さすがに全巻は金がキツイので・・・。
私が生まれた世界に絶望しつつ目標を決めてから数ヶ月、私は無事に巣立ちした。
まぁ、今後無事でいられるかは別問題だけど。
それはともかく、巣から飛び出して気づいたことだけど、私がいた巣のあった場所はそこそこでかい林と山の中だった。崖の中腹というのも半分くらい正解で、厳密には崖崩れが起こった跡にできた窪みみたいなところだった。
なんでそんな危なっかしい場所に巣を作ってるんだと思わなくもないけど、その答えが森の中にいる動物。
立ち上がったら木よりでかい熊、乗用車くらいなら飲み込めそうな蛇、果てはそいつらをまとめて捻り潰せそうなドラゴンまで。
いや、前二つはギリ動物判定できるけど、最後にいたってはもろモンスターじゃん。誰かハンター呼んでこい。
代表例はそいつらだけど、他にもやべー奴らがゴロゴロうろついてるのがなおさらヤバい。
そりゃあ木の上に巣を作れないわけだよ。レンガの家でも安心できなさそうな世界に木と藁で立ち向かえるはずがない。
そんな魔境の近くに人が住んでいる領域があるはずもなく、飛べるとはいえ町を見つけるのも苦労しそう。
ぶっちゃけ、すでに人がいるのかどうかすら怪しくなってきてるけど、最低限の希望は持っておこう。
ひとまず、小鳥の身ながら歌の練習をしつつ町を探すということで。
* * *
報告:なんか異性同性関係なくめっちゃモテてます。
えぇ、どういうこと?・・・ってほどでもなく、これに関してはすぐに理由はわかった。
というのも、この身体になって本能的に理解しているのか、どんな動物なのかは早い段階で理解していた。
平たく言えば、この鳥は『歌が上手い個体が子孫を残せる』生態なのだ。
どういう理屈かはわからないけど、とにかくそういう種族だった。
ここで問題なのが、“歌の良し悪しでカップルが決まる”ということ。
・・・まぁ、そういうことだった。
そんじょそこらの雄より私の歌の方がいいっていう、そういう話だった。
別に雌だから歌えないとか、そういうのはない。ただ、生物としての役割分担的に雌が雄の歌に惹かれやすいとか、ごく稀に雄が雌の歌に惹かれることもあるとか、その程度の話だ。
ただまぁ、なんと言うか、それはそれとしてなんで性別問わず集まってきてるの?とは思う。
雄が来るのはともかく、なんで雌まで寄ってきてるの?
雌雄で鳴き声のトーンが微妙に違うから、私が雌だってことは分かるはずなんだけどな。
なんで小鳥に転生したと思ったら、同族の雌の性癖を破壊することになるのか。
さらに悲しいことに、寄ってきた雄の中に私がときめくような相手がいないってのがね。
私が元人間で鳥に対して欲情しないからなのか、集まってきた雄の中に私のお眼鏡に叶うような歌声の持ち主がいないからなのか。
どちらにせよ、今世も独り身になりそう。前世は前世でそういうのにあまり興味がなくて、恋愛経験の一つもしなかったからなぁ。
まぁ、別に運命の相手を見つけることにこだわりがある訳じゃないから、別にいいんだけど。
何なら、私の歌を聞く代わりに餌を上げてくれる飼い主の方がよっぽど運命の相手かもしれない。
そんな人間を見つけるために、今日も飛び回って町を探そう。
* * *
町がねぇ!道もねぇ!そもそも人が見当たらねぇ!!
え?一週間くらい飛び回っておいて、そんなことある??
そりゃあ、小鳥ステータスだと長距離を飛び回れないから多めに休みもいれてるけど、それにしたって人すら見当たらないのはおかしくない?
なに?まさか本当に人類が滅んだディストピアな世界だったりするの?
とまぁ文句を垂らしてはいるけど、人のいる痕跡は一応見つけてはいるんだよね。
いわゆる、廃村ってやつだけど。
それを見てわかったのは、この世界の文明レベルはけっこう低い。
なにせ、建物は軒並み木製でガスや水道、電線といったインフラは影も形も見当たらなかったから。
ドラゴンが存在する世界だから、魔法とかそういうのはあるかもしれないけど。
とはいえ、ここまで空振りが続くとなると方針転換を考えざるを得なくなってくる。
今までは食料調達が問題ない範囲で探したけれど、ちょっとリスクを承知で遠くに行った方がいいかな?
化け物が蔓延る地に人がいないのは当たり前だし、安全そうな土地を探すのと平行で町を探した方が良さそう。
いや、もう生きた人間がいるって確信を持たせてくれるだけでもいい。せめてここが人類が滅びたディストピアじゃないことを証明させてお願いだから。
候補としては、やっぱり平原方面かな。森とか山の近くがこうだと、それくらいしか町がありそうな場所がない。
道中の飲食の確保は・・・成り行きに任せるしかないかなぁ。便利なことに、果実でも虫でもいける雑食だし。
虫は、まぁ・・・出来るなら避けたいけど、雛の時に散々食べさせられたから、いけなくはないっていうね・・・。
幸い、近くに川があるから川沿いに進んでいこう。さすがに川から見える範囲に町の一つや二つはあるでしょ。
ついでに、水浴びも済ませてから出発しよう。
* * *
日も完全に落ち満月が昇りきった夜、私は気まぐれに枝の上から月を眺めていた。
夜だから寝ないのかって?目が覚めちゃったものは仕方ない。
水浴びの後に日向ぼっこをしたらうっかり寝ちゃったのが悪かったのかな。よく襲われなかったね私。
それはそれとして、この身体になってから夜更かしなんて全くできなかったけど、こうして夜に目が覚めちゃったなら新しいインスピレーションでも探そうということで、こうして月見に耽っているというわけだ。
それにしても、都会と違って明かりもないし空気も澄んでいるからか、夜空がすごいきれいだ。
星ははっきり見えるし、月も私の記憶より明るく見える。
あー、きたきた。いい感じのメロディがビビッと浮かんできた。
夜行性の化け物に気付かれたらヤバイけど、周囲は障害物がほぼない平原だ。さすがに近づかれたら分かる。
さて、それじゃあちょっと気合いを入れて歌ってみようか。
月夜をテーマにするなら、落ち着いた感じがいい。だけど、夜空に浮かぶ満月は太陽とはまた違う存在感を放っているから、記憶に強く残るように余韻を・・・
「ふむ、珍しいな。まさか、このような夜更けに
不意に、私のすぐ隣から声が響いてきた。気が付けば、視界の端に白く透き通った手が映り込んでいる。
え、嘘でしょ?いつの間に?
たしかに歌うことに集中してたけど、これでも小鳥らしく相応の危機察知能力は持ってるから、周囲の気配くらい何となく分かる。
にもかかわらず、声の主は気づかぬ内に私を掴めるほどすぐ近くまで接近していた。
それも、地面から優に5m以上も離れている、それなりに太いとはいえ地面より圧倒的に不安定なはずの枝の上に。
今までいろんな化け物を遠目で見てきたけど、私の隣にいる人の形をしているはずの何かは、そのどれよりも遥かに化け物だ。
今から逃げようとしても、たぶん無理。捕まる未来しか見えない。
せめて気紛れにプチっと潰されないことを祈りつつ、私は隣に座っている誰かの顔を見上げた。
「なんじゃ、逃げることも出来ぬほど驚かせてしまったか?なに、取って食べるような真似はせん。気にせず歌うが良い」
そこにいたのは、赤と青のオッドアイに銀髪を腰までなびかせた、満月が似合う女神のような人だった。