Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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見えない足跡を探せ

ハルノが行方不明になった。

朝の仕事に早めに済ませて、午後の準備をしていたタキトゥスにとって今日一番に聞いたニュースにしては、実に物騒な内容だった。

だが、そのニュースが嘘ではないという事をタキトゥスは否応なしに理解せざるを得なかった。

大人顔負けの落ち着きを有するクロカが、半泣きになって別人じゃないかと思える程に取り乱していたからだ。

 

(何故あの子が…)

 

生きている以上、悩みなど一つや二つはあるだろう。

だがあんなに元気一杯で笑顔が素敵な少女が、自らトラブルに首を突っ込んだとは思えない。

しかし何故?何故ハルノがそういった目に遭わなくてはならないのか。

次から次へと出てくる疑問の嵐。しかしタキトゥスはその答えを出すのを後回しにした。

 

「私…私は…どうしたら…こんな時にどうしたら…!」

 

今は取り乱しているクロカを落ち着かせるのが優先と判断した為である。

 

「落ち着くんだ、クロカ。…ほら、立つんだ。地面に座り込んだままじゃ制服が汚れてしまうぞ」

 

両脇に腕を通してクロカを立ち上がらせるとタキトゥスは彼女を近くの椅子に座らせた。

 

「良いか。今は落ち着け、クロカ。詳しい話はそこからだ、良いな?」

 

返答はない。代わりに頷いて、分かったと伝えるクロカにタキトゥスは良い子だと返し彼女の頭を軽く撫でる。

クロカが落ち着かなければ詳しい話は聞けない。午後の準備をしつつも、彼は様子を見る事にした。

何度か声を掛けながら様子を伺うのを繰り返し少しでも落ち着ければと思いコーヒーを差し出していると、時間はあっという間に一時間が経過。

 

「お見苦しい所をお見せして申し訳ございません…」

 

落ち着きを取り戻し、人前で取り乱していた羞恥心から頭を下げるクロカの姿がそこにあった。

 

「気にするな。友達がいきなり行方不明になったら、誰だって取り乱す」

 

何の前触れもなくこの様な事が起きたのだ。取り乱さない方が無理である。

ましてやクロカとハルノの仲の良さは、タキトゥスも知っている。

友人が突然消えたとなれば、その受けるショックは計り知れないものであるという事も良く分かっていた。

 

「それで…詳しい話を聞いても良いか?」

 

「はい…」

 

ポツリと、またポツリとクロカは話していく。

事の始まりは、ハルノが何時もの待ち合わせ場所に来なかったことから始まった。

クロカは何時も待ち合わせ場所でハルノと合流してから学校へ登校しており、今日も同じように待ち合わせ場所でハルノを待っていたらしい。

しかし、いつまで経ってもハルノは姿を現す事はなかった。

風邪でも引いたのだろうか。それとも寝坊か、或いは先に学校に行ったのだろうか。

なんにせよハルノから何らかの連絡がないのは珍しいなと思いながらもクロカは学校へと向かった。

普段よりは遅めに学校に到着し教室に入った時、そこにハルノが居ない事に気付いたクロカはクラスメイトらにハルノが来ていないか、見てないかと聞き回った。

 

―ハルノ?いや、見てないけど?──

 

─そういや今日は見てないね。遅刻かな?クロカは何か聞いていない?─

 

誰しもから同じ答えが返ってくる。

体調不良や遅刻などがあれば、ハルノは必ず連絡を入れてくれる。

こればかりは付き合いの長いクロカは良く知っていた。

だからこそ何も連絡なしに学校に来ていない事が不自然でしかなく、この時点でクロカの胸の中はざわつき始めていた。

何かあったのではと。だが、そんな考えを払拭し学校に来ていないハルノへと連絡を入れようとした時だった。

 

─クロカ先輩…す、少し良いですか─

 

一つ下の学年。クロカと親しくしている後輩が教室にやって来た。

今すぐにでもハルノに連絡を入れたい。だが、彼女の勘は囁いていた。

今ここで話を聞かなければ、取り返しのつかない事になる、と。

心臓の音が速くなる。息が僅かに荒くなりそうになる。それでも後輩に心配かけまいと必死に抑え、平静を装いながらクロカは尋ねた。

どうかしましたか、とたった一言で。

 

─…これ、ハルノ先輩の携帯ですよね…?─

 

そっと差し出されたのは画面に罅が入ったスマホ。

ケースに収められたそれは所々に汚れがついていて、アクセサリーは中ほどからちぎれていた。

決定的な瞬間とも言うべきだろうか。それがハルノのスマホであると、クロカは嫌でも信じる他なかった。

 

─通学路の途中で見つけたんです…─

 

─私の家、学校から少し遠いですし途中から先輩方と同じ通学路を通りますから─

 

─…これを見つけた時、周りが荒れてて…その中にハルノ先輩が使っているバックもあって…─

 

─もしかしたらハルノ先輩に何かあったんじゃないかって思うと凄く怖くなって、どうしたらいいのか分からなくて…─

 

─せめて、この事を先輩と生徒会長に伝えないといけないと思って…!─

 

そこから先の事はクロカはうろ覚えだったと言う。

まるで何かに導かれる様に走り出し、彼女はこの事をハヅキに報告したらしい。

突然の事に思わず困惑していたハヅキもクロカの様子にただならぬ何かを感じ取り、即座に行動開始。

授業そっちのけで全校生徒による元木ハルノの一斉捜索が行われ、その間にクロカはタキトゥスの元へと訪れたというのだ。

ただ助けに求めに来た訳ではない。

抑えられず、今にも噴き出しそうな感情を吐露出来る様な場所が、それを耳障りと言わずに静かに聞いてくれる人が欲しかった。それに当てはまったのが大人であるタキトゥスだったのだ。

 

「今、皆でハルノの捜索に当たっています。地元の方々にも彼女の行方を聞いていますが…」

 

「良い報告はないまま、か」

 

「はい…」

 

此処まで聞いてタキトゥスは思いは変わらなかった。

一人のんびりと晴耕雨読をやっている訳にはいかない。

それに彼にとってハルノは、此処に来て何も知らなかった自分に良くしてくれた少女だ。

その恩を此処で返すという訳ではない。だが大人として、何をすべきかなど既に分かり切っていた。

 

「ハルノのスマホが見つかった場所は知っているのか?」

 

「ええ、後輩から聞いています。けどそこは一度調べましたよ?バックも回収しましたし…もう何もないかと」

 

「どうだろうな。案外見落としているものがあるかもしれん」

 

椅子から立ち上がり、コートを羽織ると外へと出るタキトゥス。

クロカも慌てて彼の後を追い、外へと出た。

それと同時にタキトゥスは指笛を鳴らして、馬を呼び寄せる。

遠くから馬の鳴き声が響き、それを聞いたクロカはブラック・ボーイが反応したのだろうかと思った。

だが、馬房から飛び出して現れたのはクロカも知らぬ馬でありタキトゥスで飼っているもう一頭の馬であった。

ダップルグレーの体毛とやや銀色交じりの白いたてがみが美しい馬であり、品種は「サラブレッド」。

名は『シルヴァ・ダンス』。ブラック・ボーイと同じくこの農場に暮らす馬の一頭である。

 

「タキトゥスさん…この馬は?」

 

「農場に迷い込んだ馬でな。野生の馬だと思うが妙に人懐っこい性格している。今やこの農場の住人だ」

 

「それはまた…珍しいですね。馬は臆病と聞いた事がありますし、それが野生となれば…」

 

「何処からか逃げてきたのか思ったが、鞍は着けていなかったから野生なのは間違いない。人懐っこいの事に関しては今でも謎だがな」

 

まぁ今はそんな事はどうでもいいと話に区切りを付けると、シルヴァ・ダンスの上にまたがるタキトゥス。

 

「ほら、行くぞ。後ろに乗れ」

 

「本当に行くんですか?」

 

「ああ。前に居た所では人探しもやっていた。現場で手がかりを探すの良くあった」

 

それに、とタキトゥスはクロカを後ろに乗せるとシルヴァ・ダンスを走らせながら前置きを口にしつつ言葉を続けた。

 

「物静かだが誠実で、それであって勇敢な奴から探し方というのを学んだ」

 

最もその探し方というのは狩りで役に立つのだが、生前の彼はその技術を応用して人探しする際にも使っていた。

荒れた現場から、何らかの手がかりを見つけるのであればその技術は役に立つだろうと判断したのだ。

そしてその狩りで役に立つ技術を教えた人物をタキトゥスは思い出していた。

寡黙で思慮深くて、誇りや掟を重んずるネイティブアメリカンの男。

そしてタキトゥスにとって本音を話せる一人でもあった。

自分だけが遠い所に来てしまった今。散り散りになってしまった者へと対してタキトゥスが出来る事など無い。

 

「道案内を頼む、クロカ」

 

「はい。お任せください」

 

ただどうしているのだろうかと、胸の内で呟く他なかった。

それからシルヴァ・ダンスを走らせることは30分後…。

 

「ここがハルノの携帯とバックが落ちていた場所です」

 

例の場所にタキトゥスとクロカは到達していた。

情報通りというべきか周囲はやや荒れている一方で、現場の周りには建物など言ったものがない。

 

「この辺りは人通りは多い方か?」

 

「所謂田舎ですからね…人通りは多い方ではないです」

 

確かになとタキトゥスは胸の内で呟く。

この現場に来るまでの間、彼らとすれ違った人はたったの一人のみ。

あれだけ大きな町があるから区全体が過疎化している訳ではないが、それでも道中の人通りは少ない方であった。

人通りは少ない上に、周囲に建物はない。ここで何かが起きたとしても、それに気付けるものはそうはいない。

 

「ハルノを最後に見たのは?」

 

「昨日の帰り道の途中までです。そこから先が帰り道が異なりますから。ただこの通りは私も使いますし、昨日は彼女と一緒に帰っていました」

 

「それまでは一緒にいたか。となると、朝方に起きたと見るべきだろう。それも一人でいる所を狙ってな」

 

「どうしてハルノが…」

 

クロカの呟きも最もと言えた。

何かしらのトラブルに首を突っ込んだとは思えない。だからこそ狙われる理由が分からない。

だが生前ギャングとして生き、1899年を駆け抜けてきたタキトゥスからすればその答えは考えずとも分かった。

 

「本当は誰でも良かった気がするな。偶々ハルノが狙われたとは思うが」

 

「何故そう思うのですか…?」

 

「さっきお前が言っただろう。この辺りは人通りは少ない方だと。そうなれば一人でいる生徒など良い獲物だ」

 

「一人でいる所を狙ったとして…相手の目的は何なのですか?」

 

「生徒という存在か…或いはカイナ農場学園の生徒だから狙ったかも知れん。憶測に過ぎんがな」

 

そう言ってタキトゥスは周囲を見つめ始める。

場に残された轍の後は車を使用した可能性がある。だがこれに関してはクロカの後輩から事前に得た情報であり、有力な手掛かりにはならない。

これ以外にないのか。集中し、タキトゥスはその場に残る僅かな痕跡を探す。

 

「ん…?」

 

何かが光った様な気がしたのを見逃さなかった。

小さく光ったソレ。まるでタキトゥスに見つけてほしいと言わんばかりに光っていた。

何だろうかと思い、それに近づき拾い上げると─

 

「薬莢?」

 

小さく光っていた物の正体。それは銃を発砲した際に出る空の薬莢だった。

それも一つだけではない。複数の空薬莢が転がっていた。

連れ去らわれそうになりながらも発砲を繰り返したのが分かる。

もしその銃弾がハルノが持つ銃から出たモノだとしたら?

もし車にも当たっていたら?

それも一発じゃなく、複数発当たっていたら?

 

「一度学園に戻るぞ、クロカ」

 

「何か手掛かりが?」

 

「ああ。ここに複数の薬莢が落ちていた。もしこれがハルノの銃から出たものだとしたら、相当抵抗したんだろう。二、三発…あるいはそれ以上が犯人の乗った車に当たった可能性がある」

 

「その車を探し出せば…!」

 

「その持ち主にハルノをどこにやったかが聞き出せる。急ぐぞ、この事をハヅキに伝える」

 

「はい!」

 

現場から得た唯一の手掛かり。これがハルノに繋がる唯一の手掛かりでもある。

タキトゥスとクロカはその場を後にして、ハヅキが居るであろうカイナ農業学園へと急いで戻る事にしたのであった。

 

 

 

二人がカイナ農業学園へと到達した時には、多くの生徒のほかに地域住民の姿もあった。

ハルノが行方不明になった事を聞きつけ、自ら捜索の手助けにしに来たらしく、地図を広げてはまだ捜索が行われていない所に生徒らと住民らを派遣している真っ最中だった。

その指示役としてハヅキが主導で動いており、学園は今やいつもと違って緊張感と不安を混ぜ合わせた慌ただしさを醸し出していた。

 

「生徒会長、戻りました」

 

「ああ。クロカ、良く戻りました。…タキトゥスさんも協力に感謝します」

 

頭を下げるハヅキにタキトゥスはシルヴァ・ダンスから降りながら気にするなと意味を含めた会釈で返し、すぐさま本題へと移った。

 

「忙しいところ悪いが、銃弾を複数発受けた車を見つけてもらえるか?」

 

「車を?それは何故?」

 

「ハルノの携帯とバックが落ちていた現場に、アイツの銃から出たと思う薬莢を見つけた。残っていた轍からして車を使ったのが分かる。…仮に連れ去られたとして抵抗の際に撃ったのだろう。それも一、二発じゃない程にな」

 

「…ハルノが持つ銃はサブマシンガンだと記憶しています。タキトゥスさんの話を仮定に、彼女が抵抗で撃ったのであれば…」

 

「幾ら銃が当たり前のキヴォトスでも、そんな車は目につくはずだ。そいつを見つけ、持ち主を締め上げればハルノの居場所も分かる」

 

実際の所、ハヅキの方でもハルノに関しての目撃情報は無いに等しかった。

そこにタキトゥスが齎した情報は、ハヅキにとってこの先の見えない状況を打破するに等しかった。

 

「…分かりました。遠方の方に捜索へと向かっている者達へ情報を流すと同時にここに居る方々にも情報を流しておきます」

 

「頼んだ」

 

これで少しは前に進むだろうか。

そう思いながら朝から動きっぱなしのタキトゥスはその場を離れ生徒らがいない場所で一休みにしようとした。

気を抜いていい訳でもないにしろ、一服する程度は許してほしい。

懐から取り出した煙草に火を点けようとした時、彼の元にある人物が歩み寄った。

 

「タキトゥスさん、今よろしいですかな」

 

「?…誰かと思えば、雑貨屋の店主か。あんたも来ていたんだな」

 

「ええ。話を聞いて飛んできましたとも」

 

そこに立つのは、昨日ハルノとクロカと共に訪れた雑貨屋の山羊の店主。

彼もまた、ハルノの一件に馳せ参じた一人であった。

だが今日は雰囲気が違う。昨日は温和な感じだったとタキトゥスは思わずにはいられなかった。

いつも店主らしくない。そう思うのも無理もなかった。

そんなタキトゥスの疑問を他所に山羊の店主は、とある事を口をした。

 

─以前騒動を起こし、タキトゥスさんが追い払った猫の獣人を覚えてますかな?─

 

─どうやらその者が今回の行方不明に関与しているらしく、ハルノさんを誘拐する所を偶然にも目撃していた者がいたらしいのです─

 

誰も知り得なかった…とある目撃情報を。

 

─現在地は不明…ですが、タキトゥスさんにはこの者を探してほしいのです─

 

そしてタキトゥスは、この時から予感していた。

 

─無論一人で行えとは申しません。私の方でも人を揃えておきます─

 

─ここから少し遠い所に事務所を構えているみたいで…どうやら彼女らは─

 

─便利屋を営んでいるらしいのです─

 

平穏に農場を営む男『タキトゥス・キルゴア』から…

永遠の無法者『アーサー・モーガン』として戻らなくてはならない時がやってくるであろうと。




お待たせしました。
今回もやや長いと言うか…まぁダラダラとした感じです。

平穏な田舎で起きた行方不明事件。
当然タキトゥス・ギルゴアは動きます。

さて…最後の部分でお気づきになる方もいると思いますが、彼女らを出したいと思います。
何というか…出したいなと言う気持ちで予告した感じです。

さぁて…忙しくなりますぞ。

ではではノシノシ
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