女冒険者たちの冒険しない大冒険! ~ガールズトーク☆クエスト~   作:深夜に食べるラーメンの味

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第五話「ハロー! ゆーつーぶ!」

冒険者たちの集会所、酒場≪ハラペコ亭≫は今夜も満員御礼です。

カウンターには香ばしく焼けたパンのバスケット。奥の厨房からは煮込まれたスープの香り。

テーブルの上で今日の冒険の戦果を並べる音が、今にもほら、どこからか聞こえてきます。

木製の椅子と机が並ぶ広いホールでは、クエスト帰りの冒険者たちが、思い思いの雑談を楽しんでいる姿が。

 

ここは冒険者の王国に数多存在する、冒険者酒場の一つ。

そんな酒場の一角に、広いテーブルをいつものようにと陣取っている、四人の冒険者たち。

 

剣を腰に携えた少女、剣士のソド子。

盾と鎧とで身を包む少女、盾騎士のタテ子。

幅広のとんがり黒帽子をかぶった少女、魔術師のマジョ子。

白金の僧服に両手でアミュレットを握る少女、僧侶のクスリバ子。

 

おやおや、とっても楽しそう。

どうやら女冒険者たちのパーティのようですね。

 

彼女たちのテーブルには、サクサクの細切りポテトとベリージュースのセット。

チーズがたっぷり乗った小さなピザ。

机いっぱいのごちそうを囲んで、今夜も女子冒険者会が始まります。

 

 

「それじゃみんな、高評価とチャンネル登録よろしくね!」

 

 

ソド子の声がハラペコ亭の天井にまで突き刺さります。

ギルドカードを剣の先につなげて、横ピース。

とっても上機嫌ですね!

 

 

「配信するなとは言わないけど、あんま映さないでよね」

 

 

傾けたグラス越しに渋い顔。

タテ子のお小言に、ソド子はぶーぶーとほっぺを膨らませます。

 

 

「えーっ、いいじゃーん。私たちの冒険配信もけっこーリスナーさんたち増えてきたんだからさー。ファンサしようよファンサ~」

 

 

剣の鞘の先にはりつけていたギルドカードを、ぺりりと剥がしています。

そう、最近の冒険者たちの間では、ギルドカードを使った動画の配信、視聴が流行しているのです!

ソド子の剣は自撮り棒にもなる優れものでした。

 

ギルドカードの最新モデルでは、冒険の記録をリアルタイムで動画化、通信できる仕様が導入され、冒険者たちの副業として動画配信も活性化。

冒険の場面を投稿することで、報酬や投げ銭がもらえる≪勇通場(ゆうつうば)≫という、コミュニティサイトも開設されています。

動画配信は、今や立派な冒険者の収入源の一つとなっているのです!

 

 

「ほら、コメントもらえると嬉しいんだよね! ほとんどモザイクで薬草生える、だって!」

 

「ゴブリン解体してみた動画に集まる奴らのコメントとか見たくないから」

 

 

ソド子がぴょんぴょんと椅子の上で跳ねながら笑います。

コメント欄は盛況のようです。

 

 

「で、そういえばソド子のチャンネルってどんな名前だったっけ?」

 

「ソド子の冒険してみた! 私たちのパーティの冒険風景を見てもらう、やってみた系だよ!」

 

「ふーん。ん、やってみた系?」

 

「やだ、ウチのリーダー堅すぎ……物理無効を防御で潰してみた! の視聴回数が一番多いよ!」

 

「あれはやってみたじゃねーんだわ! 普通に追い詰められてたんですけど!?」

 

「またまた御冗談を薬草」

 

「薬草生やしてんじゃねーわい!」

 

 

ちらりとギルドカードの画面を見ると、登録者数もかなり多くいることがわかります。

いつも新しい冒険を、がテーマのソド子の配信では、パーティメンバーの冒険風景をメインにライブ配信しているようです。

パーティの座右の銘は勢いが命。

ぴったりですね!

 

 

「許可出した私が言うのもなんだけど、あんまり個人チャンネルにパーティメンバー出さないでよね」

 

「だーってパーティチャンネル作っちゃだめって言うんだもーん」

 

「あたりまえでしょ。副業で本業の稼ぎを賄おうとか甘えがすぎるっちゅーの」

 

 

最近では副業であった動画配信が本業化する逆転現象が起きているそうです。

勇通場(ゆうつうば)を専業とする冒険者を、ゆうつうばーと言うのだとか。

子どもたちのあこがれの職業ナンバーワン(ギルド調べ)。

好きなことで生きていく。

夢が広がりますね!

 

 

「その代わり個人配信や副業の稼ぎをよこせなんて言わないってんだからいーでしょ。

 この際だから聞くけど、他に個人で配信とかしてる人いる?」

 

「はい」

 

 

ちょこんとあげられた手。

マジョ子のエントリーです!

 

 

「マジョ子は、いや聞かなくてもわかる。なんてチャンネル名なの?」

 

「“ポーテム -芋を焼く音-”。無言ASMR」

 

「検索、ああこれ? 焚き火で芋が焼ける動画が延々流れてるわね……これ、誰が見るのよ」

 

「寝落ちできます、精神が浄化されます、ってコメントが並ぶのよね~。さすがマジョ子ちゃん」

 

「たまに針仕事もする。ハンドメイドの人形がよく売れる」

 

「夜中にじゃがいもをかじろうとしたネズミをやっつけてくれました、ってレビューがあるわね~」

 

「呪いの人形では?」

 

 

ASMR。

Autonomous Sensory Meridian Response(自律感覚絶頂反応)の略語として知られる動画ジャンル。

聴覚や視覚への刺激によって得られるリラックス効果を目的とした配信です。

それと並行して、マジョ子はハンドメイドの人形作成作業も配信しているようです。

無言系職人チャンネル。

ポーテム……ポテトを食べた後には指先は綺麗に。

奥が深いですね。

 

 

「はいはーい! わたしはね~、癒しの祈り配信。“祈りのことば”ってチャンネルで~す。ふふふ~」

 

 

クスリバ子が形のよい鼻の下に白いヒゲをつけながら、自慢げに微笑みます。

 

 

「登録者数はなんと三桁万人。すごいでしょ~!」

 

「へえ、すごいじゃない。あーだからたまに会釈してくる冒険者がいるわけね」

 

 

タテ子が素直に感心したように頷きました。

ギルドカードの画面をタップして検索すると、クスリバ子のチャンネルが表示されます。

内容は主に聖書の朗読からお悩み相談まで。

癒しを求めた現代人たちの憩いの場。

みな寂しく、疲れているのですね。

 

 

「いけない夜の僧侶ちゃん」

 

「あーっ! あーっ! いけませんマジョ子ちゃん! あーっ! わーっ!」

 

「ちょ、ちょ、ちょ、なに!? なんなの!?」

 

「肌色、BANされないギリギリのライン、コスプレパイプオルガン」

 

「あーっ! 困りますマジョ子ちゃんあーっ! 困りますあーっ!」

 

 

クスリバ子は真っ赤になってパニック。マジョ子の口を必死で押さえます。

おやおや、酔いがすっかり冷めてしまったようですね。

マジョ子の口を押さえます。

遠くの席で、大声を出して目立っているクスリバ子へと、丁寧な会釈をする冒険者がちらほらといます。

 

お世話になっているから。

だそうです。

クスリバ子と全く接点がないようですが、いったい何をお世話したというのでしょう。

不思議ですね。

 

 

「繰り返すけど、副業の稼ぎは個人で自由に使いなさいな。

 引き続き個人収入はパーティ活動費に充てない取り決めとするから。でも、ちゃんとお金の管理はしなさいよね」

 

 

タテ子の表情はキリリと引き締まっています。

リーダーとしての矜持を感じます。

 

 

「でさー、万バズ常連のお二人さんはいったいいくらぐらい稼いでるの? 私、気になります!」

 

 

ソド子が身を乗り出しました。

それに対して、マジョ子とクスリバ子は顔を見合わせて。

 

 

「私は……ごにょごにょ」

 

「私も……ごにょごにょ」

 

「えええ、そんなに稼げるの!?」

 

 

ぴくり。

タテ子の耳が動きます。

目ざとく見つけたソド子がにんまりと笑いました。

 

 

「おやおや~? リーダーは配信活動なんて興味ないんじゃないでしたっけ~?」

 

「は? ないが? 興味なんとほんとこれっぽっちも少しもないが?」

 

「でも~ごにょごにょくらいの投げ銭が毎回入ってくるんだって~?」

 

「うっ、き、興味なんてないんだから!」

 

 

明らかに動揺していますね。

タテ子の視線はあちこちに泳いで、籠手がカチャカチャと音を立てています。

掴んでいたピザからは伸びたチーズがみょんみょんと踊っています。

 

 

「タテ子さんや、正直におなりなさいな。いつ配信するの? 今でしょ!」

 

「やらないってば! 配信とか、き、興味なんてないんだから……!」

 

「ゆれてる。げんきん」

 

「タテ子ちゃんの個人主義なとことソロバンで叩かれると防御力ゼロになるところ、かわいいわね~うふふ」

 

「うんちく教える勉強系のチャンネルやったらいいじゃーん! ぜーったい人気でるって!」

 

「そ、そうかな? いやないから! 騙されんぞ! そんな、趣味と実益を兼ねて、でも、ぐぬぬぬぬ! やんないから! やらないんだからね!」

 

「からの~?」

 

「とか言いつつ~?」

 

「まさかの」

 

「や、やんねーっつってんだろ! やらな、やらないから……やらないかっての!」

 

 

明日の冒険のために、飲んで、食べて、英気を養う。

女冒険者たちの冒険は、帰ってからが本番です。

 

それゆけ女冒険者!

いざゆけ女冒険者!

 

彼女たちの「お話」は、今日のところは、これでおしま……おや?

 

タテ子の手がテーブル下に滑り込みます。

そっとギルドカードを取り出して、画面をこっそりと操作していますね。

開いた画面には、チャンネル開設の情報を入力するタブ。

 

『タテ子の勇通部大学(仮)』 

 

勇通部戦国時代に、今新たなチャンネルが幕を開けました!

 

彼女たちの「お話」は、今日のところは、これでおしまい。

 




試験的に小説タイトル名を数案あった中から変更してみたいと思います。
ご迷惑おかけします。
探し難い等の問題がございましたらまた引き戻しますので、よろしくお願いいたします。
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