Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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蝕む毒は、速やかに消さなくてはならない


解毒薬 その2

高らかに鳴り響いた一発の銃声が学園を駆け抜けていく。

緩やかな風の中で木霊する様に、その音を徐々に小さくしながらも遠くへと響き渡り、誰かの耳に留まる事のなく熱を宿した薬莢が地に落ちて、その跳ねる音を立てた。

銃声が消え、風の吹く音が消え、やがて静寂がその場を支配する。

残ったのは誰かの恐怖と誰かの息遣い、そして僅かに漂う硝煙の匂いだけ。

残された三つが存在する場で──アル率いる便利屋68とヒナは目を丸くしていた。

 

(…えっ?)

 

(…事前に決めた話と違くない?だって…)

 

(て、抵抗があったら発砲してもいいでしたよね…で、でも、どうして…!?)

 

(…相当頭に来ていたか感じか。まぁ…無理もないけどさ)

 

(気持ちは……分からなくもないわね)

 

アル、ムツキ、ハルカは困惑を、カヨコとヒナは納得の感情を抱いていた。

事前で決めた話では、例え相対したとしても相手が抵抗や逃亡を図ろうとした時のみ発砲するとなっていたのだ。

その場にはハヅキも、そして発砲したであろうセツラも居て、それを了承していた。

だが現実は違った。

ハヅキの吐いた一言を合図に、迷うことなくセツラは発砲したのだ。

機械のスイッチを押され、動き出した機械の様に…淡々と。

 

「な、な、な…!?」

 

ただ、その一射は直接オートマタの男にではなく、足元に対して行われていた。

その証拠に弾痕は地面に刻まれており、内通者である男には傷一つすらなかった。

突然の発砲にオートマタの男は思わず尻もちをつき、その体を震わせながらもベンチに腰かけて冷たい目で見降ろしてくるハヅキへと叫んだ。

 

「な、何を理由に…私が内通者であるという証拠が何処にあるのというのですか!?」

 

「おや…自ら内通者だと認めるとは。先ほどまで私は一言も"内通者"とは言っていなかったと思いますが」

 

「……ッ」

 

「その潔さがあれば、こうなる事もなかったというのに。ああ…全く以て──」

 

──愚かだ──

 

その声は、今まで以上に冷ややかだった。

それこそ、館で響かせた声とは比較にならない程に。

 

「自白した以上言葉を紡ぐ事には何ら意味はないと思いますが…折角揃えてくれた証拠は手元にあるのです。使わずに置いておくのはもったいないので、もう少しだけお話でもしましょうか」

 

ニコッとハヅキは微笑む。

それを見た便利屋達は戦慄し、ヒナは冷や汗を微かに流した。

つい先ほどの冷ややかな表情から打って変るように微笑んだのだ。

はっきりと言えば、余りにも不気味過ぎた。

自身が知っている知り合いの中でも、友人の中でもここまで表情がコロコロと変わる者はいない筈だ。

そう思えてしまう程に、今の嘉納ハヅキという少女は不気味で…それであって恐ろしかった。

 

「にしても随分と稼いでいたみたいですねぇ?ここに記された振込明細書には何度か多額の金が振り込まれている…。日によって100万も振り込まれている辺り…人の命を金に換えるのは嘸かし儲かった事でしょう」

 

「そ、それでは証拠にはならない筈…!私が内通者であるという事にはならない筈です…!!」

 

確固たる証拠にはならないと反論するオートマタの男。

その反論に対してハヅキは告げる。

 

「はて…この振込明細書だけで貴方が内通者を裏付ける確固たる証拠だと、いつ告げたのでしょうか。貴方が内通者であるという確固たる証拠は他にもありますよ」

 

そう言ってハヅキは傍に置いてあった紙の束をオートマタの男に向かって放り投げた。

何やら文面らしきものが綴られており、その文量を察するに会話文の様なものが綴られている。

その文面を見て、オートマタの男の目は大きく見開かれた。

 

(あ、あり得ない…。履歴が一定時間ごとに削除をされる通話アプリを使っていたはずなのに…どうして──)

 

──あの時のやり取りが此処に綴られている…!?──

 

「読み上げるだけでも気分が悪くなるので口にはしませんが…見覚えありますよね?自身が発した言葉なのですから」

 

「な、何の事やから…」

 

「そうですか…。ではこの電話番号にかけてみましょうかね。そうすれば…もう言い逃れはできないでしょう?」

 

「ッ!」

 

畳み掛ける様にハヅキはスマホを取り出して、内通者が使っていたであろうスマホへと電話を掛けようとする。

 

「ま、待って…!」

 

止まるように懇願する声を上げるオートマタの男。

しかしハヅキは止まらない。

もうこれ以上言葉を語る事に意味など無いのだ。

もはやここまでのやり取りなど、最早茶番劇でしかない。

 

──♪~──

 

オートマタの男が来ているスーツの懐から着信音が鳴る。

それはこの男が、ハヅキ達の行動を逐一何処かへと漏らしていたという証拠であり──

 

「これでチェックメイトです」

 

もう言い逃れはできないという現実を突き付けていた。

 

「……」

 

この沈黙にそぐわないメロディーが静かに消える。

オートマタの男は地面に手をついたまま動かない。

言い逃れも、抵抗も諦めたのだろうかと思うもその場にいる者たちは決して握った銃の引き金から指を離さずにいた。

それからどれほど経ったであろうか。長いようで、短いような沈黙が流れる。

そんな時だった。何処からか拍車の鳴る音と共に誰かが歩み寄ってくる音がした。

拍車が鳴っている。それだけで誰が来ているかなど容易に想像が付く。

目を伏せながらハヅキは後ろからやって來る人物へと声をかける。

 

「遅かったですね。もう少し早ければ出番があったでしょうに」

 

そんな台詞に歩み寄ってきた男…タキトゥスは軽く肩を竦める。

 

「舞台で目立つような柄じゃないんでな。…それで、もう終わったのか?」

 

「粗方は、と言っておきましょうか」

 

ハヅキが見つめる先を知ってタキトゥスはそうだなと返す。

項垂れるオートマタの男がそこにいる。それだけで今の状況が何を語っているかなど言わずとも分かる。

包まれる沈黙。暫くしてからそれを破るようにハヅキがそっと口を開いた。

 

「…何故このような事を?」

 

先ほどとは違い、何処かその表情は微かに悲しさを語っていた。

貴方はそんな人じゃない筈だと言わんばかりに。

 

「…金の為ですよ。馬鹿真面目に働いた所で給料は増える訳じゃない…なのに、ああいった連中は楽して金を稼いで好き放題やっているんです!」

 

「……」

 

男が浮かべた表情は、決して恨み辛みといったものではなかった。

寧ろ開き直っていた。

自身の行いに、何ら後悔など抱いてなどいない。

 

「だから私もそんな風にして楽して金を稼ぐ事にした!このキヴォトスには替えが利くほどに多くの生徒がいる!一人や二人、消えた所で誰が気にすると言うのです!?」

 

そして"命"というものを軽視していた。

最早このオートマタの男は、金に取りつかれ、道徳心という部分を切り捨て"人”という皮を被り続けた化け物でしかなかった。

 

「…それがハルノだったというのか?お前の言う替えが利く生徒というのは」

 

男の開き直り、あきれるような理由に対してタキトゥスはそう問いながら歩みだす。

帽子はやや深くかぶっているのもあって、その表情は分からないが声の感じからして確かな怒りが存在していた。

 

「ふざけるなよ」

 

伸ばされたタキトゥスの手がオートマタの男の胸倉を掴んだ。

 

「てめぇみたいなクズは気にしないだろうがな、残された奴はどれだけ時間が過ぎ去っても失ったそいつの事を忘れる事なんて出来ないんだ。そんな傷をてめぇは負わせようとしてるんだ!死にたくなるような、あの時に戻りたくても戻れない、そんな一生に残る様な傷を子供にな!」

 

あの時も自身もそういう立場だったから。

結核を患いながらも貧しい人の為に動いていた男を打ちのめしたのが原因だった。

彼は死んでしまい、残されたその妻と子供に傷を負わせ、人生を狂わせてしまったのだから。

あの時の自身を見てるような気分だった。だからこそ、タキトゥスは許せなかった。

今の自分が許せないように、平然と子供の命を奪おうとする男の事が。

 

「俺がいた場所じゃ、てめぇみたいな奴は捕まって数週間後には棺桶と一緒に土の下で眠っていた事なんざザラにあった。ここの法がどういったものかは知らんがこれからの一生を牢屋で過ごせる事に感謝しろよ?ただ──」

 

キヴォトスで殺人が禁忌とされている以上、あのアメリカの様に民衆の前で吊るされるような事は無いと言える。

それでもタキトゥスはこれだけは言わずにはいられなかった。

 

「…一度でも脱獄でもしてみろ。すぐに見つけ出して、その首をねじ切った後に土の下に埋めてやる。生憎と俺は手を汚す事に躊躇いなどないからな」

 

法と秩序、その中に確かにあった暴力の時代。

あのアメリカじゃ、何処かで血が流れるなど日常茶飯事だった。

清廉潔白な善人がいる一方で、その手を血で汚し、こびりついたまま生きてきた者達も実際居たのだ。

タキトゥス・キルゴアもその例には漏れない一人であることは事実と言えよう。

 

「…それが分かったなら大人しくしていろ。あとはハヅキ達の仕事だからな」

 

胸倉を掴んでいた手が離され、オートマタの男は抵抗することもなく地面に崩れた。

目の前にいるカウボーイを、まるで化け物だと言わんばかりの目で見つめながら。

 

(タキトゥスさん…)

 

その一方でタキトゥスの普段の彼らしからぬ後ろを姿を見つめながら、アルは胸の内でその名を呟く。

偶然にも聞こえてしまった"手を汚す事に躊躇いがない"と言ったセリフ。

聞き間違いだろうかと思いたくなるも、それが聞き間違いじゃない。

そんな確信が彼女の中にあった。

 

(…あなたはどうして)

 

──そう、自ら傷つこうとするの?──

 

同時に、そんな疑問も彼女の中で湧き上がっていた。




お久しぶりです(震え声)

この時期は仕が大変忙しくて、投稿が大変遅れてしまいました。
本当申し訳ないです。

さて、内通者も見つかり、後は──という所まで来ました。

次回がいつになるかはわかりませんが…多分来年かな。

ではではノシ。
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