Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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─キヴォトスに輝く、1899年の技─


1899年より、油を絶やすことなかれ 1

その日のカイナ地区は静かな風が吹いていた。

雲一つない夜空の下で草木はさざめきながら揺れ、木の葉が空へと舞い上がる。

都心部では見られない、このカイナ地区ならではの光景。

人によっては心地よさを感じさせる風。

そんな風が吹く中で誰にも使われなくなった廃屋に彼はいた。

火が灯ったドラム缶から少し離れた位置に腰を下ろし、パチパチと弾ける様な火花の音を耳にしつつ彼は開いた日誌に向かって筆を進める。

とは言え、ページの大半は今まで出会った人物を描いた似顔絵で埋まっていた。

一人一人の特徴を確かに捉えた絵であり、鉛筆で描かれた事もあって手書きならではの"味"というのを生み出しており、その"味"はタキトゥス特有のものと言えるであろう。

数ページにも及ぶ似顔絵集。最後のページの端には似顔絵集を締めくくる様な一文が英語でこう綴れていた。

 

These people are good people(この人たちは良い人達だ)

 

綴られた言葉に秘められた思い。

そこには決して邪なものはなく、純粋な思いが込められていた。

一方で面と向かってその言葉を伝えることなく、それを日誌に留めておくのはタキトゥスらしいとも言えた。

 

「…さて」

 

懐から懐中時計を取り出し、時間を確認するとタキトゥスは広げていた日誌を閉じてバックに収める。

軽く肩を動かし体を解していると草木の上を踏みしめ、誰がこの廃屋に向かってきているのに気づく。

音の方へと体を向けると、そこにはスズキとヒナの姿が。

愛用の銃と刀に加えて、長期戦と見据えてか専用のカートリッジベルトを装着したスズキ。

その一方で追加装備などは一切なく、いつもの銃を携えたヒナ。

ここまでだと少し装備を足したスズキと普段を変わらないヒナだと思えるだろう。

しかしタキトゥスはそんな彼女たち…特にヒナに対して困惑したような表情を見せていた。

 

「その…何だ。どうして空崎がカイナの制服を着ているのか聞いていいか?」

 

「いつもの格好だと目立ちすぎるからと言われたのよ。加えてゲヘナの風紀委員長が事件解決に協力しているという情報を敵に知られないようにする為とも言われたわ」

 

(そういえばあの時のアル達も空崎が来ているとの聞いて慌てていたな。あいつらがああなるという事は、彼女の影響力は凄まじいみたいだな)

 

ゲヘナきっての最強の名は伊達ではない。

それを実感しつつも、タキトゥスはもう一つの疑問をぶつけた。

 

「よく体格に合う制服があったな?」

 

「…その点に関しては私も聞きたいくらいよ」

 

二人の視線がスズキへと向けられる。

その視線を受けて、スズキは首を振り軽く肩を竦めた。

私に聞かれても、と言外にそう言っているようで二人は小さくため息をついてこれ以上は言及しなかった。

そしてヒナが軽く咳払いをした事で話題はこれから行われる事へと切り替わっていった。

 

「準備の方は?」

 

「例のポイント…"車止め"でセツラと便利屋から"アレ"の配置を済ませたって連絡があった。ハヅキは指定のポイントで他のカイナの生徒たちと待機してる」

 

「クロカは?」

 

「車止めの近くにある陸橋で待機してる。…とんでもないものを引っ提げてきたけどね」

 

「とんでもないもの?」

 

廃屋で待機していた事もあって一日中、クロカとは会っていないタキトゥス。

そんな彼女がとんでもないものを引っ提げてきたというのだ。

それに対して疑問を口にするには当然の事だろう。

 

「…直接見て貰えば、そのとんでもなさが分かると思うわ」

 

(一体何を引っ提げてきたんだ…?)

 

何を持ってきたのか想像が付かず、首を傾げるタキトゥス。

だが今はその事を予想している場合じゃない。

頭を切り替えて、タキトゥスは歩き出した。

ふとその時、ヒナが彼を呼び止めて、肩に提げていたものを差し出した。

 

「あの店主さんからよ。良かったら使ってください、との事よ」

 

差し出されたのは一丁の銃。

ライフルよりは短い銃身、特徴的なレバーに撃鉄。

何より弾倉がストック内にあるという構造を持つ銃はタキトゥスからすれば覚えがあり過ぎた。

 

(カービン・リピーター…あの店主、こいつも持っていたのか)

 

「ありがとう。あとで店主に礼を伝えておく」

 

それを受け取るとスリングベルトを肩に通すタキトゥス。

そしてヒナとスズキに視線と飛ばした後、彼は先に待機しているであろう便利屋68とセツラの元へと歩き出した。

 

 

 

 

時刻が真夜中に差し掛かろうとしていた時だった。

心地よい風の中、明らかの人の手が加えられた二つの線路の踏切付近で待機する便利屋68とセツラの姿があった。

その内の一人、ムツキが向かってくるタキトゥスたちに気づき大きく手を振った。

それに対してタキトゥスは軽く手を振って返し、彼女達の傍まで歩み寄ると踏切全体を跨ぐようにして配置された巨大タンクローリーを見つめた。

タンク部分には火気厳禁を示すステッカーが貼られており、中に何が入っているのか容易に想像できる。

 

「…あとは列車が来るのを待つだけか」

 

そのつぶやきを聞いていたアルがそうねと頷くと、手にしたスマホを操作しそれへと向かって話しかけた。

 

「聞こえてるかしら。こっちは準備できているわ」

 

『こちらも同じく準備完了です』

 

スマホの向こう側から響いた声。

その声の主は他のカイナ生と待機しているハヅキのものだった。

 

『私も準備できています』

 

次に聞こえたのはクロカの声。

陸橋から手を振って、アル達に準備完了を知らせていた。

 

「…さて、みんなの配置は問題無しよ。それでどういう流れで行くつもりかしら、タキトゥスさん」

 

今更ながらの話だが、この場にいる全員が列車強盗など経験した事が無い。

となれば、経験した事があるであろうタキトゥスに作戦の流れを訪ねるも無理もなかった。

 

「列車が止まったら、便利屋の四人で真っ先に運転手を気絶させて捕らえて運転席を制圧。そのままアルは列車から離れてクロカがいる陸橋に移動して援護。俺、セツラ、スズキ、ヒナは後部車両へと向かいながら敵を片付ける。ハヅキ達は撃ち合いが始まったと同時に後部車両から入って、囚われている生徒たちを見つけつつ前へ進め。俺たちと合流出来たら敵は粗方片付いた事になる。もし今回の事件を起こした連中に繋がる手がかりがあれば、それも取っていけ」

 

『それとハクタクさんがドローンを飛ばしてこの辺り一帯を監視してくれています。増援が来ることがあれば、直ぐに連絡してくれる手筈になっています。また列車制圧する際は出来るだけ車両を破壊しないようお願いします。後に行われる本命の作戦の為に必要不可欠なので』

 

両端から挟み込むような形で行われる挟撃作戦。

敵がどれだけいて、どういった装備なのかは不明瞭な所も多い。

完ぺきとは言えない作戦。生前のタキトゥスなら、こんな不安定な襲撃はしないだろう。

だが、あのアメリカとキヴォトスじゃ何もかも違う。

情報一つ集める度に色々とハイテクな技術を使わないといけないのがキヴォトスだ。

あの1899年の様に足で稼ぎ、聞き込みによる情報収集、駅員を買収しての情報収集は使えないの事実だった。

 

『あともう一つですが、この戦いに飛び入り参加を考えているカイナの生徒がいます。彼女は今、この場所へと向かって移動中であり、到着したらすぐに参加するそうです』

 

「遠方に出ていたうちの生徒…もしかしてルオン先輩か?」

 

『はい。遠方への配達と用事もあって直ぐに駆けつける事が出来なかった詫びとも言っていました』

 

「ふふっ、ルオン先輩らしいな」

 

『ですね』

 

マイク越しである為、ハヅキの表情は伺えない。

が、微笑んでいる事は間違いないだろう。

少しだけ和やかになった雰囲気になるも、この作戦に対して始まりの部分に、ある不安を覚えたカイナ生が通信越しから問いかけた。

 

『あの…もし、列車が止まらなかったら…?』

 

「止まるさ」

 

迷うことなく、タキトゥスが答える。

 

「目と鼻の先に燃料を満載にしたタンクが転がっているんだ。そんなもんに突っ込んだらどうなるか…自ら火だるまになりたがる奴なんていない」

 

それに、と前置きの言葉が出る。

 

「その時は俺がタンクの上に立って止める」

 

『えっ…?』

 

困惑の声が広がる。

燃料を満載にしたタンクの上に立って列車を止めさせる。

そんな自殺行為は到底容認できるようなものではない。

その場にいた誰しもが、そんな行いをやめさせようと説得に動こうとするが既に時遅し。

残酷な事にレールが僅かに揺れていた。

それは列車がこの踏切に近づいてきているという紛れもない事実であった。

 

「隠れろ。言い争っている状況でもないだろ?」

 

「でも…!」

 

「急げ。それ以外に確実に列車を止める方法はない」

 

「タキトゥスさん!」

 

叫ぶように彼を止めようとするアル。

しかしその言葉に止まることなく、そのままタキトゥスはタンクローリーへと歩き出していた。

あの油を積んだ馬車よりも大型なタンクローリー。

それに備え付けられた梯子へと昇り、そのままタンクの上に立つ。

 

「来たか…」

 

同時に線路の向こう側から列車が走ってくる音が響いた。

もう後戻りはできない。腹を括ったタキトゥスは持参した黒いバンダナで顔元を覆い隠した。

まさか二回目の人生で、また列車強盗を行う事になるとはと彼は思う。

あの時はギャングの為に必要だった。しかし今回はあの時とは訳が違う。

段々と列車が近づいてくる。

備え付けられたヘッドライトが列車の行く先を照らし、汽笛を鳴り響かせる。

 

「なんだあれ…!?」

 

そのまま踏切を超えていこうとした瞬間、運転士が前方を塞ぐタンクローリーとタンクの上に立つ男に気づいた。

このまま突っ込んでいけば大惨事待ったなし。運転士は慌ててブレーキレバーを引き、列車は車輪から火花を散らしながら減速し始めた。

 

──止まる──

 

そう確信したタキトゥスは肩に提げたカービン・リピーターを握った。

撃鉄を起こし、レバーを操作して初弾装填。

そしてその確信が現実になったと言わんばかりに、列車はタンクローリーの目と鼻の先で停車した。

 

「さて…」

 

──悪いこと(列車強盗)をしようか──

 

あの時、あの場所で。

仲間の内の一人がそう呟いた様に。

夜空煌めくキヴォトスの空の下。肌を撫でるような風が列車強盗の始まりを告げた。




はい…と言う訳でキヴォトスで輝く1899年の列車強盗が始まります。
そして今年最後の投稿になります。
次回の投稿は来年になるかと。
感想、お気に入りや高評価を付けてくださった皆様、今年はありがとうございました。
来年もまたよろしくお願いいたします。

作中にもあったようにスズキやクロカが新しい装備やらを引っ提げているのでセツラも当然新しいのを引っ提げています。
それに関しては追々という事で。
新しい生徒や意外な人物の介入などを考えていますので、列車強盗編をどうぞお楽しみに。

ではではノシ
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