持たざる少年   作:交渉人

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28.ゼロ

 遺跡探索から帰還した翌日。

 僅かに埃の匂いが残る拠点の一室で、レイたちはテーブルを囲んでいた。

 

「さて……次はどうするかだな」

 レイが言うと、全員の視線が自然と集まる。

 

 遺跡探索で得た素材の山が、端に積まれていた。

 リョウがガラクタと称してレイたちに譲ったものだが、レイたちはそうは思っていない。リョウは積載(ペイロード)の関係で積み込むのが面倒になったのだと推察していた。それと、この程度では端金、なのだと――コロンに比べれば。

 素材は破壊した防衛機械の装甲、遺跡構造物の断片、そして見慣れない部品を含んでいた。

 どれも実際の価値は未知数だが、ハンターオフィスなら――高値で引き取る可能性があった。

 

「売るにしても、あれだけの量だ。下手に持ち込めば目立つ」

 マルが腕を組む。

「ハンターオフィスの買取所にそのまま行くのは危険だな。何かしら疑われる」

 

「だったら、事前に連絡しておく?」

 ニナが提案する。

 

「ああ。その方がいい。査定にも時間がかかるだろうし」

 レイは頷いた。

「ハンターオフィスには俺から連絡を入れておく。連絡先を調べてくれ」

 ニナとマルは顔を見合わせ、暫くするとニナが頷いた。

「りょーかい、リーダー」

 

「次は……コロンだな」

 レイが言うと、場の空気が少し重くなる。

 遺跡探索で得たものには、旧世界の通貨であるコロンが含まれていた。ハンター稼業で得た物ではあるが、スラムの徒党では扱いづらい代物だ。

 

「徒党に報告するかどうか、だね」

 ニナが言う。

 

「俺の考えでは、報告はしておくべきだと思う。けど、上納は……対象外だな」

 レイが静かに言った。

「徒党じゃコロンの口座なんて持ってないはずだ。扱えないものを渡しても意味がない」

 

「よくわからねぇけどよ、取り上げられたりしねぇか?」

 ダグが腕を組む。

 口では軽く言うが、徒党の厳しさは身に染みている。報告を怠れば、制裁がある。

 

「それ言いだしたら、車両とかも同じだろ」

 マルが口を挟む。

「ボスに知られれば、どのみち全部共有物扱いになる。つまり――もう線を引く時期ってことだ」

 

「大分今更な話ね」

 ニナが肩を竦める。

 ただ、その口調とは裏腹に、胸の奥に薄っすらとした緊張があった。

 徒党を抜ける。それは自由を得る代わりに、後ろ盾を失うということでもある。

 

 レイは黙って聞いていた。

 マルの言葉は極端だが、まるっきり間違いでもない。ただ、――全部共有物、という言葉に引っかかりを感じていた。

 (ミナトはこう言ってた。決断はお前次第だ。うちは無理強いはしない)

 搾り取るだけの徒党ではなかった。

 秩序を守るための線引きがあって、そこを越えない限りは、交渉が通じる。

 (なら、まだやりようはある。報告して、筋を通す。それでいい)

 

「でも、それなら報告しなくてもいいんじゃ?」

 軽く言いながらも、ニナの声には探るような響きが混じる。

 

 レイはしばらく黙り、全員の顔を見た。

 ニナの疑問はもっともだったが、それでも譲れないものがあった。

 

「まあ、これは義理みたいなもんだ。……筋は通すさ。だが、それだけじゃない」

 レイは一息付いて続ける。

「そろそろ出るべきだろう。それには、手土産が必要だ」

 レイの言葉に、全員の視線が交わる。

 

 ――スラムから、徒党から、そして安全圏から。

 

 マルが息を吐いた。

「……まあ、わかったよ」

 そう言って肩を叩く。表情は飄々としていたが、その奥には一抹の覚悟があった。

 

「……だから、ミナトに報告はする。だが、全ては素材の売却後だ」

 レイはまとめると、息を付いた。

 

 

 一段落ついたところで、ふと視線を上げる。

「で、次に決めたいことがある。……いや、相談かな」

 

「何、改まって」

 ニナが首を傾げる。

 

「俺たちは、荒野でモンスターを倒した。遺跡も探索した。拠点も得た」

 レイが指折りながら言うと、マルが口元を緩めた。

「なんかそう聞くと、めちゃくちゃ安定してきたように聞こえるな」

 

「……車も、あるよ」

 リンが小さく付け加える。

 

「ああ、そうだな」

 レイは微かに笑みを浮かべ、全員を見渡した。

「――次の目標を決めるべきだ」

 

 沈黙。

 それは緊張というよりも、一区切りを自覚した空気だった。

 これまで生き延びることで精一杯だった彼らに、ようやく次を考える余裕が生まれていた。

 

 レイが口火を切る。

「ダグ、車増やすか? お前の火力を活かすならその方がいいかと思ってな」

 ダグは少し考え、口を開く。

「車両戦もいいけど、個人で動ける兵装が欲しい。バイクとか、あったら便利だろ?」

 

「……バイクか」

 レイが考えるように顎に手を当てる。

「悪くない。遺跡でも使えそうだ。お前を活かすには、それも手だな」

 

「だろ? あと、ミラがくれたクリームソーダ、また飲みてぇ!」

 ダグが笑うと、場の空気が僅かに緩んだ。

 

「私は服ともっといいお風呂。そろそろ文明的な生活をしてもいい頃でしょ」

 ニナが微笑む。

 (また買うのか? まあいい、リンとうまいことやってくれ)

 

「……俺は保留だ」

 マルは短く言って肩を竦めた。

 

 リンが呟く。

「……この情報端末、性能はいい、けど、思ったほど……じゃなかった」

 レイは信じられないものを見る目でリンを凝視する。

「……買ったばっかだろ。昨日だぞ?」

「だから……多津森重工*1のやつ……! 多津森重工の高いやつ(ハイエンドモデル)が欲しい……な?」

 

 リンが笑顔で言うと、急に出てきた企業名にレイは眉根を寄せる。

「……多津森重工?」

 レイの問いに、ニナが手元の端末を弄りながら答えた。

「今流通してる情報端末の基礎を作った企業だよ。ハンター稼業に耐え得る実用的な情報端末の開発に成功、東部に広めた、その功績で統企連の五大企業の一角に成り上がり。多津森重工製の高性能端末(ハイエンドモデル)は、昔から一種の憧れなんだ」

 

 レイは「へー」と曖昧に返す。だが、ニナの言葉の意味は少し重かった。

 

 単純な情報端末としての能力なら、火華の工房で手に入れた端末が最高峰だ。旧世界由来の技術に基づいたそれは、東部に広がる色無しの霧の影響を無視して通信を維持できる。

 だが、用途を絞った特化型情報端末――とりわけ娯楽の分野では、多津森重工の端末に軍配が上がった。

 

 多津森重工製の情報端末ならクガマヤマ都市にも流通している。それどころか現在も市場を独占してると言っていい。

 だが、リンが求めるようなモデルは、クガマヤマ都市どころか統企連を構成する五大企業の一社、坂下重工の庇護下にある――オーラム経済圏のどこにも存在しなかった。

 その特異な、先鋭化した設計思想が、多津森重工の勢力圏――企業通貨の異なる別の経済圏でしか生きていないのだ。

 

 レイは頭を掻きながら、小さく息を吐いた。

「まあ、わかったよ」

 (特に反対意見もないし、いいか。金の使い道なんて、どうせ全員で決める。チームってのはそういうもんだ。じゃあ火華に返品……いや、マルに譲るか。マルなら有効活用出来るだろう)

 

 リンが内心で小さく笑う。

 (レイくん、大分ちょろい気がする)

 

 同じように、ニナも思っていた。

 (レイ、ちょっとちょろすぎない?)

 

 二人の視線が一瞬だけ交わり、どちらともなく苦笑する。

 

 (なら、リンに与えられたあの情報端末……いずれ使わせてもらうか。レイと交渉だな)

 マルはそんな二人を横目に、淡々と損得を計算していた。

 

 全員がそれぞれの目標を語り終えたところで、ふと沈黙が落ちた。

 レイは椅子にもたれ、天井を見上げる。

 

「……なんか、目的を決めたがいいが、逆に目的が見えなくなってる気がするな」

 

 誰もすぐには言葉を返さなかった。

 だが、その沈黙は重苦しいものではない。

 持たざる者が持ち始めたからこそ生まれる、次の段階への迷いだった。

 

 

 午後。

 レイは情報端末を操作していた。

 画面には、ハンターオフィスのサイト。

 ニナが隣で腕を組みながら覗き込む。

 

「問い合わせフォーム、ここね。査定とか買取依頼はこっちから」

「……顔も出さずに済むのか?」

「うん。登録情報と端末の識別コードで、本人確認できるようになってる」

 

 レイは画面を覗き込みながら、少し唸った。

「……なんて書いたらいい?」

「そうね……ワケありとでも書いておけば?」

 ニナが軽い調子で答える。

 

「……それで通じるか?」

「通じるでしょ。オフィスって、そういう人達の集まりだし」

「……そういうもんかな」

 (大分怒られそうなこと言ってると思うけど)

 

 レイは短く息を吐くと、入力欄に指を走らせた。

 『ワケありの素材を持っている。安全な査定方法を知りたい』

 

 送信ボタンを押す指先に、わずかに力が籠る。

 

 数分後、通知が返ってきた。

 『査定担当職員を手配しました。明日、指定時間に来訪ください。査定は別室にて行います』

 

 文面は事務的だが、どこか興味を含んでいた。

 (……ワケありに反応したな)

 レイは無意識に眉をひそめる。

 あの職員の顔が脳裏に浮かんだ。以前、レイドシャークの討伐後の査定で出会った、あの冷静な男――。

 (まさか、な)

 

「……明日の指定、だそうだ」

 レイが通知を確認し、短く告げる。

「ってことは、今日はもう動けないね」

「なら、ハンター稼業……じゃなくて買い出し行くか。食糧がそろそろ尽きる」

「賛成。回復薬も使ったしね」

「弾ももうねえぞ」

 ダグのぼやきに、レイは肩を竦めた。

 

「生活維持もハンター稼業の一部だぞ。ほら、行くぞ」

 

 

 車両はクガマヤマ都市の下位区画──比較的治安の保たれた商業エリアへと滑り込む。

 昼下がりの通りは人の流れが絶えず、武装したハンターたちが物資店や修理屋の間を行き来していた。

 

 (ここは……変わらないな)

 

 レイが車両を駐車スペースに停め、防犯設定を施す。

 表示された警告アイコンが「ここで銃を抜くな」と念を押していた。

 

 目的の店は以前も利用した物資屋だ。外壁の塗装は剥げかけ、看板は半ば読めないが、相変わらず客は多い。

 オイルと薬品の混じった匂いが鼻をくすぐり、ハンター稼業の現実を思い出させる。

 

 店内には携行食、医療キット、弾薬、修理ツール、保存パック、そして生活雑貨までが揃っている。

 今回は戦闘物資の補充に加え、当座の生活物資をまとめて購入するつもりだった。五人分となると中々の量になる。

 

「弾薬はAAH用の通常弾、百発単位でまとめ買い。あと回復薬三本、補充な」

 レイが端末に指示を打ち込み、マルが支払い処理を並行して進める。

「保存食、飲料水、寝具……あと、洗剤と……シャンプー?」

 ニナが棚を見回しながら呟く。

「……リン用だな」

「う、うん……」

 リンが小さく頷き、俯く。

 

「忘れんなよ、修復テープと接着剤。あれがないと荒野で地獄見るぞ」

「了解。あと、車両用のオイルと冷却剤も追加しとこう。あ、修理キットも」

 マルが淡々と入力していく。

 

「大分買い込んでるけど、大丈夫なの?」

「ああ。素材売却でオーラムの当てはあるし、大きく使って、大きく稼ぐ方が最終的な効率はいい、はずだ」

「そう。考えてるならいいけど」

 

 支払いが完了すると、店主が淡々と荷物を梱包し、配送車に積み込んだ。

「納品先、登録地点でいいな」

「ああ、頼む」

 

 店を出ると、夕暮れが都市の通りを橙に染め始めていた。

 荷物の引き渡し通知が端末に届き、レイが短く頷く。

 

「よし。あとは……明日だな」

「ちょっと緊張するね」

「なんだかんだで初の正式査定だもんな」

 マルの言葉に、レイは軽く息を吐く。

 

 (何が出るか、わからねぇ……けど、行くしかない)

 

 車両のエンジンが静かに唸りを上げ、彼らを再び拠点へと運んでいった。

 

 

 翌朝、レイたちは都市へ向かった。

 車両がスラム街の赤土を離れ、クガマヤマ都市の下位区画に近付く。

 空気が変わる。濃密な粉塵の中に、管理されたフィルターの匂いが混じり始めた。

 

 向かったのは、クガマヤマ都市の下位区画の外れ――通称、ヤード。

 クガマヤマ都市のハンターオフィスが運営する公式な買取所の一つだが、スラム街の派出所や下位区画の買取所とは違う。

 大型車両の搬入に対応し、重装ハンターや企業所属ハンターが利用する、言わば現場対応型の査定拠点だった。*2

 

 外観は鉄骨と装甲板で組まれた巨大な整備場。

 ヤードには装甲車両や輸送トレーラーが並び、油と鉄とオゾンの匂いが漂っている。

 ただし、入口付近に立つ監視カメラと警備ドローンの数は異常なほど多かった。

 雑然としているようで、全ては秩序の範囲内に収まっている。

 

 大型の車両がゆっくりと通路を横切るたび、地面が僅かに震える。

 リンはそのたびに目を輝かせ、車体のラインや後部ユニットを興味深そうに眺めた。

 (すごい……あの補助スラスター、同じだ……!)

 口に出すことはなかったが、視線の忙しなさで興奮が伝わる。

 彼女にとって、こうした重機や車両群は、ゲーム画面の中にあった機械そのものだった。

 

「……ここ、買取所なの?」

 ニナが眉をひそめた。

「買取所の中でも、ちょっと特殊な場所だな。レイドシャークで対応した職員もここから出てきたはずだ」

 マルが情報端末を操作しながら反応する。

 

 レイは車を停め、ゲートに情報端末を(かざ)した。

 認証光が走り、鉄製の門が静かに開いた。

 

 ヤードの奥には、強化ガラスの建物が併設されている。

 素材搬入エリアとは壁一枚隔てた別棟――ハンターオフィスの査定室だ。

 内部は一転して清潔で、電子パネルとセキュリティゲートが並ぶ。

 レイたちが踏み入れると、冷ややかな空調が肌を撫でた。

 

「……なんだか、遺跡みたいね」

 ニナが小声で呟く。

 無機質な静けさ、壁を走る導光ライン、整然と配置された機器――それらはニナが合同遺跡探索で見た中枢部を思い起こさせた。

 

「似たようなもんだろ」

 レイは肩を竦める。

「どっちも、文明を……死なせないための場所だ」

 

 

 受付で手続きを終えると、職員が査定スペースに案内する。

 自動ドアが静かに開き、冷たい蛍光光が差し込む。

 部屋の中央に立っていた男を見て、レイはわずかに目を細めた。

 

「……あんた、あの時の」

「ええ。まさかまた担当するとは思いませんでした」

 

 職員は以前と変わらぬ冷静な声で答えた。

 整ったスーツに識別コードが走る。

 その瞳は感情を映さず、観察だけをしているようだった。

 

 (まさか、こんな短期間で再び顔を合わせるとは)

 職員の脳裏に、一瞬だけそんな驚きが過ぎる。

 だが眉一つ動かさず、あくまで職務の顔を保った。

 

 素材を机上に並べると、男は無言でスキャン端末を構える。

 淡い光が素材をなぞり、識別コードが宙に浮かぶ。

 

 金属片、制御基板、複合装甲の断片、反応装甲機構の制御素子、

 駆動軸のナノ構造材、自己修復型の導電皮膜、旧式の記憶素子。

 どれも火華が「価値なし」と評したものだ。

 

 しかし、男の指がある一点で止まる。

「……これは……企業が興味を示すかもしれませんね」

 呟きは、わずかな感情を帯びていた。

 

「どういう意味だ?」

「簡易的な検査によるただの推測です。――この種の素材は、企業間の分配で少し揉めることがあります」

「分配?」

「ハンターオフィスが買い取った遺物や素材は、東部統治企業連盟に所属する……あるいは関連する各社に割り振られます。大企業が優先ですが……中小企業が獲得し、技術解析して一発逆転することも。……そういう世界です」

 

 ニナが小さく鼻を鳴らす。

「結局、ハンターが頑張っても、企業が持ってくってことですよね」

「言い方を変えれば、あなた方の成果が企業を動かす、ということですよ。それは統企連を動かすということでもあります」

 

 職員は淡々とした声のまま、レイに書類を差し出した。

「正式な査定結果は後日ご連絡します。振込も同時です。……チーム名の登録がないため、レイ――名義で処理します」

 

 レイは少し考え、端末を覗き込む。

「……チーム名、登録できるのか?」

「できます。徒党(チーム)の口座と連動させれば、報酬の振り分けを自動化できます。コロンも管理できます。ただし、徒党の口座の開設には審査が必要です」

「コロン?」

「ええ。勿論、実コロンじゃないですよ?」

 

 職員が告げる言葉の意味が分からず混乱の表情を浮かべる。

 (実コロン? コロンとは違うのか?)

 

 レイ達の様子を見て、職員は告げる。

「口座が開設されたら案内を見てください。審査が通れば、ですが」

 

「審査ね……」

 マルが腕を組み、少し考え込む。

「俺たちの実績なら、ギリ通る、かもな」

「だったらやっとこう。分配も楽になる」

「じゃ、名前は?」

「バリスティック……」

 ニナが睨みつけるとダグは黙って両手を上げた。

「……ミラーズは?」

 レイが呟くように提案する。

 

 (ミラ? どこかで聞いたような……いや、あれは噂話だ。真偽不明の)

 職員が思案してるのを他所に相談は続く。

 

「ダメでしょ」

 ニナが職員の様子を見ながら小声で注意する。

「じゃあ、ゼロでどうだ」

 マルが不敵に笑いながら告げる。

「……意味は?」

「レイ、お前の名前だ。ゼロとも読めるんだ」

 マルが笑いながら言い、他の面々ももうそれでいいよと小さく頷く。

 

「決まったようですね。では、徒党の名称、ゼロとして登録。口座の開設申請も査定と同時に行います」

 職員が端末を操作し、淡々と入力を続けた。

 端末の導光ラインが僅かに明滅し、データ転送完了の表示が浮かぶ。

 

 レイはそれを見届けながら、短く頷いた。

 

 そのとき、職員の視線がふとレイの背後を掠める。

「……確認ですが、あなた方、これまでは四名で活動されていましたね」

「そうだが?」

「今、五名いらっしゃいます。――メンバーが増えたのですか?」

 

 レイは一瞬だけリンに目をやり、頷いた。

「ああ。新しく一人、加わった」

 

「承知しました。でしたら、合わせて登録手続きを行いましょう。名前と、ハンター証の提出をお願いします」

 

 促され、リンが前に出る。

 少し緊張した面持ちでポケットを探り、紙のハンター証を取り出した。

「リンです。……どうぞ」

 

 職員は受け取ったハンター証の識別コードを確認する。

 薄く眉を動かす。

「なるほど」

 紙のハンター証は、ハンターの証であると同時に、ハンターランク10未満であることの証だった。

 

「登録だけ、してて……」

 リンは気まずそうに笑った。

 職員は納得したように小さく頷く。

 

「だが、この素材を持ち帰れたのは、こいつのおかげだ」

 レイが静かに口を開く。

 その声には、誇張のない確信があった。

 

 職員の瞳が一瞬だけリンを映す。

 理解できない、というより、観察しているような目付きだった。

 数秒の沈黙の後、端末を操作し、登録手続きを完了させる。

 

「――登録完了。ゼロ所属として処理しました。……次回以降は、ハンターサイトから直接申請を行ってください。こちらでの処理は例外的な対応です」

 

「了解」

 レイが短く応える。

 リンは安堵したように胸を撫で下ろした。

 

 職員は静かに頷くと、また冷たい声に戻った。

「では、これで全手続き完了です。査定結果は後日通知。……幸運を」

 

 それだけ言い残し、再び端末の光に視線を戻した。

 

 レイは情報端末で受付受理の通知を受け、立ち上がる。

 その背を、職員が呼び止めた。

「一つ、伺ってもいいですか」

「……なんだ」

「査定の問い合わせのとき、ワケありとありましたね。具体的には?」

「ワケありだっただろ?」

「ええ、かなり。まあ、ぱっと見はわかりませんが。で、具体的には?」

「素材の出自は明かせない。次があるかもわからない。……意味は、わかるだろ?」

 レイの声は静かだが、どこか圧があった。

 

 レイの出す気配を察して、仲間たちがわずかに動いた。

 ニナとマルが立ち位置を変え、さりげなく職員に向き合う。

 ダグは腕を組み、無言で職員を見据え――その目は笑っていない。

 リンはニナたちの様子を見て遅れて姿勢を正し、視線をレイと職員の間に置いた。

 言葉は交わされないが、空気が一段、重くなる。

 

 職員の指が一瞬だけ止まり、再び淡々とした表情に戻る。

「……ただの幸運、ということにしておきましょう」

「そうかもしれないし、違うかもしれない」

「……一度目の幸運を掴めない者も多い世界です。あなた方が次を掴めるか、興味深い」

 

 それだけ言うと、職員は端末を閉じた。

 レイは職員に名前を尋ねた。

「……あんた、名前は?」

「クサカベです。担当が変わらなければ、次も私になるでしょう」

「そうか……、レイだ、よろしく頼む」

「ええ、知ってます」

「そりゃ、良かった」

 レイはおどける様に手を上げると、そのまま全員部屋を後にする。

 背後で、セキュリティゲートの音が冷たく響いた。

 

 

 検査室を出て、無機質な自動ドアが閉まる。

 レイが肩を回しながら息を吐いたところで、ニナが振り返る。

 

「レイ、ああいうのやるなら先に言っておいて」

 顔をしかめながらも、声の調子は呆れ半分、心配半分だった。

 

「すまん。柄にもないことしてみた。でも、言えないだろ」

 レイは頭を掻きながら苦笑する。

 

「全く……。もう少し準備してからやりなよ」

 ニナは溜息をついて髪を払った。だが、その口調には、微かに安堵が混じっている。

 (あれ、元はと言えばワケありでいいんじゃっていったのが悪かった? まあ、結果的には問題なし)

 

「まあ、意外と様になってたけどな」

 マルが茶化すように言い、ダグが口の端を上げる。

「ま、あのくらいの圧、悪くねぇと思うぞ。少しは本気で見てくれたろ」

 

 マルが息を吐く。

「……でも、あの人、なんか怖ぇな」

「でも、信用できそう。手際が良かった」

「……冷たいけど、正確……そんな感じ」

 リンの声は小さく、それでいて妙に核心を突いていた。

 

 レイは短く頷いた。

 (ゼロで登録された、か)

 

 それがどんな意味を持つかは、まだわからない。

 ただ――東部の秩序のどこかに、確かに彼らの名が刻まれた。

 

 ヤードの外に出ると、油と鉄の匂いが再び肺を満たす。

 整然とした都市の光景が、どこか遠く見えた。

 

 

 

 

【今回の収支】

- **弾薬費** → **-100万オーラム**

- **回復薬代** → **-300万オーラム**

- **消耗品代** → **-200万オーラム**

- **備品代** → **-50万オーラム**

 

【現在の貯蓄】

680万オーラム

250万コロン

「使う額も大きくなってきた」

*1
WEB版「13 真面なハンター」より

*2
原作にそんなのは出てこない

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