詠う小鳥は夜の魔王に出会う   作:リョウ77

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やっぱり皆さんルミナス様の百合が見たかったんですねぇ。


私が可愛いから旅をさせる、ってこと?

ルミナス様にめっちゃ貢がれたあの日から数か月が経過し、もうそろそろルミナス様と出会った記念日に近づいてきた頃。

今日も今日とて私はルミナス様とスキルの検証を兼ねた鍛錬をしていた。

 

雷霆、審判、天上の裁き

 

詠唱を唱えると、用意した的に一条の巨大な雷が直撃し、轟音と共に的を消し飛ばした。

私も進化を経て成長したもので、前のように大きめの魔法を一回使っただけで息切れするようなことはなくなった。

 

「ふむ、なかなか悪くない出来じゃな」

「そうですね。魔素もそこまで消費しなかったですし」

 

現在、私はルミナス様と魔法の特訓もかねて詠唱者(トナエルモノ)の検証をしている。

検証内容は『詠唱圧縮による変化』だ。

魔法の詠唱は『詠唱破棄』なんかで省略できるものだけど、私の場合は詠唱者(トナエルモノ)の都合でどうあがいても詠唱が必須になる。

その代わり、詠唱の内容はかなり自由に決められるから、どこまで詠唱を省略できるか確かめてみることにしたのだ。

結論から言えば、3節でも詠唱として十分ということが判明した。

一応、1節や2節でも発動はできるけど、威力が著しく減少したり効率が格段に落ちたりしたから、実戦で運用できるのはやっぱり3節からだ。

もちろん、強力な魔法を発動させるには相応に長い詠唱が必要になるし、スキルの副次効果なのか詠唱を長くするほど威力や効率が上がるけど、その辺りは今後の課題ということで。

ただ・・・

 

「どうかしたか?」

「・・・いえ、なんでもありません」

 

ルミナス様には誤魔化したけど、内心では少しずつ焦りのようなものが蓄積していた。

いや、焦りというよりは・・・未来への不安、っていうのが正しいか。

詠唱者(トナエルモノ)を介した魔法は、結局のところ“私がどれだけイメージできるか”が重要になる。

そのための歌であり、ルミナス様を通じて様々な楽曲に触れさせてもらった。

だけど・・・たぶん、そう遠くないうちに限界が来る。

もちろん、もうすでに吸血鬼族の音楽や文化を網羅しただなんて思い上がりはしていない。

ただ、吸血鬼族は種族としての個体数はそこまで多くなく、その分多様性に欠けている。

なんだったら、最初にルミナス様に会ったときに『マンネリ気味のあやつらにも良い刺激になる』と言っていたことから、もうすでに停滞の兆しは見えていたんだろう。

そして、もし私自身がそうなった時・・・私は、どうすればいいんだろう。

ルミナス様とこうして一緒にいる時間は、なんだかんだ言って私も好きだ。

だからこそ、私が歌えなくなったら捨てられてしまうんじゃないかと、頭の片隅で考えてしまう。

かと言って、まだルミナス様に拾ってもらった恩を返し切れていないんじゃないかと思うと、『インスピレーション探しの旅に出ます』とも言いづらい。

そんなわけで、このままルミナス様と一緒にいるか、ルミナス様を振り切って研鑽の旅に出るかの板挟みになっているのが、今の私だった。

 

「そうか」

 

ルミナス様は深堀しないでくれているけど、たぶんおおよその見当はついてるんだろうな・・・。

いつも通りニコニコしてるように見えて、目だけちょっと笑ってないもん。

とはいえ、不快に思っているとかそういう感じはしなくて、私から言い出すのを待っている・・・んだと思う。自信はないけど。

ルミナス様は基本的に私の行動を縛るようなことはしない。

それはそれとして、趣味に巻き込んでくることは多々あるけど。

だから、私が旅に出たいと言っても、たぶん受け入れてくれる。

言えないでいるのは、私の方が離れるのを惜しんでいるからだ。

気軽に帰省できる手段を確保できればいいんだけど、拠点移動(ワープポータル)って難しいんだよね・・・私の場合、魔法の構築はもちろん、転移先の指定まである程度は歌で完結させないといけないから尚更。

もういっそ猫型ロボットの歌で構築できるか試してみようか・・・。

あったらマジで便利だよね、どこでも〇ア。

 

「では、今度は同じ単語を入れ替えて唱えてみよ」

「はい、わかりました」

 

・・・まぁ、アレだ。

今はルミナス様との時間を優先しよう。

 

 

* * *

 

 

「アリアよ。お主、何か悩み事があるのではないか?」

「う~ん、誤魔化しとかできない感じですかね、これ」

「当然じゃ」

 

その日の夜、ベッドの上でルミナス様に問い詰められてしまった。

吸血鬼なのに寝る必要があるの?って思うけど、精神力回復のために睡眠は必要なんだって。

あと、必要なくても単純に私と一緒に横になりたいんだと。可愛いかよ。

それはともかく、これは嘘を吐いたらヤバそうかな。

具体的には、本音を話すまで何をされるか分からないやつ。

ここは、素直に話しておこう。

 

「・・・今すぐって話じゃないんですけど、もし私がインスピレーション探しの旅に出たいって言ったらどうしますか?」

「別に構わんが?」

 

え~・・・めっちゃあっさり言われた・・・。

 

「なんじゃ、まさかずっと籠の中に閉じ込めるとでも思っておったのか?」

「そういうわけじゃないですけど・・・ルミナス様って、この街が好きじゃないですか」

「そうじゃな」

「それなのに『ネタ探しの旅に行ってきます』って言うのは、愛想を尽かされてしまいそうな気がして・・・」

 

何を言われるのか分からないのが怖くて、思わず目を逸らしながら言い訳する。

怒ってる感じはしないけど、呆れられてはいるのかな・・・?

だが、ルミナス様の反応は思っていたものと違った。

 

「くっ、ははは!なんじゃ、そんなに妾に嫌われたくなかったのか?」

「・・・べつに、命の危険を感じたくないだけです」

「そうかそうか。では、そういうことにしておこう」

 

ルミナス様はひとしきり笑った後、ポンポンと優しく私の頭を撫でる。

我ながら、上手いことルミナス様に飼い慣らされているなぁ・・・。

最初は割とギブアンドテイクの関係だった気がするんだけど、何だかんだ言って私もペットとしての自覚が芽生えてきたということか。

自覚してからさっそく家出の相談をしてるけど。

 

「たしかに、妾にとって夜薔薇宮(ナイトローズ)は誇りじゃ。じゃがな、お主にとって狭いのもまた事実じゃろう。そもそも、妾はお主の歌を気に入っておる。であれば、研鑽のために離れることを拒む理由などあるはずがなかろう。それに・・・」

 

少し区切ってから、ルミナス様は真っ直ぐに私の目を見ながら、確信をもって告げた。

 

「たとえ旅に出ようとも、アリアが帰ってくるのは妾の傍であろう?」

 

・・・本当、こういうところが敵わないんだよなぁ。

自信満々に言ってるだけあって否定できないんだもん。

 

「そういうことじゃ、アリアが気にするようなことはない。その気になったらいつでも言って構わんからな」

「ありがとうございます。ですけど、せめて気軽に帰れるように拠点移動(ワープポータル)は使えるようにしておきたいんですよね」

「ふむ、ならば次からは拠点移動(ワープポータル)の練習を始めるとしよう。今のアリアであれば十分習得は可能なはずじゃ。ついでに空間収納を覚えるのも良いかもしれんな」

「便利ですからね、あれ」

 

異空間収納の利便性は○次元ポケットが証明してる。

そんなこんなで、私の心配は杞憂に終わった。

本当に焦るような話でもないし、ゆっくり先を見据えながら準備していこう。

 

 

* * *

 

 

ルミナスにとって、それは予想していた顛末に過ぎない。

この世界では、上澄みであれば長距離の移動など散歩気分でできる程度のものだ。

だが、それはそれとしていざその時が来ると、やはり少し寂しくもあった。

 

「アリアよ、忘れ物などはないな?」

「大丈夫ですよ。というか、あってもすぐに戻れますよね?」

 

アリアから旅の相談をされてから一年、ちょうど2人が出会った日に旅立ちを迎えることになった。

ちなみに、空間収納と拠点移動(ワープポータル)はしっかり習得している。

その過程でプチ旅行みたいになったりもしたが、それはまた別の話だ。

甲斐甲斐しく荷物の準備を手伝うルミナスの姿は、見る者によっては世話焼きの親のようにも見えただろう。

事実、アリアはそのように見えていたし、ルミナス自身もそう認識していた。

だが、アリアしかその姿を見ていない以上、他の誰かの認識なんて分かるはずもなく、そもそも知る必要もない。

そんな姿を知っているのは、アリアだけでいい。

 

「それで、いつ戻ってくるかは決めておるのか?」

「ひとまず、大きめの町を見つけてからですかね。往復もしやすいですし。あとは、私の歌の評価がだいたい分かったらでしょうか。反応が悪かったらどうしましょう?」

「そんな心配などせずとも、アリアなら大丈夫じゃ」

 

最悪スキルでどうにでもなる、とは言わない。

アリアがスキルの魅了効果を良く思っていないことは、ルミナスも重々承知している。

そうでなくとも、自由で楽しそうなアリアの歌はスキルを使わずとも自然と聞いた者を惹き付ける魅力がある。

未だ本人にその自覚はないが、もしかしたら旅の中で気が付くかもしれない。

 

「それじゃあ、そろそろ出発しますね。これ以上はちょっと名残惜しくなってしまいそうので」

「それもそうじゃな。では、気を付けてな」

「はい、行ってきます」

 

そう言って、アリアは小鳥へと姿を変えて飛び立っていった。

 

(・・・アリアよ。存分に学び、存分に楽しみ、好きに過ごすが良い)

 

アリアの姿が遠くなっていくのを見届けたルミナスは、あっさりとした旅立を一人噛み締めながら自室へと戻っていった。

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