詠う小鳥は夜の魔王に出会う   作:リョウ77

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転スラのアニメ新シーズンが5クールってマジですか?
下手したらシエルが誕生するまでやってもなお余りません?


やっぱ災害ってクソだわ

「む?あれは・・・皆さん、少し先を急ぎましょう」

 

ラナさんの街から出て、およそ二週間が経過した。

道程的には半分くらいで魔物の襲撃もなく順調に進んでいた矢先のことだった。

荷台に寝転がって「まだ半月もかかるとか暇だな~」なんて思いながら上空を見上げて歌の構想を練っていた私は、起き上がって行商人に何があったのか尋ねた。

 

「どうかしたんですか?って・・・」

 

否、尋ねようとしたけど、起き上がって最初に目に入った光景で察してしまった。

街道から外れて少し離れた場所、その一帯が完全に荒れ果ててしまっていた。

草木は一本も残らず枯れ朽ち、剥き出しになった土壌には目に見えるほどの魔素が漂っている。

その影響が街道にまで届いていないのは奇跡なのではないのかと思ってしまうような地獄絵図に、私も含めたこの場にいる全員が冷や汗を流していた。

 

「あれは・・・」

「おそらく、暴風竜が暴れた跡でしょう」

「あれが、あの・・・」

 

暴風竜“ヴェルドラ”。

旅立ちの前にルミナス様から聞いた、この世界に4体存在する最強の魔物“竜種”、そのうちの一体。

4体の中では一番幼い(それでも数千年生きてる)ながらも、秘めるエネルギーは最も強大。

なおかつ性格も凶暴であり、一度出現すれば満足するまで破壊の限りを尽くしてしまう。

そのため、ヴェルドラが現れた場所は高濃度の魔素汚染を起こし、まともな動植物が存在できなくなる上に強大な魔物が次々に生まれるようになってしまうという。

ルミナス様でも真正面から戦うのは困難であるため、もし遭遇したら何がなんでも逃げるようにと言いつけられている。

話を聞いたときはいまいちピンとこなかったけど、実際に惨劇を目の当たりにすると嫌でも納得せざるを得ない。

ただ存在するだけで一帯の環境を丸々書き換える埒外の存在。

たしかに“生ける自然災害”と呼ばれるにふさわしい。

 

「幸い、魔物の姿はまだ見えません。今なら無事に切り抜けられるでしょう」

「現れたのは、つい最近・・・伝令と入れ違いになった、ということでしょうか」

「おそらくは」

 

まったく運が悪い。

もし報せを聞いていれば、即断で滞在を延期して様子見したのに。

とはいえ、過ぎたことを悔いても仕方ない。

今はまだ姿が見えないとはいえ、いつ魔物が現れてもおかしくない現状、できることはやっておいた方がいいだろう。

 

「私の魔法で魔素を散らします。気休め程度ですが、魔物の発生を遅らせられるでしょう」

「それは・・・可能なのですか?」

「おそらくは」

 

素性を偽っている今の私は風の魔法しか使えないけど、やりようはある。

それっぽい感じの歌は・・・うん、これにしよう。

 

どっどど どどうど どどうど どどう。青いくるみも酸っぱいかりんも吹き飛ばせ。甘いざくろも酸っぱいざくろも吹き飛ばせ

 

詠唱を唱えると辺り一帯に草木が大きく靡くほどの風が吹き出す。

吹き荒れる風は魔素を遠くへと押し出していき、瞬く間に目に見える範囲から魔素が消えていった。

 

「さて、先を急いでください」

「これほどの規模の風を・・・お疲れではありませんか?」

「攻撃力皆無の見かけ倒しのようなものなので多少は長持ちしますし、適当なタイミングで解除します。ですが、予断を許さない状況であることに変わりはありません」

 

私の魔力をがっつり含んだ風は魔素を容易く巻き込むけれど、この魔法では大気中に漂っている分は退かせても、土壌に染み付いた分まではどうにもできない。

それに、あくまで向こうに追いやっただけで浄化したわけでも消し飛ばしたわかでもないから、魔素の分布が偏ることで離れた場所でより強力な魔物が発生する可能性もある。

気休めって言うほど効果がないわけじゃないけど、未だに安心できる状況でもない。

 

「幸い、風の流れから周囲に魔物がいないのは確かです。今のうちに抜けきってしまいましょう」

「ありがとうございます。では、アリアさんは周囲の索敵を続けてください。他の方々も、急いでここを離れましょう」

「わかった。お前たち、ここからは一切気を抜くなよ!」

「「はい!」」

 

冒険者の方もリーダーが鼓舞したことで一気に士気が上がる。これなら多少の強行軍は問題なさそうかな。

あとは、馬車を引く馬次第だ。

 

「せっかくなので、こちらも援護しておきましょう。野を越え山を越え、地を駆け天を駆けるは疾風(はやて)の如し

 

今度は馬車に対して追い風を吹かせることで、速度を上げると同時に冒険者や馬の負担も減らす。

これなら、今日中に汚染された領域の影響を受けないところまで移動することもできるだろう。

だけど、現実っていうのはどこまでも私たちの思い通りにさせるつもりはないらしい。

 

「右後ろの森の中から何かが近づいてきています。このままでは1分で追い付かれますね」

「っ、戦闘用意!」

 

走り始めてしばらくして、とうとう何かしらの魔物に捕捉されてしまった。

私の警告に反応したリーダーが即座に指示を出し、他の冒険者もそれに呼応する。

応戦のために立ち止まったため、魔物との距離は一気に縮まった。

 

「接敵まで10秒、私が止めます!天の城を守るは嵐の壁!

 

展開していた二つの風を解除し、現れる魔物を足止めすることに注力する。

竜巻のように風の障壁を展開した次の瞬間、木々の間から私たちを狙っていた魔物が姿を見せた。

現れたのは、黒い鱗に1対の角を生やした大蛇。

その姿に、私は見覚えがあった。

 

「なっ、嵐蛇(テンペストサーペント)だとっ!?」

 

私と同じ結論に至ったリーダーが、驚愕の声をこぼした。

嵐蛇(テンペストサーペント)は、ヴェルドラの汚染領域から生まれる代表的な魔物の一種だ。

性格が凶暴なのは当然のこと、巨体から繰り出される一撃と何でも溶かす毒霧が脅威のやべーやつ。

中規模程度のダンジョンの主になっていることも珍しくなく、討伐のために国から軍隊が派遣されることもあるという。

私も一度だけ出くわしたことがある。

あれはルミナス様とスパルタ特訓をしていた時のこと、私が進化して一週間も経っていないくらいだったか。

あの時は「進化したばかりのアリアにはまだ荷が重いな」と言ったルミナス様が瞬殺した。ルミナス様の方がやべーじゃん。

幸か不幸か、あれから一度も遭遇しなかったけど、あの時より成長したとはいえ縛り有りの今だとどうだろう。

まぁ、やらなきゃ死ぬからやるけども。

 

「私の方でなんとかします。防壁を解除しますので、できるだけ時間を稼いでください」

「っ、分かった!お前たち、俺たちでこいつの注意を惹くぞ!」

 

嵐の防壁を解除して嵐蛇(テンペストサーペント)を押し返すと同時に、リーダーの指示で冒険者たちが即座に周囲を取り囲んだ。

とはいえ、たった三人だと長くは保たないはずだから、私の方も手っ取り早く済ませなければならない。

竜巻は・・・確実に周囲を巻き込むから使えないか。

前に黒蛇を仕留めた時は、開いた口めがけて土の槍をぶっ刺したけど、風だと同じことはできない。

でもまぁ、そうだな。いっそのこと魚に見立ててやってみよう。鰻とかあの辺みたいな感じで。

 

「離れてください!」

 

私が号令を出すと、冒険者たちは一斉に散開する。

そのタイミングを見逃さず、私は詠唱を始めた。

 

断罪の時、来たれり。咎人は処刑台に現れる

 

詠唱を唱えると、嵐蛇(テンペストサーペント)の下から強烈な上昇気流が発生する。

原理的にはさっきの障壁と似てるけど、

それでも嵐蛇(テンペストサーペント)は泳ぐように私に接近しようとするけど、それこそが私の狙いだった。

 

赦しはなく、懺悔は過ぎ、あとは定められた死へと向かうのみ

 

唐突に嵐蛇(テンペストサーペント)の動きが鈍る。

嵐蛇(テンペストサーペント)の体が伸びたタイミングで思い切り空気を圧縮させて摩擦力を高めて動きを止める。

ついでに開いた口にも圧縮空気を詰め込んで毒霧を封じる。

ここまでこれば後は詰みだ。

 

刃はすでに上げられた。罪を裁くは慈悲の断頭!

 

最後に、頭上から落ちてきた巨大な風の刃が嵐蛇(テンペストサーペント)の頭を切り落として決着となった。

頭部を切り離された胴体は少しの間のたうち回ったけど、それもすぐに治まる。

 

「・・・驚いたな。まさか、ほとんど一人で嵐蛇(テンペストサーペント)を仕留めるとは」

 

リーダーが驚いたように溢すけど、ぶっちゃけ私自身も少し驚いてる。

まさか、ここまであっさり終わるとは思わなかった。ぶっつけ本番の技術も上手くいったし。

今回の魔法は、従来のような詠唱完了→魔法発動ではなく、複数の詠唱を繋げて次々に魔法を展開する手法をとった。

旅の道中で思い付いたものだったから少しだけ自信が無かったんだけど、意外と成功するものだ。

それだけ、私も強くなってるってことかな。

比較対象がルミナス様(魔王)だから感覚がバグりそうになってるだけで。

ただ、これで問題がすべて解決したわけではない。

 

「だが、どうする?放置したら他の魔物が寄ってくるが、持ち運ぶにしても・・・」

 

魔物の死骸というのは、他の魔物を引き寄せる餌にもなってしまう。

こんな街道のど真ん中で嵐蛇(テンペストサーペント)みたいなデカブツの死骸を放置したら、いったいどれだけの魔物が寄ってくることやら。

問題なのは、今の私たちは大型の魔物の討伐を想定していなかったということ。

仮に荷台の商品をすべてどかしたとしても、嵐蛇(テンペストサーペント)が乗るかどうかは怪しいし、そもそも乗ったとしても馬二頭で運べるかがかなり怪しい。

これは・・・仕方ないかな。

 

「私が魔法で浮かせます」

「・・・すまないが、頼めるか?」

「頑張ります」

 

しんどいっちゃしんどいけど、泣き言は言っていられない。

風魔法に加えてこっそり演奏者(カナデルモノ)も併用して嵐蛇(テンペストサーペント)の死体をホバークラフトみたいに持ち上げる。

ついでに追い風も吹かせておくのも忘れず、準備万端になったところで私たちは急いでその場を立ち去った。

 

 

その後も全力疾走し続けて、どうにか日が落ちる前に安全地点で野営の準備を終えることができた。

ただ、今までは私も手伝っていたけど、今回は私一人だけ寝袋にくるまって寝転がっていた。

理由は単純で、ずっと魔法を唱え続けて魔力がすっからかんだから。もはや起き上がるのもしんどいくらい体が重い。

 

「すまないな、嬢ちゃん。嵐蛇(テンペストサーペント)の相手だけでなく、運搬まで押し付けちまって」

「いえ、状況が状況でしたから・・・」

 

近づいたら巨体に轢き殺され、離れたら毒霧で溶かされる。そんな魔物相手じゃ並の近接は辛いに決まってる。

幸い、毒霧を封殺できる私との相性が良かった。

それに、放置も足踏みもできないあの状況なら、あぁするのが最善だった。

なんにせよ、どちらも私から言い出したことだから、そのことについて文句を言うつもりはない。

とはいえ、さすがに魔力を使いすぎてしんどい。変身が解けてないのが不思議なくらい。

 

「ほら、これを食べて少しでも体力と魔力を回復させるんだ」

「ありがとうございます・・・」

 

もぞもぞと起き上がってリーダーから嵐蛇(テンペストサーペント)のスープを受け取る。

蛇肉を食べるなんて初めてだけど、味は・・・あっ、美味しい。鶏肉みたいな味って聞いたことはあるけど、旨味は濃厚なのに後味は引かずさっぱりしている。

それに何より、体がポカポカと温かくなってるような気がする。

こっちの世界の蛇も精進料理になったりするのかな。

冒険者の方々も、それぞれ嵐蛇《テンペストサーペント》のスープにそれぞれ舌鼓を打っている。

ただまぁ、それはそれとして、

 

「やっぱヴェルドラってクソですよね」

「「「それはそう。本当にそう」」」

 

最初から最後どころか終わった後まで迷惑を撒き散らすとか、下手な害獣よりも悪質すぎる。

しかも、場合によっては嵐蛇《テンペストサーペント》よりもさらにヤバい魔物が発生することもあるという。

生み出した魔物が美味いからって許されると思うなよ。

願うなら、夜薔薇宮(ナイトローズ)には現れないでほしい。いや、マジで。




詠唱の内容、調子が良いとすぐに頭に浮かぶんですけど、ダメな時はとことんダメなんですよね。
どうしてこんな面倒くさいシステムにしたのか。
まぁ、格好いいからなんですけどね。

現時点でのアリアの戦闘力はB+級相当ですが、詠唱者の魅了効果をフル活用すると危険度的にはA級かA+級、下手したら特A級に匹敵します。
ただ、本人に魅了効果を使うつもりがないので、結果的にB+級に落ち着いてる感じです。
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