持たざる少年 作:交渉人
レイは情報端末を開いた。
口座の残高――322万オーラム。
明細が表示される。
依頼の報酬:3000万オーラム
弾薬代:2500万オーラム
情報端末代:100万オーラム
消耗品代:100万オーラム
口座振込:75万オーラム
昨日のやり取りが脳裏に浮かんだ。
「これはもう、徒党内徒党みたいなもんだろ。 財布はレイが管理。 拠点はレイの部屋」
マルが軽く言う。
「そうなのか?……そうか」
レイは短く考え、納得する。
「私はシャワーだけ貸してもらえればいいから……」
ニナの言葉に、レイは溜息を付いた。
「わかったけど、手狭になるなここ」
「とりあえず床だけ使わせてもらうわ」
ダグとマルが使い古された布を敷き、雑魚寝の体勢に入る。
レイは無言で部屋を見渡した。
(もっと大きい部屋がいいが……、借りられるとは思えないな。保留だ保留)
◇
ニナがレイの部屋に集まり、今後の話題になる。
「当面の目標?」
「ああ、そうだ」
マルがレイを見据える。
「どういう意味だ?」
「今はミラの依頼に付き合ってるだろ? これまでを考えると信じられない稼ぎをしてるな?」
レイは短く息を吐いた。
「そうだな。 明細で好き勝手されてるけどな」
(なんだ100万って。一食50万オーラムだとでもいうのか? 一体何を食べさせられてるんだ俺たちは……、黒字だからいいけどさ。本来1万オーラムでも大金なんだ。……最近このあたりの感覚がよくわからなくなってるけど)
「俺は最底辺の生活から抜け出したいと思ってたんだが、レイはどうだ?」
明細についての考察を打ち切ってマルに返答する。
「あ、ああ、同じだ」
「そうだよな。 ミラの依頼がいつ終わるのか知らないが、 終わったあとどうするのかって話だ」
レイは少し考え、答えた。
「終わったあとか……まだ何も考えてはいないな」
「大きくは二択だ。 スラム街で成り上がるか、ハンターとして成り上がるか、だ。 場合によっては徒党を抜けることも考えたほうがいいぞ」
(徒党を抜けるか……。いつかは、と考えてはいたが、いつかが迫っているということか)
「お前たちはどうするんだ?」
マルが軽く言った。
「レイの運が尽きるまで、ついていく」
「なんだそれは」
「俺は美味いものが食いたい」
情報端末を弄りながらダグが気の抜けた声で差し込む。
「クリームソーダでよけりゃいくらでも飲んどけ」
「なんだと!」
ダグとマルが騒ぎ始める。
その時、ニナが遠慮がちに問いかけた。
「……いいかな?」
レイは視線を向ける。
「ニナ、なんだ」
「簡単に徒党は抜けられないと思うよ」
レイは短く息を吐く。
「……見せしめにされる?」
ニナは静かに答えた。
「少なくとも、何にもなしじゃメンツが立たないでしょう。これがないと」
ニナは指を丸くしたサインを見せる。
「オーラムか……」
レイは短く考え、答えた。
「ミナトに相談だな」
「ねえ、なんでミナトさんを呼び捨てにしてるの?」
ニナの問いに、レイは短く息を吐く。
「考えたこともなかった。……甘えてたかな?」
ニナは静かに言う。
「かなりね。穏健な方だと思うけど、気を付けたほうがいいよ」
レイは短く頷く。
「わかった、気を付ける」
そして――今後の方針について考えながら、レイは問いかけた。
「……今後の方針については考えておくが、ニナはどうするんだ?」
ニナは軽く息を吐いた。
「徒党をすんなり抜けられて、生活できるならついて行こうかな」
レイは少し驚いたが、短く答える。
「軽いな」
「こんな機会、滅多にないだろうしね」
レイは短く息を吐く。
「わかった。 じゃあミラのところに向かうぞ」
これまではただのレイの部屋だったが、決断の場になっていた。
◇
ミラとの回収作業は滞りなく進んだ。ニナも情報端末を与えられ、機械系部品の売却へ向かう。
買取所の窓口に並ぶ。
「ニナもハンターの登録してたんだな」
レイが紙のハンター証を指で弾く。ニナは軽く答える。
「登録だけね。 結構そういう人は多いと思うよ」
買取トレーへミラから渡された部品を載せ、全員分のハンター証を添える。
職員は端末を操作し、未精算があることを確認する。
「前回の買い取り分の査定が終わっているので、今回分とまとめて50万オーラムだ。 口座振り込みと現金、どちらにする?」
レイは息を飲んだ。
(そんなに高かったのかあれ)
内心驚くが、表情には出さずに答える。
「口座振り込みで頼む」
「わかった。前回より人数が増えてるようだが、チームか何かの活動なのか?」
「まあ、そうだ。何か関係があるのか?」
職員は軽く答える。
「査定や評価の兼ね合いで少しな。リーダーはレイだな?」
職員はレイの硬質プラスチック製のハンター証を示す。
「まあ、そうだ」
(チームか……やはりそう見られるんだな)
職員は端末に情報を打ち込み、続ける。
「機械系部品はハンターオフィスとしては大歓迎なんだが、いくつか質問させてくれ。 どうやって手に入れた?」
「どうやってって、モンスターを倒してだが」
「機械系モンスターね……。 解体の心得でもあるのか?」
レイはわずかに眉をひそめる。
「言っている意味がよくわからないが、何か問題でもあるのか?」
「そういうことじゃないが、査定内容を見ると部品が完璧な状態だったようでな」
「えっと……」
自分たちで倒していない。解体もしていない。だが――それをそのまま答えるわけにもいかなかった。
職員はレイの様子を見て、わずかに笑う。
「いや、いいんだ。駆け出しのハンターが持ち込む品としては少々異例だったから聞いただけだ。 困らせてしまったならすまない」
レイは安堵したように息を吐いた。
「……それならよかった。また持ち込むと思うから、よろしく頼む」
「ああ、待ってるぞ」
職員は手元の端末を操作し、レイの経歴を確認する。
(製薬会社の契約社員として登録されている。真面な身元としてハンターランク10で初期登録されている。知らない社名だが、どこかの関連会社か? 何らかの部隊育成? ノウハウは社外秘? まあ、いいか)
職員は次の買取に移る。ハンターオフィスの日常が流れる。
買取所を離れたのち、口々に賞賛する。
「上手くごまかせたね」
「レイ、よくやったな」
レイは溜息を付いた。
「勘弁してくれ。これもあれか? ハンターの知識が足りないせいなのか?」
ミラの学習コンテンツの進捗はまだ芳しくない。駆け出しのハンターから逸脱している部分があるのか、ないのか――正確に判断する知識がまだない。
「とりあえず武器買いに行こうぜ。何も持ってないのは怪しいって」
「ミラがくれるのかと思ったら下着だったもんな……よし、ラドのところに行くか」
◇
「というわけで、4人分の武器が欲しい。荒野に出てもおかしくない感じで」
雑な要望に、ラドは眉をひそめ、問いかける。
「……わかったけどよ、役割分担とかはどうなってるんだ?」
レイは違和感を覚え、問い返す。
「役割?」
「前衛、後衛、索敵、支援とか色々あるだろうが。……知らないのか?」
レイは開き直って答える。
「すまん、知らない。名ばかりハンターなんだ」
ラドは溜息を付く。
「おまえらはAAH突撃銃でいいだろ。嬢ちゃんはハンドガンにしとけ」
「それでいい。いくらだ?」
レイに懐疑的な目線を向けながら、ラドは告げた。
「整備済の中古のAAH突撃銃3丁、ハンドガン1丁、整備ツールと弾薬セットで40万オーラムだ。払えるのか? 新品もあるが……」
レイは短く考え、決断する。
(だいぶ高いな。だが、必要か。ハッタリも大事だからな)
「中古で大丈夫だ。支払いはハンター証で頼む」
ラドは僅かに驚いたが、支払処理を済ませる。
「まいどあり。……少し前までゴミを売りに来てたガキとは思えねえな」
「俺もそう思うよ。……なあ、撃ち方はどうやって覚えればいい?」
「……買ってから言うな。誰かに習うか、使いながら覚えるかだな。ああ、整備の仕方は情報端末で調べられるぞ」
「わかった。調べ方だけ教えてくれ」
「それならアフターサービスでやってやる。端末を貸してみろ」
ラドに礼を言い、店を後にする。
「これで見た目だけは最低限になったか」
ダグとマルにAAH突撃銃を渡し、ニナにハンドガンを渡したレイは一息付く。
「使い方わからねえけどな」
「こうすりゃ弾が出るだろ?」
ダグがトリガーを引く仕草を見せる。
「それで当たれば苦労はしないってやつだ。……さっき役割の話が出たけどどう思う?」
「それだけど、ミラさんのアレに出てきてたよ」
「なるほど……。やはりアレをこなすしかないのか」
「ダグ、ちゃんとやれよ。ご褒美あるんだぞ」
「ああ……クリームソーダ飲み放題な」
「それじゃないことだけはわかるぞ」
◇
ミラとの依頼の日々は順調に進んだ。レイの口座残高は、2000万オーラムを超えた。
稼ぎが異常だ、と気付く者はいない。徒党への上納額も増えているが、まだ誰もそれを口にしない。
ダグとマル、ニナはハンターランク10に到達した。
登録手続時にダグとマルがふざけて職員に怒られる――
「――美食のダグ? ふざけないでください。そんな登録名で本登録する気ですか?」
マルが後ろで爆笑している。
「……お二人とも、ふざけていることはこちらだって分かります。はい出禁にしまーす」
――というトラブルがあったものの、東部の一般的な基準における真面なハンターになった。
レイのハンターランクは12になっていた。
ミラの学習コンテンツは、進捗の差はあるが、確実に進んでいた。
ニナ――ほぼ完了。情報端末の操作と復習へ移行。
レイ――汎用討伐依頼の受注・報酬受け取りまで習得。
ダグとマル――最低限は習得。定着率は未知数。
駆け出し未満から最低限の基準へと移行する。
◇
「ミラ、少しいいか?」
「いいよ。何が聞きたい?」
ミラの声は軽い。
「ニナが入った時、モンスターの群れと戦っただろ? あの時も、汎用討伐依頼を受けていたのか?」
「受けてたよ。 それがどうしたの?」
レイは短く息を吐く。
「あの規模の群れは、あれ以来なかったと記憶しているが……。 あの日の報酬額からすると、計算が合わない」
ミラは僅かに思案し、軽く答える。
「あの日はちょっと数が多かったから、汎用討伐依頼は途中でキャンセルしたんだ」
「……なんでそんなことを?」
「あの規模の群れをレイ君の実力で倒したってことにすると、言い訳ができないからね。ごまかせない状況にならないように、汎用討伐依頼は受けたりキャンセルしたりしてるよ。 説明してなくてごめんね」
レイは短く息を吐いた。
「いや、理由がわかればいいんだ。 むしろ色々考えてくれていてありがとう、ミラ」
「どういたしまして。レイ君も、そういうのに気付けるようになったんだね」
ミラの声は楽しげだった。
「ああ、おかげさまでな」
レイはミラの言葉から、依頼の意図に気付いた。
(……あくまでも活動の主体は俺たち。そう見せかける必要があった、ということか)
ミラは思案する。
『そろそろ区切りか。レイの運――と呼べるような何かは確かに異質だったが、これ以上は浪費か』
ミラは、変わらぬ軽い声で告げる。
「回収の依頼だけど、十分集まったということで、依頼元から残り一週間を期限とすると連絡がありました」
一息付き、続ける。
「長い間ありがとね」
静寂。
突然の終了宣言に、車内は沈黙に包まれる。
ミラは続けて告げる。
「お勉強もみんな頑張ってくれたから、最終日は約束通り、ご褒美を進呈します」
ミラの次の言葉を待つ。
「ご褒美は選べるから最終日に選んでね」
少し間を開けて、沈黙が解ける。
「え、終わり?」
「選べるの?」
レイが問いかける。
「何から選べるんだ?」
ミラは軽く答える。
「武装や車とかかなー。お楽しみに!」
レイは息を飲む。
(車か……!)
ミラの車並のものがあれば、便利だろう。
4人は、それぞれ違う表情を浮かべる。しかし――妄想を膨らませているのは、一緒だった。
【現在の貯蓄】
2000万オーラム
「分配して、手元に残るのは……」
レイがご褒美に車を貰うとしたらそれは?
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バギー
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装甲車(マローダーみたいなやつ)
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バス
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救急車
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戦車
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上記以外