持たざる少年   作:交渉人

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32.何もなかった

 モンスター駆除依頼、二日目。

 昨日に引き続き、仮設基地で貸出端末を受け取り、指定区域を巡回する。

 貸出端末から指示が届いた。

 

『指定座標のビル群、外壁に付着したモンスターを駆除してくれ』

 

「……付着?」

 マルが端末を覗き込む。

 

 画面には、ビルの外壁に張り付いた巨大な物体が映っていた。

 砲塔を背負った、カタツムリのような形状。

 

「あれ、モンスターなのか?」

 ダグが眉を上げる。

 

「ビルのエネルギーを吸い取ってるらしい。自己の防御力を強化してる、だと」

 レイが端末の情報を読み上げる。

 

「……厄介そうだな」

 

 車両がビルに近づく。

 外壁に、複数のカタツムリ型モンスターが張り付いていた。

 それぞれが砲塔を展開し、周囲を警戒している。

 

「リン、距離を取れ。あいつら、射撃してくる」

 

 リンが頷き、車両を後退させる。

 直後、カタツムリの砲塔が火を噴いた。

 

「うわっ!」

 ニナが悲鳴を上げる。

 

 弾丸が車両の装甲を掠め、火花を散らす。

 

「マル、弱点とかあるか?」

「解析中……砲塔の付け根の装甲が薄い。だけど、ビルを傷付けずに撃ち落とすのは難しいぞ」

 

 レイは主砲の照準を調整する。

 (ビルに損傷を与えない――精密射撃が必要だ)

 

「リン、速度を上げろ。横に回り込む」

「……了解」

 

 車両が加速し、ビルの側面へと移動する。

 カタツムリの砲塔が追従するが、車両の速度についていけない。

 

「今だ!」

 

 主砲発射。

 弾丸はカタツムリの砲塔付け根を正確に貫き、モンスターは外壁から剥がれ落ちた。

 エネルギー供給を失い、防御力の落ちたカタツムリはダグがとどめを刺す。

 

「よし、次!」

 

 同じ手順で、残りのカタツムリも次々と撃ち落とす。

 最後の一体が地面に落下し、動かなくなる。

 

「……全滅確認」

 マルが端末を操作する。

 

 貸出端末に通知。

『駆除完了を確認。早いな。次はここだ』

 

「これで……いくらだ?」

 ダグが尋ねる。

 

「カタツムリ一体、二十万オーラム。五体で百万だ」

「おお、悪くねぇな」

 

 

 仮設基地の監視室。

 複数のモニターが並び、ハンターたちの位置情報と戦闘データが表示されている。

 職員たちは、端末から送られてくる情報を眺めながら雑談していた。

 

「……おい、このチーム、やばくねえか?」

 若い職員が一つの画面を指す。

 

「ん? どれ?」

「ゼロってチーム。主砲、バンバン撃ってるぞ。カタツムリを速攻で片してる……」

「へえ、腕いいんだな」

「だけどよ、あんな戦い方してたら弾薬費で赤字じゃねえの?」

 

 別の職員が端末のデータを確認する。

「……ランク1……いや、10か。最高は15。……採算度外視でランク上げしたい性質じゃねーの?」

「あー、ね? 実際ランク低いしな」

「どっかの企業子飼いの徒党だろ。金は出してもらえるから、気にしないんだよ」

「なるほどな」

 

 若い職員が納得したように頷く。

 

 統企連はハンターランクのインセンティブ設計に余念がない。数々の高ランクハンター向けの優遇施策により、ハンターはランク上げに奔走する。

 だが、職員は知らなかった。

 レイたちの車両が、自動エネルギー充填機構と主砲弾薬生成プラントを搭載していることを。維持費がほとんどかからない、旧世界由来の技術だということを。

 職員たちは、勝手に辻褄を合わせ、勝手に納得していた。

 

 

 貸出端末から新たな指示が届く。

 

『指定ビルの内部制圧を指示する。全てのフロアを制圧してくれ』

 

 レイが端末を見る。

「……遂に来たな」

 

 マルが地図を確認する。

「他のハンターはいないみたいだ。俺たちだけで制圧しろってことか」

「俺とダグとマルで行く。前衛はダグ、索敵はマルだ」

「レイは?」

「臨機応変だ」

 

 ニナが心配そうに尋ねる。

「大丈夫そ?」

「装備は整ってる。強化服にAAH突撃銃、徹甲弾も対応させてる――これで無理なら撤退する」

 

 レイは立ち上がり、武器を手に取る。

 

「リンとニナは車両で待機。ビルに他のモンスターを近付かせるな。何かあったら、すぐに撤退準備しろ。通信は切るなよ」

 

「……わかった」

 リンが小さく頷く。

 

「気をつけてね」

 ニナが微笑む。

 

 三人は車両を降り、ビルの入口へと向かった。

 

 

 ビルの入口で、レイは全員の装備を最終確認した。

「マル、情報収集機器は?」

「問題なし。使いこなせてきてる」

 マルが背負った機器を軽く叩く。

「ダグ、火華のアレ……改造AAH突撃銃はここではなしだ。通常のAAH突撃銃を使え」

「わかってるって」

 ダグは通常のAAH突撃銃を手に取る。

「通常弾と徹甲弾、両方持ってく」

「俺も同じだ。レイ、指示頼む」

 レイは頷き、自分のAAH突撃銃を構える。

「行くぞ」

 

 ビルの内部は薄暗く、埃と錆の匂いが漂っていた。

 天井から垂れ下がる配線、崩れかけた壁、散乱した旧世界の残骸。

 

 マルが情報収集機器を起動する。

 端末の画面に、ビルの簡易的な構造図と、光点が浮かび上がった。

 

「……モンスター反応、普通にある。三階に三体、五階に二体、八階に多分……一体」

「そこまでわかるのか?」

 ダグが驚いたように尋ねる。

 

「ああ。荒野での戦闘、リョウたちとの遺跡探索……あれで大分慣れた。ビルの構造も、ある程度読める」

 マルは自信を持って答えた。

 

「なら、楽勝だな」

 ダグが笑う。

 

「油断するな。行くぞ」

 レイが先頭を歩き始める。

 階段を上る音だけが、静寂の中に響く。

 

 

 レイたちはビルの三階に到達した。廊下の奥から、低い唸り声が聞こえた。

 

「……ウェポンドッグ、三体。廊下中央」

 マルが端末を見ながら囁く。

 

「ダグ、前に出ろ。俺とマルは後ろから支援する」

「おう」

 

 ダグが前に進み、AAH突撃銃を構える。

 レイとマルは左右に展開し、射線を確保した。

 

 影が動く。

 犬型モンスター――ウェポンドッグが、三体。

 

「行くぞ!」

 ダグが叫び、引き金を引く。

 

 銃声が響き、最前列のウェポンドッグの頭部に弾丸が命中する。

 だが倒れない。

 

「硬くね!?」

「徹甲弾に切り替えろ!」

 レイの指示。

 

 ダグが弾倉を交換し、再び発砲。

 徹甲弾が装甲を貫き、ウェポンドッグが崩れ落ちる。

 

 残り二体が突進してくる。

 

「マル、左! 俺は右!」

 レイとマルが同時に射撃。

 

 クロスファイアが二体目を捉え、動きが止まる。

 ダグが追撃し、撃破。

 

 三体目がダグに飛びかかる。

 ダグは冷静に横に転がり、回避。

 

「レイ!」

「了解!」

 

 レイが至近距離から発砲。

 弾丸が脚部に命中し、モンスターが転倒する。

 ダグがとどめを刺した。

 

「……殲滅完了」

 レイが周囲を確認する。

「結構個体差あるんだなー」

 ダグが呑気に感想を飛ばす。

 

「……次、五階だ」

 マルが端末を見る。

 

「負傷はないな。……行くぞ」

 

 

 ビルの五階。

 部屋の中に、モンスター反応があった。

 

「……二体。部屋の奥だ」

 マルが端末を見ながら呟く。

 

 ダグが扉を蹴破り、突入する。

 

「――ッ!」

 

 部屋の奥に、砲塔を背負ったカタツムリ型モンスターが二体。

 

「中にも出るのかよ……!」

 ダグが舌打ちする。

 

 一体目はまだ砲塔を展開していない。

 だが、二体目は既にエネルギーを吸収し、外殻が硬化し始めていた。

 

「硬くなる前に撃て!」

 レイの指示。

 

 ダグが一体目に照準を合わせ、発砲。

 不意を突かれたカタツムリは、砲塔付け根を撃ち抜かれて崩れ落ちる。

 

「二体目、硬化完了してる!」

 マルが叫ぶ。

 

 カタツムリの砲塔がダグに向く。

 

「ダグ、伏せろ!」

 

 ダグが床に伏せる。

 砲弾が頭上を通過し、壁に着弾した。

 

「徹甲弾でごり押しだ!」

 レイが叫び、徹甲弾に切り替える。

 

 三人が同時に発砲。

 徹甲弾の連射が、硬化した外殻を少しずつ削っていく。着弾の度にわずかに発光していた。

 やがて、装甲が砕け、カタツムリが動かなくなる。

 

「……っはー、硬ぇな、あれ」

 ダグが立ち上がり、汗を拭う。

 

力場装甲(フォースフィールドアーマー)と同じ理屈だろうな。だが、やれないことはない」

 レイが短く答えた。

 

 (やれなかったら……ここで撤退だったな。徹甲弾でギリギリだな)

 

 

 ビルの内部を順調に制圧していく。

 マルの索敵により、モンスターの位置は事前に把握できている。

 ダグが前衛を務め、レイとマルが支援する――その連携は、洗練されつつあった。

 

 そして、最上階の八階。

 

「……最後だ。反応は一体、部屋の中央」

 マルが端末を見る。

「行くぞ」

 

 扉を開け、部屋に突入する。

 部屋の中央に、大型のモンスター――ヤラタサソリが横たわっていた。

 だが、動かない。

 

 レイがマルに問う。

「あれは? わかるか?」

「ヤラタサソリだな」

「……死んでるのか?」

 ダグが首を傾げる。

 

「いや、反応はある。だけど――」

 マルが端末を見詰める。

「……わからない。死んでるのかも」

 

 レイは慎重に近づく。

 その瞬間――

 

 ヤラタサソリの尾が、鞭のように振るわれた。

 

「――ッ!」

 

 レイは咄嗟に横に跳ぶが、間に合わない。

 尾がレイの脇腹を直撃する。

 

 鈍い衝撃。

 

 だが――レイは倒れなかった。

 

 強化服が衝撃を吸収し、ダメージを最小限に抑えている。

 

「レイ!」

 マルが叫ぶ。

 

「……平気だ! 撃て!」

 

 ダグとマルが一斉に発砲。

 徹甲弾がヤラタサソリの装甲を貫き、モンスターが痙攣する。

 

 レイも立ち上がり、至近距離から頭部に弾丸を叩き込む。

 

 やがて、ヤラタサソリは動かなくなった。

 

「……倒したな」

 ダグが息を吐く。

 

 レイは脇腹を押さえながら、強化服を確認する。

 力場装甲(フォースフィールドアーマー)を貫通しなかったのか、破損はしていない。

 

「……強化服、助かった」

「擬死状態ってやつか……。索敵でわからないのか……」

 マルが端末を操作しながら呟く。

「データ、持ち帰れるか?」

「ああ。次からは対応できるようにしてみる」

 

 

 ビルの制圧完了後、部屋の隅に旧世界の遺物が散乱していた。

 

 ダグが一つを手に取る。

「……遺物、少しくらい持ち帰っても……」

「ダメだ」

 レイが即座に否定する。

「帰還が優先だ」

「へーい」

 ダグは渋々、遺物を元に戻す。

 

 マルは別の遺物を手に取り、端末でスキャンしていた。

 だが、レイの視線に気づき――無言で元に戻した。

 

「……何もなかった、ってことで」

「ああ」

 

 レイは貸出端末を確認する。

 画面に通知。

 

『ビル制圧完了を確認。所要時間:2時間。報酬加算』

 

「……二時間、か」

 マルが呟く。

「早いほうか?」

 ダグが尋ねる。

「ベテランで一時間ってところだろう。俺たちは……ランクにしては早い方だ」

 

 レイは端末をポケットにしまった。

 

「マルの索敵、ダグの前衛、俺の指示――全部が噛み合った」

「へへ、やったな」

 ダグが笑う。

 

「だが、まだ改善の余地はある」

 レイが真剣な表情で続ける。

「索敵、弾の使い分け、連携の精度――全部だ」

「……了解」

 マルとダグが頷いた。

 

 

 ビルの最上階で、レイたちは一息ついていた。

 そのとき――レイのポケットに入れていた、情報端末から通知があった。

 

「……ニナか?」

 

 取り出すと、文字が流れる。

 

『接続確認』

『識別コード照合中……屋号、ミラ』

『――認証』

 

 レイは状況についていけず固まった。

 

 (ミラ、だと?)

 

 端末から、音声が流れる。

『もしもし、ミラさーん? 全然来てくれないじゃないですか。またお掃除お願いしますよ』

「……? 何か勘違いしてないか?」

『え、識別コードはミラさんのものですけど。……詐称ですか? その手の行為は非常に高く付くからオススメしませんよ』

 レイは端末を見詰めながら、少し思考を纏めた。

「……以前にミラと行動を共にしていたことがある。それと関係ありそうか?」

『……ああ、なるほど。外部協力員の方ですか。それなら識別コードが引き継がれてるのも納得です』

 

 口調が、わずかに切り替わった。

 先ほどまでの砕けた調子は残っているが、その奥に機械的な処理の速さが透けて見える。

 

 (……人間に合わせてるだけか)

 

『改めまして、第7区画ビルを管理しております。管理能力は99%低下、自己修復機能は停止中です。規約第3条に基づき、外部協力者への業務委託を実施します』

 レイは静かに尋ねた。

「……具体的な依頼内容は?」

『指定区域の有害生物の駆除です。報酬は150万コロン。過去実績により与信調査は割愛します』

 

「……は? コロン?」

 ダグが首を傾げる。

 

 レイは端末を見詰める。

 (……要するに、こいつは勘違いしている)

 (ミラと一緒に依頼を受けていた時ならまだしも、今の俺たちはミラの関係者では、ない)

 (さて、どうするか)

 

 画面に追加情報。

 

『当該施設は登録資産の大部分が喪失済みです。不正侵入者による被害は限定的です。よって、有害生物の排除を最優先とします。なお、契約締結により次の順守義務が発生します。管理領域内の残存資産の無許可持ち出しを禁じます。施設構造への過度な損傷を禁じます。不正侵入者の排除協力』

 

 ダグが首を傾げる。

「……つまり、遺物を勝手に持ってくなってことか?」

「そういうことだ。だが、最後のは……他のハンターの排除だろう」

 レイは端末を見詰める。

 

『契約締結の意思を確認します』

 

 レイは少し黙り――決断した。

 

「先に言っておく。俺たちはミラとは関係ない。俺たちの知ってるミラと同一……人物ならな」

『承知しています。過去の登録情報に基づき依頼を提示しました』

「……続けるぞ。俺たちは別の依頼の最中だ。その中にはモンスターの駆除も含まれているが、そちらの指定する区域と被らない場合は不可能だ。あと、不正侵入者の排除協力は難しい。その上で提案だが……」

『続けてください』

「区域が被る場合、()()()()()()は出来る。そちらの要望に完全に応じる事はできないから、報酬は減額してもいい。そうだな……。……50万コロンとか」

 

 (相場はわからない。……リンの情報端末と同額だ)

 

『あなた方はあの方とは違うようだ。いいでしょう。不正侵入者の排除協力は努力義務とします。では、外部協力員として正式登録します。成果を確認後、報酬を振込します』

 

 レイは苦笑する。

 (ミラの評判悪そう)

 

 状況の推移を見守っていたマルが口を開いた。

 「これって……」

 「報酬の二重取りだな。ここにいつまでも留まってるのはまずい。移動するぞ」

 

 レイたちは制圧が完了したフロアを足早に降りていく。

 

 

 ビルの外では、ニナとリンが心配そうに待っていた。

 

「おかえり! 大丈夫だった?」

 ニナが駆け寄る。

 

「ああ。……概ね問題はなかった」

 レイが短く答える。

 

「……良かった、ね」

 リンが小さく微笑む。

 

 車両に乗り込み、次の指示を待つ。

 貸出端末には、既に新たな指示が届いていた。

 

『指定区画の地表モンスターを駆除してくれ』

 

 レイは貸出端末を見詰める。

 (さっきのは知られてないようだな。あるいは黙認か。いずれにしても拠点に戻ったらニナとリンにも共有だな)

 

「……次、行くぞ」

 

 車両が静かに走り出す。

 

 

 

【今回の収支】

- **モンスター駆除** → **+660万オーラム**

- **レンタルバイク代** → **-100万オーラム**

- **弾薬代** → **-50万オーラム**

- **消耗品代** → **-50万オーラム**

 

【現在の貯蓄】

チーム口座:

4億8270万オーラム

個人口座:

680万オーラム

250万コロン

「武装強化したい」

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