造化弄人━百地姉弟異聞━   作:而Laugh

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2017/12/25

 

 実家の縁側。自分の膝から先は木製の義足。目の前にはまだ小さな万里がニンマリと笑っている。

 

 家の中に目を向けると、母が菓子とジュースを用意していた。

 

 万里もそれに気付き、小さな俺を頭に乗せてトテトテとテーブルに近づいていく。菓子を手に取ろうとしたところでピタリと止まると、俺の両脇を持って頭の上で前にズラした。重心はまだ万里の頭の上なので落ちないが、少し前に傾く。菓子が手に届く距離になったので拾うと、万里は満足したように俺のポジションを元に戻してテーブル横の椅子を引く。少し考えてようやく気付いたが、クレーンごっこがしたかったのだろうか。

 

 2人とも席についた段階で、俺は部屋の壁に備え付けられた鳩時計に気がついた。秒針が12の文字を指し、時計から陶器の鳩が現れる。

 

 鳩は時計から飛び立ち、俺の目の前に降りた。動かないはずの嘴がぱくぱくと開閉する。

 

 

 

 

 

 

 

『まダ終わっテなイ。マだ終ワッてナい。』

 

 

 

 

 

 

 

 頭の上に掌の感触。

 

 慣れ親しんで、そして最も嫌った感触。

 

 目線をズラせばそこにいる、幼い姉の声ではない。少し大人びながらも悪戯っ子のような、いつもの万里の声。

 

 

 

「あと10ヶ月だ。凄いことになるよ。」

 

 

 

 振り返ろうとして気付く。体が動かない。

 

 そこでようやく理解した。

 

 

 

「…………夢か。」

 

 

 

 目を開けば見覚えのある天井。上体を起こして辺りを見回せば、高専の保健室であることがわかる。

 

 急に戸が開かれた。

 

 

 

「お疲れサマーソルト!」

 

「……五条悟?」

 

 

 

 現れたのは白髪の不審者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2017/12/25

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某県某所の大きな屋敷。表札には『百地』の文字。離れの隅には、地下へと続く階段がある。下っていけば殺風景な部屋に椅子が一つ。蝋燭の灯だけが周囲を照らしている。

 

 

 

「アレ? 俺が一番乗りか?」

 

 

 

 アロハシャツにバケツ帽にラウンドタイプのサングラス。極め付けは半ズボンにビーチサンダルと、およそこの場に似つかない格好の男が部屋に入ってきた。

 

 

 

「いいえ、2番目です。兆治(チョウジ)さん。」

 

「うお、ビックリした! 二三(フミ)か。」

 

 

 

 真横から和装の女が声をかける。顔は正面を向いたままだ。

 

 階段からはまた二つの足音。新たに現れたのは緑の褞袍に臙脂色の羽織を着た男と、やや小柄な老人だった。

 

 

 

「おっと、俺達が最後らしいぞ? 叔父貴。」

 

「……フン。」

 

 

 

「アレ、兄貴と叔父貴が最後? 親父と厘(リン)は?」

 

「ああ、妹なら……」

 

 

 

 兆治の問いに答えようとした二三を、老人が手で制す。

 

 

 

「あんな放埒娘は知らん。」

 

「ああ、何となく察したよ。親父の方は?」

 

「親父は仮にも呪術界を追放された身だからなあ。こういう場には来れんよ。」

 

 

 

 やや釈然としないながらも、兆治はポケットに手を突っ込んだまま、部屋で唯一の椅子に目を向ける。

 

 

 

「ふーん。……で、今日呼ばれたのは“あの子”のことかい?」

 

 

 

 椅子には猿轡をかまされた女が1人、縛り付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、“呪詛師”百地万里の処遇についてだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉へ最初に返したのは百地二三。

 

 

 

「処遇も何も、呪術規定に則れば処刑でしょう。夏油傑に与して呪霊を指揮し、京都に大々的な攻撃を行っています。」

 

「ん〜、でも報告書じゃあ呪霊の殆どは、万里ちゃんじゃなくて別のやつが指揮とってたみたいだぜ?」

 

 

 

 スマホで資料を見ながら返す兆治を二三が睨むが、兆治はそれを意にも介さない。

 

 

 

「加えて言えば、万里ちゃんは京都に侵攻してすぐ、被害者出す前に千尋とその友達に捕まったんだろ? 確かに何かしらの実刑は必要だろうけど、処刑とまでは行かないんじゃないか?」

 

「兆治さん、報告書をよく読みましたか? 彼女は非術師に呪霊を混入させて殺害しているんですよ?」

 

「あ、ホントだ。」

 

 

 

 二三は次に老人へと顔を向ける。

 

 

 

「そもそも父さん、これは私達ではなく総監部が判断すべきことでしょう。何が悲しくて身内に処刑を言い渡さなきゃいけないんですか。」

 

「……今は上も百鬼夜行の後始末でゴタゴタしてる。精査する人間も時間も足りんから、こっちの判断を参考にするとのことだ。」

 

「要するに、『夏油傑周りから五条悟の粗を探すのに忙しいんで、三下の始末は勝手に決めろ』って話さ。」

 

 

 

 老人の言葉に男が付け加えた。それを受けて兆治が口を挟む。

 

 

 

「相変わらず目の上のたんこぶなんだねえ。しかしなんだ。じゃあ別に処刑にしなくても、俺達が『シロ!』って言っちゃえば終わりじゃないか。」

 

「兆治さん、殺人犯を無罪放免にする気ですか?」

 

「そこまでは言わないが……まあ可愛い姪っ子を庇ってやりたい気持ちはあるな。」

 

「私情を挟まないでください。」

 

 

 

 ヒートアップする前に男が2人の間に割って入った。

 

 

 

「まあそう熱くなるな。正直、俺も万里の処刑には反対でね。既に叔父貴と意見が割れてる。」

 

「『牙を剥くなら殺してでも止める』と、言ってたはずなんだがな。」

 

「殺さずとも止まったんだから良いだろう叔父貴。ともかく、俺と叔父貴じゃ平行線だから、特に信頼の置けるお前達を呼んだわけだ。」

 

「そうは言っても兄貴、これじゃ結局2対2だろう。折衷案でも模索するか?」

 

「いやあ、まだ1番聞かなきゃならん意見を聞けてないだろう。」

 

「1番聞かなきゃならん意見?」

 

 

 

 兆治が首を傾げた直後、階段から新たな足音が聞こえてきた。

 

 老人が男に声をかける。

 

 

 

「どういうことだ一(ハジメ)。儂等で全員じゃなかったのか。」

 

「今は三太夫を襲名してる筈だぜ叔父貴。その名前はひとまずよしとくれ。」

 

 

 

 降りてきたのは長身で白髪の男だった。

 

 

 

「お疲れサマリー! 皆さんお揃いで。」

 

 

 

 老人が三太夫に食ってかかる。

 

 

 

「一体何のつもりだ!」

 

「そう声を荒げてくれるな叔父貴よ。気持ちはわかるが、そりゃ早とちりってもんだ。」

 

「……何?」

 

「叔父貴が必死こいて加茂家とコネを繋いでくれたおかげで、ウチはなんとかなってる。だのに五条家を内輪の話に首突っ込ませちゃあ、話の拗れること拗れること。だが、今回は本命を連れてきてもらっただけだ。」

 

「そんな詭弁が……」

 

「あー、内輪揉めはその辺でいいかな?」

 

 

 

 老人を制して五条が口を挟んだ。

 

 

 

「ああ、これは失敬。こっちは大丈夫だ。」

 

「あ、そう? んじゃ入ってきて良いよー。」

 

 

 

 正真正銘最後の1人が部屋に踏み入れる。

 

 

 

「これ俺が先に入った方が話が早かったんじゃね?」

 

 

 

 義足の少年がそこにいた。

 

 最初に声をかけたのは百地兆治。

 

 

 

「おお、千尋久しぶりだなあ! 兄貴が本命って言ったのはお前のことか。」

 

「ああ、うん久しぶり。で、結局俺が呼ばれたのはここの愚姉のこと?」

 

 

 

 千尋はそう言いながら万里に近づき、猿轡を外した。口に残った繊維を吐き捨てて万里が返す。

 

 

 

「誰が愚姉だ。猿轡外して良いわけ?」

 

「このメンツ前にして何ができんだよ。ありもしないスキャンダルでもでっち上げてみるか?」

 

 

 

 スキャンダルはともかく、と言って三太夫が2回手を叩く。

 

 

 

「おおよそは千尋の言う通りだよ。死刑賛成派と反対派で真っ二つに分かれていてな。」

 

「俺の一存でこいつの生き死にが決まる、と。」

 

「その通り。」

 

 

 

 姉に向かってこいつ言うな、と口を挟む万里を見ながら二三は思案する。

 

 

 

(……茶番ね。五条悟が出てきてる時点で、一さんは自分の意見を通す気しかない。例え千尋君が処刑を選んだとしても、理由をつけて無期限同然の執行猶予がつくのがオチか。)

 

 

 

 ヘタに拗らせるくらいならば、いっそ処刑反対に意見を変えようか。そう思って二三は口を挟もうとするが、その前に千尋が答えた。

 

 

 

「じゃ反対に1票で。」

 

 

 

 二三は上げかけた手を下ろし、兆治は片眉を上げた。老人はため息をつき、三太夫は表情を変えずにその答えを受け取った。

 

 

 

「よし、それじゃあ話は終わりだな。結論を総監部に伝えて……」

 

「待てよ親父。」

 

「……ん?」

 

 

 

 話を切り上げようとする三太夫と、それを止める千尋。五条悟の吊り上がった口の端に気づいたのは一体何人か。

 

 

 

「まだ処遇は決まりきってねえよな。俺は死刑反対に1票入れただけだ。」

 

「ふむ、確かに。じゃあどうするか。」

 

 

 

 わざとらしく顎に手をやる三太夫。千尋はそれを冷めた目で見る。

 

 

 

「まどろっこしいのは無しにしようぜ。親父、アンタ“五条サンに何頼んだ”。」

 

 

 

 千尋や二三だけではない。最早その場にいた全員が気付いていた。こんな話し合いには何の意味もないと。

 

 

 

「……何も?」

 

 

 

 しかし、当の三太夫は何も明かす気はなかった。

 

 

 

「じゃあこっちに聞くわ。五条サン、アンタ親父に何頼まれた?」

 

「万里を僕の好きなように使って良いから、死刑だけ先延ばしにしてくれって頼まれたね。あわよくばスパイまがいのことでもさせたかったんじゃない?」

 

 

 

 とは言え、五条からすれば三太夫の思惑など知ったことではないし、大人の思惑に学生を巻き込むなど論外極まりない。肩を持つつもりなど毛頭無かった。

 

 五条に礼を言う千尋を見ながら、三太夫は観念したように肩を竦める。

 

 千尋は顔を父親に向け直した。

 

 

 

「権謀術数大いに結構だよ。没落してようが腐っても百地一門。それの頭を張ってんだから手段を選べねえ時もある。それすらわからねえほど子供じゃねえ。」

 

 

 

 だがな、と言葉が続く。

 

 

 

「義理も誠意もシカトして、掌の上で良いように転がそうって“濁り”も飲み干せるほど、大人でもねえんだよ。」

 

 

 

 その時、誰もが口を閉じていた。

 

 圧されたか、と聞かれればここにいた全員がNoと答えるだろう。仮にも一族の上役を集めた形。わずか15歳の少年の言葉でどうこうされるような精神ではない。

 

 驚いたか、と聞かれてもここにいた全員がNoと答えるだろう。次期当主がどういう性格か、大なり小なり皆知っている。

 

 だが今このとき、誰もが口を閉じていた。

 

 ハタから見れば治まろうとしたその場を、言わば“青少年の主張”のような何かで壊そうとしているにもかかわらずだ。

 

 

 

「なら、どうする?」

 

 

 

 当然と言うべきか。最初に口を開いたのは百地家当主。

 

 

 

「処遇の話はお前の言う通り終わってない。望むなら納得いくまで話に付き合ってやる。そういう立場に、お前は今立っている。」

 

「まさか。俺程度がこの場で考えただけの案が、アンタが頭捻らし続けて出した答えより優れてると思えるほど自惚れちゃいない。」

 

「なら、『より優れた答えは出せないが、自分が気に食わないから案を取り下げろ』と、そういうことか?」

 

「俺がいつそんなこと言ったよ。」

 

「……何?」

 

「俺は確かに気に食わねえって話をしたが、案を取り下げろとは言ってねえ。『義理を通した上で進めろ』と、そう言ってんだ。」

 

「……義理ってのは?」

 

「全部話せ。計画も意図も全部。それでこの場が通らなかったなら諦めろ。」

 

 

 

 時間にすれば数秒。だがこの場にいる者からしたらどれだけの静寂に感じたか。

 

 

 

「……良いだろう。総監部へ伝える予定の処遇と、実際の処遇。お前達にやってもらうこと全て話そう。」

 

 

 

 ようやく破られた沈黙。ならばと開かれそうになった口を手で制して、「ただし」と続ける。

 

 

 

「これから話すことを外部に漏らすことは禁ずる。一切、禁ずる。」

 

 

 

 当然、それは『縛り』であった。

 

 ここから先の話を、この場にいなかった者が知る由は無い。わかることは総監部へ伝えられた百地万里の処遇が精々。

 

 それは以下の通りであった。

 

 

 

1、百地万里は四ヶ月の禁錮処分とする。

 

2、禁錮終了後、五条悟の監督下に置き、如何なる指示にも従わせるものとする。

 

3、以上が守られない場合、百地三太夫、百地千尋、両名の合意によって百地万里を処刑する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 離れを出て別れる少し前。

 

 家族といくらか話す時間はあった。

 

 

 

「悪い兄貴、飛行機の時間近えわ。んじゃまたな千尋。手土産も用意してなかったし、代わりにスペアの帽子かサングラスやるよ。」

 

「…………じゃ帽子で。叔父サン今は北海道だっけ? 何回見てもその格好で過ごす場所じゃないんだよな。アロハに半ズボンて。」

 

「子供は風の子って言うだろ?」

 

「叔父サン幾つだよ。」

 

「心は永遠のティーンエイジャーだ。じゃーなー。叔父貴と二三も元気でなー。」

 

 

 

 どこからか取り出した替えのバケツ帽だけ千尋に投げ渡し、兆治はタクシーを捕まえに行った。

 

 それを見送りながら、二三も帰り支度を進める。

 

 

 

「二三サンは東京だっけ? 八(ワカツ)と九(ヒサシ)は元気?」

 

「ウチの子達なら心配要らないですよ。今日も塾ですが。」

 

「あんま厳しくしないであげてよ。『勉強めんどい』って偶にメールがきやがる。」

 

「そうは言っても、術士にならずとも生きていけるだけの教養は必要です。こんな世界、入らずに済むならそれに越したことはありません。千尋君も、勉学を疎かにしてはいけませんよ?」

 

「俺はこっちで稼ぐもんよ。」

 

「いざという時、もしもの時の選択肢があるかないか。大きな違いですよ。それでは千尋君、一君、父さん。壮健で。」

 

 

 

 支度を済ませて二三も離れの玄関を出て行く。

 

 ふと後ろを振り向けば、父親と大叔父が立っていた。

 

 

 

「千尋、背負うものは多いが、これから更に増える。この程度で音を上げてもらっては困るぞ。」

 

「うへえ、スパルタだ。2人はこれから総監?」

 

「ああ。先に出ているぞ、一。」

 

「三太夫と呼んでくれ。俺もすぐ行くよ。」

 

「じゃ、2人とも気ぃつけて。」

 

「ああ。」

 

 

 

 大叔父を見送った千尋の斜め前では、父親が下駄を履き直していた。父親は目線を下駄に合わせたまま声をかけてくる。

 

 

 

「なぁ千尋。」

 

「ん?」

 

「『アンタが頭捻らし続けて出した答え』なんて台詞、なぜ出てきた? 最後に会ったのなんて一年近く前だろう。」

 

「いや、親父ほどの日和見野郎が大叔父にすら相談せずに進めてんだから、並じゃねえことぐらいわかるわ。」

 

 

 

 心外だというように返す千尋に、くつくつと三太夫は笑った。

 

 

 

「その日和見野郎の意図を汲んであの場を丸く収めようとは思わなかったわけだ。」

 

「親父に謀略なんて向いてねえよ。結局大叔父がほとんどブラッシュアップしてたじゃねえか。」

 

「いやあ、やはりあの人には敵わんな。」

 

 

 

 ヘラっと笑ってそう言う三太夫は、息子に首だけ向けてその手の帽子を指差した。

 

 

 

「似合うと思うぞ。兆治の帽子。」

 

「そうかい。お気に入りにさせてもらうよ。」

 

 

 

 じゃあな、と出ていった父親の姿が見えなくなった頃。軽く掃除だけして帰るかと離れの中に戻ろうとする。

 

 

 

 

 

 が、まだ1人残っている。

 

 

 

 

 

「いやー、もうちょい荒れるかと思ったけど、なるようになるもんだね。」

 

「…………いつまでいんだ荒そうとした張本人が。」

 

 

 

 五条悟がいつの間にか隣にいた。

 

 

 

「もう行くよ。ほら、僕忙しいから。」

 

「の割にはのんびりしてんな。」

 

「構ってあげてるんだよ。これでも千尋には期待してるんだ。具体的には乙骨と並ぶくらい。」

 

「ウソつけ。交流会観戦したが、バケモンだろあれ。」

 

「そのバケモンが習得できてない“領域”を、会得したんだろ?」

 

「黒閃出してハイになってたからできただけだ。もう出来ねえよ。」

 

「それこそウソだね。黒閃はポテンシャルを引き出すだけだ。土台無理なことが出来るようになるわけじゃない。」

 

 

 

 千尋は嘘をついたつもりなどない。

 

 あの時生死の境目に立つことで朧げに感じた呪力の核心。それが黒閃によって鋭敏になった感覚で、辛うじて掴めただけの話。

 

 その感覚は今や残っていない。

 

 

 

「千尋は一度呪力の神髄を知った。後は思い出すだけだよ。」

 

「もっかい死にかけた状態で黒閃かませってか。無茶言うな。」

 

 

 

 千尋の台詞に、五条の口元が少しだけ笑った。

 

 

 

 

 

「それも良いかもね。」

 

 

 

 

 

 背筋が冷えた。

 

 

 

「……殺気放ってくんなよ。」

 

「こんなのまだまだ軽い軽い。もっと自分を追い込んでみなよ。」

 

「追い込むったってな。」

 

「ま、よく考えな。」

 

 

 

 言いたいことだけ言って五条は去っていった。

 

 今度こそ、この場には千尋1人。地下室の万里を除けば離れには誰もいない。

 

 ふう、と一息だけつく。

 

 

 

「……性に合わねえんだよなあ。」

 

 

 

 貰い物のバケツ帽を被り、ただ独りごちた。

 

 何が、と訊ねる者はいない。

 

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