詠う小鳥は夜の魔王に出会う   作:リョウ77

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いやー、とうとう転スラ書籍が完結しましたねー。
自分は最後だけ無料で見たんですけど、なんと言うか“なろう”らしい終わりだったなーって思いました。


やっぱ人気者は辛いぜ

「いやー、本当にありがとう!アリアちゃんに頼んで良かった!」

「あ、ありがとうございます」

 

あれから一週間、私は現在ラナさんから両手で握手されながらブンブンと腕を振り回されていた。

私が提案した経営戦略が上手くいったことで、売上が緩やかだけど増加傾向になったらしい。

たった一週間でこれだから、1,2ヶ月も経てば目に見えて増えるだろう。

 

私が出した案は、別になんてことはない。

私の代わりに歌う小鳥(ソングバード)に歌ってもらうってだけの話だ。

ただし、私が直々に鍛え上げた個体とする。

歌う小鳥(ソングバード)は貴族の娯楽として飼われていると言われているけど、実際は庶民でも飼育は可能だったりする。

魔物とは言えど、実態は本当に普通の小鳥だし、価格だって多少値は張るけど庶民でも買える範疇だ。

ただ、歌を上達させようと思ったら相応の環境が必要になる。

この世界で上等な音楽と言えばオーケストラやオペラで、一般席でもそれなりに入場料がかかる。

ペット可の特別席になればさらに値段が跳ね上がるし、それこそ歌う小鳥(ソングバード)が学習するまで何度も通うとなると貴族でも一部しか出来ないだろう。

だからこそ、時に歌う小鳥(ソングバード)は貴族のステータスとして使われることもある、というのがルミナス様の話。

まぁ、庶民向けの宿にそこまでのレベルは必要ないけど。

 

今回の歌う小鳥(ソングバード)は、私の方から用意させてもらった。

今の私なら、ちょちょいと口笛を吹くだけで数羽くらいすぐに集まってくる。

集まった中から二人のことを気に入った子を選んで、1週間の滞在で私が歌を披露しているところを聞かせたり、暇なときに直接歌を仕込んだりした。

これで下地は完成。あとは定期的に詩人や歌人を招いて歌う小鳥(ソングバード)にインスピレーションを与えてあげれば、しばらくは歌が話題の宿屋として売り上げも増える・・・かもしれない。

少なくとも、私の歌はけっこうすぐに広まったから、話題性はばっちりだったはず。

私からすればむしろなんで今までやってなかったんだろうって感じだけど、貴族向けのイメージが強かったのとコストパフォーマンスの問題かな。

今回は私が格安で請け負ったけど、他の人でやろうとしたらさらに金がかかると思うから、簡単に実行できるものでもないだろうし。

 

気になるとしたら、上流階級のイチャモンかな。

一応、この世界にもオーディオレコーダーは存在する。黒い円盤を使うアナログレコーダーが。

ただし、本体も円盤もべらぼうに高い。それこそ、貴族しか買えないレベルで。

理由は単純、数が極端に少ないから。

この世界のオーディオは魔法によって動いているけど、生産できるほどの技術がある国はかなり限られてくる。

さらに、この世界には魔物という分かりやすい脅威があり、貿易も命がけになりやすく娯楽に割ける資源は多くない。

生産地で直接買えるならまだ安く済むけど、国境一つ越えるだけでも目に見えて値段は違ってくる。

そのため、前世と違って音楽が流れている店はまずない。上流階級向けのところがオーディオを設置してるか音楽団を雇っているくらいだ。

そんな金がかかる趣味なのに、たまたま来た有名人が格安で披露した歌を歌う小鳥(ソングバード)が覚えたとしたら、要らぬ憶測が生まれたり逆恨みされる可能性もゼロじゃない。

この世界に違法ダウンロードの概念があるかは知らないし、私ができることなんてほとんどないけど、用心してもらうことに越したことはない。

実際、私もあの手の連中は殺したいほど嫌いだし・・・。

 

そんなこんなで、契約通り一週間が経過して、私はこの街を発つことにした。

私の方もお客さんの投げ銭と宿側の報酬で懐が潤ったし、宿は宿でこれ以上滞在するとむしろ客が増えすぎてキャパが越えかねない事態にまでなっている。

お礼も報酬も十分もらったから、私としてはさっさと出ていってもよかったんだけど、ラナさんがわざわざ門まで見送りに来てくれて、現在に至る。

メアさんは宿が忙しくて来れなかった。正直、ストッパーがいないラナさんと二人でいたくないんだけどな・・・。

 

「ねぇねぇねぇ、次はいつ来るの!?」

「予定は決まってないですね~。むしろ来ない可能性の方が高そうです」

「そんなぁ・・・」

 

私の無慈悲な宣告に、ラナさんは絶望の表情を浮かべて項垂れた。

ただ、これはラナさんの反応がちょっと過剰なだけで、この世界の旅人なんて基本そんなもんだ。

なにせ移動手段が徒歩か馬車しかないから、街から街まで移動するのに数日かかるなんて当たり前だし、数週間とか1ヶ月以上かかることも珍しくない。

それに、街道は比較的整備されているとはいえ魔物のリスクも常に付きまとっているから、いつ襲われて死んでもおかしくはないのだ。

まぁ、私は別だけど。空を飛べば遅くても一週間以内には他の街に着くし、魔物に襲われてもよほどじゃなければ返り討ちにできる。

ただ、今回は護衛の名目で行商人の馬車に乗り合いすることになったから、前より長い旅になるのは間違いない。

水浴びとか出来るかな・・・難しそうなら、魔法で解決できるか試してみよう。

 

「そんなに落ち込まなくても、私がいなくても大丈夫なようにしたじゃないですか」

「ぞでばぞうだげど、ぞうじゃなぐでぇ・・・」

 

あーあー、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっちゃってまぁ。

大丈夫?ハンカチ持ってる?持ってない?じゃあ私の使って。この街で買った安物だし、返さなくても大丈夫だから。ほら、鼻チーンして。

ゴシゴシと顔を拭いている内に落ち着いたラナさんは、ズビズビと鼻水をすすりながらもこうなってる理由を話してくれた。

 

「だっでぇ、アリアぢゃんの(うだ)、もっど()ぎだがっだがら・・・」

「・・・・・・そうですか」

 

やばい、記念すべき初めてのお客さんにして依頼人にそう言われるとめっちゃ嬉しい。

他の人には見えてないけど、今私の翼はバッサバッサと羽ばたいている。

大丈夫?風圧でバレたりしない?

それはそうと、ラナさんの言葉は嬉しいし今後の自信に繋がるけど、だからと言って簡単に引き留められるわけにはいかない。

 

「そう言ってくれて、ありがとうございます。ですが、私はもっとたくさんの人に私の歌を聞いてほしい。ですから、いつまでもこの街に留まるわけにはいかないんです」

 

私は、私の歌を誉めてくれたルミナス様に誇れるようになりたい。

そのために、世界中を渡り歩いて大勢の人に私の歌を聞いてほしいし、認めてほしい。

これが前世なら動画サイトで気軽にできるんだけど、こっちの世界だと自分の足であっちこっち行く必要があるんだから、手間のかかる話だ。

だけど、それでも私はそうすると決めた。

・・・本当は拠点移動(ワープポータル)で簡単に顔を出すことができるんだけど、それやったらいろいろと怪しまれるからできないんだよね、世知辛いことに。

ごめんね、私が魔物で。

 

「そういうことなので、分かってくれますか?」

「・・・・・・・・・ぅん」

 

めっちゃ間があった上に全然納得してなさそうな声音だけど、言質は取ったからヨシ!

 

「アリアさーん、そろそろ出発しますよ~」

「はーい、すぐ行きまーす!」

 

そんなこんな話をしていたら、お世話になる行商人さんが声をかけてきた。

今回は私以外にも護衛がいるから、これ以上待たせるわけにはいかない。

 

「それでは、そろそろ時間なので行きますね」

「・・・また会える?」

「ラナさんが望んでいれば、きっといつか」

 

できるだけ優しく話しかければ、涙をぬぐったラナさんは立ち上がってさっきよりも強く私の両手を握った。

 

「約束だから!」

「はい、約束です」

 

最後に再会の約束を交わして、ようやくラナさんは私の手を放してくれた。

これ以上待たせないために、私はすぐに馬車に駆け込んで行商人に声をかけた。

 

「すみません、お待たせしました」

「気にしなくても大丈夫です。それでは、行きましょう」

 

行商人が合図を出して、馬車が動き出す。

来るときにやり取りをした守衛さんにも軽く挨拶をして、とうとう馬車は街を出た。

 

「アリアちゃーん!絶対にまた来てね~!」

 

そして、最後に門のすぐそばまで出てきたラナさんが呼びかけてきたのが聞こえた私は、ラナさんの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

ようやく別れを済ませた私が前の方を振り返ると、行商人さんが手綱を握ったまま私に尋ねかけてきた。

 

「本当に良かったのですか?随分と仲良くなられたようですが」

「私にも譲れないものがありますから。それに、これも旅の醍醐味でしょう」

 

きっとこれからも、同じ経験を積んでいくことになるんだろう。

まぁでも、ね。

この初めての経験くらいは、特別に思ってもきっとバチは当たらないよね。

 

あるいは過ぎ去る風、あるいは瞬く光。刹那の交わりであれど、軌跡は残り、証は刻まれ、導となる。それこそが旅、それこそが出会い、それこそが約束。私が此処にいる意味、あなたが其処にいた意味

 

初めての旅で出会ったあなたのこれからに、どうか祝福がありますように。




ラナには悪いけど、実際はここまでやってもファン一号のルミナス様には勝てないのよね。
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