「・・・とまぁ、こんな感じのことがありました」
「そうか、八面六臂の大活躍じゃな」
私は
あの後、苦労して
私はぶっちゃけ素材を持ってても仕方ないから、主に金銭面を多めにもらうことにした。
結果、前の街で稼いだ分も含めて良いところの宿に泊まれるくらいのお金が貯まった。
ついでに、冒険者経由で私の話題が広がったから、今回の街でも食い扶持に困ることはなさそう。
ただ、そうなるといつ自由な時間を取れるか怪しくなりそうだったから、今のうちにルミナス様のところに顔を出すことにしたわけだ。
ぶっちゃけ道中の無茶が祟って気だるさが抜けきれてないんだけど、今回は多少無理をしてでも帰ることを優先した。
部屋にマーキングさえすれば行き来は簡単にできるんだけど、最初の街ではラナさんが私にべったりで転移する隙がなくて、結局帰省できなかったからね。
そのことをルミナス様に謝ったら「気にするでない」と笑って許してくれて本当に良かった。
まぁ、頭を撫でていた手を流れるように頬に移動させる必要があったのかは疑問の余地があるけど。
いったい何をするつもりだったんですか?
「しかし、ヴェルドラと鉢合わせなかったのは不幸中の幸いじゃったな」
「そう、ですね。正直、話を聞いただけではピンと来なかったんですけど、直接現場を見ると、本当に出くわさなくてよかったと思います」
今の私には、とてもじゃないけど災害を相手にできるような真似はできない。
ただ、魔物であるなら尚更強いに越したことはない世界ではあるけれど、そこまでの力が欲しいかと聞かれたら、私は横に首を振る。
だって、私はただ歌いたいだけだから。私の歌をいろんな人に聞いて欲しいだけだから。
下手に力を持った結果、私のことを恐れて歌を聞いてくれる人が少なくなったら本末転倒だ。
だから、私は程々に自衛できる程度の力があればそれでいい。
でもまぁ、ルミナス様のペットならあれくらいは倒せた方がいい、はず。
それに、私が倒せたのは冒険者が
私一人だけだったら、あそこまでスムーズには倒せなかっただろう。
とはいえ・・・
(ルミナス様と一緒にいる時に出てきやがったら、その時はどうしようか)
仮に私だけ尻尾を巻いて逃げたとしても、ルミナス様は何とも思わないだろう。むしろ、それが当然とすら考えるに違いない。
ただ、それで私が納得するかと言われたら・・・たぶん、しないと思う。
別に“いつかはルミナス様の横に並び立てる”なんて自惚れてはいないけど、主人が頑張っているのを見て見ぬ振りするのはできないし、しようとも思わない。
歌人としての矜持と、ペットとしての矜持、どちらを優先するか。
言葉にすると後者の字面が終わってるけど、つまりはそういうこと。
我ながら面倒な性分になったものだ。
「なんじゃ、何か難しいことを考えている顔をしておるな?」
そんな私の思考を読み取ったのか、ルミナス様が両手で私の頬を挟んで目を覗き込んできた。
なんかキスされそうなシチュエーションなのはさておき、何を考えていたのかまでは分からなかったらしい。
ここは、結論だけ言って誤魔化そう。
「いえ、今考えても仕方ないことだと気付いたところです」
前世でも割とそうだけど、いくら災害を想定して訓練を重ねたところで、訓練した通りに動けるかどうかはその時になってみないと分からない。
それが竜種とかいう規格外かつ未知の領域であればなおさら。
いくつかシミュレーションは立てておいて、実際にどうするかはその時の自分に任せよう。
刹那的でも考えなしでもけっこう。魔物となった今の私ならそれくらいは許されるはずだ。
「そうか、ならばよい」
私の返答に納得したのか、ルミナ様はそれ以上は何も言わずに再び私の頭を撫で始めた。
ルミナス様の手つきが心地よくて目を細めていると、ルミナス様がふと思い出したかのように問いかけた。
「それはそうと、アリアはどこか行きたい場所はあるのか?」
「そうですね・・・ゆくゆくは全土を回ってみたいですが、ひとまずは東の方に行ってみようかと」
「東・・・もしや、ナスカ王国か?」
「はい、“始まりの勇者”というのに興味があるので」
この世界に“魔王”が存在するのであれば、当然というべきか“勇者”というのも存在する。
この世界における勇者とは、いわば“悪を討ち善を為す者”、“魔王との戦いを宿命付けられた者”のことだ。
ざっくり言えば、魔物における“魔王”と対を為す人間側の存在。
ただし、これは生まれ持ったものや単純な進化ではなく、資質を持つ人間が“勇者の卵”と呼ばれる加護を保持し、卵を孵らせた者が晴れて勇者となるそうだ。
“勇者の卵”を得るには精霊に認められる必要があり、特に光と闇の上位精霊がその役割を担っているらしい。
また、これはルミナス様の話だけど、“勇者”を名乗ると因果が巡り、必ず魔王と縁ができるのだと。うっかり名乗ろうものなら地獄を見ることになりそう。
それはさておき、この世界において初めて勇者を名乗ったのが、この大陸の東に存在するナスカ王国の王様である・・・というのをラナさんの宿のお客さんから聞いた。
大陸の東側はナスカ王国を含めた3つの国が戦争を続けており、プロパガンダも兼ねて喧伝してるんだと。
なにせ、ルミナス様が治める領域のほぼ真反対に位置しているから、なかなか詳しい情報が伝わってこない。
そういうわけで、歌のネタとしてもこれ以上ないというのもあって、ひとまずの目標としてナスカ王国を目指すことにした。
さすがに王様本人と直接会えるとは思ってないけど、その辺は一目見れれば御の字ってことで。
曲がりなりにもこの世界で初めて“勇者”を名乗ったんだから、さぞ誇り高い人間なのだろう。
さすがに前世のゲームで出てくる空き巣・窃盗常習犯みたいな蛮族思考持ちなんてことはないはずだ。
「道中の国に寄りつつとなるので、かなり長い旅になりそうです」
「そうじゃな。じゃが、アリアならば焦らずに行けばよい」
「はい」
・・・最悪、魔物を魅了効果で惹きつけて魔素や生命エネルギーを根こそぎ頂戴する外道戦法も視野に入れておこう。
生命エネルギーの吸収量の上限や限界を越えた時の反応を確かめるという意味でも、やって損はない、はず。
「それでは、私はそろそろ宿に戻ります」
「うむ」
一応、私は宿屋に泊まっている身であり、このまま朝までいると無断外泊みたいになってしまう。
明日に備えるという意味でも、名残惜しいけど早い内に戻って寝ておきたい。
今回の街はどうしようかな。趣向を変えて路上ライブみたいにしようか。いや、こっちの世界の吟遊詩人はそれがメジャーなんだろうけど。
「あぁ、そうじゃ。少し待て」
「はい?」
今後の予定を考えていると、ルミナス様に呼び止められた。
振り返ってみれば、すぐ目の前までルミナス様の顔が近づいていた。
うわぁ相変わらず綺麗な顔、だなんて思うのも束の間。
ルミナス様の銀髪がフワッと私の鼻先をくすぐり、チュッと音を立てて頬に何か柔らかいものが触れ・・・え?
これって、要は・・・えぇ?
「えっ、と・・・?」
「何度も言うが、無理はするでないぞ」
「は、はぁ」
お、おぉ・・・おぉん・・・?
ルミナス様の突拍子のない行動に、困惑するしかない。
え、なに?どういうこと?頑張ったご褒美的な、そういうやつ?
意図はよく分からないけど、とりあえず頭を下げて宿の部屋へと転移した。
その後、ボフッと倒れこむようにベッドへとダイブして、ようやく自分の変化に気が付いた。
「・・・疲れが取れてる」
ルミナス様のところに転移した時点であった気怠さが、きれいさっぱりなくなってる。
気力がみなぎるってほとではないけど、横になってもすぐに眠くならない程度には元気が戻っている。
これは・・・あのキスの影響かな?気分的な問題とか、そういうのではなく。
詳しくは聞いてないけど、ルミナス様のスキルは生と死をある程度操ることができるらしい。
となると、あのキスでルミナス様から生命力を分け与えられたってことなのかな?
どうやら、頑張って隠していたつもりでもルミナス様にはバレバレだったらしい。
ルミナス様のおかげで明日からも頑張れそうだから、ルミナス様には感謝しないといけない。
ただ、それはそれとして・・・
「キスする必要、あったのかな・・・?」
いやまぁ、たしかに中世以前では騎士が主人に忠誠を誓う証として口づけをしたりされたりっていうのはあるけど、それはあくまで手の甲だ。
わざわざ頬にする必要、ある・・・?
ルミナス様がしたいからしたのなら・・・まぁ、意味はあるか・・・。
私へのご褒美のつもりだとして・・・どちらかと言えば、私としてもご褒美にはなってるし・・・。
あれ・・・なら、問題ない・・・?
わっかんねぇ・・・。
結局、悶々と答えを出せないまま時間だけ過ぎていき、気が付けば朝になっていた。
これでも疲れは残ってないんだから、ルミナス様から元気をもらって本当によかったよ。
余談ですが、ルミナスはアリアが寝付けないことを見越して多めに生命力を分け与える気遣いまで発揮させています。
今の時点ですら、どこぞの老害共とは寵愛のレベルが違うのです。