持たざる少年   作:交渉人

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4.お返し

 拠点の奥。その場所は徒党の中でも限られた者しか足を踏み入れられない。

 ミナトは静かに立ち、ボスの前で報告を始める。

「ボス、報告があります」

 徒党のボスであるシジマは机の上の書類を軽く指先で弾きながら、視線を向ける。

「なんだ」

 ミナトは紙の束を軽く整え、淡々と話し始めた。

「最近徒党の周囲で妙な事が起きています。別の徒党の死体が何度も見つかり、さらにハンターが迷い込んだという報告もあります」

 シジマは短く息を吐く。

「都市に関連しそうか」

 ミナトは少し間を置き、考えるように視線を落とした。

「まだ断定はできません。ですが、徒党の勢力圏でこうも続くのは偶然とは思えません」

 シジマは机に手をつき、指をゆっくりと組む。

「気にしておけ。また何かあれば報告しろ」

 ミナトは頷いた。

「それと……今回の報告ですが、すべて徒党の下っ端――レイという男からの情報です」

 シジマは目を細める。

「レイか……特徴のない奴だったな」

 ミナトは軽く頷く。

「はい。向上心はあるようですが、それを行動に移そうとはしません。徒党の下層で生き延びるだけの狡猾さはありますが、目的を持つほどの気概はない」

 シジマは指を軽く動かし、無言のまま思考を巡らせる。

「それ以外に伝えるべきことはあるか?」

 ミナトは短く答える。

「いえ、ありません」

 シジマは視線を机に戻し、静かに呟く。

「徒党が生き残るためには、変化の兆しを見極めねばならん」

 それは、徒党のリーダーとしての言葉だった。だが、その裏には――何か別の意図があったのかもしれない。

 ミナトはその場を離れながら、わずかに目を細めた。シジマの言葉を思い返し、ボスの考える変化とは何なのか――心の奥で問いかけながら。

 

 

 廃墟の隙間、瓦礫の影―― レイは無言で歩きながら、手慣れた動きで残骸を探っていく。

 何もない日もある。

 だが、今日は運よく空のマガジンを拾った。

「使い物になるな」

 地面に転がる鉄片よりは、確実に価値がある。レイはそれをポケットに突っ込み、武器商の店へ向かった。

 

 カウンターの前に立ったレイを見て、ラドががっかりした様子で問う。

「……今日は、ないのか?」

 意味が分からず、一瞬考えるが、思い当たる。

 (毎日毎日そう都合よく死体が転がっててたまるかよ)

 レイは無言で空のマガジンを置いた。

「ない。多分明日以降もない。たまたまだ」

 ラドは短く息を吐く。

「そうか」

 しばしの沈黙のあと、ラドがふと思案するように腕を組んだ。

「それにしても、お前、連日装備を売ってたよな」

 レイは視線を向ける。

「……それがどうした」

 ラドは軽く笑いながら、カウンターの下から一丁の拳銃を取り出した。

「買い取った装備だがよ、手直しして転売したら、結構いい稼ぎになったんだよ」

 ラドが言いたいことが分からず眉をひそめる。

「だから、お返しってわけじゃねえが、割と良い銃を安めに出してやろうと思ってな」

 ラドは銃を指先で回しながら言う。

「DW-X11――クガマヤマ都市のエージェントが使ってた標準モデルだ」

 レイの視線が銃に向く。

「……都市の装備か」

「そうだ。装備更新で廃棄されたやつが流れてきた。メンテ済みだが、少しガタが来てるな……まあ、それでも十分使えるぜ」

 ラドは無造作に銃をカウンターへ置く。

「基本は対人用だが、モンスター相手にも使えないことはねえ。値段はマガジン1セット込みで3000オーラムってところだ。本来ならこの10倍はするぞ」

 レイは銃を一瞥し、短く息を吐く。

「……保留だ」

 ラドは肩を竦める。

「そうか、じゃあ決まったらまた来な。だが売れたらこの話は無しだ」

 最後に、ラドはマガジンを手に取り、軽く確認する。

「これは……100オーラムだな」

 レイは無言で頷き、代金を受け取る。

 日課は完了した。次は――。

 (この機会、何に使える?)

 

 

 拠点に戻ると、ニナが何気なく声をかけてきた。

「ねえ、聞いた? 遺跡の外縁部で騒ぎがあったらしくて、稼ぎになるらしいよ」

「騒ぎ?」

 ニナは肩を竦めながら続ける。

「徒党のザックが部隊を率いて遺物収集に行ったんだけど、何十万オーラムになったって話」

 レイは瞳を細めながら指摘する。

「嘘だろ。外縁部にそんな遺物が残ってるわけがない」

 ニナは指を顔の前で振りながら続けた。

「それがね、ハンター同士の戦闘があったらしくて、モンスターも集まったんだけど全部討伐されたらしいの」

「なんでも、すごいハンターが単独で何十体も倒したとか」

「嘘だろ。そんなやつがいるわけない」

「でも、見たって言ってる人がいるんだよ」

 レイは聞き流した。

 (どうせ誇張された噂話だ。自分には関係ない)

 

 しかし、ニナは指を立てながら、意味ありげに続けた。

「ほとんど誰かが持ち帰ったらしいんだけどまだまだ死体とか装備品が残ってるんだって。でも、色無しの霧が濃いから危険は危険らしいよ」

 レイは視線を落とし、無言で考えた。

「そうか。装備もない俺には関係のない話だな」

 ニナは笑いながら軽く肩を竦めた。

「装備があっても度胸がないとどうしようもないしね。それに、私は地道に稼ぐタイプだから。危ない橋は渡らない主義なの」

 冷静になって、ニナの言葉を咀嚼する。

 (モンスターが殆どいないなら……俺でもいけるか?)

 徒党の中堅が何十万オーラム稼いだ。今の自分の手持ちは、たかが数千オーラム。格が違う。だが――

 (ゼロじゃないなら、試す価値はあるか?)

 レイは考え続けた。

 

 

 翌日、レイは再びラドの店を訪れた。

「……決まったか?」

 ラドが問う。

 レイは短く頷いた。

「買う」

 カウンターの上に置かれた銃。DW-X11――クガマヤマ都市のエージェントが使っていた標準モデル。

 レイは視線を落とす。

「3000オーラムだ」

 ラドが短く言った。

 レイは財布の中を確認しながら、無言で思考を巡らせる。

 (必要か?)

 本当にこの銃が必要なのか――それは分からない。だが、都市のエージェントが使う銃なら、いつか売れるかもしれない。

 転売すれば金になる。

 それなら、買っても損にはならないだろう。

 レイは覚悟を決め、代金を置いた。

「決まりだ」

 ラドは軽く笑いながら銃を渡す。

「お前がどう使うかは知らねえが、無駄にはならねえさ」

 レイは無言でそれを受け取った。

 

 

 夜。縄張りの薄暗い空間。

 レイは自分の寝床に戻り、銃を傍らに置いた。視線を向ける。

 (本当に使うか?)

 モンスターがいないなら、外縁部に行くのもありかもしれない。遺物が残っているなら、拾うだけで金になる。

 だが、色無しの霧が濃い。

 危険は危険らしい――とニナは言った。

 色無しの霧について詳しくは知らない。人体に有害ではないがよいものではないと聞いている。

 (慎重に考えろ。無謀に動いても意味はない)

 レイは目を閉じた。

 (明日、決める)

 銃がある。行くかどうかは――まだ分からない。

 

 

 

【本日の収支】

- **武器商にジャンクを売却** → **+100オーラム**

- **徒党への上納** → **-50オーラム**

- **武器商から銃を購入** → **-3000オーラム**

 

【現在の貯蓄】

1650オーラム

「まだ間違った選択とは限らない……」

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