ダンまち世界でオタク文化を広めるのは間違っているだろうか 作:猫獣人ユリス
ダンジョン――それはオラリオの中心に存在する、果てなき階層を持つ迷宮都市の象徴。
幾多の冒険者たちがこの場所を目指し、栄光と富を求めて挑み続けている。
だが、この迷宮はただの洞窟ではない。モンスターが無限に湧き出し、深層に進むほど凶悪な存在が待ち受けている。
オラリオはそのダンジョンを制するために、多くの冒険者たちが集まり、神々の加護――「恩恵」を受けることで力を得ている。
神々は下界へと降臨し、各々が「ファミリア」を結成、冒険者を導き、迷宮の攻略を目指している。
冒険者たちはダンジョンで得た経験値を糧に強くなり、ステータスを成長させる。
オモイカネ・ファミリアもまた、数は少ないものの強力な戦士たちが集う一派であり、知識と技を重んじる集団である。
今、彼らの一員であるユリスとアイリスは、ダンジョンの中層――15階層でミノタウロスの群れに囲まれていた。
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「来るよ、ユリス!」
「わかってる、アイリス!」
叫び声と共に、黒い影が地面を震わせながら突進してくる。
それは巨大な二足歩行の獣、ミノタウロスだった。
筋肉が隆起し、鋭い角が突き出た姿はまさに怪物と呼ぶにふさわしい。
ミノタウロスはその巨体からは想像もつかない速度で駆け抜け、振り下ろす斧は地面を砕き、轟音を響かせる。
「二体同時とか聞いてないんだけど!」
アイリスは双剣を構え、地面を蹴った。彼女の動きは鋭く、流れるような剣さばきで接近する。
「文句言ってる暇あるなら、集中!」
ユリスもまた、一歩踏み込む。白髪が翻り、紫の瞳が敵を射抜く。
彼の手には黒刀が握られ、まるで風と一体化したかのような軽やかさで接近する。
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15階層。それはダンジョンの中でも特に危険なゾーンとされている。
一歩踏み外せば、足元は無数の穴が空き、毒ガスが噴き出す罠も存在する。
壁には無数の傷跡が残り、ここを通った冒険者たちの苦戦を物語っていた。
空気は湿っており、鉄と血の匂いが漂う。ミノタウロスの咆哮が響く度に、土煙が舞い上がり、視界を覆う。
ユリスはその中で目を細め、敵の動きを見定めた。
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二人は息の合った連携を見せる。
アイリスが前衛でミノタウロスの一撃を受け流し、ユリスが隙を突いて喉元を斬り裂く。
だが、相手もただの獣ではない。怒りに駆られたミノタウロスは反撃を試み、巨大な腕を振り下ろした。
「縮地!」
一瞬のうちに間合いを詰めるユリスの姿は、まるで瞬間移動のようだった。
ミノタウロスの腕は虚しく空を切り、ユリスはその隙を逃さずに腹部を切り裂いた。
「よし、一体目撃破!」
アイリスが声を上げるも、もう一体のミノタウロスが突進してくる。
「次、行くぞ!」
「当然!」
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血飛沫が舞い、鋼の音が響く。地面には巨大な足跡が刻まれ、剣の刃先には赤黒い血が滴る。
「ふう…これで終わり、かな?」アイリスが額の汗を拭いながら言う。
だが、ユリスは何かを感じていた。背筋を駆け抜ける冷たい感覚。
「待て、まだいる」
言葉が終わると同時に、影が揺らめいた。ミノタウロスとは異なる黒い影が、ゆっくりと姿を現した。
「また、出てきたのかよ…」アイリスが剣を構える。
ユリスは目を細め、呼吸を整える。全集中の呼吸・壱ノ型――霹靂一閃
刹那のうちに彼の体は空を切り、残像すら残さずに敵の目前へ到達する。
「斬る!」
一閃、光が閃き、影は四散した。
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――なぜ、このような状況になっているのか?
ユリスの頭に過ぎる疑問。
冒険者として迷宮に挑み、幾度も死地を越えてきた。
しかし、そこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかった。
彼の意識は過去へと遡っていく。
「なぜ、俺はこの世界に来たのか――」
その思考と共に、彼の記憶は過去へと溶け込んでいった。
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彼が目を覚ました時、全てが違っていた。
目の前に広がるのは小さな木造の家。窓から差し込む陽光が眩しく、温かな空気が部屋を満たしている。
「……ここは?」
ユリスは身体を起こし、見慣れない景色に目を細めた。
記憶は鮮明だ。確かに眠りについたのは前世のベッドの上。だが、目を開けた瞬間、彼の目に飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。
そして――彼は自分の姿に気づいた。
白い髪、透き通るような紫色の瞳。鏡に映った姿は、明らかに自分とは思えなかった。
「……なんだこれ……」
戸惑いながらも外へと足を踏み出す。そこには広がる田園風景、穏やかな風景が一面に広がっていた。
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「おーい、ユリスー!」
陽気な声が聞こえ、振り返ると見慣れた顔があった。
黒髪をポニーテールにまとめた少女が、手を振りながら駆け寄ってくる。
彼女の名前はアイリス。同じ村で育った幼なじみであり、無邪気な笑顔が特徴的な少女だった。
「また寝坊?村長さん探してたよ?」
「……ああ、ちょっと寝過ごした」
ユリスの口から自然と返事が出る。
彼の頭には少しずつ、この世界での記憶が浮かび上がってきていた。
どうやら彼はオラリオ近くの村で生まれ育った村人であり、アイリスとは幼い頃から一緒に遊んでいたらしい。
前世の記憶がよみがえる前は、消極的で人付き合いが苦手な性格だったらしく、村の中でも孤立しがちだった。
だが、アイリスだけはそんな彼にも気軽に話しかけ、何度も外に連れ出してくれていたようだ。
「今日もまた訓練するの?」
「……ああ、そうだね」
ユリスは頷く。前世の記憶が蘇るにつれて、彼の中には一つの目標が生まれ始めていた。
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村の外れにある広い空き地。
そこは村の子供たちが遊ぶには少し危険な場所だったが、ユリスにとっては最も落ち着く訓練場だった。
彼は幼い頃から、なぜか身体を動かしたくなる衝動に駆られていた。
まだ記憶が完全に戻っていない時期でも、手や足が勝手に動くような感覚があった。
何かを思い出すように――いや、思い出そうとしているかのように。
「はあっ!」
掌底を突き出す。ほんのわずかにだが、空気が震えるのを感じた。
その動きは村の人々からすれば奇異なものだった。なぜ幼い少年が一人で、踊りのような動きを繰り返しているのか理解できなかったからだ。
だが、ユリス自身には確信があった。
「何かが蘇りそうなんだ」
まるで脳の奥深くに眠る記憶が、訓練を通じて解き放たれていくような感覚があった。
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掌を突き出す動作。足を踏み込んで体を捻る動き。
それは見様見真似でもなく、自然と体が覚えているものだった。
呼吸の仕方、力の入れ方、重心の取り方――何も教わっていないはずなのに、体は自然に動く。
「なんで俺、こんなことができるんだ?」
幼いながらもユリスは疑問を抱いていた。
他の村の子どもたちが遊んでいる中、自分は一人、広場で黙々と型を繰り返す。
そんな彼に唯一声をかけてくれたのが、アイリスだった。
黒髪をポニーテールにまとめ、底抜けに明るい笑顔を浮かべる彼女は、村でも人気者だった。
「また変な動きしてるの?ユリス」
アイリスは興味津々で彼の訓練を見守っていた。
「変じゃない……と思う、多分」
ユリスは困惑したように答える。
「でも、なんかすごい動きだよね。何それ?」
「うーん……分かんないけど、昔からなんとなくやってるんだ」
「へぇ、不思議だね」
アイリスはニコニコと笑っていた。誰も理解しないことを、彼女だけは笑顔で見守ってくれていた。
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ある日、ユリスは一つの動作を繰り返していた。
足を踏み込み、体をひねり、手を突き出す――掌底突きだ。
それを何度も何度も繰り返し、地面にうっすらと跡がつくほどに磨き上げていた。
そして、ふとした瞬間、頭の奥に閃きが走った。
「っ!……全集中の呼吸……?」
言葉が口から零れた。
その時、全身にエネルギーが巡るような感覚が走り、体中に熱がみなぎった。
「これは……!」
彼は夢中で呼吸を繰り返した。
深く息を吸い、ゆっくりと吐く。肺の中に新鮮な空気を満たし、体の隅々に行き渡らせる。
「はあっ!」
掌底を突き出した瞬間、目の前の岩が微かにひび割れた。
だが、その代償に肺は張り裂けそうなほど痛く、心臓も口から飛び出してくるんじゃないかと言うほど早く動いていた。
「やっぱりすごいなあ……」
木陰で見ていたアイリスが目を輝かせる。
「はぁ、はぁ、こ、こんなの、ただの真似事だよ」
荒い息を隠しつつ、ユリスは苦笑する。だが、確かに体は応えていた。
全集中の呼吸を使えば、肺活量が格段に増え、筋力も一時的に強化される。
縮地を繰り返すことで、地面を滑るように高速で移動できるようになった。
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「村の人たちには内緒にしておいてね?」
「うん、もちろん!」
アイリスはニコニコと頷く。彼女は秘密を守れる性格だった。
彼女だけが知る、ユリスのもう一つの顔。
村人たちは知らない、異様な動きや技術。
それは確かに存在し、彼はそれを誰にも見せることなく鍛え続けた。
「いつか、オラリオに行きたいんだ」
ユリスがポツリと呟く。
「オラリオ?」
「うん、そこにはもっと強い人たちがいて、もっと危険な場所があるんだって」
アイリスは少し目を丸くしたが、すぐに笑顔に戻った。
「じゃあ、私も行く!」
その無邪気な宣言に、ユリスは少しだけ驚いたが、嬉しそうに微笑んだ。
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基礎ができていた理由
ユリスが目覚めた時、すでに彼の体は一定の動きを再現できるだけの「基礎」が備わっていた。
前世の記憶が蘇る前から、無意識のうちに修行を続けていたのだ。
記憶が戻った瞬間、それはまるで封印が解かれたかのように流れ込んできた。
だが、なぜ体が覚えていたかのように動けたんだろう?
前世でも武術や全集中の呼吸なんてやっていたこと無かったのに。
まさか、これが転生特典なんだろうか?
ユリスは一人、空き地で型を繰り返しながら、少しずつ確信を深めていった。
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ユリスは時折、村の子供たちに「物語」を語って聞かせていた。
「ねえ、今日はどんな話を聞かせてくれるの?」
「前に話してくれた、海賊の続きがいい!」
「私は魔法使いが戦う話がいい!」
彼が広場に姿を現すと、子どもたちは我先にと集まり、わくわくした表情で彼の周りを取り囲む。
大人たちも遠巻きにその光景を微笑ましく眺めていた。
「よし、じゃあ今日は――」
ユリスは少し考え、子どもたちの目を一人一人見つめた後、微笑んで言った。
「大海原を駆ける海賊の冒険譚にしようか」
その言葉に子どもたちは歓声を上げ、目を輝かせて地面に座り込む。
大人たちも農作業の手を止め、少しずつ近づいて耳を傾け始めた。
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「むかしむかし、東の海にひとりの少年がいた。その名は――モンキー・D・ルフィ」
ユリスの声が響き渡る。
「その少年には夢があった。誰も成し遂げたことのない『海賊王』になること」
子どもたちは目を輝かせながら、話の続きを待っている。
「ルフィはゴムゴムの実っていう悪魔の実を食べて、体がゴムみたいに伸びるようになったんだ」
「ええーっ!そんなことあるの?」
「本当にゴムみたいに伸びるの?腕とか?」
ユリスは頷きながら、手を前に突き出した。
「そう、こんな風に……ゴムゴムの銃!」
手を引く真似をして、子供たちは「すごい!」と歓声を上げた。
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「でも、ただ強いだけじゃなかった。彼には仲間がいたんだ。剣士のゾロ、料理人のサンジ、航海士のナミ――みんな個性豊かで強いんだよ」
ユリスは一人ひとりの特徴を説明し、彼らがどのように出会い、冒険を繰り広げていくのかを話した。
「ゾロは三本の刀を使う剣士で、一度に三つの技を繰り出せるんだ」
「三本も使えるの!?片手に二本も持てるの!?」
「いやいや、一本は口にくわえてるんだよ」
その説明に村の子供たちは驚き、口を開けたまま「信じられない」と声を漏らした。
「それって本当なの?」
「もちろんさ、物語の中ではね」
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物語の展開はさらに熱を帯びる。
「そして彼らは偉大なる航路、グランドラインへと向かい、数多の敵と戦っていくんだ」
「空を飛ぶ船に乗って、空島にも行ったし、大海原で巨人族とも戦った」
子どもたちは夢中になり、次々と質問を投げかける。
「空の島ってどうやって行くの?」
「巨人ってどれくらい大きいの?」
「海で龍とか出てくるの?」
ユリスは楽しげに頷き、それぞれの冒険について語り続けた。
「空島は上昇気流に乗って船ごと空に飛ぶんだ。そして、そこで雷を操る神と戦ったんだよ」
「か、神!?海賊なのに神と戦うの!?」
「うん、しかも勝ったんだ」
その言葉に子どもたちは目を丸くし、口をあんぐりと開けていた。
「すごい……すごすぎる……!」
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「本当に全部、創作なのか?」
村の老人が問いかける。
ユリスはしばらく考えてから、笑顔で答える。
「もちろん。ただの創作さ」
だが、彼の瞳に宿る確信めいた輝きは、どこか現実離れしていた。
村の人々はそれを「天才的な想像力」と称賛し、子どもたちは次の物語を心待ちにするようになった。
村での生活は穏やかで心地よかった。
朝日が昇れば、村人たちは畑へ向かい、牛や馬の世話をし、収穫を祝った。
アイリスは朝早くから家の手伝いをし、時折ユリスの家に立ち寄っては一緒に朝食を取るのが日課だった。
ユリスもまた、村の仕事を手伝いながら日々を過ごしていた。
前世の知識を活かし、村人に効率の良い農具の使い方を教えたり、鍛錬で培った体力を活かして荷物運びを手伝ったりもした。
「ユリス、力持ちだねえ。もう村一番の働き手だよ」
おばあさんが微笑んで言うと、ユリスは少し照れくさそうに頭をかいた。
「まあ、体を動かしてるのは好きなんで」
彼のその言葉に、村の人々は目を細めて喜んだ。
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そんな生活の中で、ユリスの心に少しずつ宿る想いがあった。
それは――オラリオへの憧れ。
村人たちは時折、オラリオの話をしていた。
「迷宮都市オラリオには、無数の冒険者が集まってるんだよ」
「神様たちが直接地上に降りて、ファミリアっていう集団を作ってるらしい」
「強い冒険者は、ダンジョンの奥深くまで行って魔石や希少なものを持ち帰るんだってさ」
老人たちが語る話に、ユリスは耳を傾けていた。
手を止め、目を輝かせながら彼らの話を聞く。
アイリスもまた、彼の横で興奮した様子で聞き入っていた。
「ねえ、ユリス。オラリオってどんなところなんだろうね?」
「……きっとすごいところだよ。俺もいつか行ってみたい」
「うん、私も!」
二人は目を合わせて笑った。
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転機は突然に
そんなある日、村に見慣れない馬車がやってきた。
色とりどりの布で覆われた馬車には、多くの荷物が積まれている。
「すごい、何が乗ってるんだろう?」
アイリスが興味津々で馬車に近づくと、帽子を深く被った中年の男性が笑顔で手を振った。
「お嬢ちゃん、興味があるのかい?」
「うん!これ全部、オラリオのものなの?」
「そうだとも。オラリオからここまで運んできたんだ」
その言葉に、ユリスも足を止めた。
「あなた、オラリオから来たんですか?」
「そうさ。定期的に村へ物資を運んでいるんだ。君も興味があるのかい?」
ユリスは目を輝かせて頷いた。
「オラリオって、どんなところですか?」
商人は笑って言った。
「迷宮都市さ。ダンジョンがあって、冒険者がいて、神様がいる。毎日が冒険と戦いの連続さ。まあ、冒険者じゃない人も多くいるがね」
その言葉に、ユリスの心が強く揺れた。
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「もし、オラリオに行きたいなら、今がチャンスだぞ」
商人は手を広げ、馬車を指差した。
「数日はここで滞在するが、その後オラリオへ帰る。君が乗りたいなら連れて行ってやるよ」
ユリスは立ち尽くした。
目の前に広がる選択肢――それは冒険への第一歩だった。
アイリスが不安そうにユリスの袖を引く。
「どうするの、ユリス……?」
ユリスは拳を握りしめた。心臓が高鳴り、全身に血が巡るのを感じる。
「俺……行くよ」
その目には強い決意が宿っていた。
アイリスは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐに微笑んで頷いた。
「じゃあ、私も行く!一人にしないから!」
商人は目を丸くして笑った。
「いいねえ、若いってのは。じゃあ決まりだ。三日後に出発するから、それまで準備しておきな」
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出発の朝、村人たちが見送りに集まってくれた。
「気をつけるんだよ」
「強くなって戻っておいで!」
「オラリオで活躍したら、ぜひ話を聞かせておくれ!」
子どもたちは泣きじゃくりながら手を振り、大人たちは笑顔で肩を叩いてくれた。
ユリスは一人ひとりに頭を下げ、感謝を伝えた。
「俺、絶対に強くなって帰ってきます」
その言葉に、村人たちは拍手で応えた。
アイリスと共に馬車に乗り込むと、商人が手綱を引いて動き出した。
揺れる馬車の中で、ユリスは外の景色を眺めていた。
小さな村が遠ざかり、やがて視界から消えていく。
「不安、じゃないの?」
アイリスが尋ねると、ユリスは静かに首を振った。
「ううん、楽しみだよ。オラリオで、何が待ってるのか……」
彼の目は輝いていた。
新たな冒険、未知の世界への期待。
そして、自分の強さを試せる場所が待っている。
「俺は……必ず強くなる」
静かな決意を胸に、ユリスとアイリスの旅は始まった。
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旅路は思った以上に過酷だった。
商人の馬車に揺られ、幾つもの町や村を通り過ぎた。
道中で雨に降られ、ぬかるんだ道を進むこともあれば、砂埃が立ち込める荒野を超えることもあった。
だが、ユリスもアイリスも愚痴一つこぼさず、ただひたすら前を見つめ続けた。
「もう少しだよ。あの丘を越えれば、オラリオの外壁が見える」
商人が手綱を握りながら振り返ると、二人は目を輝かせて頷いた。
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丘を越えた瞬間、視界いっぱいに広がる光景が二人の息を呑ませた。
目の前には巨大な石造りの外壁が天高くそびえ立ち、その中心には塔のような構造物が伸びていた。
「これが……オラリオ……」
ユリスはその壮大な光景に目を見張る。
「すごい……本当にあんなに大きな壁があるんだ」
アイリスも感嘆の声を漏らす。
商人は微笑みながら手綱を引いた。
「さあ、もう少しで門に着く。準備はいいかい?」
二人は同時に頷き、胸の高鳴りを抑えながら馬車から降り立った。
足元の石畳は固く、長い年月を経て無数の足跡が刻まれている。
そこを行き交う人々は皆、活気に満ち、笑顔が溢れていた。
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「さて、ここからは自分たちで行けるな?」
商人が手を振ると、ユリスとアイリスも深々と頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「元気でな。オラリオで会うことがあったら声をかけてくれ」
馬車が去り、二人は巨大な門へと歩みを進めた。
門の両脇には鎧を着込んだ門番が立っており、厳しい目つきで行き交う人々を見守っている。
「ここが入口……」
アイリスが息を呑み、ユリスもまたその威圧感に圧倒された。
だが、意を決して門番の一人に声をかける。
「すみません、僕たちオラリオに入るのは初めてなんです。手続きとか必要ですか?」
門番は目を細め、二人を上から下まで見渡した。
「初めてか……なら名前と出身地、それから目的を聞かせてもらおう」
ユリスとアイリスは順番に名前を名乗り、オラリオ近くの村から来たこと、冒険者になりたいという意思を伝えた。
「冒険者志望か。最近多いな……まあ、気をつけなよ。オラリオは楽しい場所だけじゃないからな」
門番は少しだけ優しい笑みを浮かべ、通行証を手渡した。
「これを持って中に入ればいいのか?」
「そうだ。迷宮都市オラリオへ、ようこそ」
その言葉と共に、巨大な門がゆっくりと開かれた。
二人は顔を見合わせ、胸の高鳴りを感じながら一歩を踏み出した。
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門をくぐると、そこには想像を遥かに超える光景が広がっていた。
石畳の道には無数の店が立ち並び、活気ある人々の声が絶えない。
武具屋、食堂、薬屋、冒険者たちの溜まり場――どこも人で溢れていた。
「す、すごい……!」
アイリスは目を輝かせて周囲を見渡している。
「本当に冒険者がたくさんいる……あれも、これも!」
ユリスもまた、目の前の光景に圧倒されていた。
前世で見たファンタジーの街そのものだ。
「ここが……俺たちの冒険の始まりか……」
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「おい、そこの二人!やっぱり無事に入れたんだな!良かったよ!」
振り返ると、門前で別れたはずの商人が手を振っていた。
「おじさん!」
「宿はもう決まったかい?」
ユリスは首を横に振った。
「いや、まだ……どこが良いのかも分からなくて」
商人は少し考え、地図を取り出して手渡してくれた。
「なら、『木漏れ日の宿』ってところがオススメだな。値段も手頃で、飯も美味い。ここから少し歩いた先にあるよ」
「ありがとう!」
二人は頭を下げ、商人は満足げに笑って手を振った。
「オラリオで困ったことがあったら、中央通りの店に来な。俺の仲間が手伝ってくれるから」
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地図を頼りに石畳の道を進む。
見知らぬ景色が続く中で、二人は目を輝かせながら通りを歩いた。
大きな武具屋では剣や防具が並び、鍛冶屋では火花が散っている。
「これが……冒険者たちの街……」
ユリスは感動に目を細めた。
そして、ようやく目的地に辿り着いた。
小さな看板に木漏れ日の宿と書かれている。
「ここか……」
ドアを押して中に入ると、暖かな灯りが二人を迎えた。
「いらっしゃい!部屋を探しているのかい?」
カウンターに立つ中年の女性が笑顔で声をかけてくれた。
「はい、しばらく滞在したいと思って……」
「なら一泊150ヴァリスだ。朝食もつくよ」
二人は顔を見合わせ、頷いた。
「お願いします!」
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それから2人はオラリオの街並みを歩き回り、ユリスとアイリスはその活気に圧倒されていた。
初めて見る冒険者たちの装備、軒を連ねる店々、何より迷宮都市としての巨大さ。
「すごい……本当にこんなところがあったんだ」
アイリスが目を輝かせながら呟き、ユリスもまた感嘆の声を漏らした。
「ここで冒険者になれるんだね、ユリス!」
「そうだな。まずはファミリア探しか……」
二人は意気揚々と通りを歩き始めた。
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迷いながらも市場の通りを歩いていると、一つの店先で目が留まった。
そこはこじんまりとした古書店で、外壁には蔦が絡まり、木製の看板には「知識の館」と書かれている。
「ユリス、見て見て!本がいっぱい!」
「こんなところもあるんだな……」
興味を惹かれ、二人は扉を開けた。
店内は薄暗く、古びた本が所狭しと並んでいる。
香ばしい紙の匂いが鼻をくすぐり、どこか懐かしい気持ちが胸に広がった。
「ようこそ、知識の館へ」
奥から柔らかい声が響いた。
振り向くと、そこには黒髪を結い上げた女性が立っていた。
穏やかな笑みを浮かべたその女性は、まるで長年の友人に会ったかのような温かさを持っている。
「君たち、旅人かい?」
「え、あ、はい……そうです」
ユリスは少し戸惑いながらも頷いた。
「随分と珍しい格好をしているね。それに、その目……」
女性は紫色の瞳をじっと見つめ、微笑んだ。
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「君たちの目、知識を求めている目だね」
「知識……ですか?」
ユリスは不思議そうに首を傾げた。
「そう、まるで吸い込まれるような瞳をしている。知りたいことがたくさんあるんじゃないかい?」
ユリスは一瞬考え、頷いた。
「そうかもしれません。僕たち、冒険者になりたいんです」
女性は微笑みを浮かべたまま、手招きをした。
「よければ、少し話をしようか。ここにはたくさんの知識が眠っているから」
その声には不思議な力があった。
ユリスとアイリスは誘われるまま、店内の一角に座り、彼女の前に腰を下ろした。
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「まず、私はオモイカネ。知識と知恵の神だ」
「オモイカネ……? 神様……ですか?」
二人は少し驚いた表情を浮かべる。神々が地上に降りていることは知っていたが、実際に会うのは初めてだった。
「そうだよ。私は知識を集め、人々に知恵を与えるのが役目なんだ」
オモイカネは優しい瞳で二人を見つめ、微笑んだ。
「君たちは冒険者になりたいと言ったね。それなら、もっと知識が必要だ。オラリオのこと、迷宮のこと、ファミリアのこと……知っているかい?」
ユリスとアイリスは首を横に振る。
「いえ、まだ来たばかりなので……」
「なら、私が教えてあげよう」
オモイカネは立ち上がり、棚から一冊の本を取り出した。
それは『オラリオ冒険者指南』と書かれた分厚い本だった。
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「君たちはファミリアに所属しないと冒険者にはなれない。そして、神の恩恵を受けなければ、ダンジョンには挑めない」
オモイカネは本を開き、オラリオの構造や冒険者のシステムについて詳しく説明してくれた。
二人はそれに感心しながら頷いた。
「なるほど……だからファミリア探しが必要なんですね」
「そう、そして私はファミリアを持っている」
オモイカネは柔らかい笑顔を浮かべて続ける。
「知識を集め、技を磨く者たちが集う場所――興味はあるかい?」
一瞬の沈黙。ユリスは目を見開き、アイリスと目を合わせた。
「僕たちでも……なれるんですか?」
「もちろんさ。君たちには可能性を感じる。あの目の輝きは、好奇心と探求心が溢れている証拠だからね」
ユリスは拳を握り、深く息を吸い込んだ。
「……お願いします。僕たちを、ファミリアに入れてください」
オモイカネは満足げに頷き、二人の手をそっと握った。
「ようこそ、オモイカネ・ファミリアへ」
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オモイカネに連れられて、ユリスとアイリスは街を歩き、ファミリアの本拠地へと向かった。
そこは知識の館と呼ばれる巨大な図書館を兼ねた場所で、静寂と知恵の気配が漂っている。
門を開けると、長い銀髪をなびかせたエルフの女性が立っていた。
「お帰りなさい、オモイカネ様。おや……新しい仲間ですか?」
「そうだよ、セレステ。紹介するね、彼らはユリスとアイリス」
セレステは微笑んで手を差し出した。
「ようこそ、オモイカネ・ファミリアへ。私は団長のセレステ・ルミナス。よろしくね」