TS:蟲の王~最弱種族『アリ』に転生したけど進化したら最強の女王アリになったので俺だけの国をつくります~ 作:ありおりはべり
スキルの効果だろうか。
俺の脳内に、生成したアリの情報がインプットされてくる。
クワガタアリ。
東南アジアに広く分布し、優美かつ洗練されたフォルムを持つこのアリ最大の特徴は、優れた視力である。
ほかのアリに比べて、目が非常に大きく、近くで手を振ると、反応して頭を動かすくらいだ。
何をその程度のことで、と思うかもしれないが、俺のもう一つのスキルと組み合わせたとき、この能力は大変な脅威となる。
【
ぶわっと、数十匹のクワガタアリたちが見ている景色、感じている匂い、振動が、一気に頭に流れ込んでくる。
ぐっ……! 頭いてえ……。
頭痛に耐えながら――そういえば、アリなのに脳があるのか? 俺だけ?――視覚情報だけに絞ってデータを集め、それらを頭の中で3Dモデルとして構成する。
すると、まるで、ドローンカメラで空撮しているかのように、辺り一帯を俯瞰で見ることができるようになった。
突然あらわれた大量のアリに、困惑するゴブリン。
しずくが滴る鍾乳石。地面から伸びる
近くには、倒れ伏したままの、男の死体がある。
これは……めちゃくちゃ便利だ。
さっそく、俺が欲しかったものがひとつ、手に入ってしまった。
と、言いたいところだが、やはり解像度が荒い。荒すぎる。
昔の白黒テレビを、目を半開きにして見ているくらいの見づらさだ。
こんな代物では、とても覗きには使えない。
やはり、人化は必須だ。
決意を新たにしたところで、攻撃を開始する。
四方八方から、ゴブリンに飛びかかるクワガタアリ。
「ギャッ!」
振り払おうと暴れるゴブリン。
瞬く間に数匹が潰されるが、物の数ではない。
残ったアリたちが、一斉に腹の毒針を突き刺した。
「ギッ……!」
ゴブリンは痛みに悶えながら、なおも手足を振り回す。
クワガタアリの毒性は強く、同じ体重の虫であれば、一刺しで麻痺させることができる。
俺が生み出したクワガタアリは、通常よりもだいぶでかいし、数も多い。
数分間、ひたすら刺し続けていると、やがてゴブリンは動きを止め、時折ピクピクと痙攣するだけになった。
いくら目方が違いすぎるとはいえ、これだけ毒を注入すれば、
安全を確認してから、俺はゴブリンにゆっくりと忍び寄る。
「ギッ……ガッ……!」
まだ意識はあるようだが、身体の自由は奪われたままのようだ。
恨めしげにこちらをにらむゴブリンに、俺は心の中でわびた。
悪く思うな。
俺はゴブリンの首筋に、思い切り牙を突き立てる。
ブシュッ! と鮮血が噴き出し、俺はその勢いでふっとばされた。
「ぎえっ!」
ぽてっと頭から地面に落下する無様な俺。
何度か噛む予定だったのに、まさか一撃で頸動脈を引き当てるとは……。
血の噴水と化していたゴブリンだったが、すぐに動かなくなった。
南無。
じゃ、さっそくいただきますか。
俺は舌なめずりをしながら、再びゴブリンへ歩み寄った。
◆
一時間後。
うっぷ……食いすぎた。
パンパンに膨れ上がった腹をさすりながら、俺は物陰でひっくり返って休んでいた。
なんと、俺はたった一食で、俺の何百倍もあるゴブリンを食べ尽くしてしまったのだ。
明らかにおかしい。自分の体積より多く、腹に入っている。
俺の体の中はどうなってるんだ? 別のなにかに変換されてるのか?
くそー……あれだけでかい獲物が手に入ったんだから、当分は食料の心配をしなくていいと思っていたのに。
クワガタアリの麻痺ハメ戦法も、通じるのはゴブリンと同程度の重量で、しかも単独の場合だけだ。
そうそう決まるとは思えない。
しかも、生成したクワガタアリたちは、急激に成長させた反動か、ゴブリンを倒してすぐに死んでしまった。
ああ、この歳で子どもを見送る羽目になるなんて……よよよ。
って、いやいや、なに考えてるんだ俺は!
虫だぞ虫。しかも兵隊アリ! こいつらは死ぬのも仕事のうち!
そう、割り切るんだ……。
胸に残るかすかな物寂しさをかなぐり捨て、俺は目からあふれた涙をぬぐった。
さて、邪魔者もいなくなったところで、おもちゃいじりに戻ろう。
俺は男の死体から奪い取ったカードの上に載り、ステータス画面を表示させる。
おっ。スキルポイントが増えてる。
生き物を食べるか、倒すかすると増える仕組みなんだろうか。
まずは、もともと取得可能だった【
【
言うまでもなく、攻撃に使える。
物理が通らない相手に有効そうだ。
【
俺の顎は、開けば開くだけ、バネのように運動エネルギーが溜まっていく構造になっている。
開ききったところで、ぱっと力を抜けば、猛スピードで顎を閉じることができるというわけだ。
このスキル、かなり発展性がありそうなので、今後も伸ばしていきたい。
そのうえで、俺は新たに取得できるようになったスキルとにらめっこを始めた。
◆ ◆ ◆
【眷属生成(ハキリアリ)】
ハキリアリを生成する。
【
捕食したものをより多く魔力に変換し、ストックできる。
【
視力が劇的に向上する。
◆ ◆ ◆
正直に言おう。
俺は【
だが、合理性をとるなら【眷属生成(ハキリアリ)】か【
ハキリアリは、世にも珍しい農業をするアリである。
樹木から切り取った葉っぱを苗床に、菌を植えつけ、栽培して食べている。
しかも、この菌は世界中、どこを探しても、ハキリアリの巣からしか見つからないというのだから驚きだ。
このスキルを取れば、食糧問題に解決の糸口が見つかるかもしれない。
一方、【
どうやら、俺が食べたものは、魔力なる不思議エネルギーに変換されていたようだ。
その効率が向上するとなれば、今後大きく影響するだろう。
うーん……悩むけど、やっぱり【
これを取らないと、これからは食べた分だけ、得られたはずの魔力を無駄にすることになる。
大変なロスだ。ゲーマーとしては看過しがたい。
魔力は眷属の生成など、スキルを発動するのに必要不可欠なので、あればあるほどいいのだ。
【眷属生成(ハキリアリ)】も魅力的だけど、ないと損をするというわけでもない。
【
しばしの別れだ、まだ見ぬ楽園よ。
俺はため息をつきながら、【
その途端、ドクンと身体の中でなにかが脈動する。
力が際限なく湧き出てきて、今にも爆発しそうだ。
「う、うおお……!」
わけもわからず叫んでしまう俺。
カッと閃光が迸ったかと思うと、自分の内側から、さらに大きな自分が殻を脱ぎ捨てようともがいているような感覚が芽生える。
これは……脱皮か?
はっ! と気合を入れて皮を突き破ると、俺の身体は一回り、いや二回り近く成長していた。
もとが小指の先くらいだったとしたら、今は人差し指くらいはある。
これは、結構強くなったんじゃないか?
俺の【怪力(アリ一般)】の出力は自重に依存するから、重くなればなるほど馬力が上がるはずだ。
この調子で、どんどん食って、でっかくなるぞ!
能天気に喜んでいた俺だったが、次の瞬間、全身を激しい痛みが襲った。
「ぐっ……あがっ……!」
何が起きているのかもわからぬまま、俺はのたうち回る。
腹部が収縮し、中脚がわずかに伸びる。頭部の形も微妙に違ってきた気がする。
おまけに、背中から何かが生えようとしているではないか。
ザクザクと皮膚を突き破る感触。
まるで羽のように見える突起。
痛みが収まった後、俺は変化した自分の姿をステータス画面に映し出した。
◆ ◆ ◆
種族:プリンセスアント → プリンセスウィングアント(変異種)
保持スキル:前略 【
進化条件:高純度魔石の獲得 0/5 【羽化】の取得(人化形態獲得)
◆ ◆ ◆
【
これ単体じゃ機能しないタイプか。
それより、進化条件が具体的になっているじゃないか!
高純度魔石。字面から察するに、鉱石のようなものだろう。
【羽化】はよくわからないが、【
一旦、こいつに関しては保留だ。
さて、さっさと高純度魔石を探しに行き……たいところだけど、その前にやることがある。
【眷属生成(クワガタアリ)】
数十個の卵を産み出し、今度はすぐに孵化させずに見守る。
自然に孵らせれば、ずっと長持ちするはずだ。
あ、動いた。
ふふふ……しっかり育つんだぞ。可愛い我が子よ……。