Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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一休みの仕方は人それぞれ


キヴォトス人の一休み その1

○月□×日 天候 やや雲ありの晴れ

:生活費と農場の運営費を稼ぐ為、収穫した製品を『カイナ農業学園』へと売りに行った。

相変わらず馬を使っての移動だが、このキヴォトスという場所は馬を必要としない乗り物が当たり前の様に普及している。

自分みたいに馬を用いるのはキヴォトスからしたら時代錯誤もいい所なのだろう。

馬は最早日常における移動手段じゃなくなり、個人の趣味になっているそうだ。

だが馬を飼っている以上はそれを腐らせるつもりはないし、こうして馬を走らせるのは気分が良い。

自分がこのキヴォトスの人間ではなく、あの時代のアメリカを生きていた人間だと感じさせてくれるからだ。

学園に向かう道中、ハルノとクロカを拾ってハルノに馬の手綱を握らせてやった。

ハルノは何時も元気な少女で、見せてくれる笑顔に此方もつい笑みを浮かべてしまう程に明るい娘だ。

馬の操り方も上手で、馬に対する接し方も上手。何時か乗馬をさせてやりたいと思っている。

クロカはハルノと比べて落ち着いた娘だ。ただその落ち着き方は大人顔負けといった所だろう。

所作の一つ一つに品があって、礼儀正しい。ハルノと同じく馬の操り方も上手く、接し方も上手い。

同じく乗馬を経験させてやりたいと思っている一人だ。

学園に製品を持ち込み、その査定を待っていた際にそこで起きた騒動に首を突っ込んだ。

酷く傷んだ果物や野菜を持ち込んで金を巻き上げようとしていた猫みたいな奴が、何度も釘を刺されたにも関わらず懲りずに持ち込んできたのが事の発端だった。

事情を知らない一年の代わりにクロカが対応に当たっていたのだが、騒ぎが大きくなりそうになっていたのでクロカを助けるつもりで自分も割って入り、猫みたいな奴を自分なりに諭したのだが失敗した。

相当頭に血が上っていて銃を抜こうとしていたので仕方なくこっちも銃を抜いて黙らせ、追い出した。

正直な事を言うとあまり銃を抜きたくはなかった。

どうしてもこの瞬間は平穏に農場を営む男から、無法者として生きて多くの命を奪って来た男になってしまう。

そんな姿をまだ二十歳にも満たない彼女らに見せたくはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

昨日の騒ぎから翌日。

晴れ晴れとした空の下、久しぶりの休日を迎えたタキトゥスはテラスにいた。

淹れたてのコーヒーが入ったマグカップを片手に、腰かけたロッキングチェアに揺られる。

朝の仕事は既に終えた。この後は特にすることはなく、この静かな時間を過ごすのみ。

数か月の間、慌ただしくしていたタキトゥスにとって自分へのご褒美と言える日でもあった。

 

「…」

 

ロッキングチェアに揺られる感覚と緩やかに吹く風が心地よい。

淹れたてのコーヒーの香りも相まって、非常にリラックス出来ている。

学園の生徒らは今頃授業や実習に励んでいる頃だろうし、本日は生徒らが手伝いに来る日でもない。

だから何かしらの準備をする必要もない。完全な一人の時間が確保されている。

 

(こういうのも良いもんだな)

 

コーヒーを一口飲みながら、一人の時間の良さを味わうタキトゥス。

生前はこんな風に一人の時間をのんびりと過ごす事は余りなかったようにも思える。

ギャングの為に食材や資金、弾薬など調達し、逃亡先の隠れ家の安全を確保しに行ったりなどしていた。

全て自分がやっていたという訳では無いにしろ、色々忙しなくやっていたのは事実だ。

 

──楽園での新たな人生が待っている──

 

──バナナ農家として人生の最後が送れるんだな?──

 

「楽園での新たな人生、か…」

 

此処には居ないギャングのメンバーの一人の台詞が脳裏を過り、タキトゥスは繰り返す様に呟く。

確かに死んだ筈の自分。それがどういう訳かこの地で新たな人生を送っている。

 

「少なくとも楽園なんだろうか、ここは」

 

そう疑問を口にするも、その答えはタキトゥスの口からは出なかった。

このキヴォトスを何と言い表せば分からなかったからだ。

何度か考えに耽るも答えは出てくる気配はなく、彼は考える事を止めて今を楽しむことにした。

やや冷めてしまったコーヒーを飲み干すとマグカップを傍に置いた机の上に置いてタキトゥスはロッキングチェアの背もたれを軽く倒してひと眠りしようとしていた時だった。

 

「?」

 

遠くからトラックが向かってくる音を耳にして体をゆっくりと起こした。

来客だろうかと思い、音が聞こえる方へと歩き出すと確かに敷地の入り口から二台の小型トラックは入ってきていた。

怪しい奴なら銃に手を伸ばしているであろうタキトゥスだが、その車両に見覚えがあるのか銃に手をかける事はなく、寧ろそれらを不思議そうに見つめていた。

 

(学園が所有しているトラックだが…どうしたんだ?)

 

農場内に入って来たのが『カイナ農業学園』が所有している車両である事をタキトゥスは知っていた。

何か問題があったのだろうかと軽く身構える彼を他所にトラックは停止して、車内から複数の生徒たちが降りてくる。

その中にはクロカとハルノの姿もあり、加えて『カイナ農業学園』の生徒会長の姿もあった。

生徒会長まで姿を見せた事態に昨日の事で言い来たのではないかとタキトゥスの表情は僅かに険しくなるが…

 

「やっほー、タキトゥスさん!遊びにきたよー!」

 

「ごきげんよう、タキトゥスさん」

 

普段と変わらぬハルノの姿と礼儀正しく一礼するクロカ。

そして周囲の様子に気付いて、思わず毒気を抜かされてしまった。

どうやら自分が問題に首を突っ込んだ事に苦情を言い来たのではないと分かるとタキトゥスは苦笑いを浮かべる他なかった。

 

「ああ、良く来てくれた」

 

取り敢えず全員分のコーヒーはあっただろうかと思いながら彼は彼女らを迎え入れる準備をするのであった。

 

 

 

「それで?今日はどういった要件で来たんだ?あぁ…えっと…」

 

一部の生徒たちがハルノとクロカの付き添いの元、外でブラック・ボーイと戯れている中でタキトゥスは家の一室で『カイナ農業学園』の生徒会長と対面していた。

生徒会長としてその佇まいはクロカと同じように品がある。

淹れたてのコーヒーに口を付ける動作だけでも気品に溢れているのだから。

 

嘉納(かのう) ハヅキと言います。…この度は誠にありがとうございました」

 

「昨日の事か?それなら気にしなくていい。こっちが勝手に首を突っ込んだだけの話だ」

 

「それでもお礼を言わせてください。恩人に礼一つ言えないのは学園の生徒会長の面目が立ちませんから」

 

「歳の割に真面目だな。まぁ…そうまで言われたら素直に受け取ろう。どう致しまして」

 

外からは賑やかな声が聞こえる。

静かな一日になると思っていたタキトゥスだが、これはこれで悪くないと感じていた。

そして目の間に座る生徒会長のハヅキを見て、タキトゥスは昨日の騒動の原因だった獣人の話を切り出した。

 

「クロカとのやり取りで耳にしたが、あの獣人の男…常習犯だったらしいな」

 

「ええ。我々の方も新規の方々の持ち込みがある際は数人態勢で事前確認しているのですが、当日持ち込みされる方々も居るのです。今回は経験の為に一学年に任せていたのですが、それが裏目に出たみたいでして」

 

「次からは二人一組で行うと良いかも知れん。人員はそっちに割かれるが、経験者と居るだけで下も安心できるだろうからな」

 

「ソレに関しては私も思っていた所です。帰ったら体制の見直ししないとなりませんから…それがやや憂鬱です」

 

そこでん?とタキトゥスは疑問を覚えた。

生徒会長という役職がどこまで権利を有しているかは知らないが、ハヅキの先ほどの発言はまるで学園の運営すらも担っている様にも聞こえたのだ。

 

「まさかとは思うが…学園の運営や行政まで担っているのか?」

 

「そうですが…それがどうかされました?」

 

あっけらかんと、さも当然の様に肯定を示したハヅキにタキトゥスは思わず唖然とした。

そしてこの時、このキヴォトスの異常性を知った様な気がした。

学生が学園の運営や行政に携わる。大人が担うべき仕事を、担うべき責任を目の前にいる少女が背負っている。

 

「…程よく休めよ。体を壊して、病気になったら元も子もないからな」

 

「え、ええ…分かりました」

 

これが当たり前なのかと思わずにはいられず、タキトゥスはこの多忙極める少女がどうにか休める様な状況が訪れる事を祈るほか出来なかった。不治の病を患った事がある彼にとって、その苦しみは正しく地獄そのものだったのだから。

この後は他愛のない会話を交わしながら時間を潰していく二人。

そんな時、ハヅキが周囲を見渡していたのにタキトゥスは気付いた。

 

「周りを見ても何も面白いものはないと思うが?」

 

「いえ、そうではなく…その、物が少なすぎではありませんか?」

 

そうだろうかと首を傾げながらタキトゥスは周囲を見回した。

忙しくしていたから物が揃えられていないのは事実だが、それでも多少は揃っている方とは彼は思っていた。

だがハヅキからすれば違った。

少な過ぎるのだ。農場を経営する一人の男が暮らすにしては色々足りない気がしてならなかったのだ。

 

「服とかはどうされているんです?」

 

「最低限のものは買ってある」

 

嘘は言ってはいない。白のワイシャツにズボンに靴といったシンプルなものだが、あるにはあるのだ。

未だにアメリカでの暮らしの影響が残っているものの、彼なりにここの生活に順応させつつあった。

 

「他にも買い揃えたいとは思っているが、生憎とここら辺の地形には詳しくない。知っていると言えば精々学校までの行き道程度だ」

 

「加えて言うとこの農場はタキトゥスさんが一人で運営されている。余り無人にしておけないというのも理由の一つでしょうか」

 

「ああ、それもある」

 

成る程、と頷きながらハヅキは指を顎に当てつつ考える素振りを見せた。

何処か考える様な所があっただろうかと思いながらもタキトゥスはコーヒーを啜る。

外での賑わいに耳を傾ける事、約数十秒。

 

「タキトゥスさん…少し提案があるのですが──」

 

何かを思いついたのか、ハヅキはタキトゥスにある提案をするのであった。




内容があんまりにも長くなりそうなので、一旦区切ります。
まぁ…私の文才がないのが悪いんですけどね。

ではではノシ
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