持たざる少年   作:交渉人

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6.使い道

「またかよ」

 徒党の縄張りのゴミ漁りでまた死体が見つかった。

 

 徒党の拠点で報告した。ミナトではなく、力仕事専門の部門だ。

「死体か?」

 報告を受けたメンバーは呆れた様子だ。

「……まあな」

 レイは淡々と答えた。

「どこだ?」

「縄張り外れの廃墟。まだ新しい」

 徒党の担当は短く舌打ちする。

「荒野に捨てろ。処理班に渡す価値もねえ」

 レイは無言で頷いた。

 死体はゴミ。

 徒党では、それが普通だった。

 

 

「また死体か」

 レイが診療所に顔を出すと、ヤツバヤシが短く言った。

「……知ってるのか?」

 ヤツバヤシは腕を組みながら答える。

「お前、最近よく見つけてるらしいな」

 レイは憮然とした表情で応える。

「偶然だ。俺が殺してるわけじゃない」

 レイの抗議には取り合わずヤツバヤシは続ける。

「妙に鮮度が高い死体ばかりだ」

 レイは眉をひそめる。

「それがどうした」

 ヤツバヤシは静かに視線を向ける。

「都市の連中は、そういう死体に興味があるんだよ」

 レイは無言になる。

「まさか、……買い取るのか?」

 ヤツバヤシは軽く笑う。

「研究用にな」

 レイの様子を見ながらヤツバヤシは続ける。

「徒党に報告しても、どうせ荒野に捨てるだけだろう?」

 (それ以外ないだろ)

「……何をしたらいい?」

 ヤツバヤシは軽く頷く。

「お前が見つけた死体に、識別タグを打ち込めば回収される。売れる」

 レイはしばし無言になる。

「……いくらだ?」

「ケースバイケースだが、都市の連中が欲しがるものなら十分な額になる」

 レイは視線を落とし、考え込む。

 徒党に報告するだけならゴミだった。だが、都市に流せば金になる。

「タグはどうする?」

 ヤツバヤシは無言で引き出しを開き、細長い装置を取り出した。

「試してみるか?」

 レイはそのタグを見つめ、短く息を吐いた。

「……貰っておく」

 ヤツバヤシは無言で装置を渡した。

「新鮮な死体に使え」

 (……食べ物じゃねえんだよ)

 レイは呆れながらも診療所を後にする。

 

 

 レイは死体の側で膝をつき、装置を取り出した。細い金属片を死体の皮膚に押し当てる。

 

ピッ。

 

 小さな電子音が鳴り、タグが埋め込まれた。数秒後、タグの端にある信号が点滅し始める。

「……回収されるのか?」

 レイは近くの瓦礫の影に身を潜め、様子を伺った。

 

 暫くすると、遠くから低い振動音が響く。薄霧の向こうから、白い防護服を着た人物が現れた。

「……本当に来るのか」

 レイは慎重に身を低くしながら観察する。

 都市の研究者。彼らはタグの信号を確認し、死体の上に小型のスキャン装置を置いた。

 数秒の解析。その後、研究者は淡々と死体を特殊な袋へ入れ、運搬用の車に積み込む。

 言葉は交わされない。ただの作業。

 レイは瓦礫の影から出て、研究者に声をかけた。

「支払いは?」

 防護服の人物は一瞬レイを見た後、機械的に答えた。

「口座振り込みだ」

 それだけ言い残し、無言のまま去っていった。

 (口座振り込み…?)

 

 

「口座振り込みって言われた」

 診療所に戻るなり、レイはヤツバヤシに告げる。

「……お前、口座持ってねえのにか?」

 ヤツバヤシは額を押さえて溜息をついた。

「だから言っただろ、都市の金は口座管理だ」

 レイは肩を竦める。

「口座なんて持ってるわけないだろ。どうすりゃいい?」

 ヤツバヤシは面倒そうに腕を組みながら、無言で考え込んだ。そして、軽く息を吐く。

 (仲介してるこっちの信用問題にも繋がる。やるしかないか)

「……じゃあこっちで口座を作ってやる。ついて来い」

 

 

「こいつのハンター登録を頼む。名前はレイだ」

 ヤツバヤシは簡潔に言った。

 都市の下位区画にあるハンターオフィス。質素なカウンターの向こうで、職員が無表情に端末を操作している。

「……スラム街出身か」

 職員はレイを一瞥し、機械的に確認する。通常なら、スラム出身のハンターはランク1から登録される。

「ランク1で――」

 ヤツバヤシは軽く咳払いをした。

「……ランク10で登録してくれ」

 職員は無言で画面を確認し、軽く視線を動かす。

 数秒の沈黙。

「……了解。ランク10で登録」

 レイは微妙な違和感を覚えながら、それを見つめた。

 ミナトに聞いた話だとスラム出身はランク1のはず。なのに、ランク10で処理された。

 ヤツバヤシは何も言わない。ただ、職員の動作は妙にスムーズだった。

 (賄賂か?何か裏の処理がされたか?)

 だが、考えても答えは出ない。

「ハンター証を発行する」

 職員は無感情に言い、硬質プラスチック製のカードを差し出した。レイはそれを受け取る。

「……これだけか? あとなんて書いてある?」

「東部統治企業連盟認証第三特殊労働員として登録完了。登録名はレイ。ハンター証にはそう書いてある。口座も開設済み」

 職員はそれだけ言い、無表情のまま画面を閉じる。

 レイは少し眉をひそめる。だが、ヤツバヤシは当然のように手を伸ばし、カードを確認した。

「行くぞ」

 それだけ言い、レイを促す。

 

 

 ハンターオフィスを出るなり、レイはヤツバヤシを問い詰める。

「……なんださっきの」

 ヤツバヤシは軽く笑う。

「何が?」

「スラム出身はランク1のはずだろ」

 ヤツバヤシは軽く肩を竦める。

「よく知ってるな。まあ、色々あるんだよ」

「……賄賂か?」

 ヤツバヤシは何も答えず、ただ歩きながら言った。

「情報端末はこっちで渡す。支払いは口座から引いておく」

 (答える気はないか……、足元見やがって)

 レイは溜息を付いた。

 何か裏があるのはわかる。だが、今更気にしても仕方ない。

 ハンターになってしまったのだ。

 

 

「情報端末の使い方はさっき教えた通りだ。ハンター証はなくすと再発行手続きが必要だからな、情報端末もなくしたら自分で調達しろよ。じゃあな」

 簡潔な言葉とともに、ヤツバヤシは去っていった。

 ヤツバヤシの言葉を背に、レイは歩き出す。

 情報端末を開く。

 

 口座残高:1000オーラム

 

「情報端末はいくらだったんだろうな……」

 レイは溜息を付く。流されるまま、ハンターになっていた。

 

 それを考えながら歩いていると――

 視界の端に、倒れた影があった。

 

「……またかよ」

 レイは苦い表情を浮かべながら、死体を見つめた。

 妙に鮮度がいい。まだ時間は経っていない。

 彼は低く呟いた。

「こんなに死体が溢れてるスラム街は、どうなってんだ……」

 嘆きとも皮肉ともつかない言葉。

 だが、次の瞬間、レイは短く息を吐き、僅かに肩を竦めた。

「……今さらか」

 考えても答えは出ない。

 レイは無言で装置を取り出し、死体に埋め込んだ。

 

 ピッ。

 

 識別信号が点滅し、都市の回収を待つ形になる。

 

 拠点に戻り、レイは情報端末を開く。

 

 口座残高:4000オーラム

 

 短く息を吐きながら、無言で画面を見つめる。

 たった今、死体を回収させただけで3000オーラム増えた。

「……ただの死体が3000オーラムか」

 皮肉めいた独り言のはずだった。だが、その言葉には微妙な感慨が滲んでいた。

 (金は金だ。どんな稼ぎ方でも、数字が増えればそれが現実だ)

 レイは情報端末を閉じ、ゆっくりと横になった。

 今日は、金を稼いだ。それだけの一日だった。

 

 

 

【本日の収支】

- **都市に新鮮な死体を報告** → **+3000オーラム**

- **情報端末代** → **-2000オーラム**

- **都市に新鮮な死体を報告** → **+3000オーラム**

 

【現在の貯蓄】

20650オーラム

「金は、金だ」

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