〇月〇日 天候 やや曇り
今日一日で二回目の日記を付ける事になるとは思わなかった。
それ程までに自分の身の周りで多くの出来事が起きたと言うべきなんだろう。
山羊の店主から依頼を受けた『便利屋68』が、よりによって依頼を受けて直ぐにカイナ地区に来る事になったので、その出迎えの為に店主と共に駅の方まで迎えに行った。
どうやら便利屋68の事務所からこの地区までは片道四時間はかかるらしく、到着したとしても泊まれる宿などは既に閉まっているらしい。
寝泊まり出来る所の提供といった意味合いも含めた出迎えとなったという訳だ。
駅員の居ない無人駅で煙草を吹かしていると店主とちょっとした会話になった。
便利屋68に依頼したのは、行方不明となったハルノを直ぐにでも見つけ出す為。
同時に…
──もうあのような思いはしたくない──
そんな言葉を口にしていた。
ここに来て長い方ではないし、行方不明事件は今回が初だと思っていた。
が、店主のあの台詞から察するに似たような事件がこの地区で起きたのではないだろうか。
ではなければ、あんな台詞は出てこない。
問い詰めたい所ではあったが、そこに便利屋68が乗った列車が来た為に聞けずじまいに終わってしまった。
何を知っているかは知らないが、今度会う事があれば聞かなくてはならないだろう。
店主が依頼した便利屋68は四人の少女達で構成されており、社長の陸八魔アルから眩しい視線を向けられた。
何でもハードボイルドでアウトローな存在に憧れているというのだ。
そしてどうやったらそんな存在になれるのかを、俺に聞いて来た。
初対面の相手にそんな事を聞いてくる胆力に驚きを覚えたと同時に少し悲しい気持ちになった。
銃社会のキヴォトスと言えど、どうしてそんなものに憧れを抱いてしまったのか。
ただカッコいいから憧れていると言うのだろうか。であれば尚の事、勧められない。
生前の自分は確かに無法者だった。
義賊の様に振舞おうとしても、何処かで理由も無く事を荒げてしまい敵だけを作り上げてしまう。
時代と環境が違えば…そんな事を考えた事はあるが、このキヴォトスでは決して勧められた道ではない。
アルがそんな人生を進もうとするのであれば、それを歩ませる訳には行かない。
だが、面と向かってそんな夢を諦めろとは言えなかった。
だからそんな生き方から足を洗ったと最もらしい事を言って、はぐらかす事にした。
それと便利屋68の一時的な活動拠点として自分の家を提供する事になった。
自分から申し出た訳じゃない。以前の買い物の色付け代として店主がそう言って来たのだ。
状況が状況だった為に断れなかったし、断る気もなかった。
暫くの間、静かに一人で過ごす事が当たり前だったのだ。多少賑やかになるのは悪い気がしなかった。
あと、便利屋と名乗っているらしいが依頼が来たのは二週間ぶりだったらしい。
色々切り詰めながら生活していたとの事だが…彼女達はあまり知られていないのだろうか?
便利屋68がこのカイナ地区に訪れて、タキトゥスの家を一時的な活動拠点として利用する事になった翌日。
何時もの様に朝の仕事を終わらせたタキトゥスは、今キッチンで朝食の準備していた。
生前であれば
故に自分で作らなくてはならず、クロカやハルノに教えてもらい四苦八苦しながらもそれなりに出来るようになるまで時間が掛かったのは、つい最近の話だったりもする。
本格的なものは流石に出来ないので市販品で対応できるものはそれで対応、出来そうなものは自身で調理する。
かつてのギャングのメンバーが今のタキトゥスを見れば、言葉を失うであろう。
「今になってピアソンの有難みを感じるとはな…」
トースターで焼いたロールパンを皿へ盛り付けて、タキトゥスはふと呟く。
肥満体型の食事係。海軍に所属していた事もあって、その事の話を何度も繰り返されるのは当時のタキトゥスからすれば、ややうんざりしていた。
食料がないから狩りに行って食料を確保してほしいと頼まれたり、手紙を彼の代わりに出しに行った際にはその見栄っ張りな内容に笑った事もあった。
だがギャングが壊滅の憂き目にあい、拠点をビーバーホローへと移動した後には酒に溺れる事もあった。
その後、タキトゥスと顔を合わすことなくピアソンはギャングから離脱。
後の行方を当時のタキトゥスは知らぬまま命を落とし、そして今のタキトゥスにはそれを知る術はなかった。
「…さて、シチューの方は完成したか」
悪い癖になりつつある過去の振り返りをそこまでにして、タキトゥスは出来立てのシチューを皿に盛っていく。
自分の分の朝食は既に済ませてある。今作っているのは便利屋68のメンバーの分。
これだけでも十分重労働であると言うのに、ピアソンはその倍を仕込んでいたというのだから驚きでしかない。
そろそろ朝食の準備も終わろうとした矢先、客人用の部屋のドアが開いた音にタキトゥスは気付いた。
視線をそっちへと向けると、部屋から出てきたのは便利屋のメンバーの一人である鬼方 カヨコであった。
「おはよう、タキトゥスさん。…早いんだね」
「ああ、おはよう。…農場主をやっている以上、朝から仕事があるんだ。今や何時もの事だ」
「そう。準備、手伝おうか?」
「起きたばっかりなんだろう?こっちはやっておくから、顔でも洗ってきな。その間に朝食を食べれるようにしておく。身だしなみを整えたら、好きに食べてくれ」
「分かった。なら、そうさせてもらうね」
顔を洗いに洗面台がある部屋へと消えていくカヨコ。
それを傍目にタキトゥスは出来上がった朝食をテーブルの上へと並べていった。
あとは便利屋68が起きて、勝手に朝食を食べてもらうだけ。
その後は、ハルノの誘拐したあの猫の獣人を探すだけの仕事へと移るだけ。
「…」
そっと視線を窓へと移すタキトゥス。
窓越しから広がる光景には青々とした空が広がっていた。
空気は澄んでいて、そして平和で美しく暮らしやすい地区。
そんな地区で行方不明事件が起きた。
あまり口にはしないものの、タキトゥスはこの地区を気に入っているのだ。
だからこそ、僅かにだがタキトゥスの中で焦りが生まれていた。
こういった行方不明事件は時間が経てば経つほど、ますます難航する。
ましてやこの田舎でとなれば、尚の事と言えるのだから。
時刻は昼頃。
ハルノの行方を知る猫の獣人を探す為、タキトゥスと便利屋68は山羊の店主の運転の元、町の方へと訪れていた。
揺れる車内で店主が情報を提供していく中で、ムツキから疑問の声が出た。
「ねぇ、幾ら小さい地区でもこんな事件が起きたら普通はヴァルキューレに通報するもんじゃないの?」
「そ、そうですよね…どうしてでしょうか…?」
確かにと言わんばかりに隣に座っていたハルカは頷き、アルもカヨコも同じような表情を浮かべていた。
こういう時、通報を受けて動くのは秩序を守る治安機関であろう。
だがどういう訳かその治安機関に動きは見られず、こうして民間人が動いている状況だ。
順番が逆。この状況はまさしくそうとも言えた。
「私とて、それを行わなかった訳ではございません。ですが…昨今、各地で急増している不良集団による犯罪行為を取り締まる為、この地区に配属された人員が応援で向かわされている様なのです。そのせいでこちらへの対応が遅れている状況でございます」
「ふーん…それでも最低限の人員は寄越してくれるんじゃないの?流石に人手が足りないから何も出来ませ~ん、みたいな事はないと思うけどなぁ」
「普通ではそうでしょうな…普通は」
含みのある言い方に便利屋たちは首を傾げる。
すると、二人の会話を静かに聞いていたタキトゥスが口を開いた。
「…何かしらの圧力が動いているのか?」
「…恐らくそうかと思われます。しかしよくお分かりになりましたね」
「似たような事を知り合いから聞いた事はある。スーツを着たトカゲが金で警察を抱き込み、犯した罪を見逃すように指示していたとな」
そして、そいつがどうなったのをタキトゥスは知っている。
だかそれを言う気など彼にはなかった。
誘拐され、溺死させられ、そのままワニの餌になったなど言える筈もなかった。
無論その場に自分が居た事も決して口にはしなかった。
ともあれ何らかの圧力が動いているから、警察が動いてくれない。
「…しかしだ。仮に警察に対して圧力が動いているとして、その理由はなんだ?」
「そこに関しては何とも…」
しかしその理由を知る術はない。
首を横に振って申し訳なそうな表情を浮かべる店主を、タキトゥスは気づかれないように見つめる。
(…何も知らないとは思えんが)
─もうあのような思いはしたくはない─
あの台詞から、タキトゥスは店主が何か知っていると踏んでいた。
「そうか。…店主、車を止めてくれ。あそこで聞き込みをしてくる」
が、今はあえてそれを問い詰めようとはしなかった。
逸れていた話を本筋へと戻し、タキトゥスは店主に車を止める様に指示し親指を立てながら、その先を指した。
タキトゥスが指した方向に全員の視線がそちらへと向けられる。
そこにあったものを見て、店主は無言は貫くも便利屋らはえっ…?と驚きの声を漏らした。
昼間から開店しているのは珍しいが、タキトゥスから何ら違和感ない場所。
一方でアル達便利屋68のメンバーではそこは決して踏み入れる事が出来ない場所。
シラフも酔っ払い、何でもござれ。
酒も飲めれば、食事もできる。何なら賭け事や泊まる事も出来た。加えて殴り合いもオマケでやってくる。
生前では運の無さから銃撃戦に発展した事もあったが、やはり人探しをするのであれば─
「人探しには打って付けだ」
酒場が一番なのである。
投稿が遅くなって申し訳ない…。
色々中途半端ぎみですが…許して…。
ではでは次回ノシ