詠う小鳥は夜の魔王に出会う   作:リョウ77

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妖精って一歩間違えたら虫みたいだよね

いやー、“始まりの勇者”は強敵でしたね。

ほんと、マジで。もはやラスボスの風格だったからね、あれ。今の私じゃあどう足掻いても死んでた。選択肢を一つでも間違えたら死んでた。

ルドラ様の「次はない」発言に関係なく、できれば二度と会いたくない。

望んだインスピレーションも得られなかったし、本当に踏んだり蹴ったりとしか言いようがない。

とはいえ、別ベクトルで収穫があったのは不幸中の幸いだった。

 

「ここが“精霊の棲家”ですか・・・」

 

辿り着いたのは、巨木に飲み込まれているようにも見える石の扉だ。

これこそが、“精霊の棲家”の入り口と言うことだろう。

ルドラ様から聞いた話では、その名の通り様々な精霊や妖精が生息しており、試練を越えれば精霊と契約を結べるらしい。

そして、光か闇の精霊に選ばれた者こそ、勇者の資格を持っているのだとか。

光はともかく、闇もなんだ。

まぁ、魔物の私にその辺はあまり関係ないんだけど。

気になるとしたら、ここの主の方かな。

 

「ラミリス様、か」

 

迷宮女王(ラビリンス)”ラミリス。“精霊の棲家”の管理者であり、最古の魔王の一柱。

ルミナス様からも聞いた話と合わせると、かつては世界の創造主が直接生み出した存在で、星の管理者の役目を与えられた“精霊女王”だったらしい。

だが、とある件で力の大部分を失って妖精へと堕落してしまい、そのまま魔王になったのだとか。

なんというか、絶妙に厨二心をくすぐられる内容だよね。堕落って言葉の響きは別として。

 

「今回はいいネタを拾えるといいんですけどね・・・」

 

ナスカ王国からめちゃくちゃ時間をかけて来たからね、今回も。何ならナスカ王国を目指してた時よりも時間がかかった。山道で死ぬほど時間を食った。

ルドラ様が転移で送るって言ってくれたのを断らなければよかった。何が「旅の風情がありませんから」だよ。また一歩間違えれば死んでたし、余計な苦労を増やしただけじゃん。

ただでさえナスカ王国の収支はプラマイ0どころかマイナスに片足突っ込んでるんだから、ここでは損した分の収穫は欲しいところだ。

 

「お邪魔しまーす」

 

一言挨拶をしてから、扉を開け放った。

扉の中は典型的な石レンガ造りの遺跡という様相だけど、一目見て普通の遺跡じゃないことに気が付いた。

 

「明らかに広すぎますね・・・」

 

たしかに扉を飲み込んでいる巨木はかなりのサイズだけど、それを加味してもおかしいくらい奥行きがある。

階段から地下に続いているとかならまだしも、目の前に何mあるか分からない廊下が広がっているのは明らかに異常としか言えない。

 

「これがラミリス様の力、ということですか」

 

ラミリス様が持つ権能、“迷宮創造(チイサナセカイ)”。

言葉の通り、領域内に迷宮を造り出す力。

これだけ聞くと「それだけ?」と思うかもしれないけど、実際は思った以上にぶっ飛んでいる。

領域内の構造を弄ったり空間を拡張できるのはもちろんのこと、侵入者の思考を読んだり、果ては領域内に限れば無制限に完全な死者蘇生も出来るという、迷宮内という条件に限り好き勝手できるトンデモスキルなのだ。

まぁ、逆を言えば迷宮の外に出たら戦力半減なわけで。

だから、基本的に迷宮の外には出てこない引きニートと化しているそうな。

ついでに、妖精になった影響で記憶を保持しながらの転生を繰り返しているらしい。

今は周期的に弱い方だから危険性も少ないだろう、というのはルドラ様の推測だ。信用できるかは別として。

とはいえ、主目的は取材で精霊魔法も見れたらラッキーくらいの感覚だし、気楽に行こう。

 

『去りなさい』

 

中に入って少し歩いたところで、どこからともなく聞こえてきた声が警告してきた。

いや、これは“精神感応(テレパシー)”か。何気に体感するのは初めてかな?

それはともかく、あまり歓迎されていないらしい。今は本来の姿である翼有りの人型だし、当たり前ではあるか。

 

『ここはあなたのような魔人が訪れる場所ではありません。速やかに去りなさい』

「どうも、旅の歌人です。取材に来ました」

『去りな、えっ、取材?どういうこと?』

 

えらい早く演技が崩れたな。

 

「私はただのか弱い小鳥です。かの十大魔王が一柱、迷宮女王(ラビリンス)を害そうだなんてとてもとても・・・」

『は?小鳥?魔人なのに何を、え?嘘じゃない?本気で言ってるわけ?』

 

面白い反応をするなー。弄り甲斐があるというかなんというか。

 

『弄り甲斐がなんなのよ?』

「おっと失礼」

 

現在進行形で思考を読まれてるのか。危ない危ない。

 

「ともかく、私は旅の歌人です。歌のネタを探すためにここへ来ました。話だけでも聞いていただけないでしょうか?」

『え、えぇ?ちょ、ちょっと待つのよさ!』

 

特徴的な語尾と共に精神感応(テレパシー)が途絶えたかと思うと、瞬きする間もなく唐突に視界が別の場所に切り替わった。

いや、これは私自身が転移されたのか。

見た感じ応接間っぽいけど、取材に応じてくれるということだろうか。

そんなことを考えていたら、背後から声をかけられた。

 

「よく来たわね!旅の歌人だかなんだか知らないけど、アタシが直接見定めてやるわ!」

 

私の背後にいたのは、背中から2対4枚の透明な羽が生えている逆立った金髪の女性だった。

おそらくは、この方がラミリス様なのだろう。

ただ、なんというか・・・

 

「小さくて可愛らしいですね?」

 

身長が私よりも頭一つ分以上低い。私でも胸元に抱き寄せることができるレベルだ。

子供以外で視線を下に向けたのは初めてかな。

とはいえ、そんな私の感想を聞いたラミリス様は憤慨していた。

 

「はぁ!?これでも最古の魔王の一柱なんですけど!少しくらい威厳とか感じないわけ!?」

「せめて、私より背が高ければ感じたかもしれないんですけどねぇ」

 

ただでさえ背が低い私よりもさらに小柄なせいで、もはや幼女みたいな風貌になっている。

“周期的に弱い”っていうのは、こういうことか。生まれ直してからそこまで成長してないから、力もそこまで蓄えてない、と。

そんな姿を見て威厳を感じろっていうのは、ちょっと無理かなぁ。

 

「くっ!もうちょっと時間があれば妖精女王として威厳ある姿を見せれたのにっ・・・!!」

「ちなみに、具体的にはどれくらいです?」

「あと、200年か300年くらい?」

「それを“ちょっと”で済ませられるほど長生きしてないんですよ」

 

これだから時間感覚ガバガバな長命種は・・・あぁいや、ルミナス様の悪口を言っているわけではなくて。

それに、私も今後どこまで生きるかは分からない。あまり他人事ではないってことは意識の片隅に留めておこう。

 

「それで、どうやってここのことを知ったわけ?」

「ルドラ様から紹介されました」

「うげっ、あの“始まりの勇者”が・・・」

 

ルドラ様のことを話すと、ラミリス様が露骨に顔をしかめた。

面識があるのは当然だとしても、なんか思ったより因縁がある感じ?

 

「何かあったのですか?」

「勇者の資格を得た時、迷宮内の宝物を根こそぎ持ってかれたわ」

「蛮族ですか?」

 

マジで悪い意味での勇者ムーブをしてたのか・・・ラミリス様の表情と言い方からして、相当な量を持ってかれたらしい。

さすがにそれはかわいそうだな、なんて思っていたら、

 

「ん?ちょっと待って?ルドラから聞いたって、まさか直接会ったわけ!?」

 

お気づきになりましたか。

でも思い切り肩を掴んで揺さぶるのは止めてくれません?ラミリス様のスペックが全盛より遥かに弱体化しているとしても、今の私では普通に抵抗できないので。

小鳥の身体能力を舐めないでいただきたい。

 

「会いましたねぇ。歌のネタにならないかなー、なんて思って人間の姿でナスカ王国で活動してたら、速攻で正体がバレました」

「よく生きていられたわね・・・」

「マジで生きた心地がしなかったです。一歩間違えたら死んでましたね」

 

遠い目になりながら当時を振り返っていると、ラミリス様が「よく頑張ったのよさ」と頭をなでなでしてくれた。

体格差の関係でちょっとつま先立ちしてるのが可愛らしい。

 

「それで、あんたは本当に取材のためだけに来たわけ?」

「はい」

「お宝はいらない?」

「武器とか防具はあったところで、って感じなので」

「精霊との契約もしない?」

「逆にできるものなんです?いえ、魔法さえ見れるなら構わないので別に必要ないんですけど」

「やろうと思えばできるわよ?」

 

ラミリス様曰く、精霊は元々自然エネルギーが自我を持った存在であり、善悪に基づいて行動しているわけではないらしい。

そのため、相性や才能の差はあれど魔物も精霊と契約し使役できるのだと。

ただ、精霊魔法の強みは無詠唱で発動できることであり、これは魔法を使える魔物なら割とできる。

上位精霊を呼び出せるとしても、それだけの技量と実力があるなら自分で攻撃魔法を使った方が早くね?ってことになるわけで。

そう言われると詠唱が必須の私なら契約して損はないような気はするけど、召喚のために結局詠唱が必要になるから、やっぱ別にいいや。

 

「ん~・・・なら良し!!」

 

結果的に、ラミリス様は私のことを認めてくれたらしい。

ルドラ様の時と比べたら遥かにマシだったとはいえ、何されるか分からないって点ではそこそこ心臓に悪かった。

 

「そう言えば、あんた名前はあるの?」

「申し遅れました、私はアリアと言います」

「誰に名付けされたわけ?」

 

んー・・・まぁ、ラミリス様なら言っても大丈夫かな。

 

「ルミナス様です。元々は野生の歌う小鳥(ソングバード)だったのですが、ルミナス様が私の歌を気に入ってくださった縁で名付けされました」

「なるほど、たしかに彼女なら歌う小鳥(ソングバード)を進化させるような名付けができるわね」

「できれば、あまり広めないでいただけると助かります」

「分かってるわよ。そこまで無粋じゃないわ。あなたたちもよ」

 

気が付けば、周囲には様々な色の光の球が浮かんでいた。

おそらく、このすべてが精霊や妖精なんだろう。

なんというか、蛍に取り囲まれているみたいで微妙に落ち着かないような?

 

「やたら皆に好かれてるわね。面識があったりする?」

「あるわけないでしょう。まぁ、最近はそこそこ有名になってきた気がしなくもないですけど、人間界隈の話ですし」

 

観客や道中で同行した冒険者の中に精霊使いが何人かいたから、そこから噂が流れたのかな?精霊たちの情報網とか知らないし、それだとラミリス様が私のことを知らなかったことの説明ができないけど。

 

「そうですね。せっかくですし、今回の出会いを記念していくつか歌を披露しましょうか?」

「お、いいわね。あの吸血姫が認めた歌声、あたしが審査してやるわ!」

 

なんだかんだラミリス様も興味があったのか、乗り気になって即席の小さなステージを用意してくれた。

思ってたよりも期待されてるみたいだし、ここはいっちょ気合いを入れて歌ってみようかな。




ラミリス様は本編と同じサイズだと味気ない感じがしたので、少し成長させてみました。
なお幼女呼ばわりはされる模様。
ちなみにラミリスが帰れって言ったのは、現在のスペック的に勝てそうか微妙だったのと、たまたま改修中でトラップなどの用意が出来ていなかったからです。
ルドラの時と言い、リアルラックが強い。
でも大体死地で発揮されるタイプなので、アリア的にはあまり世話になりたくないでしょうね。
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