

以上だと締めくくるロボットの男性にハヅキは分りましたと返す。

そのまま解散かと思われた時、オートマタの男性の目がアルへと向けられた。

ただ、その目はまるで「とっとと出ていけ」と言わんばかりの目であった。

 

「外部の者まで巻き込んで…。誘拐事件だと騒ぐのはいい加減にしませんか、ハヅキ生徒会長」

 

「…と、言いますと?」

 

その台詞にハヅキの視線が鋭くなる。

しかしオートマタの男性の態度は変わらない。

顔ともいえる画面に浮かび上がる表情は怒りを示しており、やれやれとため息をつきながらハヅキの問いに答える。

 

「こんな風に困らせたいのですよ、あのハルノという生徒は。けど、事態が予想よりも大きくなってしまって出ようにも出られずにいるんですよ…!ホント、迷惑な生徒だと思いませんか?」

 

「……」

 

ハヅキの目が据わる。

それに気づくこともなく、オートマタの男性はベラベラと喋る。

 

「そう言えばトリニティ総合学園の生徒にも話を聞きにいったのでしょう?…全くどれだけ他の学園に迷惑を─」

 

「少し待ってください」

 

胸の内を吐露するのを遮るかのように、ハヅキの声は静かに、かつ大きく響いた。

中庭はその一声に不気味なほどに静まり返る。

吹く風も、鳥の声も聞こえない。その場に残された者たちの息遣いと…音に聞こえない怒りだけが残された。

 

「…今日、入院しているトリニティ総合学園の生徒に話を聞きに行くなど一部の者しか知らない筈ですが。どうして貴方が知っているのでしょう」

 

「…そ、それは偶々聞いたんですよ。そう、偶々です」

 

「偶々ですか…それは可笑しいですね。今日一日、私は入院している者への面会を行うなど誰にも話はいないのですが。知っているのはこの事件の解決に協力してくれている者達なのですが」

 

「ッ…!?」

 

オートマタの男性の肩が僅かに跳ねる。

それをハヅキと、二人のやり取りを静観して見つめていたアルは決して見逃さなかった。

 

(…ハクタクさんの情報通り…)

 

(こいつが…内通者ね)

 

無害そうに見えて、案外そうではない。

ボロを出した相手の様子を見て、ハヅキはそっと手を挙げる。

それを合図に校舎の中から、手にした銃をオートマタの男性に向けるカヨコ、ムツキ、ハルカといった便利屋のメンバーが現れ、対象を逃がさぬように退路を断つ形で武装したセツラとヒナが姿を見せる。

 

「ハ、ハヅキ生徒会長…!?これはどういうつもりですか…!?」

 

周囲を武装した者たちに囲まれて、狼狽えるオートマタの男性。

この行為の意味を問う一方でハヅキは近くにあったベンチに腰かけて、足を組んだ。

酷く据わった目で相手を見つめながら、逸らすことは許さないと言わんばかりの圧を放ちながら答える。

 

「どういうつもりもなにも…見れば分かる事かと」

 

「……ッ」

 

「何を理由にこの様な事をしていたのかは知りませんが…貴方はここで終わりなんですよ、分かるでしょう?」

 

風が吹く。

それも肌を撫でるような、心地よく緩やかな風が。

そんな風に髪が揺れて乱れそうになるもハヅキは気にすることなく、言葉を続ける。

 

「…一つ慈悲をあげましょう。そこに跪いて、自身のした事を素直に吐くのであれば悪い様にはしません」

 

本来であれば問答無用で銃弾を叩き付ける事が出来たであろう。

それをするだけの権利をハヅキにあった。

しかし彼女は一度だけの慈悲を与えた。

紛れもなく、確かにとも言えるそれは慈悲だった。その場に居た者達でも分かる様な、本当の慈悲だった。

悪い様にはしない。それを確約出来るだけの慈悲が確かにそこにあったのだ。

しかし──

 

「な、なにを言って…」

 

オートマタの男はしらばっくれると言う…愚かな選択を選んだ。

それは与えられた慈悲を、自ら捨てたという意思表明。

一瞬の緊迫。一瞬の静寂。数秒も満たない一瞬の時の中で、ハヅキは──

 

「跪け」

 

緩やかな風の中で高らかに鳴り響いた銃声と共に慈悲というのを捨てることにした。




…というわけで解毒薬 その1でした。

うーん……ブルアカじゃなく、ブラクラかな、これぇ…と書いてて思ってしまいましたが、これはこれで良いかと思い投稿です。

内通者の件に関しては「列車強盗」を行う前に処理したい事案でもあったので、今回の話を書かせていただきました。

ではではノシ
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