「さて、アリアよ。覚悟は良いな?」
「これから戦場にでも行くんですか?」
私が進化を果たしてしばらく。
とうとう私の服が用意できたということらしいんだけど、やたら神妙な顔で問い掛けるようなイベントでしたっけ?
そりゃまぁ、私も前世は女の端くれだったから、お洒落はそれなりに気を遣ったけど、逆を言えば“それなりで満足していた”とも言える。
言ってしまえば、“自分をよく見せる”ためではなく“自分を悪く見せない”ためのお洒落であって、目立つようなコーデはほぼほぼしなかった。
別に彼氏がほしいとか、そういうのもなかったし。
クラスメイトからは「せっかく可愛いんだからもっと意識した方がいいって!」なんて言われたりしたけど。
あっ、そうそう。今の容姿だけど、前世の姿とはまったく違う。
そもそも身長からしてまったく違うから、そりゃそうかもしれないけど。
それはさておき、服選びってそんな覚悟を問われるようなことだっけ。
「何を言っておる。まさか一、二着で終わると思っておったのか?」
「・・・えっ、まさかとは思うんですけど・・・」
今回、私たちはルミナス様が服を注文したという店を訪れている。
だから、単純に頼んだ服を受け取りに来ただけだと思ってたんだけど、もしかして・・・?
「うむ、今日は貸し切りじゃ」
「マジですか」
いや、明らかに高級店だって分かる佇まいなんですけど。
えっ、ここを貸し切り?冗談とかじゃなくて?私に何着服を着せ替えさせるおつもりですか?
「もちろん、気に入ったものはいくらでも言ってよいからな」
「えぇ・・・?」
なんかめっちゃ貢がれようとしてる・・・こわ・・・。
私、そんなルミナス様に気に入られるようなことをしてましたっけ?
スパルタトレーニングを除けば一緒にご飯を食べたり歌ったりなほのぼの日常生活しか送ってないはずですけど?
強いて言うなら、人の体を得て生歌を披露する機会が圧倒的に増えたくらいしか心当たりがないけど、どうなんだろう。
謎に高い好感度に戦慄している私だけど、ルミナス様はそんなことを気にする様子もなく私の手を引いて店の中に入っていった。
「本日はご来店ありがとうございます、ルミナス様」
「うむ、今回も期待しておるぞ」
「光栄にございます」
店の出入り口の前では、出迎えの店員が待っていた。
見覚えがあると思ったら、前に採寸しに来てくれた人だ。たしか、この店の店長って言ってたかな。
それに関しては、ルミナス様の相手を一端の店員にさせるわけにもいかないだろうから分からなくもない。
店長に連れられて店の中に入ると、貸し切りはマジらしくて私たち以外の客の姿が見えなかった。
さらに奥へと案内された部屋の中に入ると、そこには様々な服が並んでいた。
中世風の女性服が主だけど、その中でもやはりドレスが目立っている。
「うわぁ・・・ドレスなんて初めてです」
「ここにあるのは全てアリアに用意したものじゃからな。遠慮せずともよいぞ」
「え、この数をですか?私に?」
いったいおいくらまんえんかかったんですか?
手近にあったドレスをいくつか見てみれば、どれもきちんと背中に翼を出すためのスペースがある。
吸血鬼族の店にあらかじめ置いてあるとは思えないから、マジで一から仕立てたんだろう。
ルミナス様もそうだけど、店も店で気合い入りすぎでは?
「うむ。どうじゃ?」
「嬉しさとか喜びよりも、戸惑いとか困惑の方が強いです」
「そうかそうか、満足してくれて何よりじゃ」
「前半しか聞こえなかったんですか?」
めっちゃポジティブじゃん。
「ほれ、話している暇があるなら、早く試着せんか」
「それはそうですけど、これ今日一日で時間足ります?明らかに私の知らない様式の服までありますけど」
悲しいことに、今となってはメイド服・・・正式名称はエプロンドレスだっけ。あれを一人で着替えられる程度にはこの世界の服の着付けには慣れたけど、さすがに初見のドレスをさっさと着れるほどではない。
んでもって、私の目の前にある服は少なくとも数十着はある。
絶対、普通に着替えていたら日が暮れる。
あぁいや、ルミナス様の
「案ずるな。妾も手伝おう」
「ありがとうごさいます・・・?」
えっと、ルミナス様。
それは非常にありがたいんですけど、なんで手をワキワキさせてるんですか?
・・・えっと、もしかして?
「えっと、
「使わんが?」
「はい?」
マジ?
えっ、この量を全部手作業で?
店員さんに手伝ってもらうわけでもなく?
「たしかに
「あの、それはそうですけど、それなら店員に手伝ってもらったりとか・・・」
「何のために妾が貸し切りにしたと思っておる」
「本命はそっちですか!?」
道理でやけに道中ウキウキしてるなって思ったんだよ・・・!
いやたしかに、この量の服を運ぶ労力を考えたら屋敷より店の方が手間が省ける。
だけど、店そのものを貸し切る必要はない。せいぜい個室を用意してもらうくらいで十分だ。
なのにそうしなかったのは、融通を利かせるためだ。
ルミナス様の立場上、他に客が来かねない状況で店員の真似事はさせられない。
一、二着とかならまだしも、さすがに数十は任せられない。
だからこそ、店ごと貸し切って文句を言わせないようにしたんだろう。
あるいは、私に対する悪意とかやっかみを減らすためっていうのもあるんだろうけど。
それはそれとして、私の裸体を舐めるようにじっくり見るのは勘弁してほしい。
変身練習で失敗して裸を晒した度に貞操の危機を感じさせるのは、もはやそういう才能なんだと思う。
「ほれ、時間は有限なんじゃ。早く始めるぞ」
「え?いや、ちょっ・・・!?」
色々な意味で怖じ気づいていると、痺れを切らしたルミナス様が私の腕を掴んで部屋の角に用意された試着エリアへと連れていく。
思わず店長に視線を向けるけど、店長はニコリと笑って部屋から出ていった。
いや、そうじゃなくて助けてほしかったんだけど。
誰もルミナス様に逆らえないって言われたら、まぁそれはそう。現在進行形で私も逆らえていないし。
「さて、アリアが決めないのなら、妾が選んでやろう」
「あの、その・・・どうか、お手柔らかに・・・」
かつてのスパルタ特訓で魔物から向けられていたものとは似ているようで異なる、まるで補食対象として見ているような眼差しをルミナス様から向けられる。
そんな私に出来ることは、命乞いのように手加減を求めることだけ。
ただ、どうやら怯えながらの懇願は逆効果だったようで。
「それは、アリア次第じゃな」
笑みを浮かべながらそう言ったルミナス様に、私は黙って頷くしかなかった。
結論から言えば、マジで今日一日で全部の服を試着した。
んで、全部ルミナス様が買った。
「妾の領地ではアリア以外に着れる者がいないのじゃ。放棄するのはもったいないじゃろう」
さては最初からそのつもりだったな?
何と言うか、今日は最初から最後まで全てルミナス様の掌の上って感じだった。
べつに私がルミナス様を手玉にとったことがあるわけではないけど、ここまで好き放題されたのは初めてかもしれない。
・・・まぁ、私も途中から楽しんでいたのは否定しないけどね。なんだかんだ言って、ルミナス様も私の下着姿を眺めるのもほどほどに真剣に服を吟味してたし。
これが一、二着とかなら「思い出として大切にします」って言えるんだけど、数十着となるとどうだろう・・・全部を大切にしきれる自信がない。
ルミナス様は気にしないだろうけど、もらってばかりの身としてはめちゃくちゃ気になっちゃう。
・・・
実のところ、現時点のルミナスはクロエ辺りと比べたらそこまでアリアのことを意識しているわけではありません。
じゃあなんで思わせ振りな態度を取っているのかと言われたら、アリアの反応が面白いからですね。完全に玩具にされてます。
それはそれとして、手を出すタイミングを伺っていたりもしますが。