造化弄人━百地姉弟異聞━   作:而Laugh

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2016/9/9

 

 自立。という言葉がある。辞書を開いてみれば、そこには「自分以外のものの助け無しで、自分の力で物事をやって行くこと。」などとある。正味な話、自分には縁遠い言葉だろう。物理的に。

 

 自己紹介をしておこうか。

 

 百地千尋(モモチチヒロ)、呪術師、男、1月3日生まれ、B型、好きな食べ物は炙りトロサーモンとあたりめ。生まれた時から両膝から先が無い。物理的に自立ができないっていうのはそういうこと。義足の助けが無ければ、文字通り自分で立つことができない。

 

 さて、ここまでで質問は?

 

 ん? 呪術師とは何かって? 呪霊を祓う仕事のことだ。呪霊とは何かって? 人間の負の感情が寄り集まって産まれる化け物のことだ。けど、偶にいるんだ。その呪霊より、更にタチの悪いやつが。

 

 俺の姉とかね。

 

 

 

 

 

 

 顔が広い。という言葉がある。インターネットで調べてみれば、そこには「付き合いの範囲が広い。知り合いが多い。」などとある。正味な話、なかなか的確に自分を表してくれる言葉だと思う。ん? 物理的に? なんの話?

 

 自己紹介をしておこうか。

 

 百地万里(モモチマリ)、呪詛師、女、12月26日生まれ、B型、好きな食べ物は炙りしめ鯖とイカの塩辛。術師の家系で、経歴は高専卒、その後キャバクラでアルバイト、その後不動産の営業、その後アイヌの呪術連所属、今はそれも辞めて呪詛師の一派に所属。顔が広いっていうのはそういうこと。呪術から離れてた時期の人脈にも自信がある。

 

 さて、ここまでで質問は?

 

 ん? 呪詛師とは何かって? 呪殺を生業とする呪術師のことだ。呪術師とは何かって? 文字通り相手を呪う術(すべ)を扱う人間のことだ。けど、偶にいるんだ。その人間ではなく、天から呪われたような産まれ方をするやつが。

 

 私の弟とかね。

 

 

 

 

 

 

 

 2016/9/9

 

 

 

 

 

 

 

 夜の山道。デリバリーバッグを載せた1台のドラッグスターが駆ける。乗り回しているのはノーヘルメットの少年。恐らくは無免許。

 

 2つ、その見てくれに付け加えるならば、バイクのタイヤはオフロード用のそれに付け替えられており、少年の両足はやけに凝ったフォントの色文字で装飾された義足であった。

 

 少年は誰もいない山中の駐車場でバイクを降り、携帯を弄り始めた。

 

 10分ほど経った頃だろうか。後ろから声がかかった。

 

 

 

「よく来たね、千尋。」

 

「……万里。」

 

 

 

 にこやかに話しかけた万里に対して、千尋はげんなりとした顔で振り向いた。

 

 

 

「姉様と呼べって昔から言ってるでしょ。もしくはお姉ちゃんでも可。あ、むしろそっちの方が良いかもしれない。」

 

「そう呼ばれたいなら尊敬させてくれって昔から言ってるだろ。」

 

「相変わらず可愛くない弟だわ。私が家出てからそこそこ経ってるっていうのに、なんかないわけ? 元気だったー? とか、心配したよー、とか。」

 

「心配なんていう自分に無いものを人に要求するんじゃねえ。近況報告にこんなとこまで呼び出したのか?」

 

「……可愛くないわ〜。」

 

 

 

 万里は大きくため息をつきながら駐車場のベンチに座り、足を組んで頬杖をつきながら話を切り出した。

 

 

 

「今回呼んだのはスカウトの為。」

 

「スカウト?」

 

「そ。私今とある呪詛師に付いていってるんだけどね。戦力が要るって言ってたからさ。千尋も一緒に来ない?」

 

「行って何するんだよ。」

 

「知らなーい。私は隠れ蓑に都合が良いから付いていってるだけだし。」

 

 

 

 肩をすくめてそう言う万里に、呆れるように千尋が返す。

 

 

 

「そういう度を超えて自己中心的なとこが尊敬できないんだよ。断るに決まってんだろ。」

 

「え〜、なんで? しがらみとかないよ?」

 

「そういう問題じゃねえ。逆になんで頷くと思ったんだよ。そんな下手に敵増やすような誘いに。」

 

「今の呪術界なんて既に周り全員敵みたいなもんじゃない。」

 

 

 

 指を折りながら万里は話を続ける。

 

 

 

「世襲で上に立てただけのやつ。保身しか考えないやつ。やたら高慢で見下してくるやつ。ちょっと立場脅かそうもんならすーぐ叩いてくるんだから。同じ呪術師だっていうのに。」

 

「下手に盾つかなきゃ叩かれやしねえよ。俺はそこそこ安全に金が稼げりゃそれで良い。御三家だの呪術連だの上の派閥争いも知ったこっちゃないね。」

 

「じゃあ尚更こっちでもいーじゃない。身の丈に合わない任務回されたらそれこそ安全も何もないよ?」

 

「アホ言え。こっちにゃ五条悟がいんだぞ。やべー任務に回されたら、とりあえず生き延びてりゃ後はアイツがなんとかする。アレ敵に回すのが1番のリスクだろ。」

 

「ふーん。でもさ……」

 

 

 

 何かを言いかけた万里を手で制して、「そして何より…」と言葉を繋げる。

 

 

 

「お前が嫌いだ。」

 

「げ、その切り札使っちゃう?」

 

 

 

 万里はため息をついてから立ち上がると、大きく伸びをした。

 

 

 

「じゃあしょーがないか〜。今回は諦めるわ。」

 

「次回もねえよ。」

 

 

 

 そう言う千尋を尻目に万里は踵を返した。

 

 

 

「用事済んだし私行くね。千尋も帰り道気をつけて。」

 

「待てよ。」

 

「何。手短に済んだんだからいーじゃない。」

 

「呪詛師と通じてるなんて言ったやつを素直に行かすと思ってんのか?」

 

 

 

 千尋はバイクに手を添えて術式を発動した。バイクが手に吸い込まれていったかと思うと、千尋の体が形を変えていく。

 

 両膝から下は大きなタイヤに。両肘から先はチェーンソーに。鼻から上はヘッドライトに。その両端から伸びるハンドルは角のようにも見える。垣間見える首や二の腕はバイクのボディを思わせた。

 

 

 

 『造化融術』

 

 己と、己が直接手で触れた対象、もしくはその対象同士を融合させる、百地家相伝の術式。千尋はこれによって自分とバイク、そしてチェーンソーの3つを融合させた。

 

 

 

「チェーンソーどこから出てきたのよ。」

 

「バッグの中だよ。」

 

「悪趣味なデザインね。」

 

 

 

 万里がそう言うや否や、草陰から何かが千尋を襲った。千尋はチェーンソーでそれを叩き斬る。

 

 襲い掛かってきたのは、口がワニのようになった大型の野犬だった。

 

 

 

「人のこと言えねえだろ。」

 

「私は自覚があるもの。」

 

 

 

 万里が受け継いだ術式もまた『造化融術』。

 

 しかし、同じ術式であっても使い方はこうも異なる。いつの間にか万里の足元に同様の野犬が4匹ほど構えていた。

 

 

 

「悪いけど大人しく捕まる気もないから。じゃあね〜。」

 

「逃がすか。」

 

 

 

 野犬のうちの1匹に乗って万里が逃げ始めた。エンジン音と共に追う千尋とそれを妨げる野犬。チェーンソーの一振りで2匹切り裂き、足のタイヤで1匹を轢く。

 

 瞬く間に邪魔者を退けた千尋は一気に距離を詰める。

 

 

 

「犬でバイクから逃げ切れるつもりかよ。」

 

「……単純な使い方しかしないなあ。」

 

 

 

 万里がなにかを放り投げた。手榴弾だ。千尋は爆発する前にチェーンソーで弾き飛ばす。しかし手榴弾は飛ばず、それどころか

 

チェーンソーからも離れない。よく見れば手榴弾はいつのまにか、トラバサミのような口をしたヤマアラシに姿を変えて、チェーンソーに噛み付いていた。

 

 

 

「なんだこりゃあ……。」

 

「『造化融術』は①混ぜて、②発現させる、その2ステップ。あらかじめセットしておいて後から発現させれば、こういう使い方もできる。わかる? ただその場にあるものを融合させるだけが能じゃないってこと。」

 

 

 

 ヤマアラシが爆発した。弾け飛ぶヤマアラシの針が千尋を襲う。

 

 鋼の体となった千尋にダメージは少ないが、それでも体勢は崩れる。

 

 その隙を見て万里は術式を発動する。野犬は首から先を除いてバイクのようになり、更に加速していく。

 

 当然千尋が視線を向け直す頃には、距離はまた離れていた。向かっている先は街ではなく山頂。逃走経路が掴めない。どういうルートで逃げ切るつもりかわからない以上先回りは出来ず、ただ正直に追う他ない。

 

 再びエンジンを吹かし、足のタイヤを回転させる。

 

 

 

「待てコラァ!」

 

「はっや。やっぱり天与呪縛がある分出力は千尋が上だなあ。」

 

 

 

 気づけば2人は広い野原へと出ていた。

 

 千尋からすれば好都合。逃げながら何かを仕込もうにも、周囲には何も無い。踵落としのように万里へとタイヤを振り下ろす。

 

 

 

「ま、関係ないけど。」

 

 

 

 突如万里が野犬バイクを反転させ、飛んだ。

 

 

 

「は?」

 

 

 

 千尋は間抜けな声を上げながら、目眩しのように突っ込んでくる野犬バイクを轢くが、その先に万里はいなかった。

 

 急ブレーキをかけて辺りを見回す。

 

 こんなスピードで飛び降りたらただでは済まない。ましてや万里は千尋のように体を強化しているわけでもない。だが、周囲には野犬の血とバイクの破片以外には、倒れている人影も何もなかった。

 

 一瞬、自分に射す月明かりを何かが遮った。ふと、上を向くとやつはいた。

 

 

 

「あ、見つかっちゃった。」

 

 

 

 上空には縄梯子に掴まった万里。縄梯子の先には、背中にプロペラを生やした大きなカメレオンがいた。

 

 

 

「……クソ、逃したか。」

 

 

 

 既に自分の射程外となっていることを察した千尋は、その場で術式を発動する。姿は少年のそれに戻り、脇にもデリバリーバッグを載せたドラッグスターが戻った。

 

 ケータイのバイブレーションが鳴る。見てみれば万里からのメールが入っていた。

 

 

 

『バイバ〜イ。来年から高専生だっけ?また遊ぼうね。』

 

 

 

 ピキリ、と千尋のこめかみに青筋が浮かび、ケータイを握る手に力がこもった。

 

 ケータイからミシリと嫌な音が鳴って慌てて力を緩める。

 

 

 

(やっべ壊れたか? ………………いいやもう、スマホに替えよ。)

 

 

 

 

 

 

「こにゃにゃちは〜。」

 

「おや、来たのかい万里。」

 

「ごめ〜ん。昨日結局フラれちゃった。」

 

「……ああ、例の弟くんか。まあ良いさ、まだまだやれることはある。」

 

「そう言ってくれると助かるわ。暫くは適当な人間何十人かにでもカメラ混ぜて情報収集かな〜。」

 

「全く、恐ろしいね。さて、私は少し外すけど、好きに寛いでくれて良い。」

 

「はいはーい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………恐ろしい、ねえ。君の方がよっぽどだと思うよ。夏油君。」

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