──酒以外にもあったりする──
「それじゃあ、行ってくるね!」
「ハヅキ生徒会長、ハルノと一緒にタキトゥスさんを町の方へ案内してきますね」
場面は部屋から外へ。
カイナ農業学園が保有する小型トラックの運転席にはハルノが、後部座席にはクロカ。
そして助手席にはタキトゥスの姿があった。
何故こうなったのか。その訳はつい先ほど、ハヅキがタキトゥスにした提案にあった。
──どうでしょう、一度町の方へ出てみませんか──
──ハルノさんとクロカさんを町への案内役として同行してもらいます──
──二人でしたら町の事に詳しいですし、必要としている物も買い揃える事が出来ましょう──
──農場は私と他の者に任せて下さい。帰ってくるまでの間、待機しておりますので──
地理を知るにも彼女らの協力が必要である事は分かっていた。
何時になるかは分からないと思われた矢先で、ハヅキがこの様な提案をしてくれたのだ。
タキトゥスはそれを良い機会と判断してその提案に乗った。
「タキトゥスさん、楽しんできてくださいね」
「ああ。暫くの間、農場の方を頼む」
「ええ、お任せください」
そのやり取りを最後に、ハヅキはハルノへと視線を飛ばした。
視線に気づいたハルノは頷き返して、ハンドルを握りトラックのアクセルを踏んだ。
緩やかに速度を上げていくトラック。開けた窓から入ってくる風が心地よい。
馬を必要としない車に生まれて初めて乗ったタキトゥスはその風を浴びながら、外の景色を見つめていた。
(これが馬を必要としない車輪というやつか…)
ローズという町にある駅。そこの駅員をやっていた男も、こんな事を言っていたなとタキトゥスは思い出す。
あと数年すればこの様な車と呼ばれる乗り物があの時代のアメリカに出ていたかもしれない。
それはそれで見たかったかもしれないと、もう叶わぬ事を己の内で呟いてトラックが町に着くまでの間、彼は静かに今流れている景色を見つめる事にした。
それから数十分ほどして、車は町に到達。そこにあった町の姿にタキトゥスは驚きを禁じ得なかった。
車が何台も行き交い、歩道には何処かの学園の生徒らしき姿や獣人らが行き交っている。
建物も大小異なるものの、自身が知っている建物の構造とは全く異なる姿をしていたのだ。
1899年を生きていたタキトゥスが見てきた大きな町と言えばサンドニだが、この町はサンドニとは比較にならない程に発展していた。
あの時代のアメリカとこのキヴォトスは違うと分かっていても、驚きを覚えるのは無理もない話だった。
「ほら、タキトゥスさん。驚いていないで行くよ」
「あ、ああ…にしても随分と大きい町だな」
「そう?田舎でもこれくらい普通だと思うけどな」
自身の常識が当てはまらず、どんどん覆されていく。
そんな感覚を覚えながらも先を歩くハルノの後を追い、自身の一歩後ろを控える様に歩くクロカと共にタキトゥスは町の中へと歩みを進めていった。
(サンドニも進んでいた方だが、ここは段違いだ。何世紀辿れば、こうなるんだろう…)
目に映る全てが目新しい。
まるで旅行客の様に辺りを見回していくタキトゥス。
そんな姿にハルノとクロカは微笑みがらも、とある場所へ目指していく。
二人が目指しているのは、彼女らが何度も世話になった雑貨屋。
この町の中で、ひっそりと経営しているらしいが品揃えは規模の大きいテナントに負けない程。
何でも揃っている訳ではないが、それでもタキトゥスに知っていて欲しい場所へと向かっていた。
「さ、着いたよ!タキトゥスさん」
やや大げさな素振りでたどり着いた店を紹介するハルノ。
その外観は、やや古風な作りをしており他の建物とは違う雰囲気を放っていた。
ステップを踏む様な足取りで店へと向かうハルノ。それに続くクロカの後を追うタキトゥス。
ドアが開くと同時に鳴るドアベル。
その音に気付いたのか奥にあるカウンターで本を読んでいた山羊の獣人が顔を上げた。
「こんにちは、ハルノさん。今日は珍しいお客様をお連れの様で」
「こんにちは、店主さん。うん、今日はお客さんを連れてきたよ」
そのやり取りを見るにハルノと店主は仲が良いのだろう。
タキトゥスの後ろで控えていたクロカも一礼している辺り、面識があると言える。
二人が挨拶しているのを見て、タキトゥスも軽く手を上げて店主へとあいさつする。
店主もタキトゥスに対して軽く会釈すると、ハルノへと尋ねた。
「成る程。それで今日はどのようなご用向きで?」
「えっと、この人…タキトゥス・キルゴアさんのお買い物について来たの」
「成る程。ではタキトゥスさん、どうぞ店の中を見ていってくださいませ。何か分らぬことがあれば、私に何なりとお申し付けください」
本人そっちのけで話が進んでいる事に僅かなに困惑するタキトゥスだが、ハルノとクロカがここを勧めたのも恐らく色々揃っているからだと判断する。
現に周囲を見渡せば、服に家具などそれなりに品揃えは良い方であった。
(銃もあるみたいだが…)
店主の背後に置かれたガンラック。だが見た感じ、見た事もない銃ばかりがずらりと並んでいた。
キャトルマンリボルバー一丁では心許ない。願わくば使い慣れた銃があればと思うもそこに並ぶ銃は残念な事にタキトゥスの要望に応えてくれる気配はなさそうであった。
銃は諦めて、良さげな服と必要としている家具を見つけよう。そう思いながらタキトゥスは店の中を見て回る事にした。
「そう言えば、予備でもう一丁銃が欲しいって前に言っていなかった?クロカ」
「ええ。有事の際に持っていた方が良いかと思いまして」
「なら、ここで買っちゃえば?弾薬だって置いてるしさ」
キヴォトスに暮らす子供の会話というのは中々に物騒だなと思いながら、タキトゥスは衣服が並んだコーナーへと足を進めた。
実に様々な服がそこかしこに並んでいる。これだけのをどうやって揃えたのかと疑問に思いたくなる程に。
無数ある服の中から気に入りそうなものを探すがどれでも、タキトゥスの気を引かない。
流石に1899年代の服とかは置いていないかと分かり切った事に苦笑し、縁がなかったとその場を離れようとした時だった。
「ん?」
自身が見ている所からやや奥へと向かった先。
そこにも衣服が並べられており、気になったタキトゥスはそこへと向かった。
「…あの店主、趣味は良いらしいな」
並んだコート、並んだベストにシャツ、ズボン、ブーツに拍車。帽子や装飾品などこれでもかと並んでいた。
奥の方にあると言う事は余り売れていないのだろうか。だがタキトゥスにとってはある意味、お宝である。
良い掘り出し物を見つけた気分になり、タキトゥスは良さげなものを見繕っていく。
今着ている服装も気に入ってはいるが、少し服装を変えるだけでも気分は変わるだろう。
自身の体格に合うかを確認しながら、気に入ったものを手に取っていきカウンターへと向かう。
ハルノとクロカは銃の事で話し合っているのに夢中でカウンターへと歩くタキトゥスに気付いていない。
「店主、会計を頼む。出来るならこいつを着て帰りたい。出来るか?」
「可能ですとも。必要でしたら今着ているお召し物を収める専用のトランクでもご用意いたしましょうか?お代は頂きませんよ」
「頼む。あと銃と家具を買いたい。服の会計が終わったら見せてもらえるか」
「かしこまりました」
会計を済ませて、買ったばかりの服へと着替えるタキトゥス。
シャツを着て、ベストを羽織る。ズボンを穿き、愛用のガンベルトを着ける。
コートを羽織り、ブーツを穿いて地に足を付ければ踵に取り付けた拍車の音が静かに響く。
この時だけ1899年に戻ったのでないかと。
新しく着た服はタキトゥスにそれだけの懐かしさを覚えさせた。だが何か足りない。
これではまだ完成とは言えない。そう言えるだけの確証がタキトゥスにはあった。
その一つがまだ肩にかけていない革製のバックだった。
(前に使っていた者とは少しデザインが異なるが…)
キヴォトスで暮らす人向けに合わせたデザイン。生前使っていたものと比べるとやや大きいがその分、利便性は向上している。
だが革製だからか何処か年季が入っており、それがある意味、一つの特徴とも言えた。
試しに肩にかけてみれば、コートの上からでも違和感はない。
そして仕上げと言わんばかりに、最後に残していたものへと彼は手を伸ばす。
このキヴォトスで暮らしていくに置いて、この帽子は生前の代わりといっても過言ではない。
「これでいい」
黒を基調とし、派手過ぎない装飾が施した細身の帯を備えた帽子を被る。
キヴォトスでの新たな装い。姿見に映るは1899年を意識した新たな装いに身に包んだタキトゥス・ギルゴアの姿がそこにあった。
着替えは済んだ。後は銃を見せてもらい、良さげな家具を買うだけ。
さっきまで着ていた服をややアンティークなデザインをしたトランクケースに収めて、カウンターで銃の事について店主と相談しているハルノとクロカへと向かう。
話に夢中になっているのか後ろからタキトゥスが近づいてきている事に三人とも気づいていない様ではあるが、拍車の鳴る音が耳に入ったのかハルノとクロカが反応して後ろへと振り返った。
「わぁ…」
「まぁ…」
何処かガンマンやカウボーイを彷彿とさせる衣装を着ていた大人の男性だった。
服を変え、帽子を被ればこうもらしさが際立たせる事ができるのかともすら思うと詠嘆の声しか出てこない。
そんな声しか出てこない程にその恰好は似合っていた…いや、似合い過ぎていると言うべきだろう。
言葉が出ず、立ったまま微動だにしない二人を前にして、タキトゥスはどうしたと声をかけるも返答はない。
どうしたものかと困り果てると、その一部始終を見ていた山羊の店主が微笑んだ。
「ほっほっ…二人ともタキトゥスさんの新たな装いに見惚れているのですよ」
「そうか。なら二人が固まっている間、暇なんだろ?銃を見せて貰っていいか?」
「かしこまりました。…どのようものをお求めで?」
「ライフル。あるならボルトアクションが良い。今時のは使いこなせる自信がないんでな」
「それでしたら…」
ボルトアクション式と言えど、その種類は多くある。
たったそれだけでは何が良いのか迷うものだが、山羊の店主はタキトゥスに会った時から、気づいていた。
そして新たな装いを身に纏った彼を見て、確信した。
ボルトアクションと言えど、彼に渡すならこの銃が相応しいと。
「此方は如何でしょう」
ゴトリ、とやや重々しい音を立てながらカウンターの上に置かれた一丁のライフル。
そのライフルを見てタキトゥスは懐かしさを覚えた。
この銃を手にしたのは、若い彼と一緒にシェイディベルと言う所に向かった時だったろうか。
そこに居たのは南北戦争が終わったと言うのに頭を30年前に置いてきてしまった軍人崩れの連中。
連中は武器商人でもあるらしく、各方面に顧客を持っていた。取引によっては大金が動く事もあるらしい。
──大量の金が無造作に置かれている──
──仮になかったとしても武器の貯えがある──
危険はあるが、調べる価値はある。タキトゥスは彼と共にそこへ襲撃を仕掛けたのだ。
今思えば、たった二人でそこへ襲撃を仕掛けて生き残ったのは奇跡だったのではとタキトゥスは思っている。
あちこちに武装した連中が居て、ダイナマイトも持っていた。あまつさえは機関銃まで配置していたのだ。
だが生き残った。大量の武器と大量のダイナマイトを積んだ馬車を盗み出し、キャンプに持ち帰った際にこの銃を手にしたのだ。
「五発装填可能、銃身内は旋状を施し済み、照準器は改良型を装備。クリップは使用できませんが、ボルトを下げずに装填可能といったメリットがございます」
「知っているよ。前に使った事があるからな」
置かれたライフルを手に取り、ボルトを引いてままにして銃口を人が居ない方へ向けつつ構える。
ボルトを引いた感じも、この重みも何も変わらない。
あの時のままだった。
「おや、そうだったのですか」
「ああ。長く使っていたが、ちょっとした事故で無くしてな。…こいつを貰いたい、幾らだ」
「弾薬と専用のスリングをお付けして…この価格になりますが、如何でしょう」
「買おう。それとあそこにある二つの小さな家具、あれも買っていく。次来るか分からないからな」
たまたま訪れた機会だからか、荷物は多くなるのも承知で商品を購入していくタキトゥス。
次が何時になるかなど分からないとなれば、買い物が多くなるのも当然と言えよう。
「かしこまりました。…折角のご新規様がいらっしゃったのです、今後も贔屓にしてもらえる様に色をつけておきましょう。準備しますので、少々お待ちください」
「良いのか?」
「ええ、構いませんとも。ですので、今後ともご贔屓に」
「ここまでされて次来ないという事なんてしないさ」
また纏まった金が得られたら、ここに来るとしよう。
次の楽しみが決まったと同時にタキトゥスはいい加減固まったままの動かない二人をどうするべきかと見つめた。
軽く肩を叩けば復活するだろうか。だが、それだけでは復活しそうな感じがしない。
困ったように肩を竦めるタキトゥスに、準備の為に奥へと引っ込んだ店主の声が響いた。
「お二人は私が見ておきますよ。タキトゥスさんはどうぞゆっくりしていって下さい。…喫煙でしたら、店前に喫煙所がありますので、そちらで」
ハルノとクロカは店主が見てくれる。
買い物も済ませた所でもあり、店内に長居する必要はない。
加えて喫煙所があるなら、そこで一服するも良いだろう。
外も程よく晴れている事もあって、タキトゥスに残された選択肢は一つしかなかった。
「助かる。終わったら呼びに来てくれ」
子供には出来なくて、大人になって出来る事。
百害あって一利なしを嗜む為、タキトゥスは店主に礼を告げてから外にある喫煙所へと向かうのであった。
二人が復活したのは時計の針が1を過ぎた辺りであった。
時刻は13時半。店主が言っていた色付けも終えており、今はタキトゥスが購入した物が小型トラックの荷台に積まれている真っ最中であった。
店の従業員らしき獣人らとクロカ達が荷物の積み込みを行う様子を静かに見つめるタキトゥスだが、つい先ほどに山羊の店主が教えてくれた話の内容を思い出していた。
──学園での騒動…どうやらその現場にいた者が、その一部始終の動画をモモッターに上げたらしいです──
──そこにはタキトゥスさんの姿も映っており…どうやら噂になっているようですぞ──
──コメントには、大人の男性と驚くものや銃を構えるのが速いなどありましたし…──
──タキトゥスさんの事をとってもハードボイルドだと、アウトローだというコメントがありましてな──
──…動画の件は少し気にした方がよろしいかと──
(目立つのは避けたかったんだが…自分から首を突っ込んだ代償というべきか)
今後の動きには気を付けるべきだろうかと思いながらも彼はトラックの助手席に乗り込む。
店主との他愛のない会話を交わした後、帰り道はクロカの運転で自宅へと戻った。
自宅で待っててくれていたハヅキらに感謝を述べ、彼女達が学園に帰るのを見届けるとタキトゥスは今回購入したものの整理を行い、そのまま床に就いた。
そして翌朝…
──ハルノが行方不明になった──
ハルノが行方不明になった話を、半泣きになって取り乱したクロカがタキトゥスの家に訪れた事で発覚するのであった。
長くなりましたが…私は謝らない。
新たな装いを得たタキトゥスですが、RDR2風に表すと…
帽子:追跡者の帽子。
コート:クラシックなフロックコート
シャツ:普段着用オーバーシャツ
ベスト:リージャンベスト
ズボン:外出用ズボン
ブーツ:レレントブーツ
装飾品:ライフル兵手袋、ネッカチーフ
みたいな感じです。
滑車、バック、武器系の装飾品は各々想像にお任せします。
ライフルも得て、家具を得ましたが…さぁて、何やら曇行きが怪しくなってきましたぞ。
あと…高評価、お気に入り登録、誠にありがとうございます。
投稿した話も多くないに関わらず、これだけの評価を頂けたのは嬉しいの一言に尽きます。
今度ともよろしくお願いいたします。ではではノシ