これから脳に瞳を生やして啓蒙を得ていきます。
「ほれ、アリアよ。逃げてばかりでは倒せぬぞ」
「逃げないと死ぬんですが!?」
「グルァァアアアアーーー!!」
拝啓、前世と今世のお父様とお母様。
私は現在、バカでかい虎に追いかけ回されてます。
いや明らかにおかしいよねぇ!?
たしかに、ルミナス様は一緒に魔物退治に行こうとは言ったけど、普通ゴブリンとかスライムみたいな弱い奴から思うじゃん!
なんで初っ端から猛獣を相手にしないといけないのかなぁ!?
それと、虎の方も私を必死に追いかけ回す必要なくない?もっと他にいい獲物とかいるんじゃないの!?
「問題ない。妾の眼の届く範囲であれば蘇生できるからの」
「それ死んでもいい理由にはならないですよねぇ!?」
“死ななきゃ安い”を通り越して“死んでも安い”をする漫画なんてそうそうないと思う・・・いや、そうでもないかもしれないけど、ともかく現実でやることじゃないよね!?
そもそも魔法職なら後衛のはずなのに、なんでソロで戦わされてるのかな!?
文句はいくらでも尽きないけど、ルミナス様は一向に助けてくれないし、なんなら目が「ほれ、早くやってみよ」って語ってる。
あぁ、もうどうにでもなれ!
「ピィーーーーー!」
ひとまず初手に、高音の塊を虎にぶつける。
耳元で騒音が爆発した虎は、突然の事に立ち上がりそうな勢いで仰け反った。
あわよくば鼓膜を破壊したかったけど、足止めできれば十分!
「雪日、陽光、氷柱をくぐれ!」
適当に思い付いた詠唱を唱えると、私の周囲に氷柱に似た氷の槍が10本ほど生成され、時間差で虎へと襲いかかる。
未だ騒音で見悶えていた虎に回避できるはずもないけど、それでも捕食者としての意地があるのか前足で払って迎撃した。
見た目通りの膂力と言うべきか、私の氷の槍は簡単に砕かれ、続けて第2波も迎撃しようとしたけど・・・
「グガァ!?」
先に砕かれた氷の槍の欠片が空中で鋭く伸びて虎の体を地面に縫い付け、地面に落ちた欠片や水滴が虎の足元を凍らせることでさらに動きを奪う。
虎は逃げようと必死にもがくけど、二段構えの拘束から即座に抜け出すことなどできるはずもなく、第2波のうちの一本が虎の目から脳へと貫通したことでとどめを刺した。
それでも魔物の生命力は侮れないから少し様子を見て、完全に動かなくなったのを確認してからルミナス様の肩の上で思い切り力を抜いた。
「はぁー!す、すごい心臓に悪かったんですが!」
「倒せたんじゃから、別にいいじゃろう」
「もう少し手心と言いますか!だいぶ段階をすっ飛ばしていると思うんですけど!?」
狩りゲーで言ったら、初期段階でパッケージモンスターを相手にさせるようなものでは?
少なくとも、素人の初心者に虎を狩らせるのは明らかにおかしい。
「それにしても、破壊をトリガーとした罠を仕込んだ
「・・・誉めても誤魔化されませんから」
うんまぁ、誉めてくれるのは嬉しいんだけどね?それとこれとは話が別なのよ。
ただ、抑えきれずに振ってしまった尾羽はバレてしまったみたいで、ルミナス様に「そうかそうか」と頭を撫でられる。
なんだかんだ絆されているというか、これで何となく許せちゃう気分になっている私って、実はけっこうチョロいのかな。
「それで進化は・・・できておらんか」
「・・・みたいですね」
一応、進化するときは世界の声が聞こえるからすぐに分かるらしい。
“世界の声”とは何ぞやと聞いたら、読んで字のごとく“世界が発する声”だと。言ってしまえば世界版アナウンスといったところか。
多分だけど、私が生まれ変わる時に聞こえた「確認しました」とかスキル取得云々と言ってたやつがそうなんだろうね。
果たして、教えてくれて親切と言うべきか、いやお前何者だよと言うべきか。
まぁ、今はそういうものだって思うことにしている。
「なに、落ち込むことはない。一度の戦闘で進化できるとも限らん。数をこなせば自ずと進化できるであろう」
「はい・・・はい?」
いま、なんていいました?
「えっと、けっこう魔素を消費して疲れたんですけど・・・」
「その程度であれば妾が回復してやろう」
「鬼ですか!?」
「吸血鬼じゃ。それと
あっ、鬼は鬼で種族としているんだ。多様性がすごいね、この世界。
じゃなくて!えっ、まだ戦えと!?まさか、あの虎と同じくらいの奴を!?
「ほれ、さっさと次に行くぞ。そうじゃな、次は手頃な蛇を探してみるか」
「それって“手頃に倒せる”って意味ですよね?“手頃な場所にいる”って意味じゃないですよね?」
この辺の魔物は環境が厳しいからか、弱い奴は速攻で淘汰されて強い奴ばかりが生き残っている。
ルミナス様の顔を覗き込みながら尋ねてみるけど、「さて、どうじゃろうな」と笑いながら流された。
あぁ、うん。あれだ。
たぶん、またヤバい奴を押し付けられるバターンだ。
物申したいところではあるけど、言ったところで受け入れてもらえるかどうかはまた別っていうのが辛いところだね。
ただまぁ、不幸中の幸いと言えばいいのか。
ルミナス様のスパルタトレーニングのおかげで、私はこの日の内に進化を達成することができた。
* * *
名付けをして拾ったのは、単なる気紛れ、戯れだった。
たまたま見つけた
理由を挙げるとすればその程度のものだ。
それ故に、いろいろと特別扱いこそしているものの、実はそこまで執着を抱いているわけではない。
もし仮に自分の手の届かないところで死んでしまったら、多少は悲しむだろうが、その程度だ。
言ってしまえば、愛玩動物以上の感情は持ち合わせていない。
だが、
(・・・これは、思っていた以上だったか)
ある時は、炎が蛇のように巻き付き。
ある時は、陥没した地面から石の槍が飛び出し。
ある時は、竜巻に閉じ込めてから無数のかまいたちで切り刻み。
ある時は、相手に幻影を見せて撹乱しつつ柔軟に対応する。
とても最近取得したばかりのスキルと今日初めて使ったスキルの効果を併用しているとは思えない光景に、ルミナスは自身の中で評価を改める。
おそらく、将来的にはこの世界で見ても上位に入る実力を持てるだけのポテンシャルを秘めている。
人間に愛玩動物として親しまれているような魔物が、だ。
悲鳴を上げながらも何だかんだ的確に状況を判断して格上の魔物を屠り続けているあたり、戦闘のセンスも悪くない。
アリアは前世は争いがほとんどない世界の人間だったと言っていたが、順応速度が早いのは魔物に生まれたからか。
それでもほとんど戦闘能力がない種族のため、本人が自覚していなかっただけで才能はあったのかもしれない。
とはいえ、だ。
(それを妾が強制するというのは、話が違うか)
接してきた期間はあまり長くないが、それでも断言できる。
アリアの本質は、ただ歌が好きなだけの小鳥だ。
魔法の才能も、歌の才能がスキルによって転じているに過ぎない。
強いに越したことがない世界ではあるが、強くなることを強要して今のアリアの有り様を歪めてしまうのは、ルミナスの望むところではない。
そもそも、アリアに見出したのは強さではなく歌の方だ。今さらと言えば今さらの話だろう。
幸いというか、アリアはありとあらゆるものを歌の材料にしようとする貪欲さがある。
それは魔法も例外ではなく、最初に魔法を見せた時は目を輝かせながら自分の世界に没頭していた。
ならば、これまで通りアリアに歌を学ばせつつ、時折スキルや魔法の鍛錬をさせるのが最善だ。
「る、ルミナス様・・・これ、いつまで続けるんですか・・・?」
そんなことを考えていると、いつの間にか魔物を倒したアリアがルミナスの肩の上に降りた。
今回は狼の群れを相手にさせていたが、確認すると渦巻状の焦げた跡があった。どうやら炎の竜巻でまとめて引き寄せてから燃やし尽くしたらしい。
段々と倒すペースも上がっているならもう一回くらい、と考えるルミナスだったが、アリアはかなり疲弊している様子だ。
体力や魔素はルミナスのスキルや魔法でどうにでもなるが、集中力の問題となると話は変わってくる。
考えてみれば、空中であっちこっちに動きながら状況を把握して的確に魔法を選択、それに合わせた詠唱を即興で作り上げるのは精神的に疲れて当たり前だ。
ルミナスからすればあと一回くらいはいけそうに見えるが、モチベーションが低い状態で戦わせても得るものは少ないだろう。
ならばここらが潮時とルミナスは「そうじゃな、今日のところはこれで終わりじゃ」と言おうとするが、そのタイミングで不意にアリアが顔を上げて周囲を見回し始めた。
「アリアよ、どうかしたか?もしや・・・」
「は、はい。なんか進化しましたって声が聞こえて・・・!?」
次の瞬間、アリアの身体が光に包まれる。
驚いたアリアが飛び上がるが、徐々に光の輪郭が大きくなっていき地面に降りていく。
完全に地面に降りたところで、次第に光が薄れていく。
中から現れたのは、
「えっ?な、なんですかこれー!?」
オレンジ色の髪に腰の辺りから同色の翼を生やした、