持たざる少年   作:交渉人

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18.付き添い

 荒野でレイドシャークとの遭遇戦を終え、帰還した翌朝、共用スペースに三人を集めたレイは、椅子の背にもたれながら開口一番に告げた。

 

「……今日から三日間、ハンター稼業はしない。休養と準備に充てる」

 

 昨日の戦闘での消耗は、肉体的というより精神的なものが大きい。あのようなモンスターに再び遭遇すれば、勝てる保証はない――そう痛感したからだ。

 

「各自、好きに過ごしていい。ただし条件がある。外出する時は最低二人一組。武装はする。これは守って欲しい」

 

 レイがそう言うと、マルが即座に挙手した。

 

「買い出しに行きたいから車使うぞ」

「わかった。付き添いは……」

 レイが視線を動かす。

「俺だな」

 ダグが肩を竦める。

「消去法だろ?」

 

 短いやり取りのあと、レイは情報端末を操作し、車両のユーザー登録画面を開いた。

 既に自分は登録済みだが、これでマルの端末からも車両のロック解除と各種操作が可能になる。物理的な鍵を持ち歩く必要はない。

 

「ユーザー登録完了。運転は慎重にやれよ」

「わかってる」

 マルは淡々と返す。

 

 ニナは特に予定を告げず、「今日はここでのんびりする」と言って部屋へ戻っていった。

 レイは、コーヒーを飲み干し、車両のマニュアルを開く。

 この数日は、車両の全機能を頭に叩き込むつもりだった。

 

 マルとダグが拠点へ帰ってきたのは昼過ぎだった。

 買ってきたのは監視カメラ数台とタレット二基、それに弾薬や予備パーツ。

 

 (日用品を買いに行ったんじゃなかったのか?)

「……何を買って来たんだ?」

「拠点の防犯用にな。結構な額になったぞ」

「……金はいいのか?」

「個人的に気になってたからいい」

 マルはそう言って、自らケーブルや制御盤を手際よく接続し始めた。

 ダグは拠点の敷地内でAAH突撃銃の訓練や、火華の改造AAH突撃銃の性能確認を始める。

 

 拠点の周囲にカメラが設置され、死角が減っていく。タレットは門と駐車スペースをカバーする位置に据えられ、カメラやタレットは車両そのものの防犯機構と連携し、侵入者や車両泥棒を自動で迎撃できる設定にした。敵味方判定はミナトから提供された徒党のメンバー情報を元にしている。

 

 レイは一息付き、椅子に座り、情報端末を片手に車両のマニュアルを確認していた。

 ドローンの制御ルーチン、兵装の射撃モード、エネルギー残量の推移に応じたセーフモード。昨日の反省を踏まえ、マニュアルの確認を進める手は止まらない。

 こうして一日が過ぎて行った。

 

 

 休養二日目、レイは朝食の途中でダグから物騒な話を聞く。

 

「昨日、アキラって名乗るガキのハンターが、死体担いで拠点にカチコんできたらしいぞ」*1

「……何それ。誰それ。……死体?」

 ニナが手を止める。

「知らん。けど、ボスが相当キレてたって話だ」

「報復しに来たってことか? ……それでどうなったんだ? 別の徒党と抗争か?」

 マルも表情を険しくする。

「いや、よくは知らんがボスが収めたらしい。怪我人は出たらしいがな」

 レイはそのやり取りを黙って聞いていたが、やがて静かに吐き出すように言った。

「……わかってはいたつもりだが、スラム街も大概物騒だな」

 レイはスープを口に運びながら、スラム街の治安の悪さを改めて感じていた。

 ――荒野は危険だが、都市の中も安全ではない。

 元の拠点になるべく近付かないことを決め、今の拠点の防犯強化をしたマルに内心で感謝した。

 

 食後、ニナが口を開いた。

「ねえ、午後に街へ出たい。服を買いたいんだけど」

「……今それ必要か?」

 レイは思わず眉をしかめた。しかし昨日、自分が「最低二人で行動しろ」と言った手前、付き添わないわけにもいかない。

「……わかった。俺が付き添う」

 (男三人に、女一人。もしかして俺達ってバランスが悪いのか?そういえば、ミラも以前、似たようなことを言っていた気がする。うーん……)

 

 買い物の行き先は、ニナが事前に下調べしていた都市の下位区画の衣料店だった。

 ニナはいつもと違う服装だった。色褪せた作業着ではなく、地味ながらも軽やかなワンピース。

 一方、レイは相変わらず強化服姿だ。

 

「……ねえ、それで行くの?」

「……よそ行きなんて持ってない」

「……まあ、そうよね」

 ニナは呆れた顔をしつつも、軽く流した。

 

 衣料店の店内は、色とりどりの布地や吊り下げられた服が並び、隅では客の採寸も行われていた。

 看板にはラファントーラとある。下位区画の中では高級店に属し、売り上げはそこまでではないが、評判は悪くない店だ。

 

 入店するや否や、ニナは棚を回り、時には生地を手に取って感触を確かめ、店員と軽く言葉を交わす。

 その相手は、店主であるカシェアだった。

 

 レイは入り口近くの椅子に腰掛け、情報端末で車両のマニュアルを読み込んでいる。

 砲塔の整備手順から、エネルギーの効率的な運用方法の記述など、知らないことが山ほどある。ニナ達の会話に混ざるつもりは毛頭ない。

 

 (ふぅん……恋人って感じじゃないわね。あの子は本当にただの付き添いか)

 カシェアは二人の距離感を素早く見極め、営業のターゲットをニナ一人に絞った。

 

 レイが途中で何かトラブルでも起きているのかと錯覚し、車両のマニュアルの確認を一度切り上げるほど長かった買い物の帰り、レイは思い付きで口を開いた。

「……女子メンバー、増やしたほうがいいか?」

「へ?……レイの好きにすれば?」

 ニナは素っ気ない。だが続けて、「暇そうにしてる子は何人かいるし、聞いてみよっか?」と付け加える。

 

 レイは深く考えていたわけではない。ただ今後もありそうな付き添いが面倒だと思っただけだ。

 しかしニナはそのまま翌日の拠点訪問を決めてしまった。

 (……私に付き添うのを面倒に感じたのね? 下心がないのは評価できるけど、無さすぎるのも、それはそれで問題ではある。私とは別のタイプの女子が良さそうか……。だけど、私と気が合うタイプじゃないと……)

 ニナは持ち前の勘で、レイの内心をほぼ看破し、追加人員の考察を始めた。

 

 

 休養三日目、レイとニナは元々使っていた――徒党としてはメインの――拠点を訪れた。

 塀に囲まれた敷地には装甲車やバイクが並び、構成員たちが銃の手入れや訓練をしている。

 

 候補者との顔合わせはあっさり終わった。ハンター稼業に付き合ってもいいと手を挙げたのは、黒髪を肩で切り揃えた、背丈は並な少女――リンだけだった。

 おどおどしたように、視線を泳がせるが、自己紹介の声ははっきりしている。ハンターの登録だけはしてあるという。

 

 レイの認識では、リンは拠点の端に置かれた共用の情報端末をいつもいじっているタイプだった。雑用以外の姿を見たことはない。つまり、深くは知らなかった。

 

 一方でリンは意外にも前向きだった。

 (この人たち、本物の車を持ってるんだ……。私も運転、してみたい)

 荒野を走る車両に憧れがあった。だからレイたちの誘いに、躊躇(ためら)いなく応じた。

 

「……この子でいいの?」

 ニナが問う。

「逆にニナはいいのか?……その、一緒に行動することになると思うけど」

「私は大丈夫。ミナトさんの許可は取ってね」

 ニナがレイに釘を刺す。

「……了解だ」

 早くも面倒になってきたレイだが、言い出したのが自身である自覚はあるので、ミナトの元に向かった。

 

 ミナトに打診した結果、リンは現状、拠点での役割はほぼなく、将来的には飲み屋で働く予定だったという。

 (リンは将来的に稼ぎを生み出すと見て、徒党に置いていた。……一方レイは上納は欠かさないし、人員の配置先として悪くはない)

 ミナトは一度だけレイを見て、

 (何を考えているかはわからないが、まあ、問題ないか)

 そう内心で判断し、短く「使い方は……お前次第だ。上手くやれよ」とだけ告げて送り出す。

 

 こうしてリンが半ば勢いでチーム入りすることになった。勿論リンの分の強化服などはない。

「……ダメ元で火華に頼んでみるか」

 レイは呟いた。

 

 

 

【現在の貯蓄】

1330万オーラム

0コロン

「……リンの装備を考えないとな」

*1
WEB版「23 地雷のような子供」より

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