睦様のギターがフェードアウトしていってもなお、私の目蓋には輝きが焼き付いたかのように錯覚させられていた。もしかしたら事実、その輝きは会場を満たしていたのかもしれない。
燈様がその中で、高らかに宣言する。
『みんな、行くよ』
私たちば全員、目眩のような感覚にとらわれたまま、睦様が再びアルペジオを奏でる音を聴く。
『どこまで歩けばいいのかなんて、知らないまま踏みしめてた』
最後の曲が始まった。
『重い足で沈みながら……僕らだけの轍、作って』
あきらかに燈様が書かれた詩だ。誤魔化さずにずっと地に足をつけて歩いてきた者だけが書くことを許される。そんな詩だ。
『憂鬱が解けてく、陽炎の空――』
燈様の歌も睦様のギターも祥子様のピアノも、溢れ出てくる音はずっと一体になって融け合ったままだ。真っ白い煌めきが熱い音楽を生み出し続けている。
祥子様のピアノではペダルが躊躇わずに押下されていて、そのお御足はますます膂力を増していくようだった。燈様の声もまた、高まるピアノの音色に応えるように朗々とホールいっぱいに響き渡り、睦様のギターも一段と冴え渡った。
『
祥子様がペダルを踏み込むと、そこから清涼な空気が流れ出てくるかのようだった。祥子様が奏でる音を呼吸して、燈様の声に力が漲ってゆく。ギターの音が華やぐ。会場はさらに温度を上げていく。いつしか客席からも歌声が聴こえてきていた。
白熱の渦に満たされたこの空間に、もっと火を熾せとばかりに祥子様は遮二無二ペダルをお踏みになる。すでに祥子様は気品も慎みもかなぐり捨てられていた。そのお姿はまるで、鉄をもっと熱く明るく鋳溶かすために
『照らし出されてく、素直な気持ち――』
それでもそのお顔は子供のように純真で無邪気で、心の底からの笑みを浮かべていらっしゃった。
祥子様は踏む。もう動かないはずの足を動かす。ベーゼンドルファーの気品高く優雅なピアノもこの空間にあっては、鍛冶場で愚直に空気を送り込む無骨な道具の役割を甘んじて受け入れているようだった。送り込まれた清涼な空気を吸い込んで、燈様という溶けた金属はますます白く明るく、灼けた光を放つ。燈様が心臓の上に固く握りこぶしを重ねる。その握りこぶしを、上からさらに強く握りしめる何人ものこぶしが眩い光の中に幻視された。燈様の声はお一人で出せる声量を遥かに超えていて、彼女がいま
『遠まわりしてきた、そのぶんだけ』
全てを燃やし切った先に生まれるはずの音楽の姿に期待で胸を高鳴らせながら、祥子様は鍵盤に指を奔らせる。ペダルを踏む。
『見つけた景色を――たずさえながら、ふりかえりながら』
燈様は握った手をかざした。松明を掲げて未踏の世界を先導する自由の女神のごとく、最後までともに歩いた人たちも、道を分たれた人たちも、すべての
『今日までの僕らを見つめていよう』
祥子様も誇らしげに歌い切られる――
『今日までの僕らを褒めてあげよう』
――ひたむきに走り、走り、転んでも立ち上がってなお走り、最後まで走り切った者たちの凱歌を。
続きます。