持たざる少年   作:交渉人

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6.使い道

「またかよ」

 徒党の縄張りのゴミ漁りでまた死体が見つかった。

 

 徒党の拠点で報告した。ミナトではなく、力仕事専門の部門だ。

「死体か?」

 報告を受けたメンバーは呆れた様子だ。

「……まあな」

 レイは淡々と答えた。

「どこだ?」

「縄張り外れの廃墟。まだ新しい」

 徒党の担当は短く舌打ちする。

「荒野に捨てろ。処理班に渡す価値もねえ」

 レイは無言で頷いた。

 死体はゴミ。

 徒党では、それが普通だった。

 

◇

 

「また死体か」

 レイが診療所に顔を出すと、ヤツバヤシが短く言った。

「……知ってるのか?」

 ヤツバヤシは腕を組みながら答える。

「お前、最近よく見つけてるらしいな」

 レイは憮然とした表情で応える。

「偶然だ。俺が殺してるわけじゃない」

 レイの抗議には取り合わずヤツバヤシは続ける。

「妙に鮮度が高い死体ばかりだ」

 レイは眉をひそめる。

「それがどうした」

 ヤツバヤシは静かに視線を向ける。

「都市の連中は、そういう死体に興味があるんだよ」

 レイは無言になる。

「まさか、……買い取るのか?」

 ヤツバヤシは軽く笑う。

「研究用にな」

 レイの様子を見ながらヤツバヤシは続ける。

「徒党に報告しても、どうせ荒野に捨てるだけだろう?」

 (それ以外ないだろ)

「……何をしたらいい?」

 ヤツバヤシは軽く頷く。

「お前が見つけた死体に、識別タグを打ち込めば回収される。売れる」

 レイはしばし無言になる。

「……いくらだ?」

「ケースバイケースだが、都市の連中が欲しがるものなら十分な額になる」

 レイは視線を落とし、考え込む。

 徒党に報告するだけならゴミだった。だが、都市に流せば金になる。

「タグはどうする?」

 ヤツバヤシは無言で引き出しを開き、細長い装置を取り出した。

「試してみるか?」

 レイはそのタグを見つめ、短く息を吐いた。

「……貰っておく」

 ヤツバヤシは無言で装置を渡した。

「新鮮な死体に使え」

 (……食べ物じゃねえんだよ)

 レイは呆れながらも診療所を後にする。

 

◇

 

 レイは死体の側で膝をつき、装置を取り出した。細い金属片を死体の皮膚に押し当てる。

 

ピッ。

 

 小さな電子音が鳴り、タグが埋め込まれた。数秒後、タグの端にある信号が点滅し始める。

「……回収されるのか?」

 レイは近くの瓦礫の影に身を潜め、様子を伺った。

 

 暫くすると、遠くから低い振動音が響く。薄霧の向こうから、白い防護服を着た人物が現れた。

「……本当に来るのか」

 レイは慎重に身を低くしながら観察する。

 都市の研究者。彼らはタグの信号を確認し、死体の上に小型のスキャン装置を置いた。

 数秒の解析。その後、研究者は淡々と死体を特殊な袋へ入れ、運搬用の車に積み込む。

 言葉は交わされない。ただの作業。

 レイは瓦礫の影から出て、研究者に声をかけた。

「支払いは?」

 防護服の人物は一瞬レイを見た後、機械的に答えた。

「口座振り込みだ」

 それだけ言い残し、無言のまま去っていった。

 (口座振り込み…?)

 

◇

 

「口座振り込みって言われた」

 診療所に戻るなり、レイはヤツバヤシに告げる。

「……お前、口座持ってねえのにか?」

 ヤツバヤシは額を押さえて溜息をついた。

「だから言っただろ、都市の金は口座管理だ」

 レイは肩を竦める。

「口座なんて持ってるわけないだろ。どうすりゃいい?」

 ヤツバヤシは面倒そうに腕を組みながら、無言で考え込んだ。そして、軽く息を吐く。

 (仲介してるこっちの信用問題にも繋がる。やるしかないか)

「……じゃあこっちで口座を作ってやる。ついて来い」

 

◇

 

「こいつのハンター登録を頼む。名前はレイだ」

 ヤツバヤシは簡潔に言った。

 都市の下位区画にあるハンターオフィス。質素なカウンターの向こうで、職員が無表情に端末を操作している。

「……スラム街出身か」

 職員はレイを一瞥し、機械的に確認する。通常なら、スラム出身のハンターはランク1から登録される。

「ランク1で――」

 ヤツバヤシは軽く咳払いをした。

「……ランク10で登録してくれ」

 職員は無言で画面を確認し、軽く視線を動かす。

 数秒の沈黙。

「……了解。ランク10で登録」

 レイは微妙な違和感を覚えながら、それを見つめた。

 ミナトに聞いた話だとスラム出身はランク1のはず。なのに、ランク10で処理された。

 ヤツバヤシは何も言わない。ただ、職員の動作は妙にスムーズだった。

 (賄賂か?何か裏の処理がされたか?)

 だが、考えても答えは出ない。

「ハンター証を発行する」

 職員は無感情に言い、硬質プラスチック製のカードを差し出した。レイはそれを受け取る。

「……これだけか? あとなんて書いてある?」

「東部統治企業連盟認証第三特殊労働員として登録完了。登録名はレイ。ハンター証にはそう書いてある。口座も開設済み」

 職員はそれだけ言い、無表情のまま画面を閉じる。

 レイは少し眉をひそめる。だが、ヤツバヤシは当然のように手を伸ばし、カードを確認した。

「行くぞ」

 それだけ言い、レイを促す。

 

◇

 

 ハンターオフィスを出るなり、レイはヤツバヤシを問い詰める。

「……なんださっきの」

 ヤツバヤシは軽く笑う。

「何が?」

「スラム出身はランク1のはずだろ」

 ヤツバヤシは軽く肩を竦める。

「よく知ってるな。まあ、色々あるんだよ」

「……賄賂か?」

 ヤツバヤシは何も答えず、ただ歩きながら言った。

「情報端末はこっちで渡す。支払いは口座から引いておく」

 (答える気はないか……、足元見やがって)

 レイは溜息を付いた。

 何か裏があるのはわかる。だが、今更気にしても仕方ない。

 ハンターになってしまったのだ。

 

◇

 

「情報端末の使い方はさっき教えた通りだ。ハンター証はなくすと再発行手続きが必要だからな、情報端末もなくしたら自分で調達しろよ。じゃあな」

 簡潔な言葉とともに、ヤツバヤシは去っていった。

 ヤツバヤシの言葉を背に、レイは歩き出す。

 情報端末を開く。

 

 口座残高:1000オーラム

 

「情報端末はいくらだったんだろうな……」

 レイは溜息を付く。流されるまま、ハンターになっていた。

 

 それを考えながら歩いていると――

 視界の端に、倒れた影があった。

 

「……またかよ」

 レイは苦い表情を浮かべながら、死体を見つめた。

 妙に鮮度がいい。まだ時間は経っていない。

 彼は低く呟いた。

「こんなに死体が溢れてるスラム街は、どうなってんだ……」

 嘆きとも皮肉ともつかない言葉。

 だが、次の瞬間、レイは短く息を吐き、僅かに肩を竦めた。

「……今さらか」

 考えても答えは出ない。

 レイは無言で装置を取り出し、死体に埋め込んだ。

 

 ピッ。

 

 識別信号が点滅し、都市の回収を待つ形になる。

 

 拠点に戻り、レイは情報端末を開く。

 

 口座残高:4000オーラム

 

 短く息を吐きながら、無言で画面を見つめる。

 たった今、死体を回収させただけで3000オーラム増えた。

「……ただの死体が3000オーラムか」

 皮肉めいた独り言のはずだった。だが、その言葉には微妙な感慨が滲んでいた。

 (金は金だ。どんな稼ぎ方でも、数字が増えればそれが現実だ)

 レイは情報端末を閉じ、ゆっくりと横になった。

 今日は、金を稼いだ。それだけの一日だった。

 

 

 

【本日の収支】

- **都市に新鮮な死体を報告** → **+3000オーラム**

- **情報端末代** → **-2000オーラム**

- **都市に新鮮な死体を報告** → **+3000オーラム**

 

【現在の貯蓄】

20650オーラム

「金は、金だ」

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