need for speed heatって言うんですけど。
なんで今になってps4のゲームをしてるんですかね。
「ん、あれかな?」
小鳥形態で飛んでいることしばらく、ようやく外壁で囲まれたそれなりの規模の街に辿り着いた。
・・・いやまぁ、言うだけならそれくらいで済むんだけどね。
空を飛んでるのに丸三日かかったってマジ?陸路だったらどれだけ時間かかったんだって話なんだけど。
とはいえ、この世界では仕方ない話でもある。
なにせ、前世と違って魔物の脅威があり、技術力というか文明力が前世と比較にならないほど低い。
銃も戦車も戦闘機もミサイルもないから、否応でも生身と前代的な武器で相手をしなければならない。
だけど、私たち魔物はともかく、人間は魔法やスキルを会得するにも時間をかけて修行しなければならないから、例外を除けばどうしても限界というものがある。
だから、小さな村や集落が魔物の襲撃によって滅ぶというのは、なんら珍しい話じゃない。
ルミナス様の領地であれば、貴族階級である配下の吸血鬼族が魔物を駆逐することで平和を享受できるけど、代わりに対価として血液を差し出さなければならない。
言ってしまえば、ルミナス様の領地において人間は奴隷であり、家畜のようなものだ。
そういう扱いに思うところは・・・まぁ、あったりなかったりする。
前世における貴族と奴隷のマイナスイメージは簡単に払拭できるものではないけど、ルミナス様は恐怖支配を敷いているものの不必要に人間を虐げるようなことは許していない。
まぁ、人間がいなくなって困るのは吸血鬼族の方だし。
何なら、最近魔物を狩りがてら付近の人間の集落に行ってちょっとしたリサイタルを開いたところ、私の歌を楽しんでいた人間の血をつまみ食いしたルミナス様が「ふむ、なかなか悪くない味じゃな?」ってこぼしてたから、いつかその辺の扱い方も変わるかもしれない。
「娘が作る織物は、助けた鶴の恩返し」
それはさておき、一度周囲に人がいないのを確認してから、茂みの傍に降りて人間形態に変身し、ついでに外套を被りつつ変身魔法で翼も消しておく。
言わずもがな、どんなに人の姿に近くても魔物への当たりの強さは変わらない。
むしろ人の姿に近い魔物は“魔人”と呼ばれ、人間たちから要警戒対象にされているから、私の姿を晒したら大混乱になりかねない。
それを防ぐために、頭の翼を隠す手段をあらかじめ確保しておいた。
ユニークレベルの解析スキルを使われたらバレるかもしれないけど、そうならないことを願おう。
門に近づくと、守衛に呼び止められた。
「止まれ、何者だ」
「どうも、旅の歌人です。近くの村から来ました。身分を証明できるものはありませんが・・・」
「年端もいかない少女が、一人でここまで歩いてきたというのか?」
うーん、めっちゃ怪しまれてる。
まぁ、そりゃそうか。
これなら行商人なんかと相乗りすればよかったかもしれないけど、そればっかりは運次第だからなぁ。
もちろん、こうなった時の言い訳も用意してあるけど。
「自衛程度には、魔法を扱えますので。それと、こう見えても成人してます」
「あ、あぁ、そうだったのか?それはすまない」
懐から手持ちサイズの魔法杖(超安物)を見せながら言うと、守衛はあっさり納得してくれた。
素直に謝ってくれる辺り、いい人だな。
「では、通行料を払ってくれ」
「どうぞ」
「これが許可証だ。通っていいぞ」
旅立の際、ルミナス様がこれでもかと金貨を渡そうとしてきたけど、なんとか説得して周囲に怪しまれない程度の額に抑えてもらった。
空間収納で誤魔化せるとは言っても、見た目が少女の旅人が金貨を使いまくったら絶対に怪しまれる。
それに、せっかくなら私の歌でどこまで稼げるかも試してみたい。
路銀に困ったら・・・その時はルミナス様を頼ろう。
やってることが売れない路上ミュージシャンのヒモ生活にしか見えないことについては、考えないことにしよう。
スポンサーにお金を出してもらっているって考えた方がそれっぽい。
嫌なイメージを頭の中から振り払いながら、私は守衛に通行料を渡して街の中に入った。
「おぉ・・・」
街の中は、思っていたよりも栄えていた。
中世寄りの建築なのはそうなのだが、景観の整い方はむしろ近世、下手したら電気やガスがないのを除けば近代に迫るかもしれない。
少なくとも、透き通ったガラスをある程度量産できるだけの技術があるのは間違いなさそうかな。
もちろん、
・・・そう言えば、この世界って人類が誕生して100万年以上経つんだっけ?
それも前世とは違って、想像主が進化の過程をすっ飛ばして直接生み出す形で。たしかルミナス様がそんなことを話していた。
その時のルミナス様、なんかめっちゃすごい表情だったけど、人類の想像主ってそんなに問題があるタイプのかな。
100万年経っても科学技術が前世に追い付いてないと考えると遅く感じるけど、積極的に人を襲う恐竜が跋扈する中で一から文明を構築していると考えるとむしろよくやっている方だとも言える。
そもそも魔法やスキルがあるから、科学技術に頼る必要性も薄いんだろうね。必要がないものを積極的に研究する理由もそんなにないだろうし。
その辺の事はともかく、今は泊まる場所を探そう。
小鳥なら野宿でも問題ないけど、モチベーションを保つには暮らしのクオリティを上げるのも必要だ。
ひとまず、清潔で手頃そうな宿に入ってみる。
「いらっしゃいませー・・・?」
「一人です。期間は決めてないんですけ、ど・・・」
ひとまず値段とか尋ねてみようと思ったら、受付の女性がまじまじと私を観察し始めた。
えっと、もしかして・・・?
「ごめんね?お父さんかお母さんはいるかな?」
「成人済みです」
お前もかい。
いやまぁ、自分でも大人っぽく見えないのは承知の上だけど、それでも子供扱いされるのは不服なんだが?
種族や地方によって違いはあるにしても、この世界の人間の成人年齢は一般的に15歳とされている。
身長150cmもあれば・・・いや、15歳の平均身長ってどんなもんだっけ・・・前世の私の身長が160cm弱とかだった気がするから・・・あれ、もしかして私の身長、低すぎ・・・?
・・・次からは身長を増やす特訓もしよう。
「えっ?あ、す、すみません!」
「いえ、慣れてるので気にしないでください」
嘘。ちょっと凹んでる。
まぁでも、そこまで吸血鬼族比でそこまで身長が高くないルミナス様よりも背が低かった時点で、こうなる可能性は考慮すべきだったかもしれない。
「そ、それで、無期限のご宿泊ですね?」
「はい。できますか?」
「大丈夫です。日払いか、数日分を一括払いするか選択できますが、どうなさいますか?一括であればサービスも少々付きますが」
「そうですね・・・ひとまず一週間お願いします」
「かしこまりました」
何とか値切りしたとは言えど、それでも二週間分くらいの旅費はある。食事を抜けばもう少し増えるだろう。
どのみち、
「それで、お客様は何をしにこの街へ?」
「これでも私、旅の歌人でして。各地を回りながら歌を披露しているんです」
「そうなんですか!?」
私の自己紹介に、受付の子がキラキラと目を輝かせた。
カウンターから身を乗り出す勢いで詰め寄ってきたから、思わず仰け反ってしまう。
「もしよろしければ、うちで歌を披露してもらってもいいですか!?」
「え、えぇ、私は構わないですけど・・・」
「ありがとうございます!お母さーん!」
勢いに押されて頷くと、受付の子はさっさと奥へと消えていってしまった。
あの、えっと・・・
「チェックインは・・・?」
星1評価されても文句言えないでしょ、これ。
* * *
「この度は、娘が本当に申し訳ありませんでした」
「ずびばぜんでじだ・・・」
「いえ、私はそこまで気にしていないので・・・」
数分後、受付の子が中年の女性を連れて戻ってきたと思ったら、揃って深々と頭を下げられた。
受付の子・・・娘の方は頭にでっかいたんこぶが出来ていて、顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっているのは・・・まぁ、そりゃそうだよねとしか。
例えるなら、芸能人が来て盛り上がった店員が勝手にあれこれ要求してるようなものだ。怒られるに決まってる、というかむしろクビになる。
それでも怒られただけで済んでいるのは、この二人が家族だからだろう。
それぞれの名前は、お母さんがメアさん、娘さんがラナさんと名乗った。
この世界ではそこまで珍しくないけど、家族で宿を経営していて、暮らしもそれなりに裕福らしい。
ただ、ここ最近の売上は減少気味らしく、近い内に生活に困るようなことにはならないけど、手遅れになる前に手を打ちたかった、というのが さんの言い分だった。
いや、うん、言いたいことはわかるし、協力するのも吝かではないけどね?
「ですけど、それはそれとして、チェックインを放り出すのは違いますよね?」
「はい・・・」
「あと、自分で言うのもなんですけど、私はまだ無名です。歌も披露してないのに集客効果を期待するのは早とちりが過ぎませんか?」
「申し訳ありません・・・」
「何より、私は旅人です。もちろん定期開催はできません。私がいなくなった後はどうするつもりだったんですか?」
「それは、そのぉ、期間限定イベントのつもりで・・・」
「期間が終わったら元の状況に逆戻りになりますけど、そのことについては?」
「仰る通りです・・・」
その辺のことはすでにみっちり絞られたのか、反論することもなく素直に頭を下げる。
う~ん、いい子であるのは分かるんだけどなぁ。こうも無駄に行動力があると親御さんも大変そうだ。
・・・ただ、まぁ、ここまで事情を聞かされて放置できるほど、私も人の心を失っているわけではない。
「・・・そうですね。私としても、案がないわけではありません」
「本当ですか!?」
「あんたはいい加減落ち着きな!!」
あ、また拳骨くらってる。同じ箇所にクレーンヒットしたからめっちゃ痛そう。
頭を抑えて悶えているラナさんの方は見ない振りをしつつ、私は笑みを浮かべながら提案した。
「こういう風にすればいいと思いますよ?」