ザジ・ザ・エクスプローラー   作:埴輪庭

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屑⑤

 ◆

 

 女剣士は朗らかに笑顔を浮かべてザジを見ている。

 

 傍らにはザジの手で外された罠が転がっていた。

 

「名のある剣士の方だったのですね、度重なる無礼、失礼いたしました」

 

 ザジは一瞬困惑したが、すぐに満更でもない気分に浸り、唇の端を吊り上げる。

 

(へへ……俺様の凄みってやつが、ようやくこの高慢ちきな女狐にも分かったか)

 

 しかし表情だけは尊大さを崩さず、胸を張って答える。

 

「まあ……そうだ。俺ほどの剣士は中々いないってもんよ。お前の体を見ていたのも、どれだけ使うか確認したかったからだ」

 

 女剣士は素直に納得するように頷くが、その拍子に顔をしかめ、痛みに呻きを漏らした。

 

「ったく、世話の焼けるお嬢ちゃんだぜ」

 

 わざとらしくため息をつきながら、ザジは周囲を見渡して目当ての薬草を探し出し、引き抜いて口に含んで咀嚼する。

 

 その青臭い塊を吐き出すと、女剣士の細い足首に雑に当て、布をぐるりと巻きつけてきつく縛り上げた。

 

 女剣士が息を呑んだ。

 

 さきほどまであれほど痛んだ足首から痛みが消えたのだ。

 

 完全に消えてなくなったわけでもないが、それでも痛みは気にならない程度には収まった。

 

「これはッ……!」

 

「森の知識ってやつだ。剣の腕だけでどうにかなるほど冒険者は甘いもんじゃねえぞ」

 

 偉そうな講釈を垂れるザジだったが、女は明らかに感服した様子で大きく頷いている。

 

「あ! 申し遅れました。私はルシール・セラ・ハルフォードと申します。よろしければ剣士殿のお名前も御聞かせください」

 

 瞬間、ザジは心中で大きく顔をしかめた。

 

(こいつは参ったぜ……この面倒臭ぇ雌狐が、貴族の娘とはな)

 

 セラだのイラだの、そういう名がつく者は大体貴族である。

 

 しかし顔をしかめた理由はそれだけではなかった。

 

 貴族の娘なら恩を売りつければ、あとあと甘い汁が吸えるという計算も確かにある。

 

 だがこれほどの腕前にこれほどの装備を揃えながら、たった一人で依頼に出るような貴族の娘──。

 

 冒険者ならある程度は備えているべき“森の知識”もない。

 

(面倒事を抱え込んで逃げてきたか……?)

 

 ザジは一瞬で怯んだ。

 

 金銭面という意味での甘い汁、そしてルシールの秘園の奥深くからにじみ出る甘い汁、その両方をすすれるかもと期待していたが、そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。

 

 しかし、結局ザジという男は欲望と見栄に極めて弱い生き物である。

 

 にやりと卑しげな笑みを浮かべ、ザジは胸を張って名乗った。

 

「俺か? 俺はゲーリックってもんだ。まあ、冒険者ギルドじゃ知らねぇ奴はいねえさ」

 

 実際それは悪名高い意味での知名度なのだが、もちろんそれを自覚するほどの謙虚さは持ち合わせていない。

 

 ルシールは真面目な顔で頷きながら、その名を胸に刻むように繰り返した。

 

「ゲーリック殿……この恩義、決して忘れません」

 

「おお、覚えとけ覚えとけ」

 

 一生貸しといてやるよ、と胸中でうそぶく。

 

 ◆

 

 そうしてザジは負傷したルシールを支えて立ち上がらせて背負う。

 

 森の外れには小さな村があり、そこで街への馬車が出ているのだが、村までの距離でも今のルシールには厳しいものだろうと考えての事だった。

 

 応急処置はあくまでも応急処置、森の薬草は痛みを多少麻痺させ、血止めをする効果しかない。

 

 まあそれでも当座をしのぐには十分といえば十分なのだが、歩行などの負担をかければまたぞろすぐに痛みだす。

 

「ったくよう、世話が焼けるぜ……」

 

「本当に申し訳ありません……」

 

 ルシールの声は申し訳なさそうに掠れていたが、ザジはそれを鼻先で聞き流しながら肩をすくめる。

 

「いいってことよ。冒険者だからな、いざって時は助け合わなきゃあな」

 

「その……なんとお礼を言えばよいか……」

 

 ルシールは明らかに感服した様子で目を伏せたが、ザジはにやりと歪んだ笑みを浮かべるだけだった。

 

 本来ザジという男はこのように進んで人を助けるような男ではない。

 

 なのにこうしてルシールを手助けしているという事は、当然役得があるからだ。

 

 その役得とはすなわち、柔肌である。

 

(へへへ……やけに柔らかいじゃねえか。尻なのか腿なのかわからねぇな。この肌によう、俺のご立派なイチモツを擦り付けてみてえもんだぜ)

 

 体勢を直すふりをして、ルシールの太腿、尻に指を這わせるザジ。

 

「んっ……あの……いえ、なんでもありません……」

 

 ルシールはザジに文句ひとつ言わなかった。

 

 それは命を助けられた事で、認知に歪みが生じていたからである。

 

 きわどい所に指が触れてもたまたまだと思い込んでいた。

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