持たざる少年 作:交渉人
「またかよ」
徒党の縄張りのゴミ漁りでまた死体が見つかった。
徒党の拠点で報告した。ミナトではなく、力仕事専門の部門だ。
「死体か?」
報告を受けたメンバーは呆れた様子だ。
「……まあな」
レイは淡々と答えた。
「どこだ?」
「縄張り外れの廃墟。まだ新しい」
徒党の担当は短く舌打ちする。
「荒野に捨てろ。処理班に渡す価値もねえ」
レイは無言で頷いた。
死体はゴミ。
徒党では、それが普通だった。
◇
「また死体か」
レイが診療所に顔を出すと、ヤツバヤシが短く言った。
「……知ってるのか?」
ヤツバヤシは腕を組みながら答える。
「お前、最近よく見つけてるらしいな」
レイは憮然とした表情で応える。
「偶然だ。俺が殺してるわけじゃない」
レイの抗議には取り合わずヤツバヤシは続ける。
「妙に鮮度が高い死体ばかりだ」
レイは眉をひそめる。
「それがどうした」
ヤツバヤシは静かに視線を向ける。
「都市の連中は、そういう死体に興味があるんだよ」
レイは無言になる。
「まさか、……買い取るのか?」
ヤツバヤシは軽く笑う。
「研究用にな」
レイの様子を見ながらヤツバヤシは続ける。
「徒党に報告しても、どうせ荒野に捨てるだけだろう?」
(それ以外ないだろ)
「……何をしたらいい?」
ヤツバヤシは軽く頷く。
「お前が見つけた死体に、識別タグを打ち込めば回収される。売れる」
レイはしばし無言になる。
「……いくらだ?」
「ケースバイケースだが、都市の連中が欲しがるものなら十分な額になる」
レイは視線を落とし、考え込む。
徒党に報告するだけならゴミだった。だが、都市に流せば金になる。
「タグはどうする?」
ヤツバヤシは無言で引き出しを開き、細長い装置を取り出した。
「試してみるか?」
レイはそのタグを見つめ、短く息を吐いた。
「……貰っておく」
ヤツバヤシは無言で装置を渡した。
「新鮮な死体に使え」
(……食べ物じゃねえんだよ)
レイは呆れながらも診療所を後にする。
◇
レイは死体の側で膝をつき、装置を取り出した。細い金属片を死体の皮膚に押し当てる。
ピッ。
小さな電子音が鳴り、タグが埋め込まれた。数秒後、タグの端にある信号が点滅し始める。
「……回収されるのか?」
レイは近くの瓦礫の影に身を潜め、様子を伺った。
暫くすると、遠くから低い振動音が響く。薄霧の向こうから、白い防護服を着た人物が現れた。
「……本当に来るのか」
レイは慎重に身を低くしながら観察する。
都市の研究者。彼らはタグの信号を確認し、死体の上に小型のスキャン装置を置いた。
数秒の解析。その後、研究者は淡々と死体を特殊な袋へ入れ、運搬用の車に積み込む。
言葉は交わされない。ただの作業。
レイは瓦礫の影から出て、研究者に声をかけた。
「支払いは?」
防護服の人物は一瞬レイを見た後、機械的に答えた。
「口座振り込みだ」
それだけ言い残し、無言のまま去っていった。
(口座振り込み…?)
◇
「口座振り込みって言われた」
診療所に戻るなり、レイはヤツバヤシに告げる。
「……お前、口座持ってねえのにか?」
ヤツバヤシは額を押さえて溜息をついた。
「だから言っただろ、都市の金は口座管理だ」
レイは肩を竦める。
「口座なんて持ってるわけないだろ。どうすりゃいい?」
ヤツバヤシは面倒そうに腕を組みながら、無言で考え込んだ。そして、軽く息を吐く。
(仲介してるこっちの信用問題にも繋がる。やるしかないか)
「……じゃあこっちで口座を作ってやる。ついて来い」
◇
「こいつのハンター登録を頼む。名前はレイだ」
ヤツバヤシは簡潔に言った。
都市の下位区画にあるハンターオフィス。質素なカウンターの向こうで、職員が無表情に端末を操作している。
「……スラム街出身か」
職員はレイを一瞥し、機械的に確認する。通常なら、スラム出身のハンターはランク1から登録される。
「ランク1で――」
ヤツバヤシは軽く咳払いをした。
「……ランク10で登録してくれ」
職員は無言で画面を確認し、軽く視線を動かす。
数秒の沈黙。
「……了解。ランク10で登録」
レイは微妙な違和感を覚えながら、それを見つめた。
ミナトに聞いた話だとスラム出身はランク1のはず。なのに、ランク10で処理された。
ヤツバヤシは何も言わない。ただ、職員の動作は妙にスムーズだった。
(賄賂か?何か裏の処理がされたか?)
だが、考えても答えは出ない。
「ハンター証を発行する」
職員は無感情に言い、硬質プラスチック製のカードを差し出した。レイはそれを受け取る。
「……これだけか? あとなんて書いてある?」
「東部統治企業連盟認証第三特殊労働員として登録完了。登録名はレイ。ハンター証にはそう書いてある。口座も開設済み」
職員はそれだけ言い、無表情のまま画面を閉じる。
レイは少し眉をひそめる。だが、ヤツバヤシは当然のように手を伸ばし、カードを確認した。
「行くぞ」
それだけ言い、レイを促す。
◇
ハンターオフィスを出るなり、レイはヤツバヤシを問い詰める。
「……なんださっきの」
ヤツバヤシは軽く笑う。
「何が?」
「スラム出身はランク1のはずだろ」
ヤツバヤシは軽く肩を竦める。
「よく知ってるな。まあ、色々あるんだよ」
「……賄賂か?」
ヤツバヤシは何も答えず、ただ歩きながら言った。
「情報端末はこっちで渡す。支払いは口座から引いておく」
(答える気はないか……、足元見やがって)
レイは溜息を付いた。
何か裏があるのはわかる。だが、今更気にしても仕方ない。
ハンターになってしまったのだ。
◇
「情報端末の使い方はさっき教えた通りだ。ハンター証はなくすと再発行手続きが必要だからな、情報端末もなくしたら自分で調達しろよ。じゃあな」
簡潔な言葉とともに、ヤツバヤシは去っていった。
ヤツバヤシの言葉を背に、レイは歩き出す。
情報端末を開く。
口座残高:1000オーラム
「情報端末はいくらだったんだろうな……」
レイは溜息を付く。流されるまま、ハンターになっていた。
それを考えながら歩いていると――
視界の端に、倒れた影があった。
「……またかよ」
レイは苦い表情を浮かべながら、死体を見つめた。
妙に鮮度がいい。まだ時間は経っていない。
彼は低く呟いた。
「こんなに死体が溢れてるスラム街は、どうなってんだ……」
嘆きとも皮肉ともつかない言葉。
だが、次の瞬間、レイは短く息を吐き、僅かに肩を竦めた。
「……今さらか」
考えても答えは出ない。
レイは無言で装置を取り出し、死体に埋め込んだ。
ピッ。
識別信号が点滅し、都市の回収を待つ形になる。
拠点に戻り、レイは情報端末を開く。
口座残高:4000オーラム
短く息を吐きながら、無言で画面を見つめる。
たった今、死体を回収させただけで3000オーラム増えた。
「……ただの死体が3000オーラムか」
皮肉めいた独り言のはずだった。だが、その言葉には微妙な感慨が滲んでいた。
(金は金だ。どんな稼ぎ方でも、数字が増えればそれが現実だ)
レイは情報端末を閉じ、ゆっくりと横になった。
今日は、金を稼いだ。それだけの一日だった。
【本日の収支】
- **都市に新鮮な死体を報告** → **+3000オーラム**
- **情報端末代** → **-2000オーラム**
- **都市に新鮮な死体を報告** → **+3000オーラム**
【現在の貯蓄】
20650オーラム
「金は、金だ」