展開に関してはあらかじめもう少しまとめておけと過去の自分に言いたい・・・。
ルミナス様の都である“
初めて見たときは呆気に取られたけど、今となってはすでに慣れた・・・いや、半分は嘘。都や屋敷そのものは慣れたけど、私の今の状況に割かし思うところがある。
私の一日はおおよそ決まっている。
つまり、ルミナス様と一緒にいる、その一点に尽きる。
部屋で戯れたり、音楽団の演奏を聞いたり、ネタやインスピレーション探しに出かけたり、とにかく共に行動している。
たまにルミナス様主導で鍛錬をすることもあり、主に魔法について学んだりスキルの練度を磨いたりしている。
一応、単独で行動する機会がないわけじゃない。屋敷の位置を覚えてからは時折一
じゃあ窮屈な生活をしているのかと言われたら、別にそうでもない。
今の私の住みかは鳥かごではなく、ルミナス様の部屋の中で放し飼い状態になっている。なんなら、屋敷の中であれば半ば自由行動だ。
そんな感じだから、屋敷内の使用人とはだいたい顔見知りになった。
ついでに、この一年で私のスキルについてもいろいろと分かった。
私が転生したときに得たスキル“
一つは歌による支配。とは言っても、洗脳というよりはある種の魅了に近い。
私の歌に意識を傾けている者の感情をある程度操作できる、って程度のものだ。
それでも、その気になればある程度行動を操ることはできるだろうけど・・・『洗脳しないと聞いてもらえない程度の実力なんだw』とか思われたくないからやらない。
その副産物として、私のスキルの影響下にある対象から魔素や生命力を頂戴できる。
この世界の生物はいくつかの構造に別れており、内側から魂を覆っている思考のための演算装置である
私のスキルは精神体や星幽体、魂といった非物質による構成要素から感情によって揺らいだ分を魔素に変換・吸収しているらしい。
ただし、私の保有量を越える分の魔素は取得できず、余剰分は代わりに生命エネルギーに変換される。その場合、飲まず食わずでも生活できたり寿命が伸びたりするから、それはそれで得とも言えるかも。
じゃあスキルを使いすぎると廃人になってしまうのかというとそうでもなく、例えるなら荒れた表面をヤスリで削って整えるようなものだから余裕で自己補完できる範疇だし、そもそも私自身がそこまでの量を必要としていない。
具体的に言うと、屋敷の中にいる人に聞かせるだけで足りている。どいつもこいつも吸血鬼だからって可能性も普通にあるけどね。
それで、もう一つの効果なんだけど・・・こっちは今のところ死に技能と化している。効果の内容は直感的に分かるけど、使える条件を満たしていない。
端的に言えば、歌を媒介に魔法を生み出すことができる・・・って言えばいいのかな。
この世界の魔法は一言で言えば“イメージの具現化”であり、世界の法則を紐解き真理を探ることで奇跡を起こす元素魔法や、魔素を構成している霊子?を操作することで発動させる神聖魔法などがある。
魔法の発動には相応の精神力や魔力、そして魔素や霊子の制御能力が必要になり、制御の補完や大気中の魔素を集めるために詠唱を行う。別に詠唱がなくても魔法を使えはするけど、高等魔法になるほど詠唱無しでの発動は困難になる。
それに対し、
難点として、しっかりとしたイメージが出来なければ発動できず、スキルの都合で詠唱が必須になる。
・・・そう、詠唱が必須になる。
現在、私は小鳥で人の言葉を話せない。
まぁ、つまり、そういうこと。
自力で発声できないから魔法が使えない。念話は発声にカウントされないから意味がない。
一応、スキルを介さなくても魔法を直接発動させることはできなくもないけど、私はその辺の才能がからっきしみたいで初級魔法すら苦戦している。
だから、魔法系の効果は今のところまったく機能していない。
現在はどうにかスキルで解決しようと模索しているんだけど、ここで小鳥スペックが邪魔してなかなか新しいスキルを習得できない。種族固有のスキルさえ存在しない
一応、取っ掛かりは掴めそうだから、近々解決できるかもしれないのが救いではあるけど。
そんなこんなで、スキルの鍛錬だったり音楽の修行だったり、いろいろと充実した生活を送らせてもらっている。
なら何に文句があるのかって?いや、別に文句があるわけじゃない。
これは、どちらかと言えば私自身の問題だ。
事の発端は、ルミナス様に名前を付けてもらって住処に連れて行ってもらった時に遡る。
「ほれ、着いたぞ。ここが
『えっ、もう着いたんですか?』
ついさっきまで夜の木の上にいたはずなのに、一瞬で豪奢な部屋に景色が変わった。
どうにも“
なんてことを考えていたら、ルミナス様の転移が分かっていたかのように扉からいかにも執事ですって感じのおじいさんが入って来た。
「おかえりなさいませ、姫様」
「ギュンター、妾のおらぬ間に何か起こったか?」
「いえ、何事もありませんでした」
「そうか、ならば良い」
恭しくルミナス様に一礼しているけど、この人もこの人でめちゃくちゃ強い感じがする。
さすがにルミナス様より強いってことはないだろうけど、代わりに魔王をやってるって言われても疑わないだろうね。
と思っていたら、ギュンターさんの視線が私の方に向けられた。
「して、そちらの
「うむ、出掛け先で見つけてな。なかなか良い歌声てあったから連れてきた」
『ど、どうも、アリアと言います』
ルミナス様の肩の上で頭を下げながら自己紹介すると、ギュンターさんの眉がピクリと動いた。
「
「妾が名付けた。こやつは妾の部屋で飼うが、構わんな?」
「・・・えぇ、異存はありません。鳥籠を用意いたしましょうか?」
「いや、必要ない。躾が必要というわけでもないからな。こやつに音楽団に紹介して音楽を学ばせつつ、あやつらにもよい刺激を与えてもらうつもりじゃ」
「承知いたしました」
そう言って、ギュンターさんは頭を下げてから部屋を出ていった。
最後まで、私を値踏みするような視線を向けながら。
それはルミナス様も分かっていたようで、慰めるように私の頭を撫でた。
「すまんな。ギュンターは優秀じゃが、妾が関わると少し融通が効かんところがあってな」
『いえ、ぽっと出の私を警戒するのは当然のことでしょうから』
自分の主が一目見ただけの小鳥に入れ込んでいる様子を見たら、そりゃあ不信感の一つや二つは持つに決まってる。
すぐに排除するようなことはしないだろうけど、しばらくは身の振り方には気を付けないと。
・・・ただ、なんだろうな。今のやりとりで胸中にモヤモヤしたものが湧き上がってきたのは。
ギュンターさんに疑われていることに関しては、別に問題ない。ルミナス様に言ったことが私の本心だ。
私が引っかかっているのは・・・たぶん、やり取りの中での私の扱いかな。
まるで拾った野良猫をどうするか決めているかのようなやり取りだったのは、まぁそれはそう。猫か小鳥かの違いだけなんだし。
私がペットみたいな扱いをされているのは・・・どうなんだろう。そりゃあ前世は人間だったけど、今世は実際に愛玩動物にもされている小鳥なんだから、仕方ないことではある、と思う。
ただ、なんというか・・・ルミナス様が私のことをどう認識しているか分からない。
私に名付けして連れ帰ったのは、戯れのつもりなんだろう。それこそ、他と同じようにペットのつもりだったのかもしれない。
だけど、ペットと言うにはやけに私のことを信頼している。鳥籠も躾も必要ないと言い切るのは、初対面の小鳥に対する態度ではない。
私なら勝手に出ていく真似はしないという打算に近い確信があるのかもしれないけど、打算の一言で片付けられないような何かも感じる。
・・・つまるところ、そんな自分では理解できない何かが、私の中にモヤモヤとして渦巻いている、という話だ。
分からないから、このままで良いのかという焦燥や、今後への漠然とした不安にも繋がる。
ルミナス様に直接聞けば話は早いんだろうけど、その辺ヘタレな私は勇気を持てずにいる。
結局、ルミナス様が私のことをどう思っているのか、あれから未だに分からないままだ。