後方腕組系TS吸血姫です。血をください。   作:寺西

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第3話

「ふんふふーん」

 

 調子よく鼻歌を歌いながら台所で刃物を砥ぐ。

 チラリ、と後ろの方を見てみるとソファの上で横たわり気絶している人間。

 見た感じ、まだ目を覚ましそうにもない。

 人間が目を覚ますまで暇だったので、オレはあれをしようとしていた。

 

 ……あ、ちなみに取って食おうって訳じゃないよ。

 勘違いしてもらったら困る。ああ、そう、困るのだ。

 いかにオレが吸血鬼だとしても、それだけはしないと決めている。

 

 というか、むしろもてなそうとしているのだ。

 本当に久々にウィンド以外の人間を見た。

 一体何年ぶりだろうか。

 

 久々に人間を見たため、少々嬉しくなってしまいはりきっている訳なのだ、オレは。

 

 そう、今やろうとしているのは……料理だ。

 

 この異世界に生を受けてからと言うもの、ジャパニーズたるオレは一つの欲望に悩まされていた。それは、旨い料理が食いたいというもの。飽食の時代に生まれた日本人だ、舌だけは無駄に肥えている訳で、旨いものを食わないと気が済まないのだ。仕方がないね。

 

 でも、この世界に生まれたばかりのころはそんなものを作る余裕もなかったけど、ウィンドに拾われてからは料理を作る余裕が出来たから、こうして自分で作るようにしているのだ。

 

 まぁ、前世では独身サラリーマンをやっていてコンビニ飯に頼りっぱなしだったから、最初は包丁で野菜を切ることにすら悪戦苦闘したが、なんとか頑張るしかなかった。

 

 なにせ、ウィンドには絶望的に料理センスがなかったのだ。毎日夕飯で出される飯が不味い不味いの……、たまに生肉のまま出されることもあったくらいだ。それを料理と呼ぶのはいささか料理に対して不敬さすら感じるよ。まぁ、当のウィンドは料理なんて食えればいいって言ってたから、改善される事に期待してはならない。

 

 とまぁ、そんな訳で最初は料理という行為に慣れなかったが、次第に慣れて行ってこうして今では一人でそれなりに作れるようになったのだ。マジで苦労したけどね。

 

 トントントン

 

 リズムよく野菜を刻んでいく。

 野菜を刻んでいる時間を活用して、先に鍋に油をしいて火にかけておくとベリーグッド。ガスコンロじゃないから十分な熱が伝わるまで時間がかかるのだ。

 

 玉ねぎ、人参、それから肝心のトマト……に似た野菜たちを刻み終えたら、今度は肉の準備。

 

 なんかの魔物の肉……多分ドラゴンとかの肉だけどちゃんと血抜きしたから臭く無いヤツを用意。畜獣のソレと違い肉が青かったりするけど。おい、なんだその目は。ゲテモノを見るかのようだな。

 

 失礼な、これでもれっきとした食材なんだぞ、それもこの森でとれた物だ。新鮮なこと間違いなしである。

 

 ……えーっと、れっきとした食材だよね?なんか不安になってきた。ええい、ちゃんと旨く作れば問題ナッシング。たとえ肉が青くとも、誰も文句は言うまい。

 

 という訳で、ちゃんと旨いものを作るために、下味はちゃんとつけておく。

 ペッパーっぽい辛みのある香辛料を砕いた奴と、塩を混ぜたやつ……要は塩コショウ、を肉に揉みこんでいく。

 

 そうしているうちに熱々になっていた鍋に、トマト以外の野菜をぶち込んでいく。

 

 じゅううううぅぅぅ

 

 蒸気が上がり、いい音が部屋に響いた。

 オレは野菜はふにゃふにゃなのが好きだから結構炒めるとヨシ。

 十分に野菜に火が通ったら、野菜を取り出し今度は肉を鍋にイン。

 

 流石は肉だ、これをぶち込むだけで鍋の様子が全然違う。

 なんともいい香りが広がってくるではないか。青いけど。

 まぁ、本当にこれがドラゴンの肉だって信じられるか、ってくらい好いにおいがする。やっぱり肉はちゃんと血抜きをするに限るね。

 

 もうすでにこれだけでも十分に美味しいのではないか、と思えるほどいい感じだけど、まだ完成ではない。

 

 肉の色が変わったら、細かくカットしたトマトを投入。

 10分ほど煮込んでいるとあくが出てくるから逐次取っていってあげるといい感じに出来上がる。この手間があるかないかで全然違ってくるから、マジで。

 

 そうしたら最後に今まで炒めてきたもの全部を鍋に入れる。

 後は……待機。

 

 しばらく待っていると、めっちゃいい香りが立ってくる。

 したら、最後の仕上げだ。

 

「えーっと、どこに置いてたっけ」

 

 ごそごそと台所をあさる。

 

「あ、見つけた」

 

 棚の奥にしまわれたそれを取り出す。

 木造りのタッパーみたいなやつに入っているチーズを加える。

 ちなみにこのチーズは、森の近くにある町でウィンドに買ってきてもらったものだ。流石に牛乳から作るなんてことは出来なかったから。

 

 とまぁ、最後にチーズを加えれば……、

 

「完成!!!」

 

 ああ、なんて美味しそうなのだろうか。

 

 完成したのは、フランス家庭料理っぽいポトフみたいなやつ。食材がいろいろ足りないから中途半端感は否めないけど、まあよし。自分で言うのもなんだが、かなり美味しく作れていると思う。流石はオレだ。

 

 そういう訳で料理が出来上がったのだが……ソファの方を見てみると男がピクリと動いていた。どうやら匂いにつられて目が覚めてきたようだ。

 

 むくりと起き上がった人間は、こちらを見た。

 

 目が合う。

 

「おはよう、料理を作ったんだ、いい匂いがするだろう?」

 

 人間にとってはこれは初対面だろう。にっこりと性格のよさそうな笑みを浮かべて親切そうにする。第一印象と言うのは大切だからね。

 

 だがしかし、そんな努力も空しく、男はこちらを少し見ただけで、背中から大きな翼が生えていることに気づいてしまったのだろう。恐怖に表情が歪んでいってしまった。

 

「ひ、っひいいいいい!!!化け物おおおおおおお!!!」

 

 あーあ、こりゃめんどくさい感じだな。

 

 

▽▲▽▲

 

「なんだこりゃ、クッソ旨いな旦那」

 

「だろ?」

 

「ええ、本当にこれ、店で出せるレベルですぜ」

 

 はふはふと美味しそうに料理を食らう禿げ頭の胡散臭そうな男。

 それに対するは、頬杖をしながらそれを嬉しそうに眺める金髪美少女ことオレ。

 なんとも不思議な構図ではあるが、まぁ、美味しそうに食ってくれているからどうでもいいんだけど。

 

 あ、ちなみにオレがあなたを助けた人です、って言ったら案外すんなりと受け入れてくれて落ち着いてくれたよ。「へっへっへ、命の恩人の言う事は信じますぜ」って感じで。思っていたよりも面倒な事にはならなかった。理解力が高くて助かったね。

 

 それと、名前もついでに教えてくれた。なんでも”リード”と言う名があるらしい。

 

「ふふふ、嬉しいね。やっぱり人間と話すのは楽しいな」

 

「そうですかい?旦那は吸血鬼だってのに人間と喋るのが嬉しいだなんて、相当珍しいですぜ」

 

「さっきも言っただろう?オレは悪い吸血鬼だけど、同時に特別な吸血姫なんだ」

 

「ははは、悪い吸血鬼、ねぇ。さっき吸血鬼に襲われた時は死んだかと思いましたぜ。本当に旦那には頭があがらねえ」

 

「だろう?もっと感謝したまえ」

 

「へっへっへ、本当に感謝しますぜ旦那」

 

 そう言って胡散臭そうに笑うリード。

 いや、本当に胡散臭い感じに笑うんだ、これが。

 

「特に、この青い肉、嚙むたびに旨味が広がってきますぜ。物珍しさ込みで、街で売ったらなかなか金になりそうだ。で、何の肉なんですかい?」

 

「えっとだな、これはドラゴンの肉なんだ」

 

「ドラゴンの肉!?こりゃまた随分と珍しい肉ですな。旦那はドラゴンを倒せるのですか?」

 

「ああ、自分で言うのもなんだがオレはそこそこ強くてな。ドラゴンなら倒せる」

 

「はえー、すごいですな……どうですかい、定期的にドラゴンを狩ってわっしにくださいませんか?そうしたら下の街で売りさばいて金にしますぜ。利益は、旦那とわっしで2:3と言う感じでどうです?絶対に成功しますぜ」

 

 うーん、なんか急に商談が始まったな。

 というかこの男が言うと何とも胡散臭そうに聞こえるんだが……。

 まぁ、気持ち的には嬉しいんだがな……少しだけ問題もある。

 

「うん、気持ちは嬉しいが断らせてもらうよ。オレは吸血姫だからな、金を持っていても意味がないんだ」

 

「そうですかい……それは残念ですぜ」

 

 そんな返答にしゅんとする胡散臭そうな男ことリード。

 だが、しゅんとはしているが料理に手を付ける速度は決して遅くならない。

 最初から断られることは分かっていたのだろう。

 

 とまぁ、そんな感じでやり取りをしていた時、扉が開いた。

 

「ただいまー、ネスレ。お前が欲しがっていたやつを買ってきたぞー」

 

 どうやらウィンドが帰ってきたようだ。

 欲しがっていたやつ、というのは下着や服の事だろう。

 最近、成長期が来て、今まで着ていたやつがパツパツになったから頼んでいたものだ。素直にありがたい。

 

 だがしかし、今来られるのは少々不味い気が……。

 

 娘であるオレが喜ぶ姿を想像していたのか、へにゃへにゃと嬉しそうにしながら部屋に入ってきたのだが、リードとオレが机を挟んで飯を食っている様子を見て、一瞬で真顔になる。

 

「む、娘が彼氏を連れ込んでいる……だと?」

 

 まるで雷にでも打たれたかのような表情。

 

 あーあ、もっとめんどくさい事になった。

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