ガチコイ 〜もし小野寺小咲が先に一条楽と付き合ったら?〜 作:nemu1116
千棘が去って数分後、旅館の廊下を駆けてくる小さな足音が響いた。
小咲「ご、ごめんね! 一条くん、遅れちゃって……!あっ!」
足元がもつれた瞬間、とっさに手を伸ばした楽が、彼女の身体を軽く支える。
楽「っと……ほら、落ち着いてw どこにも行きやしないんだから、そんなに慌てないでww」
小咲「わっ……ありがとう///」
浴衣の袖が揺れた。
胸の中でぎゅっと何かを押し込めるような表情で、小咲が口を開く。
小咲「でも……一条くんに、話さなきゃいけないことがあって……」
楽「ん? なになに、どんな話でも俺は受け止めるぜ? なんたって、小野寺の彼氏だからな!」
その言葉に、ほんの少しだけ目を伏せて――
小咲「……告白、されちゃった……///」
楽「うんうん、告白ね。よくあるよくある。……って、マジかぁぁぁぁぁぁぁーー!?!?!?……え? 誰に!?」
小咲「……それが、全然知らない人で。弥柳くん……って言ったかな? 同じ学校らしいんだけど……さっき一条くんを探してバタバタ彷徨っていたら、その人に呼び止められて……その……“オレと付き合って欲しい”って」
楽「ぐぬぬ……そ、そりゃまぁ、小野寺が可愛いからなぁ……で、なんて答えたの?」
小咲「もちろん、断ったよ? でもね……その人に言われたの。“小野寺さんは今、付き合ってる人いないでしょ?”って。“だったら、友達からでもどうか”って……」
楽「……っそりゃ……」
小咲「……なんて答えようか、迷ったけど。一条くんとの約束もあるし……だから、こう言ったの。“付き合ってる人はいないけど、好きな人がいるから、あなたの気持ちには応えられないです”って」
楽「……完璧な回答……! さすが俺の彼女……!(でも、ちょっと告白されることに慣れてる感があって複雑だわ……w)」
小咲「でもね……その人に言われたの。“なんで好きな人がいるのに付き合ってないの?”って“小野寺さんなら誰とでも付き合えるでしょ”って……。いや、さすがに最後のは相手のリップサービスだろうけどさ///」
楽「お、おう……(まぁ、確かにこんだけ可愛い小野寺から告白されて付き合わない男がいることは想像できないな……性格もいいし……)」
ふと風が吹き、2人の浴衣が揺れた。
小咲は少し俯き、声を抑えながら言葉を継ぐ。
小咲「私、それには……うまく答えられなかった……」
楽「……っ」
小咲「……。一条くん……ごめんね? 今からわがまま、言うかも……聞いてくれる?」
ぎゅっと拳を握って、胸元に当てる。
その手には、あの日見せた“鍵”が握られていた。
小咲「……言いたいの。胸を張って、“一条くんのことが好き”って。“一条くんと付き合ってる”って。もちろん、言いふらしたいわけじゃないんだよ? でも、もし誰かに聞かれたら、ちゃんと答えられるようにしたいの。その時に……“付き合ってないフリ”をするのが、すごく、すごくつらくて……」
楽「……小野寺……」
小咲「……ううん、ごめん、忘れて? 困るよね、こんなこと言われてもさ! 私って、なんでこんなわがままなんだろうね? 一条くんの事情、全部知った上で彼女になったのに……今さらこんなこと言われてもって感じじゃない?!(あ〜もう、何言ってるのわたし……)」
とめどなく口からあふれる言葉は、まるで胸に押し込めていた本音の洪水だった。
小咲「ほんと、私って……何考えてるのかなぁ……! 自分でも、たまにわけわかんなくなるんだ……! だから、あそこでアイスでも食べて頭冷やそ? ね!? わーい、アイスだぁ!!」
楽「……ははっ」
目の前の女の子が、不器用すぎて、そして愛しすぎて、すぐに言葉が出なかった。
楽「……なあ、小野寺。アイスの前に……ちょっとだけいいか?」
彼は、そっと彼女の手を取る。
小咲「……うん(手握られてる……///)」
楽「わがままなんかじゃねーよ。だから、少し待ってくれないか?付き合ってるの? って誰かに聞かれたら……俺はちゃんと、“はい、小野寺は俺の恋人です”って答えられるようにするから。堂々と、みんなに言えるようにするから。……ってまぁ……すぐには難しいけど、ちゃんと考えてる。不安にさせて、ごめんな」
小咲「……うん、わかった///」
楽「だから、ほら、笑って! アイス、奢るから!」
小咲「……あっ、うんっ……! じゃあ…………ピノで!!」
楽「いや、かわいすぎない!?」
小咲(ふふ……だって、今の言葉でもうお腹いっぱいだしね///)