Blue Redemption   作:白黒モンブラン

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アウトローに憧れる少女


便利屋68 その2

夜の帳は既に落ち、心地よい風が静かに駆け抜ける。

今宵は満月。月明かりが地表を等しく照らし、また闇もまた地表を等しく包み込む。

草木が揺れ、人々は寝静まる。まるで平和そのものを体現したような一夜。

だが今のカイナ地区にはその平和を塗りつぶさんと不安と恐怖が滲みだしていた。

 

──カイナ農業学園生徒 元木ハルノ行方不明事件──

 

何の前触れもなく、突如として起きた行方不明事件。

本人の物と思われる携帯とバックが落ちていた所には何か争った跡が残されており、それらから判断して事件性が高いとされたこの一件は、この田舎の平和を脅かすには十分過ぎた。

何時、何処で自身が巻き込まれるか気が気でない。

この田舎で住まう者達からすれば、訪れた夜の静けさは返って不安を煽っている様なものであった。

そんな静けさに支配されたカイナ地区に、ポツンと佇む小さな駅。

駅員が居ない無人駅。月明かりに照らされ、風が吹き抜けるそんな駅のホームに彼は居た。

 

「…」

 

羽織ったコートの懐から取り出した煙草を咥え、ブーツの底でマッチを擦り火を灯す。

ゆらゆらと揺れる小さな火を煙草の先端に当てれば、そっと紫煙が昇り始めると慣れ親しんだ味がやってくる。

このキヴォトスに流れ着いた時から持っていた、向こうの世界の煙草。

まだ数はあるが、いずれはこれも無くなるだろうと思いながらタキトゥスは紫煙を吐き、それは白い煙となって静かに闇の中へと消えていく。

 

「…」

 

照明すらない駅のホーム。

月明かりの中で佇み、煙草に吹かす一人の男。

そんな彼の元に、山羊の店主が歩み寄る。

 

「…夜風に当たりながらの一服は如何ですか、タキトゥスさん」

 

「状況が状況じゃなかったら、まだ良かったかもな」

 

「確かに。そうかもしれませんな…」

 

三度、緩やかな風が吹く。

しばしの沈黙が二人を包み込む。

煙草が半分ほど燃え尽きた辺りでタキトゥスが口を開いた事によって沈黙が破られた。

 

「わざわざこんな時間に迎えに行くとは。あんたも律儀だな」

 

「直ぐ向かうと仰ってましたからな。それに事務所を置いてある場所からこの地区へと向かう移動手段は電車のみ。加えてその移動時間は四時間程…駅に着いたとしても、その時間帯では宿も空いてないでしょう」

 

「依頼主という事もあるが、せめて寝泊まり出来る所を提供しようという腹か?」

 

「ほほっ…よくお分かりで」

 

出会って僅かだが、タキトゥスはこの山羊の店主の人となりを知れた気がした。

自分と違って、この人物は善人だ。

山羊の姿をしている為、歳は分からないものの何処か老人の様な雰囲気を感じさせる事から宿した善性は老成と生まれ持ったものから来たものだとタキトゥスは思っている。

 

「…早い内にハルノさんを見つけ出したいものです」

 

「そのために便利屋68とやらに依頼したんだろう?」

 

「ええ。もう()()()()()()()はしたくありませんので…」

 

「…それはどういう──」

 

あのような思いはしたくない。

その言葉が意味するものは何なのか。それを問おうとしたタキトゥスだが、そこに列車の汽笛の音が響いた。

線路の向こうから列車がゆっくりとやってくる。

恐らくそれには山羊の店主からの依頼を受けた『便利屋68』とやらが乗っている。

ある意味、良いタイミングでやってきたものだと思いながらタキトゥスは山羊の店主を見つめた。

 

(…何か知っているのか?)

 

でなければ、あんな台詞は出てこない。

今すぐにでも問いただしたかったタキトゥスだが、それを阻止するかのように列車がホーム内で停車。

二人がいた場所から少し離れた位置のあるドアが開き、そこから四人の少女達がこのカイナ地区に降り立った。

 

「やっと着いた…」

 

「四時間ずっと座ったままだったしね…」

 

「お尻痛ーい…」

 

「…だ、大丈夫ですか、皆さん。私が背負いましょうか…?」

 

ただ、少し疲弊している様子でもあった。

四時間もの間、列車に揺られてきたのだ。座っているだけでも疲弊するというもの。

その様子は寧ろ当然とも言えるだろう。

とは言え、このまま見つめて突っ立っているのは只の不審者でしかない。

声をかけるべきだろうと判断したタキトゥスは吸いかけの煙草を消そうとするが、山羊の店主が待ったをかけた。

 

「吸い終えてからで構いませんぞ。先に私は彼女らに挨拶しておきますので」

 

折角の一服をわざわざ終わらせる必要はない。

言外にそう言っている様な気がしたタキトゥスはふっ…と笑った。

 

「なら、最後まで楽しませてもらうさ。挨拶が遅くなっても文句言うなよ?」

 

「分かっていますとも」

 

軽く一礼して、便利屋68らの元へと向かう店主。

その後ろ姿を軽く見届けた後、タキトゥスは煙草を吸い、静かに紫煙を吐く。

少し離れた所では店主が便利屋68らとの会話が微かに聞こえてくる。

軽い自己紹介をしているのだろうと思っていると、ふと視線を感じた。

 

「…?」

 

思わず気になって、その方へと向くと──

 

「わぁ…!」

 

臙脂色の髪と角、派手なコートを羽織った一人の少女が目を輝かせながらタキトゥスを見つめていたのだ。

今までこれほどまでに目を輝かせた視線を受けた事はない。

そこまでさせる事を自分は何かしてしまったのだろうかと思うも、思い当たる節は見当たらない。

 

「…取り敢えず挨拶しておくべきか」

 

煙草は吸い切った。

吸殻を携帯用灰皿に押し込むとタキトゥスは店主の元へと歩き出す。

その間も少女の視線がタキトゥスから離れる事はなく、周りに居た少女らも彼女の様子がおかしい事に気付き始め、店主は変わらず小さく微笑むばかり。

少女が自分に向かって眩しいまでの視線を向ける理由を知っている様な微笑みにタキトゥスは小さくため息をついて、店主の隣に並び立った。

 

「今回の依頼ではこの方にも同行してもらいます。彼の名はタキトゥス・キルゴアさん…このカイナ地区で農場を経営されている方で、見ての通りキヴォトスの外から来た男性です」

 

山羊の店主が便利屋68のメンバーにタキトゥスの事を紹介する。

紹介を受けたタキトゥスは言葉を発する事はせず、被った帽子のひさしを軽く摘まみながら小さく会釈した。

が、その所作がタキトゥスに眩しい視線を向ける少女…陸八魔アルのテンションを更に高くさせてしまった。

そして我慢ならなかったのか、彼女は瞬きする間も与えない速さでタキトゥスに接近した。

 

「私、便利屋68の社長を勤めている陸八魔アルよ!タキトゥス・ギルゴアさんだったかしら?!どうすれば貴方の様なハードボイルドでアウトローな人物になれるのかしら!?私、貴方が映った動画を見てて…すっごく感銘を受けたわ!佇まい!銃を抜く姿が!私がなりたい理想図だったの!あっ…実は私、ハードボイルドでアウトローな人になるのを憧れてて…!」

 

矢継ぎ早に言葉を紡ぐアルにタキトゥスは思わず困惑する。

ハードボイルドなのかどうかは分からずとも、生前は無法者だった自覚はある。

だが、それに憧れていると言われるとあまり良い気はしなかった。

それに憧れて成ったとしても、いずれは逃亡と今までしてきた事に対する清算の日々がやってくるのだから。

 

「少し落ち着け、お嬢さん。…アウトローに憧れているだったか?」

 

「ええ、そうよ!」

 

「そうか。憧れるの結構だが…色々あってそういった生き方からはもう足を洗っているんだ。今は只の農場主だ」

 

だが、そんな夢を諦めろと少女の夢を真っ向から否定するような言い方はタキトゥスには出来なかった。

だからこそ、無法者としての生き方から足を洗ったとそれらしい事を言ってこの話題を切り上げようとした。

 

「そ、そうなの…?もしかして嫌な事を尋ねてしまったかしら…?」

 

おもむろに申し訳なさそうな表情を浮かべるアルを見て、タキトゥスは彼女に対する印象を一つ改めた。

 

(アウトローに憧れるにしては…随分と引くのが早いな)

 

本気で憧れているのであれば、もっと強引に来ても可笑しくない、

だが彼女はあっさりと引いた。演じている風には見えない。

となれば嫌な事を聞いてしまったと本気で思っている。

申し訳なさそうな表情を浮かべている辺りを見るに根は善人なのかも知れないと彼は感じた。

 

「ねぇ~、そろそろ寝泊まり出来る所を探そうよー。ムツキちゃん、もうクタクタ~」

 

「四時間もの間、列車に揺られてたからね…。私も少し疲れてきたかも」

 

「じ、実は私も…。す、すみません…私みたいなのが、生意気を言って…!」

 

アルの後ろに控えていた三人の少女らから一夜を過ごせる場所を探そうと言った声が上がる。

それを機にアウトローの話題は切り上げられ、アルもそうねと肯定の声を上げた。

 

「その事だが…この時間帯だと宿はどこも閉まっているぞ」

 

「…へ?」

 

間抜けな声を漏らすアルにタキトゥスはやはりかと胸の内で呟く。

店主の読みは当たっていた。取り敢えず寝泊まり出来る場所は店主が用意しているであろう。

後は店主に任せて、駅から静かに去ろうしたタキトゥスを山羊の店主を呼び止めた。

 

「その寝泊まり出来る場所に関してですが…タキトゥスさん、貴方の家に彼女らを泊めてもらいませんかの?」

 

「…なに?」

 

何かしらの用意はしているだろうと思っていたばかりに、その台詞にタキトゥスは僅かな驚きを覚えながらも足を止めて振り返った。

小さな家に一人で暮らしているものの、部屋はそれなりに余っている上に客人が泊まる事になった際の用意も整えていたりする。

が、まさか自分の家をとはタキトゥスは思ってもいなかった。

 

「…そういう事は前もって言ってほしいものだな」

 

「すいません。何分今しかなかったもので」

 

断れないタイミングを狙っただけだろうに思いながらもタキトゥスはそれを言葉にしなかった。

前の買い物で色を付けて貰った借りがある。

その借りを返すにしては、やや強引でもあるがタキトゥスは断れないし、断らなかった。

 

(暫くは賑やかになりそうだな…)

 

カイナ農業学園からの手伝いが無い限りは、いつも一人で静かな一時を過ごしていたタキトゥス。

事情が事情とは言え一時的に便利屋68の面々を家に泊める事になれば、彼女らに気を使った生活を送らないといけないのは明白であった。




更新が遅れて申し訳ありません。
仕事とこの暑さにやられてしまい、時間が掛かってしまいました。
感想はちゃんと見ていましたが…お返しできていなくて申し訳ない。

やや中途半端な感じで切らせてもらいましたが…お許しを。

では次回ノシ
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