TS:蟲の王~最弱種族『アリ』に転生したけど進化したら最強の女王アリになったので俺だけの国をつくります~   作:ありおりはべり

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第3話

 可愛い我が子――もといクワガタアリたちが無事に孵化し、体勢を整えた俺は、洞窟の奥へと進むことにした。

 

 当面の目標は、高純度魔石なるものを見つけること。

 まず、魔石がなんなのかを調べることだ。

 

「全軍、散開!」

 

 フェロモンで指令を出すと、アリたちがあちこちに散っていった。

 同時に、膨大な知覚情報がどっと押し寄せてくる。

 

 うーん……この頭痛だけはどうにかならんものかな。

 進化すれば楽になるのか?

 

 洞窟の構造は複雑だった。

 今いる主要な通路から、無数の小さな支洞が伸びている。

 ひとつひとつ調べていたら、アリの物量をもってしても、きりがない。

 

 そこで俺は、情報を嗅覚に絞って集めることにした。

 ……えーと、ここと、ここと、あそこか。

 

 各支洞の入口付近から、かすかな魔力の匂いを感じる。

 全軍に招集をかけたところで、

 

「とうっ!」

 

大顎跳躍(ジャウント・バースト)

 

 アゴを閉じた衝撃で、優に数メートルの距離をすっ飛んでいく。

 おお、速い! これなら、走るより断然いいぞ!

 

 ……やべ、速すぎて部下が追いついてこれてない。

 これじゃ本末転倒だ! 中止中止!

 

 俺は素直にクワガタアリたちと歩調を合わせ、地面をてくてく歩いていった。

 

 最初の支洞で見つけたのは、青いガラスの破片のようなものだった。

 試しに口に入れてみると、魔力が微増した感触がある。

 

 どうやら、これが魔石とやららしい。

 しかし、ステータスを参照しても、進化条件の『高純度魔石の獲得 0/5』の表示に変化はない。

 スキルポイントも増えていなかった。

 

 うーむ、これっぽっちの魔石なんて、集めている時間のほうが無駄だ。

 もっと、探索の精度を上げて、高級な魔石だけ探すようにしよう。

 

 俺は再びクワガタアリたちを散らばらせ、じっくりと調査にあたった。

 何度かハズレを引いていくうちに、魔石の匂いの強弱を嗅ぎ分けられるようになったので、探索の効率はぐんとアップした。

 

 半日ほどかけ、大小およそ20個近い魔石を収集し、途中で出くわしたモンスターを倒したりもしたおかげで、スキルポイントもだいぶ溜まってきた。

 

 しかし、それでもお目当ての高純度魔石には出会えないままだ。

 

 ……やっぱり、行かないとだめかー。

 

 俺は探索中に発見したものの、あえてスルーしていた下層へ続く道へと足を運んだ。

 もう、この階層はすべて調べ尽くしてしまったので、新たな発見を求めるなら、より深く潜るしかない。

 

 だが、匂いだけでわかる。

 ここには、ヤバいやつがいる、と。

 

 やっぱり、当分はこの階層で魔石集めと雑魚狩りをして、地盤を整えたほうがいいんじゃ……。

 いや、ダメだ!

 

 日和見に走ろうとする自分に発破をかける。

 ここがずっと安全な保証なんてない。

 今日はたまたま、危険なモンスターに出くわさなかっただけだ。

 

 もし、下層から強力なモンスターが上がってきたら?

 冒険者的な存在に命を狙われたりしたら?

 

 忘れるな。俺はモンスターで、ここは日本じゃない。

 安全はタダではないのだ。

 

 それに、一刻も早く見たいだろう、理想郷《アガルタ》を。

 

 ……ああ、そうだ。

 今の俺は、そのために生きているようなもの。

 安全マージンばかりとっていて、一番大事なことを忘れていたようだ。

 

 俺は武者震いを抑え、下層へ続く縦穴へと身を躍らせた!

 

 ◆

 

 ぽてっ。

 十メートル以上は落下した気がするが、なにせアリなので、着地は楽々できた。

 クワガタアリたちが揃ったのを感じ取ってから、俺は【群知能(フェロモンリンク)】を発動する。

 

「うおっ!?」

 

 き、たあああ! クッソデカい魔力反応! しかもすぐ近く!

 どこだ、どこだ!?

 

 アリたちを率いて、魔力の発信源へ向かう。

 そこで俺が目にしたものは、開けた場所にそびえる、石の柱だった。

 

 一見すると、単なる石柱のようだが、よく見ると、そのてっぺんには光り輝く青い水晶のようなものがついている。

 

 ひと目見て、確信した。

 あれが高純度魔石だ!

 

大顎跳躍(ジャウント・バースト)】で飛びついていきたいのをこらえ、俺はまず部下を数匹先行させる。

 

 あんなに目立つところに、とびきりの魔石が都合よく生えているわけがない。

 間違いなく罠だ。

 

 すると、案の定、アリたちが柱のそばに近づくと、とつぜん地面から拳が生えてきて、彼女らの頭上へ降り注いだ。

 

 衝撃。

 

 とっさに逃がそうとしたが、間に合わなかった。

 哀れ、先遣隊はあっさりと拳に叩き潰されてしまった。

 すまん……我が子らよ。

 犠牲者たちの冥福を祈る間もなく、地面が鳴動し始める。

 

 付近に転がっていた岩々が、ひとりでに動き出したかと思うと、見る間に手や足へと形を変えていく。

 わずか数秒で、そこには巨大なゴーレムが形成されていた。

 

 顔と思しき部分の岩が、ギュピンと青く発光し、さながら単眼《モノアイ》カメラのようになる。

 その胸部には、さっきの高純度魔石が、植物のツルのようなものにまきつかれ、はめこまれていた。

 

 なるほど。あれが欲しければ、こいつを倒さなくちゃいけないわけだ。

 わかりやすくていい。

 

 俺はクワガタアリたちを突撃させ、残りは周囲に散開させた。

 

 走り寄ってくるクワガタアリに、ゴーレムが岩の拳を叩き込む。

 だが、先ほどの不意打ちと比べれば、動きは遅い。

 簡単に回避させ、アリたちはゴーレムに取りついた。

 

 いけっ、毒針だ!

 

 装甲の隙間を狙って、アリたちが次々に麻痺毒を注入する。

 が、効かず。

 一応、蟻酸もかけさせてみたが、悲しいほど反応がなかった。

 

 ゴーレムの動きは一切にぶる様子はなく、ずんずんとこちらへ歩みを進めてきた。

 

 くっ、さすがに重量が違いすぎるか。それとも、毒に耐性がある?

 おまけに、刺しても噛んでも、まるでひるむ様子がない。

 やっぱり、麻痺ハメが通じるのはさっきの階層までか。

 

 作戦変更。

 俺はアリたちにゴーレムの全身を這い回らせ、弱点らしき部位を探した。

 ……なし!

 全身カッチカチで、とても貧弱なクワガタアリのアゴなんて通る気がしない。

 

 そう、クワガタアリなら。

 

 ……俺ならいけそうだな。

 目星をつけたのは、魔石が埋まっている胸部。

 魔力の流れから察するに、このゴーレムは、魔石を動力源としているようだ。

 

 つまり、魔石とゴーレムを引き離せれば!

 

「うおおお――!」

 

 勝機はある!

 クワガタたちだって命をかけたんだ。

 ここで俺がビビってどうする!

 

大顎跳躍(ジャウント・バースト)】で一気に距離を詰め、ゴーレムの胸元にしがみつく。

 そして、拳が降ってくる前に、魔石を縛りつけているツルのようなものを、手当たり次第噛みちぎりまくった。

 

 ズズン……。

 

 しばらく硬直していたゴーレムの身体が崩れていく。

 あっという間に瓦礫の山に戻るゴーレムの崩壊に巻き込まれないよう、俺は【大顎跳躍(ジャウント・バースト)】で距離をとった。

 やっぱり、戦闘でこそ活きるスキルだな、これは。

 

 完全に静まり返ったのを確認し、俺は急いで魔石を掘り起こしにかかった。

 急げ! 今の物音を聞きつけて、ほかのモンスターが寄ってくるかもしれない!

 というか、もう来てる! いろんな匂いや振動が近づいてきてる!

 

 重機のようなパワーで、重さ十数キロはありそうな石をぽんぽん投げ捨て、ついに俺は埋もれていた魔石にたどり着いた。

 

 よっしゃあ、高純度魔石、獲得――!

 

 触れた瞬間に、魔石が俺の体内に取り込まれる。

 すると、身体が熱くなり、脈動が始まった。

 

「ぐっ……!」

 

 変化が終わるまでの数秒間の苦痛を、俺はうずくまって耐える。

 背中から生えていた突起がさらに伸び、折りたたまれた羽のように変化したようだ。

 

 まだ動かせそうにはないが、飛べるようになる日も、そう遠くないだろう。

 スキルポイントも相当溜まったはずだが、

 

「こっちだ!」

 

「ゴーレムが倒されてる……? いったい誰がやったんだ」

 

「魔石があるかもしれない! 探すぞ! 急げ!」

 

 ほかの支洞から、人間らしき声が聞こえてきた。

 ふん、残念だったな。魔石はもう俺のものだ。

 

 だが、あまり調子こいてもいられない。

 新しいスキルを取らないことには、複数の人間なんて相手にできるわけがないからだ。

 

大顎跳躍(ジャウント・バースト)

 

 俺は大急ぎでその場を離れ、隠しておいたカードを引っ掴むと、洞窟の奥へと逃げ込んだ。

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