Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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1899年より、油を絶やすことなかれ 3

その銃口から放たれた散弾が、客車に乗り合わせていた者達の間を通り抜ける。

至近距離で顔面に放たれた散弾がヘルメットを被り武装した少女に襲い掛かり、人形の様に地面に崩れていく。

その光景は場にいた誰の目にも緩やかな映像として流れ、一時的に彼女達の世界から音と言うのを奪った。

白で彩られた羽織をゆらりとはためかせ、ショットガンと杖の様な細い何かを携えた少女。

地面に崩れた不良生徒を一瞥することもなく、ただ目の前の出来事に呆然と立ち尽くしている武装不良集団『グルグルヘルメット団』を見据えながら、沖河スズキという少女は堂々と真っ正面から歩いていく。

 

──何が起きた──

 

──何であいつは倒れている──

 

──あいつは誰だ──

 

今、この瞬間で起きた事に対し、彼女達の頭は疑問を生み出していく。

同時にその頭は今起きている事に対しての理解を速めていた。

疑問を消え、理解は済ませた。頭の隅々がクリアになっていくのを感じ取った時、脳から発せられた信号を受けて、体が、銃を握る手が、構える腕が、引き金を引く指が跳ねる様に動いた。

 

「野郎ッ!くたばりやがれっ!!」

 

「一人で向かってくるなんざ馬鹿なんじゃねぇか!」

 

嵐の様に乱れ、荒れ狂う弾丸。

響き渡る無数の銃声と硝煙の臭いを漂わせながら、地で飛び跳ねる薬莢。

その口から飛び出る暴言と共に銃口から吐き出された弾丸が襲撃者へと襲い掛かる。

ワンマガジン使い切るつもりなのか、不良生徒たちの引き金を引き続ける。

そんな時、一人が妙な事に気づく。

 

(当たっていない…?)

 

自分が使っている銃がそこら辺の安物だとしても、これだけの人数による一斉掃射だ。

普通の相手なら何も出来ずにやられるか、或いは近くの壁に身を寄せて銃撃をやり過ごしたり、回避行動を取るだろう。

だが、スズキは一切そのような行動を取っていない。まるで何もなかったかのように、弾が自我を持った様に彼女を避けているかのように、その嵐の中をただただ歩いているだけ。

 

(何で当たらない…!?これだけの銃撃を前にして、何故そう平然と歩いていられる!?)

 

これだけ撃っているのに、なのに当たらない。

理解不能な状況を起きている最中、もう一人の目に映る沖河スズキの姿は違った。

 

(ただ歩いているだけなのに…!馬鹿みたいに真っ正面から来ているだけなのに…!)

 

(何故か、あいつがブレて見えるのはどうして!?)

 

ブレている。

まるで出来の悪い映像を目の前で見ているかのように。

『グルグルヘルメット団』の団員の目には、歩いてくる沖河スズキの姿がブレて見えていた。

 

「あ…」

 

一歩、更に一歩。

金色の瞳がゆらりと揺れる。そこに居るだけという恐怖が歩み寄ってくる。

静かに、ただ静かに歩み寄ってくる。銃撃の中、静かに恐怖が歩み寄ってくる。

 

「あぁ…!」

 

体が震える。声が震える。

心臓の鼓動が煩いまでに躍動し、頬と背に冷や汗が伝う。

そして冷や汗の雫が彼女達の体から滑り落ち、銃声の中で僅かな音を立てながら地で跳ねた時だった。

 

「うわああああああああああ!!!!」

 

「来るなッ!来るなぁッ!!!」

 

迫りくる恐怖を引き金に、銃声の中に絶叫が木霊した。

銃という絶対的なものが意味を成さないという現実。

得体の知れない者が向かってくるという恐怖。それを近づけさせない為にも彼女達は銃を撃ち続ける。

当たらなくても、何処かで一発は当たる。

そんな、確証のない奇跡を信じながらひたすらに弾丸をばら撒いていく。

残弾がどれだけあるとか気にしない。其処にある恐怖を近づけさせない…あるのはその一心のみだった。

 

─カチン─

 

無慈悲にも、弾切れを知らせる音が鳴った。

先ほどまでの耳を塞ぎたくなるような絶叫や銃声は、客車の中から嘘の様に消え去っていた。

息遣いすらも聞こえない一時。硝煙と土煙がその場が漂い続ける。

 

「止まっ、た…?」

 

歩く音が聞こえないという現状を見て、問う様にこの状況に対して言及するヘルメット団員。

そして胸の内では只管に願っていた。

 

──お願いだ、止まっていてくれ──

 

──頼む…倒れていてくれ──

 

へばりついてくるような恐怖を味わってしまったが故の願い。

だが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう終わり?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

非情を告げる声が晴れ行く硝煙の向こう側から響いた。

霧散していく硝煙の中から、傷一つない白い羽織を揺らめかせながら彼女が姿を現す。

 

「スズキ!大丈夫なのか!」

 

先ほどの銃撃を止んだのを機に、客車の壁に身を寄せていたタキトゥスが叫ぶ。

乗り込んだとは言え、あれだけの銃撃があったのだ。その声には心配も含まれていた。

 

「ええ、大丈夫よ。心配させてごめんなさい」

 

何のために二人組を組んだのか。相手に心配させてしまった事を自覚していたのか、軽く謝罪をするスズキ。

そして敵を見据えた。一歩踏み出す度に履いた靴の底が床に当たる音を響かせながら。

漸くかと言わんばかりの表情を浮かべながら。

 

「さて、じゃあ…今度は──」

 

スズキの体が僅かに、ゆらりと前へと倒れる。

次の瞬間…

 

──私の番──

 

消えた。

風も音も置き去りにして、沖河スズキが消えた。

 

「え…?」

 

消えた。視界のその先に、先ほどまで居た少女の姿が無い。

爆弾の爆風で吹き飛ばされた訳でもなく、目に見えない何かによって連れ去られた訳でもない。

消えるという現象が平然と起きたという事実。

その事実に『グルグルヘルメット団』の一人が、啞然とした声を漏らした時だった。

 

「何処見てるの?」

 

視界の外。それも下から、あの声が響く。

いち早く反応出来た一人は声が聞こえたと同時に視線が声の方向へと向けると同時に目は大きく見開かれた。

白い羽織は揺らめき、地面すれすれが過言とも言えてしまう程の低姿勢からの接近。

『千流水影』を腰に収めて、代わりに納刀状態の『雪景 氷晒し』を相手へ目掛けて抜き放つスズキの姿。

金色の瞳が相手を捉えて、顔を逸らすことも、逃げることも許さないと言わんばかりに告げる。

 

「さようなら」

 

抑揚のない声が酷く冷たく響いた時、強烈な一打がヘルメット団員の腹部にめり込んだ。

痛みが遅れてその体を襲い、そして前のめりに崩れると意識すらも刈り取られてしまう。

何をされたのか分からない。理解に及ぶ前に一撃を受けた団員が地面に崩れ落ちていく傍らで、スズキが動く。

 

「ふぅ……ッ!」

 

突進。それによって一気にしてスズキと集団との間合いが詰まる。

『雪景 氷晒し』を下から上へと相手の足を掬い上げる様にして振り上げ、その体が宙へと浮かんだ所をすかさず左手で抜き放った『千流水影』で追撃。

銃声と共に至近距離で放たれた散弾が相手を後ろへと吹き飛ばし、そのまま集団の中へと激突。

ボーリングのピンの様に崩れ行く姿を見て、間合いを詰めようとした時だった。

 

「調子に乗るんじゃ、ねぇッ!!」

 

「!」

 

座席に身を隠していたのか、スズキの背後から手にした銃を鈍器の様にして振り下ろそうとするヘルメット団員が迫る。

対して即座に反撃に出ようとするスズキだったが、後方からの一発の銃声が相手の持っていた銃を弾き飛ばした。

 

「なっ!?」

 

もう一人いる事はヘルメット団員も分かっていた。

しかし銃だけを撃ち飛ばされるとは思っていたのか、思わず驚きの声を上げてしまう。

 

「スズキ、前をやれ!」

 

「任された…!」

 

銃を撃ち飛ばされ、無防備となったヘルメット団員に蹴りを叩き付けて気絶へと追い込んだスズキ。

援護をタキトゥスに任せて、集団へと突撃。

それに合わせてタキトゥスも客車内へと飛び込み、遠方からスズキを狙うヘルメット団員へと銃を構える。

しかしその表情はやや険しかった。

 

(…くそっ)

 

今まで銃を突きつけ合い、鉛玉を飛ばし合ったのは獣人の大人やオートマタだ。

大人であるのであれば、そこに容赦など必要ない。

実際これまでの戦いにおいてタキトゥスは容赦などしなかった。

躊躇いなく銃を突き付けて、その頭に鉛玉を叩き付けてきた。酷い時は至近距離でショットガンを放ったりもした。

だが今回は違う。銃と持っていると言えど、相手は子供だ。

引き金を引くことも、弾丸をその体に叩き付ける事も彼の中では躊躇われた。

 

(サンドニのガキ共にも銃を向けやしなかったというのに…キヴォトスのこういう所は好きになれん!)

 

誰しもが当たり前の様に銃を持っていて、当たり前の様にキヴォトスの何処かで銃声を鳴らしている。

撃った所で死ぬことはない。何故ならここはキヴォトスだから。

体の何処かに当たったとしても痛いだけに留まるだろう。何故ならここはキヴォトスだから。

外ではありえないキヴォトスの常識。

しかしタキトゥス・キルゴアは…否、アーサー・モーガンは決してその常識に染まれずにいた。

痛いものは痛い。怖いものは怖い。

人として当然のものを落とすまいと彼はそれを持ち続けていた。

それでも相手を無力化しない事には話は進まない。

だからこそ、彼は相手の銃を撃ち落とす事だけに専念していた。

 

(恨んでくれてもいい…!)

 

意識を集中させ、構えた銀のキャトルマンリボルバーの引き金を引く。

放たれた弾丸がヘルメット団員の銃だけを撃ち落とし、そのままアーサーは腰だめで銀のキャトルマンリボルバーを構えた。

 

「ッ!」

 

トリガーを引きっぱなしにし、銃をスライドさせつつ左手で撃鉄を叩きながら五連射。

命中率の悪いとされる腰だめに加えて、スライドさせながらのファニングショット。

しかし放たれた五発の弾丸はまるで吸い込まれる様にして、ヘルメット団員達の銃だけを弾き飛ばしていった。

 

「…大した腕ね」

 

銃だけ撃ち落とされ、無力化をされたヘルメット団員らを見てスズキは関心した様に呟くと、ひるませたヘルメット団員の衣服の襟を掴んだ。

 

「えっ…ちょっ…!?」

 

「悪いけどお外で遊んできて。異論は…多分認めない」

 

「ちょっ、待っ…!」

 

そう言って異論を待つ事もなく、そのままヘルメット団員を客車の外へ放り投げるスズキ。

悲鳴にも似た叫び声を上げながら窓ガラスを突き破り外へと投げ出されるヘルメット団員。

その光景はもう一方の客車でヒナと共に戦闘を繰り広げていたセツラの視界に映っていた。

 

『投げ捨てる必要あるか、スズキ先輩?』

 

「定員オーバーだったのよ。あと無賃乗車」

 

『ああ…そりゃ放り投げた方が正解だな』

 

「そっちは?」

 

『楽、と言っておく。流石は風紀委員長といった所だ。これじゃただの蹂躙だ』

 

でしょうね、とセツラからの無線に対してそう答えながらスズキは向こう側の客車に居る二人を見る。

終幕:デストロイヤーが生み出す火力、それを扱うヒナ。

特注の銃剣を装着して、突撃を敢行するセツラ。

スズキの目からしても、向こうでの戦いは最早戦いと言い難かった。

 

(…にしてもヘルメット団か。目を回した髑髏というと、グルグルヘルメット団か。…ふむ)

 

ヘルメット団に対して何か思う所があるのか神妙な表情を浮かべるスズキ。

しかしその体は薙ぎ払っては撃つ。薙ぎ払っては撃つを繰り返しており、30秒も経たない内にその場にいたであろう『グルグルヘルメット団』は全員再起不能へと追いやられていた。

そのほとんどをスズキが片づけてしまったのは今更言うまででもないだろう。

 

「呆気ないわね」

 

「そんな風に言えるのはお前だけだと思うがな」

 

そう言いながら、アーサーが装填し終えた銀のキャトルマンリボルバーをホルスターに収めながらスズキへと歩み寄る。

そんな彼の視線は倒れ伏し、動けずにいる『グルグルヘルメット団』へと向けられていた。

 

「こいつらはどこかの学園の生徒なのか?」

 

「いいえ、何らかの理由で学籍を持たない集まりよ」

 

「そうなのか…」

 

学籍を持たない者達。

とは言え、銃を向けたという事実にアーサーの胸の内は重たかった。

 

(最悪な気分だ…)

 

子供に対して銃を向けた。そして撃った。

その事実が重く圧し掛かる。

 

(これっきりにしてほしいものだ)

 

自身を守る為なら撃つしかない。

それでもこれから続くであろう戦いにアーサーはささやながらにも、子供を撃つような事が起きない様にと願う他なかった。




「…まさか、私よりも先に誰かが行動を起こしていたとは」

「これでは予告状の意味も成さない、か」

「余り好ましい状況ではないですが…さて、どうしたものか…ん?」

「……あの大人はもしや」

「…」

「……ふふっ」

「このような形で貴方と会うとは思ってもいませんでしたね」

「では、あの時の一泊のお礼を返させていただきますよ、カウボーイさん?」






お、お久しぶりです。
これも書きたい、あれも書こうかと悩んでいたら遅くなってしまいました。

…あれこれ描こうと考えていたのに、結局はこれしか書けないとは。
頑張らんといかんなぁ…。

ではではノシ
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