持たざる少年   作:交渉人

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13.区切り、あるいは始まり

 レイは情報端末を開いた。

 

 口座の残高――322万オーラム。

 

 明細が表示される。

 

 依頼の報酬:3000万オーラム

 弾薬代:2500万オーラム

 情報端末代:100万オーラム

 消耗品代:100万オーラム

 口座振込:75万オーラム

 

 昨日のやり取りが脳裏に浮かんだ。

 

「これはもう、徒党内徒党みたいなもんだろ。 財布はレイが管理。 拠点はレイの部屋」

 マルが軽く言う。

「そうなのか?……そうか」

 レイは短く考え、納得する。

「私はシャワーだけ貸してもらえればいいから……」

 ニナの言葉に、レイは溜息を付いた。

「わかったけど、手狭になるなここ」

「とりあえず床だけ使わせてもらうわ」

 ダグとマルが使い古された布を敷き、雑魚寝の体勢に入る。

 レイは無言で部屋を見渡した。

 (もっと大きい部屋がいいが……、借りられるとは思えないな。保留だ保留)

 

 

 ニナがレイの部屋に集まり、今後の話題になる。

「当面の目標?」

「ああ、そうだ」

 マルがレイを見据える。

「どういう意味だ?」

「今はミラの依頼に付き合ってるだろ? これまでを考えると信じられない稼ぎをしてるな?」

 レイは短く息を吐いた。

「そうだな。 明細で好き勝手されてるけどな」

 (なんだ100万って。一食50万オーラムだとでもいうのか? 一体何を食べさせられてるんだ俺たちは……、黒字だからいいけどさ。本来1万オーラムでも大金なんだ。……最近このあたりの感覚がよくわからなくなってるけど)

「俺は最底辺の生活から抜け出したいと思ってたんだが、レイはどうだ?」

 明細についての考察を打ち切ってマルに返答する。

「あ、ああ、同じだ」

「そうだよな。 ミラの依頼がいつ終わるのか知らないが、 終わったあとどうするのかって話だ」

 レイは少し考え、答えた。

「終わったあとか……まだ何も考えてはいないな」

「大きくは二択だ。 スラム街で成り上がるか、ハンターとして成り上がるか、だ。 場合によっては徒党を抜けることも考えたほうがいいぞ」

 (徒党を抜けるか……。いつかは、と考えてはいたが、いつかが迫っているということか)

「お前たちはどうするんだ?」

 マルが軽く言った。

「レイの運が尽きるまで、ついていく」

「なんだそれは」

「俺は美味いものが食いたい」

 情報端末を弄りながらダグが気の抜けた声で差し込む。

「クリームソーダでよけりゃいくらでも飲んどけ」

「なんだと!」

 ダグとマルが騒ぎ始める。

 その時、ニナが遠慮がちに問いかけた。

「……いいかな?」

 

 レイは視線を向ける。

「ニナ、なんだ」

「簡単に徒党は抜けられないと思うよ」

 レイは短く息を吐く。

「……見せしめにされる?」

 ニナは静かに答えた。

「少なくとも、何にもなしじゃメンツが立たないでしょう。これがないと」

 ニナは指を丸くしたサインを見せる。

「オーラムか……」

 レイは短く考え、答えた。

「ミナトに相談だな」

「ねえ、なんでミナトさんを呼び捨てにしてるの?」

 ニナの問いに、レイは短く息を吐く。

「考えたこともなかった。……甘えてたかな?」

 ニナは静かに言う。

「かなりね。穏健な方だと思うけど、気を付けたほうがいいよ」

 レイは短く頷く。

「わかった、気を付ける」

 そして――今後の方針について考えながら、レイは問いかけた。

「……今後の方針については考えておくが、ニナはどうするんだ?」

 ニナは軽く息を吐いた。

「徒党をすんなり抜けられて、生活できるならついて行こうかな」

 レイは少し驚いたが、短く答える。

「軽いな」

「こんな機会、滅多にないだろうしね」

 レイは短く息を吐く。

「わかった。 じゃあミラのところに向かうぞ」

 これまではただのレイの部屋だったが、決断の場になっていた。

 

 

 ミラとの回収作業は滞りなく進んだ。ニナも情報端末を与えられ、機械系部品の売却へ向かう。

 買取所の窓口に並ぶ。

「ニナもハンターの登録してたんだな」

 レイが紙のハンター証を指で弾く。ニナは軽く答える。

「登録だけね。 結構そういう人は多いと思うよ」

 買取トレーへミラから渡された部品を載せ、全員分のハンター証を添える。

 職員は端末を操作し、未精算があることを確認する。

「前回の買い取り分の査定が終わっているので、今回分とまとめて50万オーラムだ。 口座振り込みと現金、どちらにする?」

 レイは息を飲んだ。

 (そんなに高かったのかあれ)

 内心驚くが、表情には出さずに答える。

「口座振り込みで頼む」

「わかった。前回より人数が増えてるようだが、チームか何かの活動なのか?」

「まあ、そうだ。何か関係があるのか?」

 職員は軽く答える。

「査定や評価の兼ね合いで少しな。リーダーはレイだな?」

 職員はレイの硬質プラスチック製のハンター証を示す。

「まあ、そうだ」

 (チームか……やはりそう見られるんだな)

 職員は端末に情報を打ち込み、続ける。

「機械系部品はハンターオフィスとしては大歓迎なんだが、いくつか質問させてくれ。 どうやって手に入れた?」

「どうやってって、モンスターを倒してだが」

「機械系モンスターね……。 解体の心得でもあるのか?」

 レイはわずかに眉をひそめる。

「言っている意味がよくわからないが、何か問題でもあるのか?」

「そういうことじゃないが、査定内容を見ると部品が完璧な状態だったようでな」

「えっと……」

 自分たちで倒していない。解体もしていない。だが――それをそのまま答えるわけにもいかなかった。

 職員はレイの様子を見て、わずかに笑う。

「いや、いいんだ。駆け出しのハンターが持ち込む品としては少々異例だったから聞いただけだ。 困らせてしまったならすまない」

 レイは安堵したように息を吐いた。

「……それならよかった。また持ち込むと思うから、よろしく頼む」

「ああ、待ってるぞ」

 職員は手元の端末を操作し、レイの経歴を確認する。

 (製薬会社の契約社員として登録されている。真面な身元としてハンターランク10で初期登録されている。知らない社名だが、どこかの関連会社か? 何らかの部隊育成? ノウハウは社外秘? まあ、いいか)

 職員は次の買取に移る。ハンターオフィスの日常が流れる。

 

 買取所を離れたのち、口々に賞賛する。

「上手くごまかせたね」

「レイ、よくやったな」

 レイは溜息を付いた。

「勘弁してくれ。これもあれか? ハンターの知識が足りないせいなのか?」

 ミラの学習コンテンツの進捗はまだ芳しくない。駆け出しのハンターから逸脱している部分があるのか、ないのか――正確に判断する知識がまだない。

「とりあえず武器買いに行こうぜ。何も持ってないのは怪しいって」

「ミラがくれるのかと思ったら下着だったもんな……よし、ラドのところに行くか」

 

 

「というわけで、4人分の武器が欲しい。荒野に出てもおかしくない感じで」

 雑な要望に、ラドは眉をひそめ、問いかける。

「……わかったけどよ、役割分担とかはどうなってるんだ?」

 レイは違和感を覚え、問い返す。

「役割?」

「前衛、後衛、索敵、支援とか色々あるだろうが。……知らないのか?」

 レイは開き直って答える。

「すまん、知らない。名ばかりハンターなんだ」

 ラドは溜息を付く。

「おまえらはAAH突撃銃でいいだろ。嬢ちゃんはハンドガンにしとけ」

「それでいい。いくらだ?」

 レイに懐疑的な目線を向けながら、ラドは告げた。

「整備済の中古のAAH突撃銃3丁、ハンドガン1丁、整備ツールと弾薬セットで40万オーラムだ。払えるのか? 新品もあるが……」

 レイは短く考え、決断する。

(だいぶ高いな。だが、必要か。ハッタリも大事だからな)

「中古で大丈夫だ。支払いはハンター証で頼む」

 ラドは僅かに驚いたが、支払処理を済ませる。

「まいどあり。……少し前までゴミを売りに来てたガキとは思えねえな」

「俺もそう思うよ。……なあ、撃ち方はどうやって覚えればいい?」

「……買ってから言うな。誰かに習うか、使いながら覚えるかだな。ああ、整備の仕方は情報端末で調べられるぞ」

「わかった。調べ方だけ教えてくれ」

「それならアフターサービスでやってやる。端末を貸してみろ」

 ラドに礼を言い、店を後にする。

 

「これで見た目だけは最低限になったか」

 ダグとマルにAAH突撃銃を渡し、ニナにハンドガンを渡したレイは一息付く。

「使い方わからねえけどな」

「こうすりゃ弾が出るだろ?」

 ダグがトリガーを引く仕草を見せる。

「それで当たれば苦労はしないってやつだ。……さっき役割の話が出たけどどう思う?」

「それだけど、ミラさんのアレに出てきてたよ」

「なるほど……。やはりアレをこなすしかないのか」

「ダグ、ちゃんとやれよ。ご褒美あるんだぞ」

「ああ……クリームソーダ飲み放題な」

「それじゃないことだけはわかるぞ」

 

 

 ミラとの依頼の日々は順調に進んだ。レイの口座残高は、2000万オーラムを超えた。

 稼ぎが異常だ、と気付く者はいない。徒党への上納額も増えているが、まだ誰もそれを口にしない。

 ダグとマル、ニナはハンターランク10に到達した。

 登録手続時にダグとマルがふざけて職員に怒られる――

 

 「――美食のダグ? ふざけないでください。そんな登録名で本登録する気ですか?」

 マルが後ろで爆笑している。

 「……お二人とも、ふざけていることはこちらだって分かります。はい出禁にしまーす」

 

 ――というトラブルがあったものの、東部の一般的な基準における真面なハンターになった。

 レイのハンターランクは12になっていた。

 ミラの学習コンテンツは、進捗の差はあるが、確実に進んでいた。

 

 ニナ――ほぼ完了。情報端末の操作と復習へ移行。

 レイ――汎用討伐依頼の受注・報酬受け取りまで習得。

 ダグとマル――最低限は習得。定着率は未知数。

 

 駆け出し未満から最低限の基準へと移行する。

 基礎研修(チュートリアル)は終わった――そう言ってもいいほどに。

 

 

「ミラ、少しいいか?」

「いいよ。何が聞きたい?」

 ミラの声は軽い。

「ニナが入った時、モンスターの群れと戦っただろ? あの時も、汎用討伐依頼を受けていたのか?」

「受けてたよ。 それがどうしたの?」

 レイは短く息を吐く。

「あの規模の群れは、あれ以来なかったと記憶しているが……。 あの日の報酬額からすると、計算が合わない」

 ミラは僅かに思案し、軽く答える。

「あの日はちょっと数が多かったから、汎用討伐依頼は途中でキャンセルしたんだ」

「……なんでそんなことを?」

「あの規模の群れをレイ君の実力で倒したってことにすると、言い訳ができないからね。ごまかせない状況にならないように、汎用討伐依頼は受けたりキャンセルしたりしてるよ。 説明してなくてごめんね」

 レイは短く息を吐いた。

「いや、理由がわかればいいんだ。 むしろ色々考えてくれていてありがとう、ミラ」

「どういたしまして。レイ君も、そういうのに気付けるようになったんだね」

 ミラの声は楽しげだった。

「ああ、おかげさまでな」

 レイはミラの言葉から、依頼の意図に気付いた。

 (……あくまでも活動の主体は俺たち。そう見せかける必要があった、ということか)

 

 ミラは思案する。

『そろそろ区切りか。レイの運――と呼べるような何かは確かに異質だったが、これ以上は浪費か』

 ミラは、変わらぬ軽い声で告げる。

「回収の依頼だけど、十分集まったということで、依頼元から残り一週間を期限とすると連絡がありました」

 一息付き、続ける。

「長い間ありがとね」

 

 静寂。

 突然の終了宣言に、車内は沈黙に包まれる。

 ミラは続けて告げる。(ねぎら)うように、静かに。

「お勉強もみんな頑張ってくれたから、最終日は約束通り、ご褒美を進呈します」

 ミラの次の言葉を待つ。

「ご褒美は選べるから最終日に選んでね」

 少し間を開けて、沈黙が解ける。

「え、終わり?」

「選べるの?」

 

 レイが問いかける。

「何から選べるんだ?」

 ミラは軽く答える。

「武装や車とかかなー。お楽しみに!」

 

 レイは息を飲む。

 (車か……!)

 ミラの車並のものがあれば、便利だろう。

 4人は、それぞれ違う表情を浮かべる。しかし――妄想を膨らませているのは、一緒だった。

 

 

 

【現在の貯蓄】

2000万オーラム

「分配して、手元に残るのは……」

レイがご褒美に車を貰うとしたらそれは?

  • バギー
  • 装甲車(マローダーみたいなやつ)
  • バス
  • 救急車
  • 戦車
  • 上記以外
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