持たざる少年   作:交渉人

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33.SSFF弾

 拠点に戻ると、レイは全員を集めた。

 テーブルの上に情報端末を置き、画面を全員に向ける。

 

「……実は、依頼中に、少し変わったことがあった」

 ニナが首を傾げる。

「変わったこと?」

「遺跡の……管理AIから、直接依頼を持ち掛けられた」

「え、そんなことがあったの!?」

 ニナが目を丸くする。

 

 レイは端末を操作し、管理AIとのやり取りを表示した。

 画面には、旧世界の形式で記された契約内容が並んでいる。

 

「ミラの関係者と思われたらしい。勝手に認証……されたみたいだ」

「……ミラさんの?」

 ニナが端末を覗き込む。

「ああ。だが、俺たちは今はミラとは関係ない――そう伝えた上で、依頼を受けた」

 マルが腕を組む。

「……で、内容は?」

「モンスター駆除だ。都市の依頼が優先で、区域が被る場合に対応する。報酬はコロンで、成果報酬として五十万だ」

「一石二鳥だな」

 マルが頷く。

 だが、ニナの表情は晴れない。

「……契約不履行時のペナルティが気になるね」

「ペナルティ?」

 レイが眉を顰める。

「うん。契約には、そういうのがあるでしょ? 依頼を受けたのに達成できなかった場合の罰則とか」

 レイは端末を確認する。

「……契約文には、そんなの書いてなかったぞ」

「本当に?」

 ニナが疑わしそうに尋ねる。

「ああ。少なくとも、俺が見た限りでは――」

「……こっちに情報渡して」

 レイは端末を操作し、契約情報を転送した。

 

 画面には、旧世界の形式で記された膨大な契約内容が表示されていた。

 通常の情報端末では処理しきれない情報量だが、レイたちが持つ情報端末は、問題なく表示している。

 だが――情報端末が処理できても、それを読み解くのは人間だ。

 

 ニナは画面をスクロールしながら、眉を顰める。

「……うわ、細かい」

 ニナは溜息をつき、マルに視線を向けた。

「マル、読み合わせするよ。二人で確認した方が早い」

「……わかった」

 マルが椅子を引き寄せ、ニナの隣に座る。

 

 二人は端末を見ながら、契約内容を一つずつ確認し始めた。

 

「……第一条、業務内容。指定区域の有害生物の排除、っと」

「排除対象は……侵入生物全般、か」

「第二条、報酬。成果報酬五十万コロン。前払いなし、完了後に振込」

「特に問題はないな」

「第三条、禁止事項。管理資産の無許可持ち出し禁止、施設構造への過度な損傷禁止――」

「……ビルを破壊するな、遺物を持っていくな、だな」

「そうだね。第四条、契約期間。業務完了まで。一方的な解除は――」

 ニナが画面を見詰める。

「……『事前通知の上、契約者側からの解除可能』」

「つまり、俺たちから契約を切ることはできる、と」

 マルが確認する。

 

「うん。で、管理AI側からの解除は?」

「……『契約不履行が継続する場合、契約を解除する』。ペナルティの記載は――ない」

 

 ニナが安堵したように息を吐く。

「……良心的だね。まあ大丈夫そう」

「なんでそんなに気にしてたんだ?」

 レイが尋ねる。

 

 ニナは少し言い淀み――軽く笑った。

「……性質の悪い輩はどこにでもいるものよ。まあ、考えすぎだったみたい」

「……そうか」

 レイは深くは追求しなかった。

 

 ニナはとある人物を思い浮かべた。

 (……あの人ならこんな契約にはしない)

 

 マルが続ける。

「他に気になる条項は――あ、これ」

「何?」

「第五条、情報提供。『契約者は、業務遂行に必要な情報を管理体から受け取ることができる』」

 マルが画面を指す。

「情報提供?」

「ああ。モンスターの位置情報、ビル内の構造図、重要設備の位置――そういうのを、管理AIが提供してくれるらしい」

 レイが目を細める。

「……それは、助かるな」

「だろ? 索敵が楽になる」

 ニナが最後の条項を確認する。

「……第六条、その他。『本契約に定めのない事項は、双方協議の上で決定する』。まあ、普通だね」

 

「……で、結論は?」

 レイが尋ねる。

 

 ニナとマルが顔を見合わせ、頷いた。

 

「問題ないと思う。少なくとも、明らかな不利益条項はない」

「ペナルティもなし。俺たちから契約解除もできる。問題ない」

 

 レイは短く息を吐いた。

「……なら、このまま進める」

 

 ダグが欠伸をしながら言う。

「おー、任せるわ」

 

 リンは黙って頷いた。

 興味がないわけではないが、自分の役割ではないと理解していた。

 

 レイは端末をポケットにしまい、全員を見渡した。

「じゃあ、――都市の依頼と、管理AIの依頼、両方こなす。いいな」

 

「了解」

「おう」

「……うん」

「りょーかい」

 

 五人の声が重なり、拠点の中に消えていった。

 

 

 翌日、クズスハラ街遺跡。

 レイたちは管理AIから提供された情報を、端末の地図上に展開していた。

 

「……これ、すごいな」

 マルが端末を見ながら呟く。

 

 画面には、ビル群の詳細な構造図が表示されていた。

 そこに重ねられているのは――モンスターの位置情報。

 赤い点が、リアルタイムで動いている。

 

「管理AIからの情報か?」

 レイが尋ねる。

 

「ああ。モンスターの配置、移動パターン、それに――」

 マルが画面を拡大する。

「……これ、見てくれ」

 

 特定のモンスターが、他よりも大きく表示されていた。

 マーカーには『推定指揮個体』の文字。

 

「指揮個体?」

「群れを統率してるモンスターらしい。こいつを先に倒せば――残りは統率を失って、殲滅が楽になる、かも」

 

 レイは端末を見詰めた。

 これまで、モンスターの群れは単に数を頼りに襲ってくるだけだと思っていた。

 だが――そうではなかった。

 

「……ベテランなら、戦ってるうちに気付くと思うが」

 マルが続ける。

「でも、俺たちにはまだわからない。だから――この情報は、助かる」

 

 レイは頷き、地図を確認する。

 管理AIが指定した区域には、赤いマーカーが付いていた。

 重要設備――細心の注意を払うべき場所。

 

「……ここは避けろ、ってことか」

「ああ。爆発物の使用禁止、主砲も気を付けないとな」

「了解。じゃあ、行くぞ」

 

 

 レイたちの車両が、廃墟の間を縫うように進む。

 

 端末の地図に、モンスターの群れが表示されている。

 十数体の反応――その中に、一つだけ大きなマーカー。

 

「……あれだ」

 マルが指を差す。

 

 群れの後方に、一体のモンスターが佇んでいた。

 外見は他と変わらない――だが、動きが違う。

 他のモンスターを誘導するように、低い唸り声を上げている。

 

「ダグ、あいつを先に落とせ」

「了解!」

 

 ダグのバイクが加速し、群れの側面へと回り込む。

 モンスターたちが反応し、ダグへと殺到する。

 

 だが――ダグの狙いは、それではない。

 

 彼は群れを引き付けながら、指揮個体へと接近する。

 そして――AAH突撃銃を発砲。

 

 弾丸が指揮個体の頭部を貫く。

 

 瞬間、群れの動きが乱れた。

 統率を失ったモンスターたちが、バラバラに動き始める。

 

「今だ!」

 レイの指示。

 

 車両の主砲が火を噴き、混乱したモンスターを次々と撃破していく。

 リンの運転、ダグの射撃、マルの索敵――連携により、群れは瞬く間に殲滅された。

 

「……早いな」

 ダグが感心したように言う。

「管理AIの情報、使えるな」

 レイが短く答えた。

 

 

 数時間後。

 レイたちは次の区域へと移動していた。

 

 端末に新たな情報が表示される。

 

『警告:監視特化個体を検出』

 

「……監視特化?」

 マルが端末を見る。

 

 画面には、小型のモンスターが表示されていた。

 戦闘能力は低い――だが、周囲を警戒し、他のモンスターを呼び寄せる役割を持つ。

 

「……厄介だな」

「見つかる前に、撃つしかない」

 

 レイはダグに指示を出し、車両を停めた。

 マルが情報収集機器で監視個体の位置を特定し、ダグが狙撃する。

 

 銃声一つ。

 周囲のモンスターは気づかないまま、監視個体が倒れる。

 

「……よし、次だ」

 

 

 別の区域。

 今度は、機械系モンスターが群れに混ざっていた。

 

「……おい、あれ」

 ダグが指を差す。

 

 生物系モンスターの群れの中に、一体だけ異質な存在。

 金属の外骨格、光学センサー、そして――他のモンスターを指揮する動き。

 

「機械系が、擬態してる?」

 マルが端末を確認する。

「……管理AIの情報には、こう書いてある。『機械系指揮個体。生物系モンスターを統率する能力を持つ』」

 

「……なるほど、そういうこともあるのか」

 

 レイは徹甲弾に切り替え、機械系モンスターを狙う。

 弾丸が装甲を貫き、モンスターが停止する。

 

 瞬間、群れの統率が崩れた。

 生物系モンスターたちが混乱し、バラバラに逃げ出す。

 

「……逃がすな」

 レイの指示で、車両とバイクが追撃し、群れを殲滅した。

 

 

 夕刻。

 レイたちは一日の成果を確認していた。

 

「……討伐数、昨日の二倍だ」

 マルが端末を見ながら言う。

「管理AIの情報、かなり効いてるな」

 ダグが満足そうに笑う。

「ただし――管理AIの指定区域だけだ」

 レイが付け加える。

「都市の指定区域で、管理AIの情報がない場所は――いつも通りだった。時間もかかった」

「……まあ、そうだろうな」

 

 ニナが端末を操作する。

「今日の報酬、都市からは六百万オーラム。管理AI分が――五十万コロン」

 

「上々だ」

 レイが頷く。

「でも、これ――都市にバレないかな?」

 ニナが心配そうに尋ねる。

「……別に不正をしてるわけではない。だが、討伐速度に差があることくらいは、気づかれるかもしれない」

 

 

 同時刻。

 仮設基地の監視室では、職員たちが端末を見ていた。

 

「……おい、ゼロのチーム、エリアによって討伐速度が違うな」

 若い職員が画面を指す。

 

「ん?」

 別の職員が確認する。

「……本当だ。この区画は速いけど、こっちの区画は普通だな」

「何か理由があるのか?」

「さあ? モンスターの密度の違いじゃないか?」

「でも、データ上は同じくらいなんだけど……」

 職員が肩を竦める。

「まあ、上振れ下振れはよくあることだ。気にするな」

「……そういうもん?」

「そういうもんだ。ハンターの調子、モンスターの配置、天候――色々な要因がある。多少の差なら、誤差の範囲だ」

「……なるほど」

 

 若い職員が納得したように頷く。

 画面には、レイたちの車両が次の区画へと移動していく様子が映っていた。

 

 職員たちは、それ以上深くは追求しなかった。

 討伐速度に差があっても――結果的に、仕事はこなされている。

 それで十分だった。

 

 

 管理AIの契約を受けてから数日後。

 レイたちの情報端末には、複数のビルから依頼が届いていた。

 

『第9区画ビル群管理体より通信』

『第12区画ビル群管理体より通信』

『第15区画ビル群管理体より通信』

『第18区画ビル群管理体より通信』

『第23区画ビル群管理体より通信』

 

 通知が鳴り続ける。

 画面には、次々と新たな依頼が追加されていく。

 

 マルが呆れたように端末を見る。

「……増えてるぞ。どういうことだ?」

 レイが端末を確認する。

 依頼の数は、既に十を超えていた。

「……管理AI同士で情報共有してる」

 ニナが心配そうに言う。

「全部受けるの?」

「いや、都市の依頼が最優先だ。ビルからの依頼は――通りすがりに対応する」

 レイは端末をスクロールし――溜息をついた。

「……こんなにいるのか?」

 

 画面には、二十を超える依頼が並んでいた。

 それぞれが異なる区画、異なる管理AIからのものだった。

 

「これ、一つ一つ確認するの?」

 ニナが尋ねる。

「……手間だな」

 レイは少し考え、端末を操作した。

 最初に依頼を持ち掛けてきた管理AI――第7区画ビル群管理体に通信を送る。

 

『相談がある』

 数秒後、返信。

『続けてください』

『複数の管理AIから依頼が来ている。依頼を一本化したい。そちらを窓口として、他の依頼を取り纏めてくれないだろうか』

 

 沈黙。

 画面には、何も表示されない。

 

 やがて――返信が来た。

 

『承知しました。他の管理体と協議します。ただし、中間業務の対価をいただきます。よいですか?』

 

 レイはニナに端末を見せる。

「……中間マージンを取るって言ってきてるけど」

 レイが画面を確認する。

「……いくら?」

『報酬総額の10%です』

「一割か……」

 ニナが呟く。

 

 レイは短く答えた。

「いいよ」

「え、いいの?」

「ああ。手間が減るなら、その方がいい。十分許容範囲だろう」

 レイは端末を操作し、続けて文章を送る。

 

『承知した。あと、優先度付けもしてくれ。どの区域を先に対応すべきか――そちらで決めろ。それくらい出来るだろ』

 

 また沈黙。

 そして――

 

『……可能です。各管理体と協議し、優先度を決定します。情報は当方経由で提供します』

 

「良かった」

 ニナが軽く笑う。

 レイは端末を閉じ、肩の力を抜いた。

「……これで、少しは楽になる。……稼ぎも増えるか」

 

 

 数時間後。

 レイの端末に、新たな通知が届いた。

 

『第7区画ビル群管理体より通信』

『協議完了。以下の通り、優先度を設定しました』

 

 画面には、依頼のリストが表示されていた。

 それぞれに、優先度が数値で示されている。

 

『優先度1:第12区画(重要設備:多。有害生物密度:高)

 優先度2:第9区画(重要設備:中。有害生物密度:高)

 優先度3:第15区画(重要設備:少。有害生物密度:中)

 ……』

 

 マルが端末を覗き込む。

「……整理されてるな」

「ああ。これなら、どこから対応すればいいか一目でわかる」

 ニナが感心したように言う。

「……結構話聞いてくれるんだね」

「まあ、向こうも大変なんだろう。よくは知らんが」

 

 

 貸出端末から指示が届く。

 

『指定のビルを制圧してくれ』

 

 レイが苦笑する。

「……ちょうど、管理AIからも依頼が来てる場所だ」

 マルが端末を見て、少し考える。

「……偶然にしては、タイミングが良すぎないか?」

「……まあ、な」

 レイは車両を発進させながら、呟いた。

「……管理AIが、依頼に介入している可能性もある」

「……まさか」

 ニナが不安そうに言う。

「……大丈夫なの?」

「今のところは、問題ない。都市の依頼をこなしつつ、管理AIの依頼もこなす――それだけだ」

 

 レイは端末を見た。

 画面には、第12区画の詳細な情報が表示されている。

 重要設備の位置、モンスターの配置、推定指揮個体のマーキング――全てが、管理AIから提供されたものだった。

 

「……利用されてる気もするが」

「でも、稼げるんでしょ?」

 ニナが尋ねる。

「ああ」

「なら、いいんじゃない?」

 レイは小さく笑った。

「……合理的だな」

 

 車両が、第12区画へと向かう。

 窓の外には、崩れかけたビルが立ち並んでいた。

 その一つ一つに――管理AIが潜んでいる。

 

 かつて旧世界を支えたシステムの残骸。

 今は、ハンターに依頼を出すことしかできない存在。

 

 レイは、その影を見詰めながら呟いた。

「……844区画、か」

 マルが反応する。

「何だ?」

「いや、何でもない」

 

 端末の地図には、遺跡全体の区画割りが表示されていた。

 その中に、一つだけ――他よりも大きく、重要度の高い区画がある。

 むしろ、近づくなというメッセージにも見える。

 

 第844区画。

 そこには、おそらく――まだ強力な管理AIが生きている。

 

 だが、レイたちが関わっているのは、そのずっと手前の小さな区画ばかりだった。

 有象無象の管理AI。自らの力では、もう何もできない存在たち。

 

 (……あいつらは、俺たちに何を求めてるんだ?)

 その問いに、答えはまだ見えなかった。

 

 車両が第12区画のビル群へと到着する。

 レイは端末を閉じ、武器を手に取った。

 

「……行くぞ」

 

 仕事の時間だった。

 

 

 依頼開始から一週間。

 レイたちは順調にモンスターを駆除していた。

 

 拠点にて、マルが端末を操作しながら呟く。

「……被ってるな」

「何が?」

 レイが尋ねる。

「都市からの指示が、管理AIの指定区域と一致しすぎてる」

 マルが画面を見せる。

 

 そこには、今週の依頼履歴が表示されていた。

 都市からの指定区域と、管理AIからの依頼区域――その重複率が、日を追うごとに上がっている。

 

 レイは少し考える。

「……管理AIが、都市のシステムに介入してる?」

「最初はそう思った。だが――」

 マルが別のデータを表示する。

「……これを見てくれ」

 

 画面には、レイたちの討伐実績と、都市からの評価が表示されていた。

 

『ハンターチーム「ゼロ」評価:優』

『討伐効率:平均の1.8倍』

『推奨:高密度区域への配置』

 

「……高密度区域?」

 レイが眉を上げる。

 

「ああ。俺たちが効率よくモンスターを駆除してるから――都市側が、よりモンスターの密度が高い部分を任せるようになった」

 

 ニナが端末を覗き込む。

「……つまり、都市が評価してくれてるってこと?」

「そういうことだ。で――」

 マルが地図を表示する。

「モンスター密度が高い場所ってのは、つまり――管理AIが重要視してる区域と重なる」

 

 レイは地図を見詰めた。

 管理AIが指定した区域は、ビルの重要設備が多く、モンスターの侵入も激しい場所。

 そして――都市が「高密度区域」として指定する場所も、同じだった。

 

「……なるほど」

 レイが小さく笑う。

「管理AIが介入してるんじゃない。俺たちが効率よく駆除してるから――結果的に、都市と管理AIの依頼が一致してきた」

「そういうことだ」

 マルが頷く。

「それに――」

 マルが別のデータを表示する。

「都市からの依頼、範囲が広がってる」

 

 画面には、レイたちに割り当てられた担当区域が表示されていた。

 初日と比べて、その範囲は二倍以上に拡大している。

 

「……広い範囲を任されるようになった結果、管理AIの指定区域にも食い込んでいった、と」

「ああ。一石二鳥だな」

 ニナが安堵したように言う。

「……良かった。管理AIに誘導されているわけじゃないのね」

「まあ、今のところは、な」

 レイが肩を竦める。

 

 

 だが――変化は、それだけではなかった。

 貸出端末から通知が届いていた。

 

『警告:遺跡全体の活性度が上昇中。

 奥地からのモンスター流入が増加。

 原因調査中』

 

 レイが眉を顰める。

「……活性度?」

 

 マルが説明する。

「遺跡全体のモンスターの活動レベルのことだ。――何かの刺激で活性化することがある」

 

「刺激、って?」

「大規模な戦闘、爆発、あるいは――」

 マルは言葉を切る。

「あるいは?」

「……何者かが、意図的にモンスターを誘導してるとか」

 

 レイは黙って端末を見た。

 画面には、管理AIからの新たな依頼が表示されている。

 

 (……やっぱり、関わってるのか?)

 

 その疑念を、レイは口にしなかった。

 

 

 翌日の戦闘。

 モンスターの数は、確かに増えていた。

 

「……多いな」

 ダグが呟く。

 

 群れの規模が、これまでの倍近い。

 だが――レイたちの装備と連携は、それに対応できる水準に達していた。

 

「落ち着け。指揮個体を先に落とす」

 レイの指示。

 

 マルが索敵し、ダグが突撃し、車両が支援する。

 洗練された連携で、群れは次々と殲滅されていく。

 

「……やれる」

 レイが呟く。

 

「ああ。今の装備なら、この程度は問題ない」

 マルが頷く。

 

 だが――モンスターの圧力は、日を追うごとに高まっていた。

 

 

 別の変化もあった。

 

 貸出端末から通知。

 

『指定区域変更:ゼロチームは地表部分を優先してくれ。ビル内部制圧は、他に割り当てする』

 

 ニナが端末を見る。

「……ビルの内部、やらなくていいの?」

「らしいな」

 レイが答える。

「地表部の広域制圧が向いてる――そう判断されたんだろう」

「……楽になるね」

 ニナが微笑む。

「ああ。ビル内部は、生身での戦闘だ。時間もかかる。地表部だけなら――効率が上がる」

 マルが付け加える。

「それに、他のハンターチームも増えてきてる。都市が本格的に、遺跡の制圧を進めてるんだろう」

 

 レイは窓の外を見た。

 遺跡の外縁部には、複数のハンターチームの車両が行き交っている。

 仮設基地も、以前より大きくなっていた。

 

 (……何かが、動き始めてる)

 

 その予感を、レイは胸に秘めた。

 

 

 拠点、夜。

 レイは端末を見ながら、今日の成果を確認していた。

 

 モンスターの数が増えた分、報酬も増えている。

 だが――それは同時に、何かが変わり始めている証でもあった。

 

 (……このまま、順調に行くとは思えない)

 

 レイは端末を閉じ、窓の外を見た。

 遺跡の影が、静かに佇んでいる。

 

 その奥に――何があるのか。

 

 レイは、まだ知らなかった。

 

 

 依頼開始から数週間。

 レイたちは、いつものように地表部のモンスター駆除に向かっていた。

 

 だが――今日は、何かが違った。

 

『……おい、あれ何だ!?』

 ダグが叫ぶ。

 

 前方に、巨大な影。ヤラタサソリに似たシルエットだが、明らかに違う。

 大型で、四本の脚で地面を踏みしめ、二本の腕を構える――甲殻類型モンスター。

 

 その腕には、砲塔が仕込まれていた。

 背中には、ミサイルランチャー。

 

「……データにはない! ……ヤラタサソリの変異体か?」

 マルが端末を見る。

 

 レイは一瞬だけ躊躇し――決断した。

「様子見だな。リン、後退して威嚇射撃だ!」

 

「了解……!」

 リンが車両を急旋回させる。

 

 だが――甲殻類型モンスターは、逃がさなかった。

 

 腕の大砲が火を噴く。

 砲弾が車両の側面を掠め、装甲を削る。

 

「――ッ!」

 ニナが悲鳴を上げる。

 

「リン、回避!」

 レイの指示。

 

 車両が蛇行しながら、砲撃を避ける。

 だが――モンスターは追撃を止めない。

 

 背中のミサイルランチャーが起動し、複数の弾頭が発射される。

 

『うっわ!』

 ダグが叫び、バイクを加速させ、ビルの物陰に隠れる。

 ミサイルが車両を追尾する。

 リンが回避し、副砲での迎撃を試みるが――それでも完全には避けきれなかった。

 

 一発が車両の後部に着弾し、爆発。車体が大きく揺れる。

 

「……このままじゃ、まずいぞ!」

 マルが叫ぶ。

 

 レイは一瞬、選択を迫られた。

 撤退か、応戦か。

 

 (……やれることは、やってみよう)

 

「主砲、撃て!」

 レイの指示。

 

 車両の主砲が唸りを上げ、甲殻類型モンスターへと砲弾を放つ。

 

 だが――

 

 モンスターは、体をわずかに傾けた。

 砲弾が甲殻に当たり――弾かれる。ビルの外壁に着弾して爆発した。

 

『……嘘だろ!?』

 ダグが信じられないという顔をする。

「歴戦……個体だね」

「リン? なんて?」

「……装甲が硬すぎる」

 マルが呻く。

 

 レイは黙って端末を操作し、主砲の弾種を切り替える。

 画面に表示されるのは――

 

『SSFF弾:残弾10』

 

 (専用弾……使いどころか)

 

「主砲、SSFF弾装填!」

 レイが叫ぶ。

 

『マジか!?』

 ダグが驚く。

 

「ダグ離れろ!撃つぞ!」

 

 主砲が再び火を噴く。

 だが――今度は、弾丸の軌道が違った。

 

 着弾前に、弾頭が展開される。

 黒い影のようなものが、空間に広がる。

 

 そして――

 

 甲殻類型モンスターに触れた瞬間、その体が溶けるように消えていった。

 

 まるでバクテリアに取りこまれるように。

 あるいはブラックホールに吸い込まれるように。

 

 数秒後――モンスターは、跡形もなく消失していた。

 残骸すらない。

 

「……何だ、今の」

 ダグが呆然と呟く。

 

 レイは端末を確認する。

 

『SSFF弾:残弾9』

 

「……専用弾は、残り九発」

 マルが溜息をつく。

「気軽に使えないな……色々な意味で」

 ニナが不安そうに言う。

「……あれ、使っていいものだったの?」

「わからない。だが――生き残るためには、必要だった」

 

 その時、貸出端末から通信が入った。

 

『こちら仮設基地本部。大規模戦闘を検知した。無事か?』

 

 レイは一瞬、躊躇した。

 だが――嘘をつくわけにもいかない。

 

「こちらゼロ。戦闘は終了した。だが、弾薬切れのため撤退する」

 

『了解。撤退を承認する。……戦闘ログを提出してくれ』

 

 レイの顔がわずかに引き攣った。

 (……あの戦闘ログ、出してもいいのかな……)

 

 だが、拒否すれば要らぬ疑いを招く。

 

「……了解。提出する」

 

 レイは端末を操作し、戦闘ログを送信した。

 画面には、SSFF弾の使用記録が含まれている。

 

 (……まずいかもしれない)

 

 だが、今はそれより――撤退することが先だった。

 

「リン、拠点に戻るぞ。急げ」

「……了解」

 

 車両が急発進し、遺跡から離脱する。

 レイたちは、逃げるように拠点へと帰投した。

 

 (……最悪、クガマヤマ都市から離れることになるかもな)

 

 

 仮設基地本部では、職員たちがレイたちの戦闘ログを解析していた。

 

「……これ、何の弾薬だ?」

 若い職員が画面を見る。

 

「SSFF弾……? 聞いたことないな」

 先輩職員が端末を操作する。

 

「データベースにも載ってない。特殊弾か?」

「映像を見ろ。モンスターが――溶けるように消えてる」

 画面には、甲殻類型モンスターが消失する様子が映っていた。

「建物には影響はない……バイオ系か?」

「いや、バイオ系なら多少は残骸が残る。これは――何も残ってない」

「モンスターの再生機構を暴走させた、とか?」

「可能性はある。生物系特化の弾薬ならあり得る。……いくらすんだよそんなの」

「試作兵器かもな」

 

 職員が報告書を作成する。

『特殊弾薬の使用を確認。対生物特化型と推定』

 

「……これでいいか」

「ああ。対滅弾頭なら規制対象だが――これは違うだろう」

「まあ、真面目にモンスター駆除に勤しんでるやつらだからいいんじゃねえか」

 

 職員たちは、それ以上深くは追求しなかった。

 SSFF弾が機械にも効くことを――彼らは知らなかった。

 

 

 拠点、夜。

 レイは全員を集めた。

 

「……装備を強化する必要がある」

 

 全員が頷く。

 今日の戦闘で、現在の装備では限界があることを痛感していた。

 車両も、武器も、安全マージンが失われていると判断した。

 

「火華の工房に行くか?」

 マルが尋ねる。

「それとも、下位区画で買う?」

 ニナが提案する。

 

 レイは少し考える。

「……両方だ。火華には保留にしてた車両の強化を依頼する。街では武器を買う」

「金は?」

「今なら、ある」

 レイは端末を見た。

 画面には、チーム口座の残高が表示されていた。

 

「……使うか」

 

 

 翌朝。 

 レイはハンターオフィスのクサカベに連絡を入れた。

『装備更新と準備のためモンスター駆除依頼を暫く休みたい』

 

 クサカベからは了承の返信があった。昨日の戦闘については触れられていない。

『了解しました。ただし、休暇中も契約は継続します。再開時には、改めて連絡をください』

 

 レイは端末を閉じ、車両に乗り込んだ。

 

「特にお咎めはなかったな。……行くぞ。火華の工房へ」

 

 車両が静かに走り出す。

 窓の外には、クガマヤマ都市の景色が流れていく。

 

 レイは、今日の戦闘を思い返していた。

 SSFF弾の威力。

 そして――後ろめたさ。

 

 (……あれを、気軽に使うわけにはいかない)

 (だが――使わなければ、死んでいた)

 

 その葛藤を、レイは胸に秘めた。

 

 

 

【今回の収支】

- **モンスター駆除** → **+5000万オーラム**

- **モンスター駆除** → **+570万コロン**

- **レンタルバイク代** → **-1000万オーラム**

- **弾薬代** → **-1200万オーラム**

- **消耗品代** → **-800万オーラム**

 

【現在の貯蓄】

チーム口座:

5億270万オーラム

個人口座:

680万オーラム

820万コロン

「武装強化…する!」

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