持たざる少年 作:交渉人
遺跡探索から帰還した翌日。
僅かに埃の匂いが残る拠点の一室で、レイたちはテーブルを囲んでいた。
「さて……次はどうするかだな」
レイが言うと、全員の視線が自然と集まる。
遺跡探索で得た素材の山が、端に積まれていた。
リョウがガラクタと称してレイたちに譲ったものだが、レイたちはそうは思っていない。リョウは
素材は破壊した防衛機械の装甲、遺跡構造物の断片、そして見慣れない部品を含んでいた。
どれも実際の価値は未知数だが、ハンターオフィスなら――高値で引き取る可能性があった。
「売るにしても、あれだけの量だ。下手に持ち込めば目立つ」
マルが腕を組む。
「ハンターオフィスの買取所にそのまま行くのは危険だな。何かしら疑われる」
「だったら、事前に連絡しておく?」
ニナが提案する。
「ああ。その方がいい。査定にも時間がかかるだろうし」
レイは頷いた。
「ハンターオフィスには俺から連絡を入れておく。連絡先を調べてくれ」
ニナとマルは顔を見合わせ、暫くするとニナが頷いた。
「りょーかい、リーダー」
「次は……コロンだな」
レイが言うと、場の空気が少し重くなる。
遺跡探索で得たものには、旧世界の通貨であるコロンが含まれていた。ハンター稼業で得た物ではあるが、スラムの徒党では扱いづらい代物だ。
「徒党に報告するかどうか、だね」
ニナが言う。
「俺の考えでは、報告はしておくべきだと思う。けど、上納は……対象外だな」
レイが静かに言った。
「徒党じゃコロンの口座なんて持ってないはずだ。扱えないものを渡しても意味がない」
「よくわからねぇけどよ、取り上げられたりしねぇか?」
ダグが腕を組む。
口では軽く言うが、徒党の厳しさは身に染みている。報告を怠れば、制裁がある。
「それ言いだしたら、車両とかも同じだろ」
マルが口を挟む。
「ボスに知られれば、どのみち全部共有物扱いになる。つまり――もう線を引く時期ってことだ」
「大分今更な話ね」
ニナが肩を竦める。
ただ、その口調とは裏腹に、胸の奥に薄っすらとした緊張があった。
徒党を抜ける。それは自由を得る代わりに、後ろ盾を失うということでもある。
レイは黙って聞いていた。
マルの言葉は極端だが、まるっきり間違いでもない。ただ、――全部共有物、という言葉に引っかかりを感じていた。
(ミナトはこう言ってた。決断はお前次第だ。うちは無理強いはしない)
搾り取るだけの徒党ではなかった。
秩序を守るための線引きがあって、そこを越えない限りは、交渉が通じる。
(なら、まだやりようはある。報告して、筋を通す。それでいい)
「でも、それなら報告しなくてもいいんじゃ?」
軽く言いながらも、ニナの声には探るような響きが混じる。
レイはしばらく黙り、全員の顔を見た。
ニナの疑問はもっともだったが、それでも譲れないものがあった。
「まあ、これは義理みたいなもんだ。……筋は通すさ。だが、それだけじゃない」
レイは一息付いて続ける。
「そろそろ出るべきだろう。それには、手土産が必要だ」
レイの言葉に、全員の視線が交わる。
――スラムから、徒党から、そして安全圏から。
マルが息を吐いた。
「……まあ、わかったよ」
そう言って肩を叩く。表情は飄々としていたが、その奥には一抹の覚悟があった。
「……だから、ミナトに報告はする。だが、全ては素材の売却後だ」
レイはまとめると、息を付いた。
◇
一段落ついたところで、ふと視線を上げる。
「で、次に決めたいことがある。……いや、相談かな」
「何、改まって」
ニナが首を傾げる。
「俺たちは、荒野でモンスターを倒した。遺跡も探索した。拠点も得た」
レイが指折りながら言うと、マルが口元を緩めた。
「なんかそう聞くと、めちゃくちゃ安定してきたように聞こえるな」
「……車も、あるよ」
リンが小さく付け加える。
「ああ、そうだな」
レイは微かに笑みを浮かべ、全員を見渡した。
「――次の目標を決めるべきだ」
沈黙。
それは緊張というよりも、一区切りを自覚した空気だった。
これまで生き延びることで精一杯だった彼らに、ようやく次を考える余裕が生まれていた。
レイが口火を切る。
「ダグ、車増やすか? お前の火力を活かすならその方がいいかと思ってな」
ダグは少し考え、口を開く。
「車両戦もいいけど、個人で動ける兵装が欲しい。バイクとか、あったら便利だろ?」
「……バイクか」
レイが考えるように顎に手を当てる。
「悪くない。遺跡でも使えそうだ。お前を活かすには、それも手だな」
「だろ? あと、ミラがくれたクリームソーダ、また飲みてぇ!」
ダグが笑うと、場の空気が僅かに緩んだ。
「私は服ともっといいお風呂。そろそろ文明的な生活をしてもいい頃でしょ」
ニナが微笑む。
(また買うのか? まあいい、リンとうまいことやってくれ)
「……俺は保留だ」
マルは短く言って肩を竦めた。
リンが呟く。
「……この情報端末、性能はいい、けど、思ったほど……じゃなかった」
レイは信じられないものを見る目でリンを凝視する。
「……買ったばっかだろ。昨日だぞ?」
「だから……多津森重工*1のやつ……! 多津森重工の
リンが笑顔で言うと、急に出てきた企業名にレイは眉根を寄せる。
「……多津森重工?」
レイの問いに、ニナが手元の端末を弄りながら答えた。
「今流通してる情報端末の基礎を作った企業だよ。ハンター稼業に耐え得る実用的な情報端末の開発に成功、東部に広めた、その功績で統企連の五大企業の一角に成り上がり。多津森重工製の
レイは「へー」と曖昧に返す。だが、ニナの言葉の意味は少し重かった。
単純な情報端末としての能力なら、火華の工房で手に入れた端末が最高峰だ。旧世界由来の技術に基づいたそれは、東部に広がる色無しの霧の影響を無視して通信を維持できる。
だが、用途を絞った特化型情報端末――とりわけ娯楽の分野では、多津森重工の端末に軍配が上がった。
多津森重工製の情報端末ならクガマヤマ都市にも流通している。それどころか現在も市場を独占してると言っていい。
だが、リンが求めるようなモデルは、クガマヤマ都市どころか統企連を構成する五大企業の一社、坂下重工の庇護下にある――オーラム経済圏のどこにも存在しなかった。
その特異な、先鋭化した設計思想が、多津森重工の勢力圏――企業通貨の異なる別の経済圏でしか生きていないのだ。
レイは頭を掻きながら、小さく息を吐いた。
「まあ、わかったよ」
(特に反対意見もないし、いいか。金の使い道なんて、どうせ全員で決める。チームってのはそういうもんだ。じゃあ火華に返品……いや、マルに譲るか。マルなら有効活用出来るだろう)
リンが内心で小さく笑う。
(レイくん、大分ちょろい気がする)
同じように、ニナも思っていた。
(レイ、ちょっとちょろすぎない?)
二人の視線が一瞬だけ交わり、どちらともなく苦笑する。
(なら、リンに与えられたあの情報端末……いずれ使わせてもらうか。レイと交渉だな)
マルはそんな二人を横目に、淡々と損得を計算していた。
全員がそれぞれの目標を語り終えたところで、ふと沈黙が落ちた。
レイは椅子にもたれ、天井を見上げる。
「……なんか、目的を決めたがいいが、逆に目的が見えなくなってる気がするな」
誰もすぐには言葉を返さなかった。
だが、その沈黙は重苦しいものではない。
持たざる者が持ち始めたからこそ生まれる、次の段階への迷いだった。
◇
午後。
レイは情報端末を操作していた。
画面には、ハンターオフィスのサイト。
ニナが隣で腕を組みながら覗き込む。
「問い合わせフォーム、ここね。査定とか買取依頼はこっちから」
「……顔も出さずに済むのか?」
「うん。登録情報と端末の識別コードで、本人確認できるようになってる」
レイは画面を覗き込みながら、少し唸った。
「……なんて書いたらいい?」
「そうね……ワケありとでも書いておけば?」
ニナが軽い調子で答える。
「……それで通じるか?」
「通じるでしょ。オフィスって、そういう人達の集まりだし」
「……そういうもんかな」
(大分怒られそうなこと言ってると思うけど)
レイは短く息を吐くと、入力欄に指を走らせた。
『ワケありの素材を持っている。安全な査定方法を知りたい』
送信ボタンを押す指先に、わずかに力が籠る。
数分後、通知が返ってきた。
『査定担当職員を手配しました。明日、指定時間に来訪ください。査定は別室にて行います』
文面は事務的だが、どこか興味を含んでいた。
(……ワケありに反応したな)
レイは無意識に眉をひそめる。
あの職員の顔が脳裏に浮かんだ。以前、レイドシャークの討伐後の査定で出会った、あの冷静な男――。
(まさか、な)
「……明日の指定、だそうだ」
レイが通知を確認し、短く告げる。
「ってことは、今日はもう動けないね」
「なら、ハンター稼業……じゃなくて買い出し行くか。食糧がそろそろ尽きる」
「賛成。回復薬も使ったしね」
「弾ももうねえぞ」
ダグのぼやきに、レイは肩を竦めた。
「生活維持もハンター稼業の一部だぞ。ほら、行くぞ」
◇
車両はクガマヤマ都市の下位区画──比較的治安の保たれた商業エリアへと滑り込む。
昼下がりの通りは人の流れが絶えず、武装したハンターたちが物資店や修理屋の間を行き来していた。
(ここは……変わらないな)
レイが車両を駐車スペースに停め、防犯設定を施す。
表示された警告アイコンが「ここで銃を抜くな」と念を押していた。
目的の店は以前も利用した物資屋だ。外壁の塗装は剥げかけ、看板は半ば読めないが、相変わらず客は多い。
オイルと薬品の混じった匂いが鼻をくすぐり、ハンター稼業の現実を思い出させる。
店内には携行食、医療キット、弾薬、修理ツール、保存パック、そして生活雑貨までが揃っている。
今回は戦闘物資の補充に加え、当座の生活物資をまとめて購入するつもりだった。五人分となると中々の量になる。
「弾薬はAAH用の通常弾、百発単位でまとめ買い。あと回復薬三本、補充な」
レイが端末に指示を打ち込み、マルが支払い処理を並行して進める。
「保存食、飲料水、寝具……あと、洗剤と……シャンプー?」
ニナが棚を見回しながら呟く。
「……リン用だな」
「う、うん……」
リンが小さく頷き、俯く。
「忘れんなよ、修復テープと接着剤。あれがないと荒野で地獄見るぞ」
「了解。あと、車両用のオイルと冷却剤も追加しとこう。あ、修理キットも」
マルが淡々と入力していく。
「大分買い込んでるけど、大丈夫なの?」
「ああ。素材売却でオーラムの当てはあるし、大きく使って、大きく稼ぐ方が最終的な効率はいい、はずだ」
「そう。考えてるならいいけど」
支払いが完了すると、店主が淡々と荷物を梱包し、配送車に積み込んだ。
「納品先、登録地点でいいな」
「ああ、頼む」
店を出ると、夕暮れが都市の通りを橙に染め始めていた。
荷物の引き渡し通知が端末に届き、レイが短く頷く。
「よし。あとは……明日だな」
「ちょっと緊張するね」
「なんだかんだで初の正式査定だもんな」
マルの言葉に、レイは軽く息を吐く。
(何が出るか、わからねぇ……けど、行くしかない)
車両のエンジンが静かに唸りを上げ、彼らを再び拠点へと運んでいった。
◇
翌朝、レイたちは都市へ向かった。
車両がスラム街の赤土を離れ、クガマヤマ都市の下位区画に近付く。
空気が変わる。濃密な粉塵の中に、管理されたフィルターの匂いが混じり始めた。
向かったのは、クガマヤマ都市の下位区画の外れ――通称、ヤード。
クガマヤマ都市のハンターオフィスが運営する公式な買取所の一つだが、スラム街の派出所や下位区画の買取所とは違う。
大型車両の搬入に対応し、重装ハンターや企業所属ハンターが利用する、言わば現場対応型の査定拠点だった。*2
外観は鉄骨と装甲板で組まれた巨大な整備場。
ヤードには装甲車両や輸送トレーラーが並び、油と鉄とオゾンの匂いが漂っている。
ただし、入口付近に立つ監視カメラと警備ドローンの数は異常なほど多かった。
雑然としているようで、全ては秩序の範囲内に収まっている。
大型の車両がゆっくりと通路を横切るたび、地面が僅かに震える。
リンはそのたびに目を輝かせ、車体のラインや後部ユニットを興味深そうに眺めた。
(すごい……あの補助スラスター、同じだ……!)
口に出すことはなかったが、視線の忙しなさで興奮が伝わる。
彼女にとって、こうした重機や車両群は、ゲーム画面の中にあった機械そのものだった。
「……ここ、買取所なの?」
ニナが眉をひそめた。
「買取所の中でも、ちょっと特殊な場所だな。レイドシャークで対応した職員もここから出てきたはずだ」
マルが情報端末を操作しながら反応する。
レイは車を停め、ゲートに情報端末を
認証光が走り、鉄製の門が静かに開いた。
ヤードの奥には、強化ガラスの建物が併設されている。
素材搬入エリアとは壁一枚隔てた別棟――ハンターオフィスの査定室だ。
内部は一転して清潔で、電子パネルとセキュリティゲートが並ぶ。
レイたちが踏み入れると、冷ややかな空調が肌を撫でた。
「……なんだか、遺跡みたいね」
ニナが小声で呟く。
無機質な静けさ、壁を走る導光ライン、整然と配置された機器――それらはニナが合同遺跡探索で見た中枢部を思い起こさせた。
「似たようなもんだろ」
レイは肩を竦める。
「どっちも、文明を……死なせないための場所だ」
◇
受付で手続きを終えると、職員が査定スペースに案内する。
自動ドアが静かに開き、冷たい蛍光光が差し込む。
部屋の中央に立っていた男を見て、レイはわずかに目を細めた。
「……あんた、あの時の」
「ええ。まさかまた担当するとは思いませんでした」
職員は以前と変わらぬ冷静な声で答えた。
整ったスーツに識別コードが走る。
その瞳は感情を映さず、観察だけをしているようだった。
(まさか、こんな短期間で再び顔を合わせるとは)
職員の脳裏に、一瞬だけそんな驚きが過ぎる。
だが眉一つ動かさず、あくまで職務の顔を保った。
素材を机上に並べると、男は無言でスキャン端末を構える。
淡い光が素材をなぞり、識別コードが宙に浮かぶ。
金属片、制御基板、複合装甲の断片、反応装甲機構の制御素子、
駆動軸のナノ構造材、自己修復型の導電皮膜、旧式の記憶素子。
どれも火華が「価値なし」と評したものだ。
しかし、男の指がある一点で止まる。
「……これは……企業が興味を示すかもしれませんね」
呟きは、わずかな感情を帯びていた。
「どういう意味だ?」
「簡易的な検査によるただの推測です。――この種の素材は、企業間の分配で少し揉めることがあります」
「分配?」
「ハンターオフィスが買い取った遺物や素材は、東部統治企業連盟に所属する……あるいは関連する各社に割り振られます。大企業が優先ですが……中小企業が獲得し、技術解析して一発逆転することも。……そういう世界です」
ニナが小さく鼻を鳴らす。
「結局、ハンターが頑張っても、企業が持ってくってことですよね」
「言い方を変えれば、あなた方の成果が企業を動かす、ということですよ。それは統企連を動かすということでもあります」
職員は淡々とした声のまま、レイに書類を差し出した。
「正式な査定結果は後日ご連絡します。振込も同時です。……チーム名の登録がないため、レイ――名義で処理します」
レイは少し考え、端末を覗き込む。
「……チーム名、登録できるのか?」
「できます。
「コロン?」
「ええ。勿論、実コロンじゃないですよ?」
職員が告げる言葉の意味が分からず混乱の表情を浮かべる。
(実コロン? コロンとは違うのか?)
レイ達の様子を見て、職員は告げる。
「口座が開設されたら案内を見てください。審査が通れば、ですが」
「審査ね……」
マルが腕を組み、少し考え込む。
「俺たちの実績なら、ギリ通る、かもな」
「だったらやっとこう。分配も楽になる」
「じゃ、名前は?」
「バリスティック……」
ニナが睨みつけるとダグは黙って両手を上げた。
「……ミラーズは?」
レイが呟くように提案する。
(ミラ? どこかで聞いたような……いや、あれは噂話だ。真偽不明の)
職員が思案してるのを他所に相談は続く。
「ダメでしょ」
ニナが職員の様子を見ながら小声で注意する。
「じゃあ、ゼロでどうだ」
マルが不敵に笑いながら告げる。
「……意味は?」
「レイ、お前の名前だ。ゼロとも読めるんだ」
マルが笑いながら言い、他の面々ももうそれでいいよと小さく頷く。
「決まったようですね。では、徒党の名称、ゼロとして登録。口座の開設申請も査定と同時に行います」
職員が端末を操作し、淡々と入力を続けた。
端末の導光ラインが僅かに明滅し、データ転送完了の表示が浮かぶ。
レイはそれを見届けながら、短く頷いた。
そのとき、職員の視線がふとレイの背後を掠める。
「……確認ですが、あなた方、これまでは四名で活動されていましたね」
「そうだが?」
「今、五名いらっしゃいます。――メンバーが増えたのですか?」
レイは一瞬だけリンに目をやり、頷いた。
「ああ。新しく一人、加わった」
「承知しました。でしたら、合わせて登録手続きを行いましょう。名前と、ハンター証の提出をお願いします」
促され、リンが前に出る。
少し緊張した面持ちでポケットを探り、紙のハンター証を取り出した。
「リンです。……どうぞ」
職員は受け取ったハンター証の識別コードを確認する。
薄く眉を動かす。
「なるほど」
紙のハンター証は、ハンターの証であると同時に、ハンターランク10未満であることの証だった。
「登録だけ、してて……」
リンは気まずそうに笑った。
職員は納得したように小さく頷く。
「だが、この素材を持ち帰れたのは、こいつのおかげだ」
レイが静かに口を開く。
その声には、誇張のない確信があった。
職員の瞳が一瞬だけリンを映す。
理解できない、というより、観察しているような目付きだった。
数秒の沈黙の後、端末を操作し、登録手続きを完了させる。
「――登録完了。ゼロ所属として処理しました。……次回以降は、ハンターサイトから直接申請を行ってください。こちらでの処理は例外的な対応です」
「了解」
レイが短く応える。
リンは安堵したように胸を撫で下ろした。
職員は静かに頷くと、また冷たい声に戻った。
「では、これで全手続き完了です。査定結果は後日通知。……幸運を」
それだけ言い残し、再び端末の光に視線を戻した。
レイは情報端末で受付受理の通知を受け、立ち上がる。
その背を、職員が呼び止めた。
「一つ、伺ってもいいですか」
「……なんだ」
「査定の問い合わせのとき、ワケありとありましたね。具体的には?」
「ワケありだっただろ?」
「ええ、かなり。まあ、ぱっと見はわかりませんが。で、具体的には?」
「素材の出自は明かせない。次があるかもわからない。……意味は、わかるだろ?」
レイの声は静かだが、どこか圧があった。
レイの出す気配を察して、仲間たちがわずかに動いた。
ニナとマルが立ち位置を変え、さりげなく職員に向き合う。
ダグは腕を組み、無言で職員を見据え――その目は笑っていない。
リンはニナたちの様子を見て遅れて姿勢を正し、視線をレイと職員の間に置いた。
言葉は交わされないが、空気が一段、重くなる。
職員の指が一瞬だけ止まり、再び淡々とした表情に戻る。
「……ただの幸運、ということにしておきましょう」
「そうかもしれないし、違うかもしれない」
「……一度目の幸運を掴めない者も多い世界です。あなた方が次を掴めるか、興味深い」
それだけ言うと、職員は端末を閉じた。
レイは職員に名前を尋ねた。
「……あんた、名前は?」
「クサカベです。担当が変わらなければ、次も私になるでしょう」
「そうか……、レイだ、よろしく頼む」
「ええ、知ってます」
「そりゃ、良かった」
レイはおどける様に手を上げると、そのまま全員部屋を後にする。
背後で、セキュリティゲートの音が冷たく響いた。
◇
検査室を出て、無機質な自動ドアが閉まる。
レイが肩を回しながら息を吐いたところで、ニナが振り返る。
「レイ、ああいうのやるなら先に言っておいて」
顔をしかめながらも、声の調子は呆れ半分、心配半分だった。
「すまん。柄にもないことしてみた。でも、言えないだろ」
レイは頭を掻きながら苦笑する。
「全く……。もう少し準備してからやりなよ」
ニナは溜息をついて髪を払った。だが、その口調には、微かに安堵が混じっている。
(あれ、元はと言えばワケありでいいんじゃっていったのが悪かった? まあ、結果的には問題なし)
「まあ、意外と様になってたけどな」
マルが茶化すように言い、ダグが口の端を上げる。
「ま、あのくらいの圧、悪くねぇと思うぞ。少しは本気で見てくれたろ」
マルが息を吐く。
「……でも、あの人、なんか怖ぇな」
「でも、信用できそう。手際が良かった」
「……冷たいけど、正確……そんな感じ」
リンの声は小さく、それでいて妙に核心を突いていた。
レイは短く頷いた。
(ゼロで登録された、か)
それがどんな意味を持つかは、まだわからない。
ただ――東部の秩序のどこかに、確かに彼らの名が刻まれた。
ヤードの外に出ると、油と鉄の匂いが再び肺を満たす。
整然とした都市の光景が、どこか遠く見えた。
【今回の収支】
- **弾薬費** → **-100万オーラム**
- **回復薬代** → **-300万オーラム**
- **消耗品代** → **-200万オーラム**
- **備品代** → **-50万オーラム**
【現在の貯蓄】
680万オーラム
250万コロン
「使う額も大きくなってきた」