「ん…?」
「どうしたの…?」
「…あの男の人、隊長のヘルメットを拳銃でぶち抜いていたけどさ…。確か隊長が使っているヘルメットって拳銃の弾ぐらいじゃ抜けない位に頑丈だったよな…?」
「そう言えばそうだったような…。特殊な弾丸でも使ったのかな…」
「……二人とも気づいてないの?」
「「え?」」
「特殊な弾丸なんて使ってないよ、あの人は。…あの時、あの人は三発撃ってたんだよ」
「は?」
「さ、三発…?でも、あの時…一発にしか聞こえなかったが…」
「うん…私の耳にも、そう聞こえた。けど、分かる──」
──アレは連射が速すぎて、一発にしか聞こえなかったんだって──
「そろそろ行かないとな…」
アキラが去って行って、約数分後。
既に吸い終えた煙草を携帯用吸い殻捨てに押し込むとアーサーは現地回収した銃を手に取り、車両の出入口を見た。
つい二、三分前と比べると銃声の数が少なくなったような気がしつつも、ハヅキ達の合流が優先である事は事実。
僅かに痛む左腕を白いハンカチ越しに軽くさすって、歩き出すと後ろから誰かが向かってくる音に気付いた。
敵が追い付いてきたのかと思い、後ろを振り向きキャトルマンリボルバーをホルスターから引き抜いて構えるも現れた人物を見て、アーサーはそっと銃を下ろした。
「ヒナか。スズキとセツラはどうした?」
そこに居たのは傷一つ負う事もなくヒナ。
最強の名は伊達ではないのだなとアーサーは軽く苦笑しつつ、一緒に居た筈の二人の事を尋ねた。
「二人ならまだあそこで戦ってる。後は自分たちで何とかなるから先に行けと言われたのよ」
「そうか。無事で何よりだ」
「そちらも無…ッ!」
ヒナの目が僅かに見開かれる。
どうしたのだろうかと首を傾げるアーサーだが彼女の視線が撃たれた二の腕部分に向けられている事に気付いた。
白いハンカチに染み込んだ真っ赤な血。コートの二の腕部分も血で赤く染まっている。
痛々しく思えるそこに視線が向けられている事にああ、と納得したような声を上げた。
「弾が掠っただけだ。大したことない」
「本当に大丈夫なの…?」
この通りだ、と左腕を動かして何ともない様を見せるアーサー。
本人がそういうのであればと判断したのか分かったと答えてヒナは彼の元へを歩み寄る。
「ここから先は私も一緒に行くわ。無理はしないで」
「お前が付いてくれるのであれば心強い。その機関銃で悪ガキ共をなぎ倒してやってくれ」
「そのつもりよ。…所でそんな銃、持っていたかしら?」
アーサーの傷から、今度は左手に持っていた銃へとヒナの視線が向けられる。
これか?と問いかける彼にヒナは頷いて肯定した。
「ついさっき、ここで見つけた。反動は馬鹿デカいが、威力は申し分ないから拝借させてもらっている」
でしょうねと返しつつ、ヒナはその銃を見つめる。
キヴォトスである以上、銃などどこでも見かけるがそのリボルバーには何処か見覚えがあったのだ。
はて、何処で見ただろうかと記憶の棚から思い当たるものを探し出し始めた時、ヒナはあっ…と何かを思い出したような声を上げた。
「その銃を作った何処かの製造メーカーがヴァルキューレやモモッターで捜索依頼を出していたわ。ほぼ完成品らしいけど、未完成の試作品が盗まれたとかで」
「…一発撃ってしまったんだが」
「でも壊れていないなら大丈夫の筈よ」
「だと良いんだがな」
肩を竦めるアーサーにヒナは軽く微笑む。
少し場が和むと二人はお互いに頷き合い、ハヅキ達との合流を目指す為に歩き出した。
狭い通路に拍車が鳴る音と遠くから聞こえる銃声、一歩歩く度のブーツの底が当たる音が響く。
そんな中でヒナの表情はやや険しかった。
(このままハヅキ達と合流出来たら良いのだけれど…何かしら、嫌な予感がするわ)
このままで終わるとは思えない。
そう言えるだけの何かが、風紀委員長としての勘がヒナにそう告げていた。
(誘拐事件から始まって、今に至るらしいけど…。事態がややこしくなりつつある上に敵が分からないまま進んでいる感が否めない)
カイナの生徒の誘拐から始まった今回の騒動。
犯人を締め上げて、攫った生徒の居場所を吐かせるだけの話がややこしくなりつつある。
途中からの参戦からであったヒナもそれを感じられずにはいられなかった。
とは言え、今回の列車強盗では敵に関する事があれば片っ端から持って行けと言われている。
これが終われば何かが掴めるだろうと思うも、不安は拭えなかった。
(それに"時間"がかかり過ぎている…)
件の生徒が誘拐されてから時間がかかり過ぎている。
その先で起きてしまうであろう最悪な事態をヒナは懸念していた。
仮に犯人を特定したとしよう。
武力で追い詰め、居場所を見つけ出したとしても…そこにあるのが既に息絶えた亡骸だったら?
そんな事は決してあってはいけない。誰だってハッピーエンドを望むのだ。
だが、そうじゃなかったら…どうするべきか。それはヒナでも予想が出来なかった。
(…それでも、そんな結末は避けたいわ)
そう願いたい。だけども、そんな結末が起きてしまいそうな予感がして仕方がない。
それでも願いたい。どうか生きていて欲しいと。
歳が近い少女の命が悪意によって失われるのは…ヒナ個人にとっても、カイナ農場学園にとっても、キヴォトスにとっても決して良いことではないのだから。
(急がないと…)
その事実を理解している以上、ヒナの足取りは自然と早くなっていた。
早歩きになっている事に気付きながらも、アーサーは問うことなくヒナの歩幅を合わせて先を進んでいく。
「ここは…」
「先頭車両でも見た、あのデカい貨車か。まだあったのか」
そしてそんな二人を迎えたのは、先頭車両でも見かけた広場みたいな広さを有したあの貨車だった。
無造作に、大量のコンテナが置かれているだけで敵の姿が見当たらない。何よりこの貨車だけ照明に明かりが灯っていない事が何より可笑しかった。
「…おかしいな」
「ええ…」
普通なら安心するだろうが、二人の表情はやや険しい。
見えはしないものの、この場に存在する確かな何かがある。
風紀委員長としての勘がヒナにそう告げ、1899年の無法者として幾多の修羅場を潜り抜けてきた経験が、アーサーにそう告げる。
敵は、暗闇広がる空間の何処かに身を隠していると。
「ヒナ、こいつを持ってろ」
そう言ってアーサーは背に掛けていたポンプ式ショットガンをヒナへと差し出した。
「受け取り拒否は無しだ。その立派な機関銃でも弾切れはするだろ?」
「…そうね。今だけは借りるわ」
『終幕:デストロイヤー』を持っている以上、無用の長物と言えるのだがヒナは素直にそれを受け取った。
アーサーが言わんとしている事は分かっている。
今から起きる事は、今までの戦闘とは比べ物にならない程に熾烈になるのだと。
それを察していたからこそヒナはスリングに腕を通し、ショットガンを肩へと提げた時だった。
「…!」
二人の眼つきが鋭くなった。
しかし敵の姿はそこにない。周囲の変化もない。
だがヒナも、アーサーも気づいていた。
姿こそは見えないが、物陰の間からその銃身が姿をのぞかせているだろう。
手にしているであろう銃口が冷たい眼差しの様に自分たちに向けられている事を。
そしてその引き金に掛けられた指は、いつでも引ける状態にあるという事も察していた。
「…どうする?」
アーサーの隣に並び立つヒナが尋ねる。
遠くから聞こえる銃声を耳にしながらもアーサーは首を動かして周囲を見た。
前方から感じられる敵意。不意を突くようにそれぞれの方向に飛び込みさせすれば銃撃を回避できる遮蔽物がやや暗がりの中で自らを主張している。
僅かな沈黙も束の間、アーサーはそっと口を開いた。
「そこに銃撃をやりすごせる遮蔽物がある。ヒナは左、俺は右だ」
「タイミングは?」
「3つ数える。…準備は?」
「いつでも」
「そうか。……3!!」
「ッ!!」
数える間もなく紡がれた合図。
普通であれば戸惑ってしまうが、ヒナは一瞬で反応し指示された方向へと飛び込んだ。
アーサーも合図したと同時に遮蔽物へと飛び込み、直後に襲い掛かる銃弾の嵐を遮蔽物でやり過ごす事に成功する。
が、反撃する間を与える事もなく降り注ぐ銃弾を前にして成す術もないと言った状況にアーサーの表情は険しさを増していた。
(どこから撃たれているのか分かっていても…姿が見えないままじゃ撃てんか…!)
キヴォトスの住人の様に銃撃に対する超人じみた耐久性などない。
今は銃撃が止むのを待つだけの自分がいる一方で、ヒナは嵐の様な銃撃をその身に受けながらも発射時に発生するマズルフラッシュで相手の位置を特定しながら『終幕:デストロイヤー』での強烈な銃撃をお見舞いしている。
捨て身同然とも言えるような戦い方は到底真似できない。銃撃が止むのを待つしかないと思われた時だった。
奥の方から備え付けの照明がまた一つ、また一つと灯っていき、やがて全ての明かりが灯った。
「な、何だ!?何で急に明かりが点いたんだ!?」
「誰が点けやがったんだ!?」
突然の事に銃撃が止み、ヘルメット団員らの困惑の声が響く。
思わずその姿を晒す者を現れ、それを見逃すほどヒナもアーサーも甘くはない。
(今!)
遮蔽物から身を出して、ずっと使っていなかったカービン・リピーターを構えるアーサー。
誰が点けたかなど考えている場合じゃない。
レバーを動かし、初弾を装填し備え付けの撃鉄を起こし、アサルトライフルを持ったヘルメット団員へと向かってその狙いを定めた時。
「ふぅ……!」
引き金を引く指は先ほどよりも軽く引かれ、乾いた音が鳴り響いた。
吐き出された弾丸はヘルメット団員が被るヘルメットのバイザーを砕き、撃たれたヘルメット団員の体は重力に誘地面へと崩れていく。
砕け散った赤いバイザーの破片がまるで血の様に宙を舞う様に後味の悪さを感じながらも、アーサーはカービン・リピーターのレバーを動かし、撃鉄を起こし銃撃を続けていくが銃の残弾がゼロになった瞬間、再開した強烈な銃撃の雨の前に再びアーサーを身を隠すことを強いられてしまう。
「ちっ…!」
(あと何人か欲しい所だが…!)
多数対少数など経験あれど、あの時代とは違う。
何せ持つ武器の性能も段違いに違うのだから。
このままヒナに全て丸投げしてしまうのは、御免被る。
とは言え、自身が動けない以上はどうする事も出来ない。
苦悶の表情を浮かべながらカービン・リピーターのストックからマガジンチューブを引き抜き、専用のローダーで弾倉へと弾を送り込んでいた。
とても手慣れた様に行われたリロードモーション。
慣れているが故にその一回の行程はとても短いものであるが戦闘の最中にいるアーサーからすれば、それが酷く長く感じられた。
攻勢に出ようとしても相手からの激しい銃撃が止まない以上は出るに出れない。
そして攻勢へと出るその僅かな一瞬を逃してしまえば確実にここに貼り付け状態が延々と続き、ヒナに任せっきりになるのは見えていた。
「はぁ……ふぅ…」
任せっきりにするつもりなど最初からない。
身を隠し、盾の代わりとして機能している遮蔽物の後ろでアーサーは軽く深呼吸し、持っていたカービン・リピーターのスリングに腕を通し、肩に掛けた。
そしてホルスターから銀のキャトルマンリボルバーを引き抜き、その場で身構えるような体制を取った。
(…無茶するなと言われていたのだがな)
自虐的な笑みを浮かべるアーサー。
あの時の少女との約束を早速破ろうとしているのだから無理もない。
今からやろうとしている事は決して褒められたものじゃないのだ。寧ろ非難されて当然と言えるだろう。
だがそれでも、敵の数を減らすにはこれしかないのだ。
(元より運は悪い方……それでも子供に任せっきりよりかはマシだろうな…!)
覚悟が決まる。同時に銃撃が止み、僅かな…それも一瞬とも言える静寂が生まれた。
硝煙の臭いを漂わせる薬莢が地面に跳ね落ちる音と共にヘルメット団員らが手に持った銃へと新たな弾倉へと交換しようとする、そんな僅かな動作の音がアーサーの耳に届いた時、彼が動いた。
「ッ!」
地面を蹴り駆け出し、その姿を自ら晒す。
草むらから出てきたウサギを見つけたかのように、新たな弾倉を差し込んだヘルメット団員らの銃口がアーサーへと差し向けられた瞬間。
進行方向へと向かって飛び込む様に跳躍。その体が僅かに宙を浮かんだ時、その手には銀のキャトルマンリボルバーが握られていた。
銀のキャトルマンリボルバーを腰に添え、左手は撃鉄に添える。銃口は狩人の如く得物を突きつけようとしているヘルメット団員へと向けられていた。
射撃を行うには明らかに不安定な姿勢。同時にアーサーは重力に引かれる様に地へと落ちていく体をその身に感じながら、その視界に映る全てが緩やかな時間へ変貌しているのを感じ取っていた。
(…当てる)
胸の内で呟いた必中の言葉。
それに反応したかのように、一射目からキャトルマンリボルバーの銃身がスライドする。
そのまま流れる様に左手の親指と薬指が撃鉄を連続して叩き起こした刹那、それらが全て銃声へと切り替わり、弾丸を吐き出していった。
直後、まるで同時に撃たれたかのように三人のヘルメット団員が地面と崩れる光景が映り、それを見ていたヒナは思わず目を丸くした。
(三連射…?でも、今のは──)
──銃声が一発にしか聞こえなかった──
自身よりも大きい体が、身を隠している所に転がり込んできたのを一瞥しながらヒナは『終幕:デストロイヤー』による連射をヘルメット団員らへ浴びせ返す。
凄まじいまでの弾幕が一人、また一人を襲い掛かり、地へと伏せていく中、まるで電動ノコギリの様な劈く様な銃声が木霊していく。
列車強盗から約数時間。悪名高いドロドロヘルメット団との戦いはまだ終わりを告げる事を知らせずにいた。
「ちっ…使い物にならないな」
「隊長にしてやったアイツもとことん使い物にならん。昔みたいにイジメてやった方が良かったかもな」
「…まぁ、いい。使い物にならないなら切り捨てるまで。代わりが幾らでもいる」
「ドロドロヘルメット団に喧嘩売ったんだ。…どうせなら豪勢に迎えてやらないとな」
「使う気にはならなかったが…折角の貸し出しを使わん理由もない」
「…何処の誰だか知らないが、地獄を見せてやるよ」
はい…お久しぶりです。
ゴタゴタしていて、更新が遅くなってしまいました。
前書き、そして本編から分かるようにアーサーさんに新しい技が出ております。
これらに関しては、とある漫画とゲームから影響を受けて、出したいなと思っていたので…何卒ご容赦を。
さて、いい加減列車強盗を締めくくらんといかんですね。
ちょいと派手にいくかなぁ…。
ではではノシ