持たざる少年   作:交渉人

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11.端金

 レイは情報端末を開き、無言で画面を眺めた。

 

 口座の残高――210万オーラム。

 

 それを示す数字が、静かに光っている。通知と共に、明細も表示されていた。

 

 依頼の報酬:1000万オーラム

 弾薬代:500万オーラム

 情報端末代:300万オーラム

 

 一瞬、視界が揺らぐ。金額が大きすぎる。

 ただの数字のはずなのに、脳がそれを数字として認識することを拒んでいる感覚。

 それでも、計算を試みる。

 合わない。何かが抜けている。

「……汎用討伐依頼が関係しているのか」

 ミラが受けた依頼の影響かもしれない。だが、詳細はわからない。

 情報端末代については、一言も聞いていない。

「そんな話はなかっただろ……」

 レイは苦笑し、短く息を吐いた。

 

 

 回収作業は午後からにしてほしいとミラに連絡を入れる。

 ミラとのやり取りは、情報端末のアプリを通じて行われる。通話か、文字か――選択できる。

 レイは通話を選び、無言で発信した。

「当日連絡はやめたほうがいいよ?」

 ミラの声は、昨日と同じく柔らかい。

 ミラの言ってることは正しい、だが、それが違和感を誘った。

「悪い。……情報端末代ってなんだ?」

 数秒の沈黙。

「……後で説明するよ。後でね」

 (何故、今説明しない。何故、後回しにする)

 レイは軽く視線を落としながら、端末を閉じた。

 

 

 朝の食事を済ませ、レイはダグとマルに「午後からだ」と伝える。そのまま、ミナトの元へ向かった。ダグとマルも、無言で後に続く。

 ミナトは短く息を吐き、視線を向けた。

「詳細は?」

 レイは淡々と報告する。

「荒野でモンスターの遺骸を回収した。依頼元が用意した戦闘車両の指示に従い、実際に戦闘には参加しなかった。昨日の報酬は210万オーラムだった」

 ミナトは短く沈黙する。

「……了解した。徒党に所属するハンターの稼ぎの上納は25%だ」

 レイは無言で聞く。

「お前も色々思うところはあるだろうが、徒党の運営上、そうしている。 スラムの見回りの仕事は、別の者に割り当てる。個室の使用料は免除。シャワーも使え」

 レイは無言で頷いた。不満はない。

 この状況は、徒党の仕事から生まれたものだった。

 ミナトの言葉に、徒党の運営の苦労や後ろ盾の大切さを朧気ながら理解する。

「了解だ」

 

 50万オーラムを徒党へ上納。

 残りの160万オーラム――

 

 レイ、60万オーラム。

 ダグとマル、50万オーラムずつ。

 

「ミナトから現金で渡すことになったが――」

 ダグとマルは顔を見合わせ、短く言った。

「預かっててほしい」

 ミナトは苦笑する。

「だよな」

 ミナトは短く息を吐いた。

「引き出したくなったら言え。ただし、引き出しは一日一度のみだ。 自由に使いたいなら、口座を作るんだな」

 二人は沈黙する。

「……わかりました。なら、レイの口座に入れておいてくれませんか?」

 マルは意を決したように告げる。

「あ、俺も」

 ダグが続く。

 レイは二人の意図が分からずわずかに眉をひそめる。

「……マル?」

 問いかけても、マルは答えない。

 ミナトは無言で視線を動かし、短く言った。

「了解だ。レイ、上手くやれよ」

「……? 了解だ」

 レイはよくわからなかったが、了承する。

 

 ニナや他の下っ端たちは、そのやり取りを遠巻きに見ていた。

 徒党内の金銭の動き。数字が現実になり、徒党に流れ込む。

 レイは無言で歩を進める。ダグとマルは昨日の衝撃と今朝の衝撃を思い返しながら、言葉少なに後を追う。

 レイは無言のまま、思考を巡らせていた。

 (この状況はどこまで続くのか。どこまで稼げるのか。稼いだオーラムを、何に使うべきか)

 そして――何よりも懸念していること。

 (俺は何かを持ってるわけじゃない。――何も力がない)

 

 徒党の運営。都市の金銭。ミラの技術。すべてが動き、レイはその流れに乗っている。

 だが、レイ自身に何かがあるわけではない。

 この先、自分はどうすればいいのか。この金を使い、何を手に入れるべきか。

 静かに、レイの思案は続く。

 

 

 ミラとの待ち合わせ場所へ向かう。

 昨日までとは違い、誰も立っていない。車両の姿もない。

 ただ、薄暗い空間が広がっているだけだった。

 しかし――3人が一定の距離まで近づいた瞬間、視界がわずかに歪んだ。

 光学迷彩が解除される。

 黒い車両の輪郭が滲み出るように現れ、その後ろの扉が音もなく開いた。

 レイは短く息を吐く。ダグとマルも、それぞれ無言で視線を向ける。

 今日は躊躇(ちゅうちょ)しない。3人は迷わず、乗り込んだ。

 

 

 背後で扉が静かに閉じる。

 次の瞬間―― ミラの声が、車内に響いた。

「こんにちは。今日もよろしくね」

 昨日と変わらない調子だった。

「今日はあまり時間がないから軽めになるかも。じゃあシートベルト締めて行ってみよー」

 異様なほど、軽い。

 レイは短く息を吐く。もう慣れた。達観している。諦めかもしれない。

 座席に視線を向けると―― 端末が置かれていた。

「……?」

 ダグとマルも、それに気付く。

「ミラ、これはなんだ?」

 レイが問いかける。

「あー後で説明するから、とりあえず座っちゃって座っちゃって」

 促すような言葉。だが、説明を後回しにする不自然さを感じる。

 3人は無言でシートベルトを締めた。

 車両は――音もなく発車する。

 

 

「レイ君の情報端末だけど、ショボいでしょ?」

 ミラの声が軽く響く。

「だからこっちで用意してあげたよ。結構いいやつだから、大事にしてね」

 端末を静かに手に取る。画面が起動し、わずかに光を発する。

 ダグとマルの分もある。

「ダグ君とマル君にも用意してあげたよ」

 レイは無言で端末を見つめる。

 その時、違和感に気付いた。

 以前の情報端末から、ミラのロゴが消えている。

 レイは短く息を吐き、わずかに眉をひそめる。

「……明細にあった情報端末代ってこれか?」

「そうだよ」

 ミラは軽く言う。

「流石にタダってわけにはいかなかったから、引かせてもらったけどね。 実際は値段以上の優れものだよ」

 レイは溜息を付いた。

 赤字になっていないならいい。ミラの言葉が本当なら、転売しても利益は出る。

 それが可能かどうか、無意識に思考する。

 

 その瞬間――

 

「転売とかは考えない方がいいよ」

 ミラの声が、車内に響いた。

「どこで手に入れたのかって問い詰められちゃうかもしれないからね。説明、難しくない?」

 レイの視線が僅かに動く。

「まあ、実際そうなってレイ君たちがどうなろうと、 わたしにはどうすることもできないから好きにしていいけど」

 考えを見透かされている。その感覚が、不気味だった。

 レイは短く息を吐き、端末を静かに閉じた。

「……了解だ」

 車両は、静かに走り続ける。

 

 

「報酬はデカかったが、弾薬代もデカいんだな」

 レイは短く言った。

「まあね。でも、大したことないよ」

 ミラの声は軽い。まるで、100万オーラム単位の出費が取るに足らないかのような調子。端金。

 しかし―― 彼女はその後に、言葉に出さず付け加えていた。

 

『計算リソースの運用費に比べれば、誤差の範囲』

『短縮可能な消耗。想定内のコスト。変動率の確認――不要』

 

 ミラは表向きは無言のまま、レイの質問を処理し、次へと進む。

「今日も昨日と同じなんだけど、あなたたち、東部の常識に疎いでしょ?」

 ミラの声が響く。

「特にハンターの流儀とか色々。だから、わたしが用意してあげたよ」

 レイは意外な提案に瞳を細める。ダグとマルも視線を向ける。

「何を?」

 マルが問いかける。

「ヘルメット付けてみて」

 レイたちは無言で指示に従い、備え付けのヘルメットを装着する。

 視界が拡張される。HUDが展開され、視認可能なデータが流れ込む。

「指示に従って、お勉強してね。 退屈しのぎにもなるでしょ? 何かあったら質問してね」

 ミラの口調は変わらない。

 しかし、その言葉の裏には、別の合理性が存在していた。

 

 徒党側の認識不足による作業効率の低下――

 最適化プロセスの簡易化――

 情報処理負担の削減――

 

 全て、機能の正常化のための施策。

 レイは短く息を吐く。ダグとマルも、それぞれ端末に向かった。

 学ぶことに、悪いことはない。

 用意されたものに、嘘が混じっていなければ――だが。

 

 

 ミラが用意したコンテンツは多種多様だった。しかし、そこに情緒的な意図はない。

 全ては機械的な――必要な知識の最適化――として展開される。

 

 基本識字能力を始めとして――

 

 ハンター証の使い方。

 依頼書の読み方。

 情報端末の操作。

 都市の看板と標識の識別。

 スラム特有の言い回し。

 

 東部社会の基本構造。

 都市の階級制度。

 ハンターの社会的立ち位置。

 旧文明と現代技術の関係。

 取引と経済の仕組み。

 都市法と違反事項。

 

 ハンター業の基礎。

 ハンターオフィスの仕組み。

 基本装備の使い方。

 荒野での生存戦略。

 遺跡探索の基礎。

 回収業の適正手順。

 

 全て、学習進度に応じて解除されるシステム。

 知識がないことは――最適化の障害。

 知識があることは――作業効率の向上。

 

 それ以外に理由はない。

 

 

「頭パンクするかもだけど、少しずつ進めてね。終わったらご褒美用意してあるよ。じゃあよろしく」

 ミラの声が軽く響く。

「はあ!? いや無理無理無理」

 早々にダグが根を上げる。

「まあそう言わずに。最低限、文字の読み書きはできないと、この先ついていけなくなるよ? ちなみに、ご褒美にはダグ君が好きそうな武器もあるよー」

 ダグの動きが止まる。

「!……よっしゃあ!」

 誤魔化すように気合を入れる。

 マルはミラの機嫌を損ねないように、無言で取り組む。レイはミラなしで習得する労力と時間を考え、静かに学習を始める。

 学習しない――という選択肢は存在しなかった。

 

 

 ミラは、レイたちのためだけにこのコンテンツを用意したわけではない。

 既存の学習データを流用。細部を最適化し、提供。

 特別な労力は発生しない。

 

 リソース消費の抑制。

 対応時間の短縮。

 作業効率の向上。

 回収業務の最適化。

 データ収集。

 観察を継続。

 

 すべて、機械的な合理判断。信頼を得る必要はない。最適化さえ進めば、それでいい。

 

 しかし――

 

 回収物のレアリティが跳ね上がっている。レイが関わったことで、利益率が高い。

 この点は、再評価の必要があった。

 『変数の監視、継続。レイの観察、継続』

 ミラは無言のまま、処理を進めた。

 

 

 車両が時折揺れる。だが、レイたちは気にしない。

 学習に取り組む。視界のデータを整理し、情報を処理する。

 昨日は異質だった。今日は当然になりつつある。

 その時――ミラの声が、軽やかに響いた。

「回収しに行ってくれるかな?」

 促すような口調。しかし、それは命令ではなく、決定事項だった。

 次の瞬間―― シートベルトが勝手に解除される。

 ヘルメットを外し、3人は車外へと出た。

 

 瓦礫の影、崩れた地形の隙間――そこに、機械系モンスターの残骸が転がっていた。

「……ミラ? 機械だけどいいのか?」

「うん、必要なんだ。 回収はあの子たちに任せていいから、いつも通りだよ」

 ミラの声は変わらず、軽い。

 レイは短く息を吐いた。

 (ミラが言うなら、そうなんだろう)

 思考を放棄する。

 ドローンと戦車が静かに動く。精密な作業で、破片を切り出し、特定の部品を回収していく。

 それを無言で見詰めながら、レイはぼんやりと思う。

 (売ったら、金になるか)

 回収が完了する。車両へ戻る。

 それを、何度か繰り返した。

 

 

「ミラ、今日は機械なんだな」

 レイが問いかける。

「うん、ダグ君とマル君もランク10にしたほうがいいかと思ってね」

 レイは短く息を吐く。ダグは気にしていない。しかし――マルが眉をひそめた。

「……どういう意味だ?」

「バランスが悪いんだよ。 口座も持っておいたほうがいいでしょ?」

「それはまあ。でも、それが?」

「生物系モンスターだと、ハンターオフィスの買取所には持ち込みづらい」

 ミラの説明は淡々としている。

「でも、機械系モンスターなら、 有用な部品にまで細分化すれば、遺跡の遺物と同じようなものになるから持ち込みやすいんだ」

 合理的な判断。ハンターオフィスのシステムの穴。

「何度か持込すれば、すぐランク10だよ」

 レイは溜息を付く。

 ハンターランクの重みが薄れていく感覚を覚える。

 (自分は何もしていない。それでもランク10だ。今更か――)

 自嘲的な笑みがわずかに浮かんだ。

 ダグは気にしていない。

 だが、マルは僅かに恐怖を覚えた。

 (ツキすぎている。ミラになんの利益がある?)

 しかし、それ以上考えると――

 ミラに何かを気付かれそうな気がして、思考を振り払った。

 

 

 最後に、生物系モンスターを一体回収する。これで、作業は終わりだった。

「今日もありがとね」

 ミラの声が響く。相変わらず、自然すぎる口調。

「ダグ君とマル君はハンターオフィスの買取所に持込なよ。 多分最初は300オーラムしか貰えないから、がっかりしないでね」

 軽く言う。しかし、そこには冷徹なシステムがあった。

「ハンターオフィスの買取所以外だと、ハンターランクは上がらないよ」

 制度の確認。システムの認証。最適化。

「……提案なんだけど、昨日の稼ぎって何にも使ってないでしょ? 見たところ、真面な武装もないみたいだから、こっちで3人分適当に見繕っておこうか?」

 黙っていると全ての稼ぎを使われそうな気がして、思わず口を挟んだ。

「口座の金を勝手に使えるのか?」

「了承を貰えればね」

 リスクとリターンを短く計算する。リターンの方が上回った。そうであって欲しいという祈りも込められている。

「……少しは残しておいてくれ」

「条件付き了承ね?わかった。任せといて。じゃあまた明日!」

 ミラの言葉は軽い。

 レイは溜息を付く。少し――の認識のすり合わせはなかった。

 しかし――レイは何も言わなかった。

 ミラを信頼しているわけではない。だが、悪いようにはしないだろうという予感があった。

 それは、信用だった。

 高度な光学迷彩。車両が消える。轍だけが残る。

 

 

 昨日と同じだと思っていた。だが、新たな学習が課され、今日も情報の圧に圧倒されていた。

 知識は強制ではない。しかし、生き抜くためには覚えなければならない。

 レイとマルは、それを理解していた。ダグは「よっしゃー!開放された!」と呑気に叫んでいる。だが、最低限は覚えるべきだろうと――本能的に理解していた。

「……とりあえず売りに行くか」

 レイの声が低く響いた。

「……そうだな」

 ハンターオフィスの買取所へ向かう。

 システムに絡み込まれる流れは止められなかった。

 

 

 スラム街に近い下位区画。雑然とした建物の一角。

 ハンターオフィスの買取所。

 ミラが教えてくれた場所だ。情報端末で、ご丁寧に地図まで確認できる。

 レイは無言で画面を閉じ、短く息を吐いた。

「至れり尽くせりだな」

 自嘲気味に呟く。だが、気にしても仕方がない。

 窓口に並び、ミラに持たされた部品を買取トレーへ載せる。ダグとマルのハンター証も添える。

 窓口の職員が視線を向ける。

「……お前は?」

 レイへと問いかける。

 装備は同じ。3人組み。見た目はどこかの徒党の所属。

 しかし、提出されたハンター証は二枚だけだった。

「俺は付き添いだ」

 職員は苛立つように告げる。

「いいからハンター証があるなら出せ」

 レイは黙って硬質プラスチック製のハンター証を取り出す。

 職員は僅かに眉を顰める。レイのハンター証を、ダグとマルの紙のハンター証と見比べた。

 そして、結論を下す。

 (養殖か)

 どこぞの徒党が、まとめて育てた若いハンター。スラムでは珍しくない。特に不審な点はない。

 職員は無言で3枚硬貨を渡す。買取トレーを後ろの棚へと移動させる。

 レイは無言で硬貨を受け取り、短く息を吐く。事前にミラから聞いていた通り――300オーラム。

 想定内。何の疑念もなく、買取所を後にする。ダグとマルも、それに続く。

 

 

 レイたちが立ち去る。職員は別の買取作業へと視線を移す。

 しかし――数秒後、棚に置いたばかりの買取トレーへと、再び目を向けた。

 部品。

 形状、サイズ、材質――どれも想定内のものだ。問題なく買い取れるレベル。

 だが――傷がない。

 摩耗なし。破損なし。通常なら、モンスターの回収品は何かしら損傷しているはずだった。

 職員は短く息を吐き、眉をひそめる。

 (これが、300オーラム以下ってことはないな)

 しかし――既に養殖と判断している。

 これ以上の興味を持つ価値はなかった。

 職員は無言で、次の買取作業へと移る。

 買取所の風景。都市の日常。その中に埋もれ、違和感は消えていく。

 

 

「面倒だから、レイからミナトさんに報告してくれ」

 マルが淡々と投げる。

 レイは短く息を吐いた。

「ちょっと前まで、300オーラムもいい稼ぎの範疇(はんちゅう)だったが―― 俺も面倒になってきたな」

 言葉は軽い。しかし、その裏には金銭感覚のズレがある。

 100オーラム単位の律儀な分配。徒党内の金の流れ。その仕組みを維持するミナトの苦労。

 今は、それがようやく理解できた。

「まあ、わかった。明日の報告でまとめてだ。徒党の報告があるから、明日も午後からだ」

 短く言う。

 (ミラから何か言われるかもしれないな。だけど、朝から晩までの回収作業も、それはそれでキツい……)

 譲歩させるつもりだった。

 

 

 ダグとマルと別れ、ミナトには「明日報告する」とだけ告げる。

 そのまま、部屋へと戻る。

 扉を閉める。微かに響く空気の振動。静寂が広がる。

 レイは短く息を吐いた。

 どれくらいぶりか――お湯が出るシャワールームに入る。

 湿った水音。流れ落ちる感覚。皮膚に残る感触。

 汚れを落とし、ただ無言で湯を浴びる。

 しかし、消えない感覚があった。

 抗えない。自分ではどうしようもない。

 都市の流れ。徒党の仕事。ミラの計算。

 全ての中に、組み込まれつつある。

 考えても、答えは出ない。

 レイは短く息を吐き、床へと身を沈めた。

 眠りに就く。

 それが、今、唯一出来ることだった。

 

 

 ミナトは静かに報告を始める。

「下っ端のレイですが、ハンターオフィスを通さない依頼で210万オーラムを稼ぎました」

 シジマは無言で聞く。

「他に二人の下っ端を引き連れていますが、戦闘はほぼなし。本人たちは立ち会うだけだったようです」

 短い沈黙。そして――シジマが低く言った。

「都市絡みじゃねえな」

 

「どこかが取り込もうとしている。どうにでもなる徒党だと思われて、ナメられてる」

 シジマは無表情のまま言葉を続ける。

「隠蔽工作をしようとする素振りすらない」

 ミナトは黙って聞いていた。

「気に入らねえが…… うちも、いいとこ中堅だ。今のところ利益にはなっている」

 冷徹な判断。利益が出ているなら、それはそれで構わない。

 しかし―― その利益が、誰の意図で生まれたものなのか。

「消そうと思えば、まだ消せる。まだ制御しきれる」

 沈み込むような声。しかし、その言葉はミナトに向けられていない。

 ミナトは静かに視線を向ける。シジマは低く呟いた。

「ミナト」

「はい」

「……これが、クガマヤマ都市ではなく、統企連絡みなら――もう手に負えねえ」

 わずかに沈黙。

「だから、統企連絡みではないとする。ならば、まだやりようはある」

 短く、明確に断定する。

 しかし――その断定こそが、誤認を深める。

 (統企連ではない? では、何故ここまでの規模で動いている? ハンターオフィスを通さない依頼。都市との接触はない。莫大な資金の流れ。ヤツバヤシの伝手――)

 ミナトは短く息を吐いた。しかし、口を閉じる。

 シジマは冷静に状況を見つめている。だが、その分析は――

 

 

 

【本日の収支】

- **依頼の報酬** → **+1000万オーラム**

- **依頼の弾薬費** → **-500万オーラム**

- **情報端末代** → **-300万オーラム**

- **汎用討伐依頼の報酬** → **+10万オーラム**

- **徒党への上納** → **-50万オーラム**

 

【現在の貯蓄】

162万オーラム

「ミラはいくら残してくれるんだろうか」

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