弾丸が飛び交う中にも関わらず、攻撃が何故か当たらないという芸当を見せつけたスズキ。
生前から持ち合わせたものから銃だけを撃ち飛ばし無力化を図るアーサー。
そんな両者が次の車両へと向かっていく一方でセツラとヒナの二人は、スズキとアーサーよりも早く二両目へと進軍していた。
幸いにも二車両目には敵はいないのか、弾を消費することもなく彼女達はさらに後ろへと繋がる客車へと歩いていく。
「ねぇ、一つ聞いていいかしら」
そんな最中、先を歩いていたセツラに対してヒナが問いかける。
彼女の声にセツラは振り返る事はしなかったが、どうした?と返したことでヒナは先ほど見た"あの光景"について尋ねた。
「スズキとタキトゥスさんが居たあの客車での戦闘。スズキに攻撃が一度も当たっていなかったのを見ていたわ。真っ正面から向かっていたにも関わらずよ。…あれはどういうカラクリなのかしら?」
普通で起きるはずのない、摩訶不思議な光景をヒナは鮮明に覚えていた。
決して質が良いとは言えずとも、約十数名からによる集中砲火。
そんな中を回避も退避する事もなく、沖河スズキは歩いていた。
普段と変わらぬ足取りで、悠然と夜の散歩に出掛けるかのように弾丸の嵐の中を歩いていたのだ。
「満足のいく答えはできないが…それでもいいか?正直私たちにもスズキ先輩の"アレ"についてはどう言ったらいいのか分からないからな」
「構わないわ。分かる範囲で教えて」
「分かった。…恐らくだが"歩法"と言われるやつじゃないかと私たちの間ではそう言われている」
「歩法…何処かで聞いた事があるわ。彼女、武術とか言ったのを学んでいたの?」
「いや、カイナや前の学校ではそういった事は一切した事が無いと言っていた」
歩法。
武術、古武術における足運びや歩き方、走り方を指す。
馬術においても歩法というものがあるが、スズキがやっていたのは武術、或いは古武術によるものである。
しかしそれだけで集中砲火を無傷で切り抜けられるものなのかと言われると、どうかと首を傾げるだろう。
(でもあれは…"歩法"という域を超えている)
面と向かって相対していた訳ではない。
だが遠くから見ていただけでも、その異常性はヒナの目にしっかりと映っていた。
何を、どうすればああなるのか…その疑問が決して尽きる事はないが後輩であるセツラも分からないというのであれば、これ以上の言及は意味を成さないと判断し会話を終えようとするヒナ。
すると、呟くようにセツラがそっと口を開いた。
「そっち程じゃないが…カイナも不良共にちょっかいをかけられる事がたまにある。毎度という訳じゃないが、スズキ先輩が追い払う事もあってな。その時もあんな風にやっていた」
「…それで?」
「銃撃の中を歩いて、一発も当たらずに接近し相手を制圧する…そんな姿を見ていた一部の後輩たちがある時に興味本位で手合わせを頼んだんだ。とはいえ、軽く流す程度で本人もそれを了承し、偶々居合わせたクロカも参加する事で実現し、そして先輩のあれを見たクロカはこう言っていた。……歩いてくる彼女の姿は何故かブレて見えて、尚且つ相手との距離感が何故か狂ってしまう。まるで月へと向かって届きもしない弾を撃っている気分だっただとな」
「…それは言い得て妙ね」
あの時に感じた異常性。セツラが口にしたスズキの歩法の影響力。
それはキヴォトスにおける最強の一人として語られるあのヒナが、一番に覚えた感情。
それが──
「…月に弾は届きはしないもの」
あの異常性を前にして弾を当てられるかどうか怪しいと感じた事だった。
(そんな人物が今までどうして話題にならなかったのか…不思議なものね)
カイナ農場学園は一部には知られているものの、無名校の一つとして数えられている。
また廃校となった学園に属していた時があったとスズキ本人から聞いていた事もあって、無名校から無名校へと転入したのが彼女に関する話題が表に出てこなかった要因ではなかったのではないかとヒナは思う。
(けど…)
とは言え、本人は決して自ら話題となって表に出ようとはしないだろうと彼女は思う。
困っている人がいるのであれば、学園が困っているのであれば助ける。
ただ、平穏に過ごしていたいだけ。
話題にならなかったのは沖河スズキという少女がそれを願っていたのではないだろうかと。
(…もし私がゲヘナじゃなく、カイナに来ていたらどうなっていたのかしら)
そんな事を思うも、ヒナは首を横に振った。
山の様な書類、問題児たちの対処、万魔殿の嫌がらせ……良い事よりも嫌な事の方が多い気がしなくもないが、自身を慕ってくれる行政官や、風紀委員のメンバーたちがいる。
それはゲヘナに入学していなかったら、得ることが出来なかったであろう掛け替えのないものだ。
たらればは言うものじゃないわねと、そんな事を思ってしまった自身を窘め、意識を切り替えるのだった。
一方、その頃。
スズキとタキトゥスもまた別の車両へと向かうべく移動を開始していた。
こちらも同様に二車両目には敵が配置されていないのか、二人はそのまま三車両目へと歩き出していくと先ほどの戦いを思い出していたタキトゥスがスズキを呼び止めた。
「いつもああなのか?」
「ああって…、さっきの戦いの事?」
足を止め、振り返りながらも何に対しての事なのかと問うスズキにアーサーは頷いて肯定した。
「まぁ…そうかもね。人を頼る様にはしているのだけど前にいた学校の影響か、どうにも一人で戦う癖が抜け切らずにいるの」
日夜暴力三昧。
前にいた学校では、ずっと一人で戦っていたのだろう。
故にあんな戦い方をしているのかとアーサーは納得する。
しかし納得しているだけで、容認できるものではなかった。
「そうか。…あまり無理はするな。正直、肝が冷えた」
「それは…ごめんなさい。でもキヴォトスで過ごしている人たちって弾を喰らった程度じゃ死ぬことなんてないのだけれど」
「知ってる。だが…子供が銃に撃たれる姿など見ていて良い気はしない」
そこでスズキは、思い出したように気づく。
自身の目の前にいるのは、キヴォトスの外から来た人物である事を。
外はキヴォトスとは違う。
銃弾一発でその生命が奪われる事がある。そこに大人も子供も関係ないのだ。
同時に彼女は思う。
そういった現場…言葉にするのも憚れる様な、キヴォトスではありえない様な凄惨な現場を見た事があるのではないかと。
「撃たれても死なない…そんな事はここに来てから知った。だがな、痛いものは痛いんだ」
だから、と一言口にしてアーサーはそっとスズキの頭に手を置いた。
「俺みたいな奴で良いなら頼ればいい。誰かを頼っても罰は当たりはしない」
子供の手や、薄汚い大人の手とは違う。
大きくて、ごつごつしていながらも温かさを感じさせる大人の手。
母性とは違う何か。言葉にできないが、スズキにとってその感覚は決して悪いものではなかった。
「…ん」
「あぁ、悪い。気安くやるものじゃなかったな」
「いいえ、寧ろこうして誰かに頭を撫でなれるのは初めてだったから少しびっくりしただけ。…でも、そうね。もう少し人を頼る努力をしてみるわ」
「それがいい。…さて、行くぞ」
「ええ」
肩に提げたカービン・リピーターを手に取りつつ次の車両へと繋がる扉へを歩き出すアーサー。
そんな彼の隣を歩くようにして、手にした『千流水影』を肩に担ぎながら『雪景 氷晒し』を握りながらスズキもまた扉へと向かう。
数秒も経たない内に扉の前に来た二人は、一度顔を見合わせてお互いに頷き合うとアーサーが扉に対して蹴りを入れて乱暴に開け、スズキが突撃。
が、三車両目にも敵の姿はなく、二人して安堵の息を漏らした時だった。
『全員に通達。そのまま聞いてください』
後方車両から他のカイナ生と共に乗り込んだハヅキから無線が入る。
無線越しからは銃声が聞こえている辺り、相手と撃ち合っている事が容易に察せられる。
そんな最中で動じることなく、普段と変わらない声色で無線を飛ばす彼女は流石と言わざるを得ない。
『車両を防衛している敵の情報が分かりました。…ここを防衛しているのは、あの"ドロドロヘルメット団"のようです。恐らくですが雇われている可能性があります。またハクタクさんからの報告で、複数の輸送ヘリと武装ヘリがこちらに接近中のこと。それらはドロドロヘルメット団が差し向けたものかと思われます』
その情報にスズキの眼つきが変わる。
それはもう一方の車両で情報を耳にしたセツラとヒナも、この情報を耳にした全員も同様だった。
アーサーはヘルメット団という武装不良集団の事をついさっき知ったので良く分からずにいたが、スズキが眼つきを変えた事がそれが良くないものである事は理解できた。
「ドロドロヘルメット団というのは?」
「数多あるヘルメット団の中で一番最悪と呼ばれる悪名高い連中よ。銀行強盗、民家襲撃及び放火、違法売買、誘拐など様々な犯罪に手を染め、相手が小さな子供だろうと平然と銃を撃つし、命令に歯向かったり、脱走したりする仲間が居たら集団でリンチしたりする。構成員の多さに加えて、戦車や戦闘ヘリなど保有している事もあってヴァルキューレはおろか、連邦生徒会ですら手を焼いているわ」
(子供がコルムみたいな事をやっているのか…信じられん)
かつては同じ義賊で、同じ理想を掲げた者同士。
しかし何時しか、敵対するようになり、何度も連中に対して鉛玉を弾いたのはアーサーは覚えていた。
そして一味の頭目でありコルム・オドリスコルがサンドニで公開処刑されたのを覚えている一方で、彼はかつてコルム一味であり、訳あって自身が所属していたギャングにいた人物を思い出していた。
名をキーラン・ダッフィーと言い、そんな彼の最期が余りにも惨く凄惨なものであった事も思い出していた。
(また子供が相手なのか…)
先ほどの戦闘で子供が敵として出てくるのは知っている。
それでも現実は非情で、アーサーが子供に対して撃つことに躊躇っているのを良い事に現れようとしている。
やや浮かない顔を見せるアーサーを見て、その表情が何を意味しているのかを察したのかスズキが告げる。
「先の戦闘…相手が子供だったから銃だけを狙ったのよね?」
「…気づいていたのか」
「少し考えたら、ね。でもドロドロヘルメット団に対してはそんな遠慮はしない方がいい。下手すれば貴方が死ぬわ」
「……」
「子供を撃ちたくない。その優しさは十分に理解できるし、好感が持てる。けどあいつらはそんな優しさを無下にする連中で、何より…子供としての一線をとうに越えているわ」
金色に輝くスズキの瞳がアーサーを見つめた。
分かっている。しかし分かりたくない。
そんな思いが顔に分かりやすい程に書かれており、スズキには十二分に理解できた。
自身とて、そういう感情を抱いた時があったのだから。
誰も傷つけたくない、もう暴力を振るいたくない、と。追われる日々の中でそれを願い続けたのだから。
戦う事すら放棄し、かつての荒々しい姿から一転して武器を握ることすら出来なくなってしまったあの日々。
そんな自身を救ったのは、今はこのキヴォトスにいないカイナ農場学園先代生徒会長の言葉がきっかけだった。
口数が少なくて、何を考えているのか分からない人ではあったが。
その大きな手を差し出し、今の自分を引っ張り上げてくれたあの人の言葉をスズキは一時も忘れてなどいない。
─その優しさは誰かの為に取っておきな。今は優しさってやつを厳しさに変えてくれ─
「その優しさは他の人の為に取っておいて。今は、その優しさを厳しさに変えて」
かつて自身を救ってくれた台詞と同じ台詞を告げた彼女の胸の内はタキトゥス・キルゴアという大人には死んでほしくないといった思いがあった。
何処か不機嫌そうで、何処か不器用で。
それでも優しさを隠し切れないそんな大人だからこそ、生きていて欲しいと願う故のセリフだった。
「…分かった」
持ち続けた信条を崩したくはない。
だが、今だけはそれを破らざるを得ない現状にアーサーは止む無く頷く他なかった。
そんな二人の会話をよそに、無線越しからハヅキの指示が飛ぶ。
増援の可能性はある程度想定していた彼女だが、一つ懸念すべき事があった。
『武装ヘリに輸送ヘリを差し向けたとなれば、敵は列車全体に兵を送り込んでくることでしょう。特に運転席の防衛をしている便利屋の皆さんと陸橋にいる二人が危険かと思われます。敵の襲撃が来る前に一時的にそこを放棄して後方車両へと向かって進撃している四人と合流してください』
それが運転席と陸橋にいる人数の少なさだった。
歴戦と言えど、大量の敵に複数の武装ヘリを相手取るのは危険すぎる。
その場に留まって迎撃するよりも身の安全を優先すべきと判断したハヅキは運転席と陸橋にいる面々に放棄を進言した。だが、こういう時に限って…否、こういう状況だからこそというべきか。
『あら、生徒会長にしては弱気な発言ね?私たちを誰だと思っているのかしら』
陸八魔アルのいつものが発動するのだ。
『大量の敵?大量の武装ヘリ?それが何だって言うのかしら。その程度でおめおめと背中を見せて逃げるようじゃ、それこそ便利屋68の名折れだわ』
この程度、さして障害にはならない。
恐れを感じさせない台詞を吐くアルだが、その声を無線から聞いていたカヨコは手を額に当てながらため息をついて、ムツキは無邪気に笑い、ハルカはブローアウェイを抱きかかえながら力強く頷く。
何時ものが発動した。そう分かっていながらも、誰一人とて反論しないのは理由がある。
陸八魔アルは決してその意思を曲げないのを知っているから。
だからついていく。そんな彼女だからこそ、三人は今日に至るまでずっとついてきたのだ。
「悪いけど私たちに付き合ってもらうわよ、クロカ」
「どこまでもお付き合い致しますわ、社長さん。……どうやら思ったよりも早く来たみたいですね」
遠くから聞こえてくるローター音。
闇に紛れて黒に染まった大きな影の軍勢が行進曲如く迫ってくる。
「カヨコ、ムツキ、ハルカ。そこから屋根に上がって頂戴。列車の奪還が目的ならここに近づくまでは向こうも下手に撃ってこないわ、降りてくる敵がいたら一人残らず片づけて」
『りょーかい。アルちゃんはどうするの?』
「私はクロカと共にヘリの迎撃するわ。余裕があれば援護するから」
『オッケー、んじゃあ…お迎えしなくちゃいけないね!』
ずっと待たされていたのだ。
自分たちだけ役目無しというのは御免被る。
胸糞悪い事をやっている連中に灸を添えるというのであれば、それも悪い気はしない。
何より、大事な友人を助けたいと戦いに赴くカイナ農場学園の生徒たちがアルにとっては最高にかっこよく見えた。
「来たわ。クロカ、準備は?」
「いつでも」
迫りくる影の行軍。
その姿は陸橋にいるアル達からでも目視で確認できるところまで来ていた。
「ふぅ…」
軽く息を吐く、引き金に指が掛かる。
スコープ越しに映る影に包まれた巨体。
そして次の瞬間──
「ッ!」
「!」
ワインレッド・アドマイアーが、シュナイダー2000が火を吹いた。
吐き出される7.62mm弾が、15.2mm装弾筒付翼安定徹甲弾が銃声と言う開幕の狼煙と共に闇夜を駆け抜け、ヘリの操縦席に座るドロドロヘルメット団の団員に喰らついた。
遠方からの狙撃により、一瞬にして視界が暗転した団員は体が糸の切れた人形に崩れ、そのまま制御を失ったヘリと共に地上に墜落していく。
一機、また一機を遠方からの攻撃でヘリが墜落していくものの、流石に二人の狙撃では全てを落とすことは叶わず、複数のヘリの接近を許してしまい、その内の武装ヘリが陸橋にいる二人に対して攻撃の隙の与えんと言わんばかりに搭載された機関銃を連射。
同時にヘリから武装したヘルメット団員が降り立ち、列車の屋上に上がっていたカヨコらと交戦開始。
(こうも動けないままでは…!)
身を隠し、ヘリからの攻撃が止むまでやり過ごそうとするクロカだがその表情は険しかった。
こうもしている間に武装ヘリと輸送ヘリから敵がどんどん降りていき、列車の上で戦っているカヨコ達へと襲い掛かろうとしている。
移動もままならない今、攻撃に転ずることも出来ない。そう判断した時、クロカは意を決した様に懐からスモークグレネードを取り出した。
「アルさん、少しだけ煙たくなりますがどうかご容赦を」
「え?一体何をするつもり…!?」
「それは…見てのお楽しみです!」
ピンを引き、手にしたスモークグレネードを自身の傍に放り投げるクロカ。
同時に空気が抜けるような音と共に二人がいた陸橋が煙の中へと飲み込まれてしまい、武装ヘリの操縦士も突然の煙に銃撃を停めてしまうも自身が絶対的な優位な立場に居る事を信じているのか、その煙幕をただの悪足搔きだと判断した。
(出て来いよ…てめぇらが姿を見せた時が最後だ…!)
操縦桿に備えられたトリガーに指をかけて、ほくそ笑むヘルメット団員。
が、この時ヘルメット団員は気付かなかった。
陸橋を覆い隠す様な煙の中で、薄っすらとその動きを見せる影の存在に。
「やっとですね…」
覆われた黒い布をひっぺ返し、露わになったソレへと呟くクロカ。
銀色に彩られた筒は長く、まるで砲身の様で。
人の腕がすっぽりと入ってしまいそうな巨大な口を宿したソレは銃の形をしていた。
しかしそれは銃と呼ぶには大きく、銃身と呼ぶには分厚く、何より重たかった。
「さぁ─」
全長、不明。
総重量、不明。
用途、殲滅用。
口径、30mm。
装填方式、単発及びボルトアクション。
使用弾薬、30×173mm弾。
砲とも呼ぶべきそれに与えられた名は『
女神の名を宿した
「出番ですよ」
そしてその砲が煙の向こう側にいるであろう武装ヘリへと差し向けられた瞬間。
煙幕という緞帳が高らかに響いた
遅くなり申し訳ございません。
あれこれ書いていたり、最近買ったゲームをやっていたら遅くなってしまいました。
前回でスズキが見せたアレに関して、軽く説明させてもらいました。
とは言え、まだまだ秘密がありそうですが…。
また雇われでございますが、ヘルメット団の登場です。
とは言えオリジナルを含めてますので、何卒ご容赦を。
また、この列車強盗にてクロカが持ち出してきたものを漸くお披露目となりました。
次回は…さぁてどうしたものかなぁ…。
ではではノシ