Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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1899年より、油を絶やすことなかれ 8

 

──叩き潰せ──

 

その命令を受け、いの一番に動いたのが三年生組のスズキとルオンだった。

羽織をはためかせながら、金色と紫色の双眸が唸りを上げる駆動音を咆哮代わりにして叫ぶゴリアテを捉える。

姿が変わったとしても関係ない。やるべきことは最初から決まっている。

 

「引き付けて。隙を見て叩っ斬る」

 

「あいよ」

 

スズキからの指示にルオンは短く返答しながら右龍と左龍をホルスターから引き抜いた。

流水柄の白い羽織をはためかせながらゴリアテへ向かっていくスズキの姿を視界に収めながら、ルオンは二丁の拳銃によるガンスピンを披露する。

そして決めポーズと言わんばかりに両腕を交差させた状態で構えた右龍と左龍の銃口をゴリアテへと突きつけると彼女はにやりと笑みを浮かべた。

 

「久しぶりの鉄火場にサプライズゲストと来たか。そんじゃまぁ──」

 

遊び相手が出来た以上は遊んでやらないといけない。

折角の遊び相手に対してルオンは拳銃による射撃とは思えないような、まるでマシンガンの様な連射を繰り出した。

銃に使用している45口径の弾丸では相手の装甲を如何にか出来るものではない。

しかしその注意を引き付ける事は出来る。

 

「遊ぼうか!硝煙と弾丸塗れの火遊びってやつをさ!火傷にはご注意ってなぁ!」

 

踊るかのようなステップ。

次々と放たれていく無数の弾丸がゴリアテの装甲に直撃するも、それ全てが火花となって散っていく。

しかし羽虫の様に群がる様な攻撃に何かを感じたのか、ゴリアテの狙いは向かってくるスズキからステップを踏みながら銃撃を仕掛けてくるルオンへと向けられた。

 

「はっ!お冠と来たか?沸点が低い遊び相手というのも面倒なもんだ!」

 

ゴリアテの両腕に装備されたガトリングガンが火を吹く。

襲い掛かる攻撃を前にルオンは絶えず銃撃を繰り出しながら、横へと駆け出し回避行動を取る。

地面に無数の穴が開かれていく音を耳にしながらルオンはその先に置かれたものを見て、笑った。

 

「そらよ!」

 

掛け声と共にゴリアテへと向かって何かが入った木箱を蹴り飛ばす。

かなり勢いよく蹴ったのか、木箱の中にあったものが宙へと向かって飛び出したのもつかの間、後方からの狙撃によって放たれた弾丸がソレを貫通。

次の瞬間、突如としてゴリアテが爆炎の中へと巻き込まれ、その巨体は確かにのけぞった。

 

「おっと…爆竹代わりにしちゃ、ちょいと火薬詰めすぎかもねぇ」

 

「何が爆竹代わりだ。おっかないパーティークラッカーの間違いだろ」

 

「そのおっかないパーティークラッカーを良くその場で撃てたもんだよ、セツラ。腕を上げたね」

 

「そりゃアンタやスズキ先輩に揉まれたからな…。あの時やりあった日を昨日の事のように覚えているよ」

 

ため息をつき、何かを思い出すセツラ。

クローズ・ファイティングの槓桿を操作して次弾装填を済ませると銃の先端に専用の銃剣「M19-大型バヨネット」を取り付け始めた。

それを見ていたルオンはふっと笑みを浮かべる。

 

「前に出るのかい?」

 

「後ろにいるのとスズキ先輩ばかりに任せるのは性に合わないんだ。…そんな事くらい先輩は知っているだろうに」

 

それに、と呟きながらセツラは列車強盗が始まってからずっと背に背負っていたコンテナらしきものと繋がれたベルトに手をかけ、バックルを外した。

パチンという音と共にコンテナは自重によって地面へと落下し、その拍子で蓋が外れ中身が露わとなった。

 

「え…?何あれ…」

 

「ど、鈍器…?」

 

コンテナの中にあったものを見て、ルオンは思わず笑いそうになる傍らでアルとムツキが引いたような表情を見せる。

それは言葉にしなかったものの同様に引いたような表情を浮かべたカヨコ、ハルカも似た様な感情を抱いていた。

 

(…流石にそれは想像してなかった。そんなもの、普通は持ってくるかな…)

 

(…じ、銃が当たり前なのに…ど、どうしてこんなにも沢山の接近戦用の武器を持っているんですか…!?)

 

良く見ればカイナ農場学園の面々はさして驚いている様な感じが見受けられない。

スズキという前例があるからだろうと思われるも、もう少し驚いたって不思議じゃないだろう。

一方でヒナはというと──

 

(…銃を鈍器にして壊してしまうよりも最初からそれ専用のものを持つ、か…盲点だったわ。イオリに勧めてみようかしら)

 

なんて事を考えていた。

 

「よっ、と…!」

 

コンテナの中に収められた鈍器の柄へ向かって見向きもせず手を伸ばし、勢いよく振り上げるセツラ。

重々しく振るわれたそれは長い柄に先端には刃と鉄塊が組み合わさったような物騒なものが取り付けられている。

正直な所、彼女がもう一つの武器としてベルトに吊り下げている「VTT-M03 トマホーク」よりも、より物騒であり、何より凶悪さが際立っていた。

 

「なんだい?銃剣やトマホークに飽き足らず、今度はメイスなんてもんを引っ提げてきたのかい?」

 

「スレッジハンマー代わりだ。これなら銃弾が効きづらい相手にピッタリだからな」

 

「血の気が有り余るもんを良くもまぁスレッジハンマー代わりだと言えたもんだねぇ。…やれやれ、後輩のハリネズミ化が凄まじくなったせいか、将来が心配になってきたよ」

 

肩を竦め、あきれた様な声を上げるルオン。

後輩の将来が心配になった来た所に後方で『銀の女神』を構えたクロカからの通信が入ってくる。

 

『お二方、今は談笑している場合じゃありませんよ。…動き出しましてよ』

 

「そのようですね。…セツラ、スズキと共に前へ。カヨコさん、ハルカさんはルオンと共に相手の注意を引いてください。クロカさんとアルさん、後方から援護射撃を。私はムツキさんとヒナさんで攻撃を仕掛けます。ミスズさんはタキトゥスさんの傍について攻撃から守ってあげてください」

 

ハヅキが全員に指示を飛ばす最中、黒煙の中で巨体が動き出そうとしていた。

装甲同士が擦れ合う音がより一層大きく、そして酷く響き渡る。

まるで怒りを表すかのような、そんな音だった。

しかしその場にいる全員はそれに対して臆する様子を見せなかった。

ここで足止めされる訳には行かないのだ。これから先、やらなくてはいけない事が腐るほど控えているのだ。

こいつを倒せば終わりという訳じゃないのだ。そこにいる面々にとってこいつは只の障害物でしかない。

 

「…それでは行きましょうか。粗大ゴミの日は明日なので丁度良かったです」

 

「時折、口が悪くなってないか?ハヅキ」

 

「…さて、何の事でしょうか。タキトゥスさん」

 

今から派手にやるというのに、この会話の影響か何とも言えない空気が漂う。

だがそれを他所に変形したゴリアテは彼、彼女らへと襲い掛かった。

両腕のガトリングガンに加えて、背中から飛び出した様に展開された第二の腕に装備されたガトリングガンの一斉射撃を繰り出す。

その動きに全員が即座に反応し、それぞれの方向へと飛び出した。

 

「ヒナさん、私と共に可能限りの攻撃を!ムツキさん、必要に応じてバックの中身を投げても構いません!遠慮は不要、弾丸飛び交う中で接近戦による切った張ったをやるメンバーは合わせてくれるので!」

 

「了解よ」

 

「くふふ~、なら派手にいっくよぉー!」

 

響き渡る軽機関銃の三重奏。

『終幕:デストロイヤー』による無慈悲なまでの弾幕が、『トリックオアトリック』による火力が楽しい悪戯を更に盛り上げさせ、『オーバーファイア』が吐き出す.338ノルマ・マグナム弾による掃射がそれらの後押しする。

それは普通の銃弾を通さない装甲に熾烈なまでの攻撃が喰らいつき、やがて大きな傷を与えていく一助と変貌。

やがて装甲のあちらこちらで木端微塵に吹き飛ぶ様子が最前線でゴリアテの注意を引く三人の目に映っていた。

 

「ハルカ嬢!足を止めずにぶちかましな!但し無理はするんじゃないよ!カヨコ嬢は私と共に走りながら引き付けるよ!」

 

「は、はい…!行きます!」

 

「了解。普段とは違うけど、今はこうする他なさそうだね…!」

 

便利屋68の中で規格外の耐久力を誇るハルカがルオンとカヨコとは違う方向へと走り出しながら『ブローアウェイ』による連射を敢行。

散弾は装甲によって弾かれ、お返しと言わんばかりに弾幕が彼女を襲う。

 

「ぐっ、うぅ…!」

 

痛みが襲う。

体が傷つく。

足が止まりそうになる。

しかし──

 

「まっ──」

 

この痛みが何だというのだ。

それ以上の痛みを味わっている。

味わった先で、自分はこうして立っている。

故に──

 

「──だあああああぁッ…!!」

 

伊草ハルカは決して止まらないのだ。

 

「消えてください!消えてくださいッ!!消えてくださいッ!!!」

 

消滅を願う声が、ブローアウェイの引き金にかかった指に引き続けろと囁く。

吐き出される散弾に混ざりこむ神秘。巨体を退けるには余りにも非力とも言える銃による攻撃が、あろうことか立ち塞がる巨体をのけぞらせ、その装甲を剝ぎ取る様に破壊していく。

被弾など知った事ではない。そんな事はこれまでも何度もやってきた。

であれば、この痛みが何だと言うのか。

あの時に手を差し伸べ、引き上げくれた恩人の為ならば。

誘拐された生徒の命が危機に扮しているというのであれば。

伊草ハルカにとって、その足を止める理由は、引き金を引く指を止める理由は存在していないに等しいのだ。

そしてその足に止まるなと後方から響く銃声と砲撃音がそう告げていく。

 

「…ッ」

 

表情に疲れが露わになる。

先頭車両での戦闘での負担が今になって此処で大きく姿を現し出し始めた。

それでも歯を食いしばりながら愛銃による狙撃を繰り返すアル。

その姿を見て隣で『銀の女神』の薬室に弾を装填するクロカが静かに問う。

 

「アルさん、行けますか」

 

「!…当然よ。少しはしゃぎすぎただけで、まだ行けるわ」

 

「流石です。では──」

 

銀色の砲身がゴリアテへと差し向けられる。

その砲口が相手を捉え、引き金に指が掛かり、クロカは呟く。

 

──Shall we dance?(踊りましょうか?)──

 

轟音。

手を差し出すように向けられた銀色の砲身の中を駆け抜け、砲口から30×173mm弾が飛び出していく。

それぞれが持つ銃の中で最も大きな口径を有するそれから放たれたのは弾丸などではない、砲弾である。

そんな砲弾による一撃は集中砲火を受けるゴリアテの背に存在する第二の腕を易々と引きちぎるかのように撃ち飛ばし、空へと舞い上げた。

 

「しゃ、シャル ウィー ダンス?」

 

「踊りましょうか?という意味ですよ。とはいえ、相手は踊るのは苦手のようですけどね」

 

「そ、そうなのね!も、勿論知っていたわ!」

 

(かっ、カッコイイッ!!そんな風に決め台詞を前置きにして言うなんて…実にハードボイルドだわッ!)

 

先ほどの間での疲れは何処へ消えたのか。

目を輝かせるアルの姿がそこにあった。

 

「…セツラはあいつの背中の腕の残っているのを壊して。私はタイミングを見て動くから」

 

響き渡る銃声。飛び交う弾丸の交差点の行きつく先は全て中破したゴリアテへと叩き付けられる。

そんな状況のど真ん中で、スズキとセツラは各所から炎と黒煙を吐き出すゴリアテを見つめていた。

動かなければ攻撃が飛来してくる。にも関わらず、二人はその場で立ち尽くし、どう動くのか思案していた。

 

「分かった。腕を壊すついでに中の引っ込んだ奴も叩き出す必要があるな」

 

「…それはセツラの判断に任せるわ」

 

「放ったままじゃ後味が悪いだろ。どの道、ヴァルキューレには突き出すけどな…!」

 

方向性は決まった。

その瞬間、セツラは獰猛な笑みを浮かべ、銃剣を装着した「クローズ・ファイティング」と「スレッジハンマー代わり(メイス)」を大きく振るい構えた。

腰を低くし降ろし、片足を前に出し相手を見据える。

 

「ふぅ…」

 

対人戦闘など腐るほどある。それこそカイナ農場学園に来る前からやってきた。

それが今はどうだ。ゴリアテを壊すことになろうとは思わなかった。

まさかと言うべきなんだろう。だがそれ以上の感想などない。

寧ろ今、心の中にあるのは──

 

「んじゃあ──」

 

壊し甲斐のある敵が久しぶりに出てきてくれたと言う喜びだった。

 

「行くかぁッ!!」

 

突進。

砲弾の如く飛び出したセツラがゴリアテへと突撃していく。

それに気づいたのかゴリアテが迎撃行動を取るもセツラは決して止まらなかった。

寧ろ笑みを浮かべながら突撃してくるその様に、何処かゴリアテは竦んだ様に見える。

そしてそれが隙となって現れ、すかさずその隙を突く様にゴリアテに取りつく事に成功するセツラ。

そのまま装甲を足場にしつつ飛び越えながら、上を目指していき最初の目標である第二の腕を跳躍し『スレッジハンマー代わり』を大きく振りかぶった。

 

「っらあッ!!!」

 

質量の塊とも言える暴力がゴリアテの第二の腕に襲い掛かる。

振るわれた一撃に凄まじい破砕音がその場で響き渡り、装甲は木端微塵に吹き飛び、中身が黒煙を上げて炎を噴き上げる。

火の粉が舞い、セツラの頬を掠める。しかし気にする素振りなど見せる様子もなく彼女はゴリアテの胸辺り…収納されたコクピットに居るであろうドロドロヘルメット団の頭目を引っ張りだすべく、そこへと向かって走り出した。

 

(撃った所で装甲で弾かれる。ならさ…!)

 

「クロカ、今から指示する場所に女神様をぶちかませ!その距離なら外さないだろ!?」

 

『位置を指定してくださいまし。…ご安心を、決して外しませんので』

 

「ゴリアテの胸部付近!盛り上がっている場所がコクピットハッチだ!狙いを下に下げすぎるなよ!中にいる奴もろとも無しだ!」

 

『了解。目標確認、照準固定。…発射』

 

けたたましくなる銃声に交えるかのように、一際大きな砲撃音が木霊する。

それもつかの間、後方から飛来した女神の一撃がセツラの指示した通りの位置に着弾。

その破壊力は言わずもがな、クロカの狙撃はセツラの要望通りコクピットハッチだけを撃ち飛ばした。

コクピットハッチが宙へ舞い上がり、セツラの視界には意識を失ったドロドロヘルメット団の頭目の姿が映る。

この時、彼女はハッとした様に気付いた様な表情を浮かべた。

 

(パイロットが気を失ってるのに、ゴリアテが動いてるだと…。まさかオートに切り替わってるのか?)

 

パイロットを引きずりだし、コクピットに鉛玉を叩き付けたとしても止まるという確証はセツラにはなかった。

ならゴリアテそのものを破壊する他ない。幸いな事にそれを出来る人物はいる。

その旨を伝えるべく、コクピットからドロドロヘルメット団の頭目を引きずりだしながらセツラが無線に叫ぶ。

 

「ハヅキ!このゴリアテ、オートで動いてやがる!内部からぶっ壊しても止まる感じがしない!」

 

『成程。セツラがそう言うのならそうなのでしょう。…どうやら本体そのものを壊さないといけないようですね』

 

もしそうなら、どれだけの労力が掛かるか。

これまでぶっ通しで戦闘を続けてきた面々にとっては、その現実は余りにも酷な話とも言える。

『オーバーファイヤ』に新たな弾倉を差し込みながらハヅキはゆっくりと、ある人物へと視線を向けた。

 

「スズキ」

 

「なに?」

 

「…"抜刀"を許可します」

 

「!…良いのね?」

 

その意味が何を意味しているのか、それはスズキを深く知る人物にしか分かりえなかった。

アーサーを含め、便利屋68、空崎ヒナは首を傾げる中でハヅキは言葉を紡ぐ。

 

「普段であれば"抜刀"の任意は貴女に任せています。ですが今は…」

 

「いいよ、それ以上言わなくて。…要は"その気"になれというのでしょう?」

 

「はい。…援護は私たちにお任せを。スズキはあれを斬る事に集中してください」

 

「分かった」

 

そこからのスズキの行動には迷いがなかった。

鞘と柄を固定するために縛り付けた下げ緒を解き、鍔に親指を当てると鯉口を切る音が静かに響かせる。

腰を落とし、右手を柄に添えた構えを取るスズキ。

居合いと言われる構えを見せる彼女に対し、ゴリアテに対する集中砲火が激化する。

何かが起ころうとしている。その姿を少し離れた位置でミスズが持つ盾の後ろで見ていたアーサーが思わず口を開いた。

 

「やれるのか、スズキ」

 

「ええ。心配しないで」

 

そういうのであれば問題ないのだろう。

だがアーサーには心残りがあった。

今の自分ではあのゴリアテと呼ばれる鉄の巨人に対して大した事が出来ないという事実。

結局は子供任せになってしまう事を恥じ入っていた。

 

「…すまん、今の俺じゃアレをどうにもできない」

 

「気にしないで。タキトゥスさんはここまで頑張ったでしょう?ならここから私がその頑張りに報いる番だわ」

 

キヴォトスにおける大人というのは総じてろくでもない奴が多い。

だが、銃を握って共に戦ってくれる大人をろくでもない人物と切り捨てる事が出来ようか。

否、出来るはずがない。

ゴリアテに対して大した事が出来ない?その代わり、ここまで戦ってきてくれたじゃないか。

であれば、どう咎める事が出来ようか。

 

(見ていて、タキトゥスさん。その頑張りをこの一太刀に乗せてあげるわ)

 

息を吐き、全神経を集中させる。

煩く聞こえる全てが無の世界へと静まり返り、映る世界には無色へと色を失う。

やがて白黒な世界がスズキを覆う。

心臓の鼓動も息遣いも聞こえない、正しく無の境地。

今か、今かと鞘から垣間見える刃がその煌きをスズキにへと放つ。

しかし彼女は決して動じない。否、動じてはならなかった。

柄に手をかけて、その刃を抜き放つときは自らの意思で放たれなければならないのだから。

だからこそ、その煌きが放つ誘惑には決して折れぬ意思で対抗するのだ。

 

(…)

 

白黒な世界がやがて黒く染まろうとし始める。

集中における、さらなる領域へとスズキは踏み入れていく。

全てが闇に染まり、光すらも届きそうにない空間が覆う。

だが恐れなど無い。自ら踏み入れたその領域への到達は今に始まった事ではないのだから。

 

(……)

 

消えていた筈の音が、消えていた筈の色が遠くから迫ってくる音が闇の中で木霊する。

次第に大きくなる音。まるで突風のような勢い。

そして──

 

──突風と共に全てが戻る瞬間が現れた──

 

「ッ!」

 

煌き、或いは閃光、もしくは刹那。

速さにおける全てを凌駕するが如く、その刃が抜き放たれた瞬間──

 

──ゴリアテが真っ二つに両断された──

 

一瞬であった。

成す術もなく、巨体を誇るゴリアテが見えない刃によって両断されたのは。

沈黙と静寂、そして驚愕が支配する。

幻を見ているのではないかと、キヴォトスで過ごす者達にとってもそこに映る光景は余りにも荒唐無稽な映像のように映っていた。

しかしその場に映る光景は決して幻ではない。

肌を撫でるような緩やかな風が、崩れ行くゴリアテが崩れる音が、今起きている事が紛うことなき、現実で起きた事だと知らしめていた。

 

「ふぅ…」

 

残心。

息を吐き、静かに姿勢を解きつつ、体を元の姿勢へと戻していくスズキ。

刀身を軽く払い、切っ先から鞘へと納めた後、鯉口と柄がかち合う音が鳴る。

まるでこれ以上の敵は存在しないと言わんばかりに。

まるでこの戦いに敵はもういないと言わんばかりに。

硝煙香る戦場に終わりを告げる音が木霊した。




な、長くなってしもうた…。
これ以上引っ張るあれだからと思ってたから…何卒ご容赦を。

セツラがとんでもないものを引っ張りだしたり、スズキがとんでもない事をやっていますが何卒ご容赦を。

では次回ノシ
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