Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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「全員、揃いましたな」

 

列車内にある一室。今まで見てきた車内とは打って変るように異質な雰囲気を放っていた。

方位する様に無数のモニターが並び、部屋の中央にはコンソールパネルと一体化した台が鎮座している。

照明はモニターとコンソールパネルが放つ光だけしかなく、やや薄暗い場所とも言えた。

今を生きる少女たちには見慣れた、或いはたまに訪れる程度の特別な部屋とも言えるのだが過去の人間であるタキトゥスにはこの一室がどうにも異界に見えた。

つい先ほどまで見てきたあの豪華絢爛の客車。そこから打って変わった様に無機質で機器に囲まれた部屋に足を踏み入れた。

双方の雰囲気の差がかけ離れ過ぎている。そんな彼にとって、この場所が異界の様に思えても当然と言えた。

 

(スマホやテレビだけでも未だ慣れんというのに…今度はテレビみたいなのが無数に並んだ部屋か)

 

キヴォトスには加減と言うのを知らなさ過ぎる。

そう思えてしまうのは自分だけだろうか。

被った帽子を手で整え直しつつ、タキトゥスの視線は大きなモニターの前に佇むハクタクへと向けられる。

 

「状況は理解しております。既にこちらの方で『狩場』の外部及び内部の戦力は把握しておりました」

 

「いつの間に、と言いたい所ですが今は問うべきではないでしょう。…流石です」

 

「感謝の極み。…手始めにこちらを」

 

手に持った端末を操作するハクタク。

それに合わせて中央の画面に『狩場』の戦力が映し出されていった。

長く続く線路の先。その果てに辿り着くのは巨大な施設と繋がる巨大な駅。

外から見えない様に壁で覆われた駅の内部には防衛を担う何十人もの兵士の姿がある。

真正面から突撃してきた敵を容易く返り討ちに出来るだけの装備と人員を整えた大軍だ。

 

「狩場は巨大な施設と駅が組み合わさった複合施設とも言える様な場所でした。画面を見ての通りホーム内には武装した兵士たちで守られており、また複数個所から兵士たちが出入りしている事からこのホームを中心に、各棟へと繋がっていると思われます。無論、狩場と呼ばれる…違法組織によって主催され、そこに集った富豪たちで行われる品性の欠片もない胸糞の悪い的当て会場にも繋がっております」

 

一瞬にしてその場の空気が冷え切った。

無理もない。騒動の黒幕がやろうとしている事は言葉にするのも憚れる様な胸糞悪いものなのだから。

眼つきが変わり、怒りを表すように静かに握り拳を作る者達が居る中でハクタクは恐れる事無く言葉を続けた。

 

「各棟には武装した兵士に加えて、重装甲で覆われたオートマタが配置されており、また棟の一画にはこれまで囚われた生徒たちがいる区画が存在する事が明らかになりました。そして、元木ハルノさんはここ、東棟の地下二階のB1区画の牢に居る事が明らかになりました」

 

「ッ!…それは本当ですか?ハルノは!?彼女は無事なのですか!?」

 

ハルノの所在が明らかになった。

それに対し、いの一番に反応したのは最も親しい間柄であるクロカだった。

隣でそれを見ていたセツラが落ち着けとその腕を引っ張りながら諭す。

答えが知りたい。興奮冷めやらぬクロカにハクタクは告げる。

 

「少しやせ細っておりましたが生きています。その証拠にこちらをご覧ください」

 

画面に浮かび上がる一枚の画像。

内部のカメラをハッキングして撮影したのだろう。

頼りない光源の中、薄暗く、薄汚れた空間に存在する牢。その中に確かに彼女…元木ハルノはいた。

もう一人、見られない生徒が彼女の隣にいるが恐らく他校の生徒だろうと誰も気にしなかった。

ただハルノが生きていたという事実に誰しもが安堵の声を漏らした。

 

「あぁ……良かった…」

 

親友が生きている。

誰よりもハルノの事を心配し、助け出そうと戦ったクロカの目に涙が薄っすらとこぼれる。

セツラもまたハルノと同級生という事もあって、そっと肩の力を抜いた。その目に涙を湛えながら。

 

「安心するのはまだ早い。ハルノを助け出してからよ」

 

「そんでもってハルノのついでにその貧相な牢にいる他の連中を連れ出してやんないとね。丁度それだけの人数を運んでやれるもんをあちらさんから搔っ攫ってきたんだが…。なぁ、ハクタクの爺様よ…このごみ溜めにみたいな所に、一体どれだけの生徒たちが捕まってるんだい?」

 

冷静に、事実を告げるスズキの隣でルオンが問う。

その表情には何時もの笑みはなく、神妙な面持ちであった。

五人、十人程度の筈がない。これだけ大きな施設に囚われている生徒たちがその数で済むはずがない。

予感ではなく、確信がルオンの中にあった。

 

「予想される人数は100人…もしくはそれ以上と言った所でしょう」

 

「100ですって…!?」

 

作戦会議が始まってから沈黙を保っていたアルは目を見開き、驚きの声を上げる。

想定していた以上の生徒たちが捕まっているときた。

そういった反応が出るのも無理もなかった。

 

「だからこの列車を壊すなと言ったんだな、会長」

 

「ええ。狩場の強襲を目的としていましたが、同時に逃げる為の足も想定していました。まさかこれほど大きな列車が釣れるとは思いませんでしたが…こればかりは不幸中の幸いとも言うべきでしょう」

 

しかし、とハヅキは言葉を続ける。

 

「重武装化を施した兵士だけで此処を守っているようには見えませんね。…機甲部隊の姿も?」

 

「その通りでございます。施設の外周部には簡易ヘリポートがいくつか設けられており、武装ヘリが数機。また内部の一部にはブラックマーケットで払い下げられていた戦車、装甲車の存在も確認できました。特に生徒が捉えられている各棟に戦力が集中しているようです」

 

「狩場というよりも要塞ですね」

 

「要塞…確かに言い得て妙ですな」

 

まるで軍の駐屯地みたいな物騒極まりない場所だ。

スズキとクロカに挟まれて、終始一貫して沈黙していたタキトゥスは胸の内でそう呟いた。

訓練されていて、かつ大火力を誇るものを持っているのだ。

生前、訳あって軍と銃撃戦をした事のある彼の表情はやや苦々しかった。

 

「大丈夫かしら?」

 

そんな表情に気付いていたのか、心配そうにタキトゥスの顔を覗き込むスズキ。

 

「ん?ああ、大丈夫だ」

 

「そう…なら、良いのだけれど」

 

(…昔の事を思い出すものじゃないな。つい顔に出てしまう)

 

これまで何度も、ふとした瞬間に思い出してしまう生前の思い出。

それが顔に出てしまう度に先ほどのスズキの様に、誰かに心配される事は常にあった。

だがタキトゥスは何でもないと言って誤魔化し続けた。

到底話せるようなものではない。ましてや血で汚れた生前の話など聞かせるようなものでもない。

追求されれば"知り合い"の体験談と称して誤魔化す他ないのだ。

 

「特に航空支援が非常に厄介と言えるでしょう。ですので、航空戦力を叩くべく今回の襲撃には私共"13課"も参加します」

 

場がどよめいた。

まさかハクタクが居たとされる"キヴォトス監査局第13監査課"が動くとも思わなかったのだ。

そんな中で笑みを浮かべたタキトゥスが問う。

 

「変わらず至れり尽くせりだな、店主」

 

「最初から最後まで関わるつもりでいましたからの。今までは数人の仲間で行動しておりましたが、これを機にまさか13課が活動再開する事は思いませんでしたぞ」

 

「成程な。…それで、航空戦力とやらを叩き潰す策はあるんだな?」

 

「無論です。少々荒っぽいですが…皆さんが攻撃を仕掛ける前には排除しておきましょう」

 

策はある。

その言葉と同時にハクタクの眼鏡がモニターの光によって反射する。

内通者を引っ張り出す時に見たあの姿に、やはり敵に回すもんじゃないなとしみじみと思うタキトゥスだった。

話は進んでいき、当日の展開、敵の装備などがハクタク率いる13課によって次々と明かされていく。

 

「そう言えば、こいつらの装備…全員が絶対といっていい程に棒みたいなのを持っているが…あれは何だ?まさかとは思うが魔法の杖とかじゃないよな?」

 

画面に映る武装した兵士たち。

共通の装備、共通の銃といった事に加えて腰に鉄か何か出来た棒みたいのを提げているのにタキトゥスが気づいて、疑問の声をあげた。

 

「そんな生易しいもんだったら良いんだがな。あれはスタンロッドだ、タキトゥスさん」

 

「スタン…ロッド?」

 

セツラの言葉に聞きなれないといった様子で同じ言葉を口にするタキトゥス。

 

「先端に高圧電流が流れているんだ。それで相手に叩き付けたら感電させたり、麻痺させたりすることが出来る。本来の用途としては護身用や警備用なんだが…全員があれを持っているとなると、捕まっている生徒に対しての装備だろう」

 

「あれをちらつかせて、捕まっている生徒らが逃げ出さない様にしているという訳か」

 

「ああ。逃げ出そうとしたり、反抗したりしたらスタンロッドで殴る。そうやって"その気"を起こさせない様にする…クソが、胸糞悪い」

 

人扱いをしていない。

まるで家畜の様な扱い、或いは奴隷の様な扱いでしかない。

 

(…確かに胸糞悪い。それで金を稼いでいる様な連中がわんさかいるとなると尚のことな)

 

「…一つ聞いていいかしら」

 

空気がやや重たくなった時、腕と足を組んでいたヒナが手を挙げてハクタクへと質問する。

 

「今回の騒動の首謀者の情報はあるのかしら」

 

「もちろんありますとも。丁度その話をしたいと思っていた所です」

 

今の今までその面を拝むことなく、裏で暗躍し続けた首謀者。

それの顔が画面に映し出された。

普段から見かけるようなオートマタとは違った造りをしたオートマタ。

白のテンガロンハットに黒のコート、赤いシャツ、腰には使い古したであろうガンベルト、黒いズボン。

リボルバーを収めたであろう二つのホルスターを腰の前に配置しているのは、お洒落でも何でもない。

自身にとってそれが最短かつ最速に銃を引き抜くことが出来ると言う自信の表れとも言える。

そんな機械の体でアウトローの様な格好している姿にタキトゥスは既視感を覚えた。

体は全く違うと言うのに、誰かに似ているような気がしてならなかったのだ。

 

「今回の事件の首謀者…ひいてはこの人間狩りを計画し、またキヴォトスの各地で多くの犯罪に関与しながらも決して捕まる事無く逃げ続けた人物です。…調べた所によると名は"獅子堂 マイカ"」

 

「……」

 

"マイカ"。

その名を聞いた瞬間、タキトゥスの表情が変わる。

おおよそ子供には見せる事の出来ない"酷く恐ろしい"表情だった。

幸いにも両隣に座るクロカとスズキには気づかれていない。

タキトゥスは今の表情を見られない様にする為に被っていた帽子の鍔を掴み、そっと目元まで下げた。

 

「ブラックマーケットではそれなりに名が通っていた犯罪者であり、各犯罪組織、犯罪企業を転々としていた模様。しかしこの者が組織を脱退した時には組織は既に弱体化、或いは壊滅していたそうです。この理由にはこの者が関わっていたとの事ですが、詳しい事は不明で──」

 

「大方裏切ったり、情報を流していたりしてたんだろう。見る感じ、鼠みたいにずる賢い奴の様だしな」

 

「おや…随分と確信を持って言うのですな、タキトゥスさん」

 

「…似た様な奴を知っているだけさ」

 

自身が知る限りでは、"あいつ"もそういう奴だったのだから。

胸の内でそう呟きながら、ハクタクに続きを促すタキトゥス。

 

「配置された敵、そしてこの者の確保…それさえ遂行すれば今回の事件も片付くことでしょう」

 

「…残された時間はごくわずか。それまでに、ですね?」

 

「その通りです、クロカさん。…情報は伝えました。それまでに皆さんが出来る事を行ってください」

 

──チャンスは一度しかない。そう思ってください──

 

ハクタクの言葉がその場にいる全員の重く圧し掛かる。

そんな重圧も物ともすることなく、彼女たちは動き出す。

願ってやまない、最良の結末を迎える為に。




お久しぶりです…。
前の話から随分と遅くなって申し訳ありません。
モチベーション維持できず、低くなりつつも執筆してた為…遅くなりました。

感想の方はちゃんと見ております。ただ返すのが出来てなかったりして大変申し訳ない。

相も変わらず終わり方が雑でございますが…何卒宜しくお願い致します。


またGoogle Geminiで落合クロカのイメージイラストを生成してもらいました。
AIによる画像生成である為、AIによる画像が苦手な方はそのままブラウザバックしてください。

構わないよ、という方は下までスクロールしてください













落合クロカ イメージイラスト


【挿絵表示】
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