時は少し前までに遡る。
清澄アキラとの再会、アーサーの被弾が、とある列車の一画で起きた頃。
先頭車両での戦闘は銃声、爆発は当然の事ながら、小蠅の如く墜落していくヘリの破砕音に砲撃音。
そして、何処からか少女の笑い声が聞こえてくる事で戦闘はある意味、混沌としていた。
「あはは!いいねぇ…久しぶりの鉄火場にしちゃ、数も多くてやる気もある…楽しめそうだ!」
その髪の色と同じく、紺藍のドレスが空で揺らめく。
露出の多い衣装という事もあって、弾丸の嵐の中を傷一つ負うことなく踊る姿は妖艶な雰囲気を放っており、その姿に思わず見とれるようなドロドロヘルメット団員も少なからずいた。
そんな無防備な姿を晒す敵をルオンが見逃すことなく、空中かつ体が上下反転させ、そのまま回転させながら二丁拳銃『右龍&左龍』を連射。
曲芸でもやっているのかと思えてしまう程に、あり得ない体制での銃撃。
しかしそれら全ての弾丸がヘルメット団員の顔面に吸い込まれる様に喰らいつき、再起不能へと追いやっていく。
『楽しむのは結構ですが目的を忘れないで下さいまし、ルオン先輩!』
「忘れてなどいないさ、クロカ!」
即座に姿勢を戻し、着地。
もう一方の列車の上で『ブローアウェイ』を連射して薙ぎ払うハルカとその後方で援護するムツキの様子を見た。
善戦している様に見えるも、その表情はやや苦しい。
陸橋からの援護があるとはいえ、今に至るまで弾丸も体力もそれなりに消費しているに違いない。
そう判断したのか、襲い掛かってきたヘルメット団員の一人を見向きもせず『右龍』を発砲して沈めるとニヤリと
笑みを浮かべた瞬間、勢いよく地面を蹴った。
「上から失礼するよ!」
「え…!?」
列車から列車へと飛び移ったルオンはハルカの前に飛び出し、そのまま目の前にいたヘルメット団員に蹴りを浴びせると片足を軸にしつつ一回転。
正面を振り返りつつ左龍を目の前に居る敵へ、右龍を先ほどまで立っていた列車の上にいた敵へと向かって連射しつつ、確実に再起不能へと追いやりながらもルオンは未だ健在の相手との間合いを詰め始める。
この時、もう一方の列車の上で、つい数秒前まで共闘していたカヨコは気付く。
(一見すると、ただ大袈裟に飛んだり跳ねたりして撃っている様にも見えるけど…)
飛んだり、跳ねたりしながら銃撃をする生徒はいる。
回避を織り交ぜたものもあれば、着地時に強烈なインパクトを放つなど戦術に組み込んだものが多い。
そういった生徒がいるのは至極当然の事だ。
だがルオンの動きはやや大袈裟にも見えたが、それだけではない。
そう言えるだけの確証がカヨコにはあった。
(空中に居るあの一瞬で敵の位置を、敵の動きを把握している。どう動くか、何を行うか、誰を狙っているか…それら全てを記憶して常に最適解を出しつつ周囲のサポートを忘れずに行っているのか。動き回りながら狙撃手並みの視野の広さを持っているのか…こういうタイプは余り相手にはしたくないかも。)
現にこうしてルオンはムツキ、ハルカの元へ行きつつもカヨコの援護を欠かさず行っている。
こんな生徒が居たとは、『デモンズロア』に新たな弾倉を差し込みながらそんな事を思うカヨコ。
だが、同時に彼女は疑問に思った。
(普通なら情報部とかに引っ掛かりそうなんだけど…どうして引っ掛からなかったんだろう?)
幾ら田舎の学園所属とは言え、これ程出来るのなら調べられていても可笑しくない。
しかし誰も知らなかった。あのヒナでさえ知らなかった。
まるで何も無い所からポンと出てきたように、現れたのだ。
そればかりは、便利屋68における参謀役であるカヨコの中で疑問として残り続けた。
一方その頃。
陸橋でクロカと共に小蠅退治やヘルメット団員らを狙撃していたアルに、とある変化が起きていた。
それは良い意味で、なのだが…アルからすれば突然の変化に困惑していた。
(まただわ…)
もう、これで何度目になるだろうかと彼女は問う。
撃つ度に、僅かに彼女の視界に映る世界の音と時間が緩やかに流れる様な現象。
一種の集中状態から来るものだろう。最初はそう思っていた。
長い間、銃撃戦を続けているのだ。腐るほど弾を撃ったし、何度も弾倉を交換した。
体力的にも疲弊はしている。だが精神は根負けしていなかった。
そしてある時に、この様な現象が起きたのだ。
(…この感じ、そう言えばどこかで)
初めてではない。そう言える確かな確証が、似た様な経験をこの身が覚えている。
──どこで経験した?──
引き金を絞る。
響く銃声、頬の横を薬莢を過ぎ去っていく。
飛来した銃弾が髪先を触れていくかのように飛び去って行く。
だが動揺はない。それであって彼女は思い出した。
──タキトゥスさんの銃を握った時だわ──
一瞬、確かに一瞬だった。
月明かりが差し込むあの館で、うっかり手放してしまった愛銃の代わりに投げ渡されたあの黒いリボルバー。
それを握り、構えた時──世界は僅かに臙脂色へと染まり、音は消え去り、時が緩やかに流れた。
自身に起きた未知の現象。しかしそれが今起きているのであれば──
(驚く必要も戸惑う必要ないわ)
僅かな時にも起きるこれが戦況を有利へと運ぶことができるのであれば、戸惑う必要なんてない。
「ふぅ…」
軽く息を吐き、全神経を隅々まで尖らせる。
狙いを定め、相手の動く先を予測。
そして引き金に指が掛かった瞬間──世界が彼女の色へと染まった。
音は風が流れる様に緩やかに、全ての時間が緩やかに流れていく。
「ッ…!」
発砲。
その世界では銃声すらも重く響き渡り、放たれた弾丸が相手の意識を確実に奪い取っていく。
(まだ…!)
二射目が放たれる。
スコープ越しに映る敵のヘルメットが砕け、その体はあっけなく地面にへと倒れていく。
(まだ……!)
三射目が、四射目が、五射目が、世界に響く。
社員たる三人を守る為、今成すべきこと成す為、次々と放たれた弾丸が瞬く間にその敵らへと襲い掛かり、再起不能へと確実に追いやる。
その一方で敵がアルの狙撃で次々と倒れていく光景は、列車の上で戦闘を繰り広げていたカヨコ達からすれば何事かと驚かずにはいられなかった。
(…いつものアル様らしくない?それにこの感じは一体何でしょう…?)
(ちょっと張り切り過ぎてる気がするなぁ~。途中でバテなきゃいいけど…)
(この感じ…もしかして、タキトゥスさんが見せたあの"早撃ち"に似ている…?)
それぞれが違和感を感じる中で、ルオンはほう…と感嘆の声を漏らした。
(ハクタクの爺様が雇ったという便利屋68。どんなものかと思ったが…成程、良い腕してる。特にあの社長とやら…セミオートマチックの狙撃銃であれだけやるなんて中々に盛り上げてくれるじゃないか)
こりゃあ、負けてられないねぇ。
そう呟きながら、ルオンは獰猛な笑みを浮かべた。
戦いの最中にも関わらず絶えず笑みを浮かべる彼女にヘルメット団員らは思わず狼狽えてしまう。
何故笑っていられるのか?どうしてそうしていられる?
分からない。ただただ分からない。
「このっ…バケモンが!」
僅かに震えそうになる声を何とか押さえつけながらヘルメット団員の一人がルオンらへと手榴弾を投げつける。
「ちょ…やばっ…」
逃げ場が少ない上に列車へと向かって投げつけられた手榴弾。
出来るだけ車両を壊さない様にしろという命令もあって、ムツキの表情に僅かに焦りが現れる。
「焦るなよ、お嬢ちゃん。こういう時、先に焦った奴が負けるのさ」
が、そんな危機的な状況にも関わらず、蓬莱園ルオンは揺るがない。
笑みは崩すことなく、ムツキの横を通り過ぎると地面を跳ねながら向かってくる手榴弾を足を軽く押さえつけ、そのまま器用に浮かび上がらせるとお返しと言わんばかりに、ボールを蹴り返すような足さばきで手榴弾を蹴り返した。
「う、うわああ!?」
「早く!早く下がれって!」
その場から退避する訳でもなく、まさか投げた手榴弾を蹴り返してくるとは思わなかったのか、ヘルメット団員らは慌てた様子で後ろへと走り出した。
しかし後ろも他のヘルメット団員らで詰まっており、我先に逃げ出そうとしても中々に逃げ出すことができない。
その間にも蹴り返された手榴弾がヘルメット団員らへと迫ってくる。
そんな光景を前にして、ルオンが動いた。
「おいおい、逃げちゃダメだろ。
右龍をゆっくりと逃げ出そうとしているヘルメット団員らへと向ける。
しかしその狙いは、ヘルメット団員らではなく先ほど蹴り返した手榴弾。
その行いに傍に居たムツキはルオンは何をしようとしているのかを察した。
「なら──」
──ちゃんとキャッチしな──
その台詞を最後に右龍が火を吹いた。
吐き出された45口径の弾丸が確かな熱を持って空中に浮かぶ手榴弾へと駆け抜けていく。
そして放たれた弾丸が手榴弾に喰らいついた時、炎が爆ぜた。
爆炎と爆風がその場で駆け抜ける。思わず手で視界を軽く覆い隠す者が居る中で、ルオンは右龍から空になった弾倉を落としながら傍に居たムツキを見る。
「ほら、言った通りになっただろう?先に焦った奴が負けるのさ」
新たな弾倉を右龍へと差し込みながら蓬莱園ルオンは獰猛な笑みを見せたまま、そう告げるのであった。
はい…5.6に続き、5.7になります。話が進まなくて済まんの…。
時系列にはアキラを庇ったアーサーが被弾した同時刻の便利屋68とクロカ、ルオンといった感じになります。
アルちゃんに異変が。
しかしその異変は、何処かデッドアイにも似た様なものが…?
そしてルオンの実力を軽くお見えになったかと。
さぁて…そろそろ、話を進めんといかんなぁ…。
ではではノシ